第16話〜焦燥と静寂の狭間で〜
「アリゼさん、ギルマス今いますか?」
「は、はい。いると思いますが」
「ごめんね、急ぎだから許可なく入るよ」
翌日、私は冒険者協会に足を運んでいた。アリゼさんには申し訳ないけれど、時間がない案件だからギルマスに直接話がしたかった。
「失礼しますギルマス」
「ルナさん!事情くらい話してください!」
「何事だ?」
「申し訳ありませんギルマス、うるさくしてしまって」
「良い。ルナくん、何かあったのかね?」
「ギルマス、昨夜、不審な人物と遭遇しました。彼が持っていた短剣に紋章が刻まれていました。これが何かの手がかりになるかもしれません」
ギルマスは私の話を真剣に聞き、短剣を受け取ると描かれた紋章をじっと見つめた。
「この紋章は確かに見覚えがある。ヘルメス教団、星教会を目の敵にしているテロリスト集団だ。五年前にも拠点は潰していたが、また活動を始めていたとは…」
「ここ最近の誘拐事件と何か関係があると良いんですけど」
「君の情報を元に調査を進める。君も何か新たな情報を掴んだら、すぐに知らせてくれ。それと自警団への紹介状と状況説明の手紙を書く。それを持って自警団へ共有をしてきて欲しい。ノブレス・オブリージュをモットーにする海の男たちだ、必ず力になってくれるはずだ」
「わかりました、ありがとうございます」
「ルナくん。いいかい?一人で抱え込まないこと、何か助けが必要になった時は大人を頼ってくれ。それを覚えておくように」
「わかりました、いってきます」
私はギルマスに感謝の意を示してからギルドマスター室を後にした。彼女はリーゼを救うために、自分の力を最大限に活かし、ヘルメス教団の動きに対抗する決意を新たにした。
「ルナさん!そういう情報はまず私に共有してください!ギルマスへの直接の連絡は規定上ダメなんですから!」
「あはは、ごめんなさい」
嘘である。私はこの件に関して反省していなかった。急がないとまた子供たちが誘拐される可能性もあったからだ。再び同じ状況が起きた場合でも同じことをするだろう。
「じゃあ、行ってきます」
ギルマスからの指示を受けて、私は冒険者協会を出発するのだった。自警団の拠点はルティナの貿易港近くにある灯台の下に位置し、街の治安維持を担っている。自警団の船団長キャプテン・アッシュ、どんな人なのだろうか。信用のできる大人であることを期待しながら少女は歩き出すのだった。
*
「こんにちは。デネボラさんの書文を届けに来ました」
「お待ちください。書文を確認してからお呼びしますので、受付場でお待ちください」
私は自警団の門を叩き、受付嬢さんの指示に従って待機場所で待つことになった。その間、受付場で待機していると、またもや屈強でハゲな男が現れた。なんかデジャヴ。
「おチビちゃんはお家に帰っておっぱいでも、ぐはぁ!」
私はその不快な言葉に耐えきれず、軽くひっくり返し冷ややかな視線を送った。自警団にもこんな人ばかりいるのか。ノブレス・オブリージュを謳っているのに強さに溺れた人が多いように感じる。ようやく受付嬢から声をかけられた。
「船団長キャプテン・アッシュから面会の許可が出ました。奥の部屋へどうぞ」
私は案内され、キャプテン・アッシュとの会議のために奥の部屋へと向かう。部屋に入ると、キャプテン・アッシュが書文に目を通していた。彼の顔には真剣な表情が浮かんでいた。
「書文拝見した。実はロンディムでも同様の事件が起きていることは知っているか?」
「ロンディムでも!?」
私はその話を聞き、心配でいっぱいになった。親友のリーゼのこと、また子供たちが誘拐されるのではないかと気がかりだった。
「ああ。彼方の方が被害が大きいとのことだ」
「ロンディムと協力してヘルメス教団を打ち倒しましょう。何か協力できることはありませんか?」
しかし、キャプテン・アッシュの返答は冷淡だった。
「ロンディムの冒険者たちは、国境を挟んで隣国フーリオとの共同でバベルの塔の攻略にあたっており、兵を出す余裕がないんだ。でもルティナの自警団はすぐにでも」
「もういいです」
つい言葉が溢れ出した。身近な人々が誘拐されているのに、協力できない理由を聞かされるだけの状況に耐えられなかった。私の心の中に怒りと絶望が渦巻いていた。
「ロンディムは私たちのような女子供が誘拐されることよりもバベルの塔の攻略の方が優先なんですね」
「そうではない!」
「それで、貴方たちも未来の為に今を切り捨てる人ですか?」
「違う!我々は明日を生きる為に今日やれることをやっているだけだ!それに、我々は直ぐにでも動ける!」
「今日の夜決行する予定だよ」
「今日の夜…あと数時間で動けるはずないだろう!傲慢ががすぎるぞ魔法少女!」
「結局貴方たちも同じ、規定や作戦等と時間を無駄にかけたがる大人と変わらないんですね。もういいですから」
私は部屋を飛び出した。自警団の拠点を出ると、冷たい風が彼女の顔を撫でる中で、何もかもが無力に感じられた。孤児たちやリーゼを救うためには、何としてもこの状況を打破しなければならない。それに今夜にでも決行しないとまた誘拐される子たちが出てくる。それを何としてでも止めなきゃ。そう思考を巡らせながら暗い街中を駆け抜けるのだった。
「リーゼ、待っていて。私が助けに行くから」
一人の少女が出て行った後キャプテン・アッシュは直ぐに口を開いた。しかしその顔つきは先程までの温厚な顔つきとは異なり、怒りで顔が真っ赤になっていた。
「メルティナ、今すぐ動ける自警団の連中を集めてくれ」
「は、はい!今すぐ!」
「暴走列車は止まることと周りへの被害を考慮しないモノだ。我々大人が少しでもサポートすべきだ」
「昔の誰かさんみたいでしたね」
「言うな。子供というのは自分一人の力で何とでもなると平気で思い込んでいるものだ」
一人の海の漢はパイプ煙草に火をつける。窓を覗き込み灯台を眺めては黄昏れていると、窓の外に走り去っていく一人の少女を眺めながら煙を吐き出した。
「子供らしい理想主義はその身を滅ぼす。いずれその立ち振る舞いは通用しなくなるぞ、魔法少女」




