第21話〜戦いの終演〜
夜の闇が静かに包む中、ラジエルはベディヴィアとの激戦を終え荒れ果てた戦場に立っていた。周囲には焼け焦げた土と崩れた瓦礫、そして彼女の息遣いだけが響いていた。ベディヴィアの倒れた姿はそこに横たわり、もはや動くことは出来なかった。彼の手元には、もはや輝きを失った魔剣ファフニールの折れた刃。ラジエルはその刃先を一瞥し、静かに目を細めた。
「これで終わりね……」
ベディヴィアの息は既に浅く、敗北を悟った彼の瞳には、生きる意思が消えかけていた。ラジエルは、彼を見下ろしながら冷静に告げた。
「お前を王立監獄パンデモニウムに送る。もう逃げ場はないわ」
彼女は穏やかながらも決意を感じさせる声でそう言い、魔法で拘束しようとした。しかしその瞬間、ベディヴィアはかすかに動き、折れた剣を持ち上げた。
「俺は……ここで終わるが……俺の意志は……滅びはしない……」
折れた剣が再び輝きを放ち始めた。ベディヴィアは笑みを浮かべ、その光が強まっていくのを見届けるように、力強く言い放った。
「ジ・エンド・オブ・ファフナー……!」
ラジエルの目の前で、ベディヴィアの剣が灰滅竜の息吹を模した爆発的な闇の劫火を放つ。彼は己の命を絶つために、その最期の一撃を選んだのだ。ラジエルはすぐさま防御魔法を展開し強烈な劫火から身を守ろうとしたが、その衝撃はあまりにも強大だった。魔法の盾を張ったにもかかわらず、右腕に焼けるような痛みが走る。
「くっ……!」
火傷の痛みに耐えながら、ラジエルはその場に立ち続けた。ベディヴィアの命を賭けた最後の攻撃、ジ・エンド・オブ・ファフナーは空へと巨大な劫火の柱を生成し、辺りの瓦礫を焼き尽くした。ラジエルの防御がなければ、周囲はさらに壊滅的な状態になっていただろう。炎が収まると、そこにはただの静寂が広がっていた。ベディヴィアの体はその光と共に灰となり、彼の存在そのものが消え去っていた。
「くそっ…ヘルメス教団の教えに"敗者は潔く死になさい"とでも書いてあるのかしら…」
ラジエルはしばらく動けず、その場で深呼吸をした。ようやく殺し合いが終わった。だが、代償は決して軽くはなかった。痛む右腕を軽く抑えながら、ラジエルは疲労を感じつつも、次の行動を決断する。
「これで終わりじゃない。まだやることがある、そうよねラジエル」
彼女は空に開いた巨大な穴を見上げた。ベディヴィアのファーヴ・ストリームとジ・エンド・オブ・ファフナーによって作られたその大穴から、外の夜空が見えた。彼女はジブリールとのミッションプランを思い出し、彼女のいる方向へと向かう決意を固めた。残された子供たちを救うため、まだ成すべきことがある。新たなる戦いの開演だ。
*
「いた…ジブリールの反応…!」
ラジエルはジブリールの魔力の痕跡を追い、夜の街を飛び越えていく。そして、ほどなくして教会の前にたどり着いた。静寂が広がる教会の中に足を踏み入れると、そこには長椅子に座っているジブリールと膝枕の状態でぐっすりと眠っているルナの姿があった。ジブリールはルナの頭を撫でながら優しく微笑んでいた。その横ではリーゼもぐっすりと眠っていた。その姿にラジエルは一瞬だけ安堵を覚えたが、その後すぐにジブリールに声をかけて事態を確認した。
「ジブリール、状況はどう?」
ジブリールはゆっくりと顔を上げ、静かな声で答えた。
「ルナちゃんもリーゼちゃんも無事よ。けれど、まだ子供たちの一部が見つかっていないらしいの……」
ラジエルはジブリールが差し出した名簿リストに目を通し、その中に未だ救出されていない子供たちの名前を見つけた。焦りと責任感が胸を打つ。ベディヴィアを倒しただけでは終わらない。まだ多くの子供たちが危険な状況にあるのだ。
「お待たせ!食糧買い込んできたよ!」
その時、教会の扉が静かに開き、ハールーンとマールーンが帰ってきたようだ。二人はラジエルに新たなる任務を提示する。
「ラジエル、僕たちと共にまたあの場所に行ってくれる?まだやるべきことがあるの」
ラジエルは一瞬、傷ついた右腕に目をやったが、痛みを振り払うように強く頷いた。彼女は使命感に駆られ、すぐさま準備を整える。
「わかった、行こう。ハールーン、マールーン。子供たちを救うために、急ぐぞ。ジブリールは…」
「この状況わかるでしょう?あとよろしく頼むね」
「わかった、二人のお守りを頼みます」
「はあい、頼まれました」
そして、ラジエルは二人を連れて夜空へと飛び立った。教会に残されたジブリールは、再びルナの頭を撫でながら彼女を優しく見守り続けたのだった。




