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魔法少女ビビット・マジカ  作者: 雪音月華
魔法少女ビビット・マジカ〜出会いと旅立ち〜
23/42

第23話〜呪いと祝福〜

「病院に行ってきなさい、絶対に。結果の報告を確認するまで、天使育成機関には連れて行けませんからね」

「でも教会に戻ってきた後診察しましたよね…?」

「前のは応急処置、今回はちゃんとした奴だから。絶対行って」

「はぁい…」


 昨日の祝勝会の最中の話、ハールーンとマールーンの厳しい声が耳にこびりついて私とリーゼは渋々と病院の扉をくぐった。二人の天使にそう言われてしまっては、逆らう余地などなかった。リーゼも不安そうな顔をして、私の隣を歩いている。


「何言われるんだろう」

「病院、私苦手なんですよね…」

「そうなの?私は今まで病院に行ったことなかったなあ」


 そんな雑談をしながら私とリーゼは受付へと向かった。


「天使ハールーンとマールーンからの紹介で来ました。」

「予約されているルナ・ナナホシさんとリーゼヴェルデ・セレスティアさんですね。こちらへどうぞ」


 受付の女性は微笑み、案内をしてくれた。なんだか妙に特別扱いされているようで、ますます気まずい気分になった。


「ここでお待ちください」

「ありがとうございます」


 私とリーゼは受付さんにお礼を言い、指定された席に座る。案内されたのは、普通の待合室とは違い、落ち着いた色合いの静かな部屋だった。人の出入りも少なく、外のざわめきとは無縁の空間だ。私とリーゼは、互いに顔を見合わせて、少しだけ息をついた。


「なんだか、特別な部屋みたいですね」


 リーゼが小声で言うと、ルナは無言で頷いた。二人はしばらくの間、無言で椅子に腰かけていた。どこか落ち着かない気分が胸を締め付ける。


「ルナ・ナナホシさん、リーゼヴェルデ・セレスティアさん。お待たせしました、入ってどうぞ」

「失礼します」

「失礼します」


 やがて名前が呼ばれ、医者の部屋に通された。医者の部屋の中は妙に冷たく感じられ、静けさがさらに不安を掻き立てた。私とリーゼは医者の前に座り、冷たい空気の中でじっと言葉を待っていた。医者は初老の男性で、丸い眼鏡をかけ、鋭い目つきで二人を見つめている。無機質な部屋の中、時計の針の音だけが聞こえ、時間がゆっくりと流れていくようだった。


「さて…」


 医者が重々しい声で口を開いた。資料を手元に置き、じっと二人の顔を見つめる。


「まずリーゼさん、あなたのことからお話しましょう」


 リーゼは驚いたように目を見開いたが、すぐに頷いて医者の言葉を待った。ルナは隣で、リーゼの肩にそっと手を置いて、励ますように小さく微笑んだ。


「あなたの体内に…異常な痕跡が見つかりました」


 医者は慎重に言葉を選びながら説明を続ける。


「星骸の呪いと呼ばれるものです。大セブンス島では、近年問題視されている呪いの一種です」


「星骸…の呪い?」


 リーゼが震えた声で聞き返した。


「そうです。これは非常に特異なもので、呪いを受けた者の第六感や視野角、瞬発力、回復力など、身体能力が一時的に強化されます」

「良いことばかりに聞こえますけど」

「ルナさん、世間はそういう考え方ではありません」

「何故ですか?」

「侵食が進むと、最終的には人としての人格を保てなくなり…悪魔へと堕ちるとされています」


 医者に疑問を投げかけると予想外の回答に私は驚いた。その言葉を聞いた瞬間、私は全身が冷たくなるのを感じた。隣にいるリーゼを見れば、彼女も同じように恐怖で顔が青ざめている。まるで、見えない影がじわじわと迫ってくるかのように。


「治療法は!治療法はあるんですか?」


 震えているリーゼの為にも私は更に切り込んだ質問を問いかける。


「今のところ、確実な治療法は見つかっていません。ただ、進行を遅らせる薬はあります。ですが、それも根本的な解決には至っていないのです。」


 医者は首を横に振る。リーゼは小さく震えながらうつむいた。その横顔は、今にも泣き出しそうだったが、必死にこらえている。私はどうしていいかわからず、ただ手を握り締めることしかできなかった。言葉が喉に詰まって出てこない。


