第19話〜生命を賭けた戦い〜
「着いたぞ、ここが地下通路だ。もし君が私を倒せたらここからロンディムへの道が切り開けるわけだ」
「押し通る、そしてみんなを助けてみせる」
冷たい地下通路の空気が静まり返り、戦闘の緊張感がピークに達していた。私は自らの呼吸を整えようと戦う前の準備をする。魔力結晶を一つ砕き、杖へと吸収させていく。目の前に立つ男、ヘルメス教団の次期円卓議会候補とされるベディヴィアは、冷たい笑みを浮かべたまま、私を挑発するようにその場を動かない。
「そういえば君の名前を聞いてなかったね。戦う前に名乗るべきだろう。私はベディヴィア、ヘルメス教団円卓の守護者になる男だ」
彼の声には威圧感があり、余裕すら感じられる。私はその言葉に苛立ちを感じながらも、視線をそらさず、内心で舌打ちをした。
「これから死ぬ相手に名乗る必要なんてない」
私の態度は冷ややかだった。敵に対して名前を名乗る必要はないと判断した。しかしベディヴィアはその態度に少しも動じない。むしろ、彼は笑みをさらに深くし、楽しそうに目を細める。
「ふむ、それは残念だ。もし僕が負けて冥界に行ったとき、同胞たちにどうやって自慢したらいいんだ?"どんな強者と戦ったか"という武勇伝すら語らせてもらえないのはなかなかに酷い話だとは思わないかい?」
その言葉に、一瞬戸惑う。ベディヴィアの余裕が、彼の力に対する自信から来るものであることは明白だ。彼にとって、この戦いはまるで一興にすぎないかのようだった。
「はぁ……わかった。名乗ればいいんでしょ」
渋々ながら、私は名乗ることを決意した。彼の余裕に乗せられていることなど承知している。
「魔法少女ビビット・マジカ、それが私の名前」
「魔法少女ビビット・マジカ、いい名前だね」
ベディヴィアは少しだけ驚いた様子を見せたが、それはほんの一瞬のことだった。すぐに彼は再び微笑み、その目には興味深そうな光が宿っていた。
「では"アーレア・ヤクト・エスタ"だ。楽しい楽しい殺し合いをしようじゃないか」
ベディヴィアは自らの武器を構えた。その武器は、私の見たことがない形状の魔導具であり、一見して異質な力を感じさせるものだった。
「汝、言霊の精霊。裁きの流星で敵を屠れ!パニッシュメント・レイン!」
杖を構え、魔法陣を展開しようとするが――次の瞬間、魔法陣が破られた。
「なっ…!」
私が構えた魔法陣は、ベディヴィアの武器から放たれた魔弾によって簡単に砕かれてしまった。何が起きたのか、理解が追いつかない。
「ふむ。魔導銃、中々良い兵器だ」
ベディヴィアが口を開くと同時に左額を掠める感覚が走る。鋭い痛みと共に私の頬から血が流れ落ちた。痛みを感じる間もなく、次々と放たれる魔弾。まるで嵐のように、魔弾が襲ってきた。
「くっ…!」
痛みに涙が溢れてくる。痛い、痛い、助けてよお母さん。いいや違う、お母さんは助けに来ない。私が受けた殺し合いだ、私がなんとかしなきゃ。私は再び魔杖を構えようとした。しかし、ベディヴィアは弾幕を止めるとその様子を冷静に見ながら、淡々と説明を始めるのだった。
「これが魔導銃というものだ。魔法で出来た球体を高速回転させて威力を増すことで、君のような魔法使いの魔法を発動前に叩き潰すというものだ。いずれ、誰かがこの技術を取り入れることを予見していた私たちの創始者がこれを開発したのだよ。人工的に魔法と同等のものを行使できる兵器、通称魔導銃!どうだい?面白いだろう?」
彼の講義を聞きながら、私は必死に痛みを抑えるためポーションを飲み込む。生命力が再び彼女の体に満ち、礼装の輝きが力強さを取り戻していく。
「なら貴方なら避けられる?」
私は魔力を込めた魔杖を高く掲げ、相手の魔弾に応戦するための準備を整える。礼装に吸収されていた魔力がローブに装飾されているリボンを通して輝かしい白に輝き始める。さっき使った魔法を応用させる。今度は魔弾を回転させて発射させる。いわば擬似魔導銃と言うモノだ。
「これで全部撃ち落とす…!」
杖に注ぎ込んでいるありったけの魔力を使い、擬似魔導銃を複数作り出しぶっ放す。その魔弾はベディヴィアの魔弾を撃ち落としていき、次第に距離を詰めていく。相殺仕切れていないのか、撃ち落とし損ねた数発の魔弾はベディヴィアの足に命中する。彼の表情がわずかに変わった。
「ほう…なかなかやるな」
ベディヴィアは冷静さを保ちながらも、次第に苛立ちを見せ始めた。
「これで終わり!」
隙が生まれ、私は一気に距離を詰めて至近距離まで近づいた。だが次の瞬間、私の左肩部が鋭く斬られていた。激しい痛みが襲い、血が溢れ出すと共に杖が地に落ちた。
「きゃああああああっ!!!!!」
痛みで一瞬、意識が遠のきそうになるが、後退しながら必死に踏みとどまる。ベディヴィアは私を冷たく見下ろしていた。状況把握をしようと彼を見る。彼が持っていたのは魔導銃ではなく一振りの剣だった。
「ふん。こんなガキ相手に魔剣を使わされるとは、俺も衰えたな」
私は再びポーションを飲み、体力を回復させようとする。しかし、礼装の輝きは消えかけていた。魔力をチャージするには魔力結晶を用いるかローブを代償にするしかない。現在手持ちの結晶は一つのみ。――そして、もう一つはリーゼとのお揃いのペンダントだ。リーゼを助ける為の指標となっていたこのペンダントを砕くことなんて出来ない。
「くっ…これは使えないっ…」
私は最後の魔力結晶を砕き、礼装に魔力を吸収させる。そして剣を生成しようとしたが――集中力が続かず、一振りの短剣しか作れなかった。
「これで…なんとかするしかない…!」
左肘から左肩までのローブの裾を引きちぎる。それを魔力に変換させ二本目の短剣を鍛造した。そして再びポーションを飲み、体力を回復させる。ベディヴィアもまた、体力の回復を図っているようだった。
「ふん。ようやく体制が整ったようだね。それじゃあ、ラウンドツーだ」
私は双剣を握りしめ、再びベディヴィアに立ち向かう決意を固めた。地下通路の冷たい空気が、再び緊張で張り詰める中、私の心にはただ一つ――リーゼを救うための強い決意が燃えていたのだった。