「次に、ルナさん」


 医者が視線をルナに移す。ルナは緊張して喉がからからになるのを感じながら、医者の言葉を待った。


「あなたの体には、非常に強い回復力があります。検査結果を見て驚きましたが、どんな傷でも驚異的な速さで治っていました。左腕に受けていた深い傷ですら、既にほぼ完全に回復しています」


「そんなこと…」


 私は驚いて自分の体を確認する。確かに怪我をしたはずなのに、今はもう痛みもほとんど感じていない。回復が早いとは感じていたが、それほどのものだとは思っていなかった。


「これがどこから来ているかは、正直なところ不明です。ただ、非常に稀なケースです。あなた自身、何か特別な血筋や背景を持っている可能性が高いと考えられます」


 私は唖然として言葉を失った。何か特別な血筋?そんなこと、今まで考えたこともなかった。確かに母親であるカヤ・ナナホシは星の魔女だとは虫の知らせで聞いてはいたが自分がそんな特別な存在だなんて、思ってもみなかった。しばらくの沈黙の後、医者は二人に向かって静かに言った。


「今後も定期的な診断が必要です。リーゼさんの件については、呪いの進行を見極めながら治療を進めます。ルナさんについても引き続き観察させていただきたい、のですが二人は天使育成機関に向かうとのこと。カルテを用意するので天使育成機関の専門医にこのカルテを見せるようにお願いします」


 私はぼんやりとした気持ちで医者の言葉を聞きながら、隣のリーゼの顔を見た。リーゼの瞳には、不安と恐怖が混ざり合った影が浮かんでいる。呪い…星骸の呪い。それが、彼女の体を蝕んでいる。どうにかして彼女を助けたい。そんな思いが私の胸に強く湧き上がってきた。


「今日はありがとうございました」

「ありがとう…ございました…」


 診察を終えて待合室に戻ると、そこにはラジエルが待っていた。彼女の隣には、幼い少女が立っていた。少女はボサボサの白髪をしており、青い目はどこか酷くやつれていた。見るからに絶望している少女はラジエルの背後にベッタリとくっついていた。


「お疲れ様。診察結果はどうだった?」

「…星骸の呪いだと言われました…」


 リーゼがぽつりとつぶやく。ラジエルはその言葉に一瞬表情を硬くしたが、すぐに優しく頷いた。


「そうか…。厳しい状況だな。でも、まだ諦める必要はない。私たちも協力するから、進行を遅らせる方法を探そう」


 ラジエルの言葉は力強く希望を与えてくれるものだったが、私の心の中にはまだ不安が渦巻いていた。そんな中、ラジエルが隣にいる少女に目を向けた。


「紹介しよう。彼女の名前はマーヤ。彼女もまた、星骸の呪いに侵されていてね」


「マーヤちゃん…」


 私はその名前を呟きながら、彼女の顔を見つめる。少女は目線が合うと即座に視線を外してラジエルの背後に隠れた。


「彼女は…ヘルメス教団によって、呪いの研究のモルモットにされていたらしい。彼女の記憶はヘルメス教団に捕まる前がないそうだ。ヘルメス教団に捕まっていた時に受けた傷や呪いによって彼女の精神や身体に深い傷を負わせた結果なのだろう」


 私は胸が締め付けられるような気持ちになった。マーヤもまた、星骸の呪いに苦しんでいるのだ。そして、自分たちと同じように、彼女もまた生きるために戦っている。


「私たちは彼女を保護することにした。天使育成機関で彼女の治療と保護を行う予定だ。君たちの旅に、彼女も加わることになるだろう」


 私はマーヤの顔を見つめ、そっと手を差し伸べた。


「一緒に頑張ろう、マーヤちゃん」


 マーヤは少し驚いたように私を見つめたが、やがて小さく頷き私の手を握り返してくれた。その手は冷たかったが、そこには確かに生きる力が宿っていた。リーゼも、優しい微笑みを浮かべてマーヤに声をかけた。


「大丈夫ですよ、マーヤちゃん。私たちが一緒にいるから、怖いことなんてないですよ」

「ありがとう…ございます…」


 マーヤは涙をこらえるように小さく呟いた。その声は弱々しかったが確かな決意が込められていた。こうして、ルナとリーゼの旅に新たな仲間が加わることになった。星骸の呪いという重い運命を背負いながらも、私たちは共に生き抜くことを誓い合うのだった。

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