第15話〜揺れ動く胸の振り子と彷徨う想い〜
「今日の依頼は子供たちと遊ぶことだったよね」
教会に入った瞬間、空気がいつもと違うことに気づいた。重く、張り詰めた緊張感が漂っている。私は直感的に、何か悪いことが起きたのだと感じた。そして、修道士さんと合流したとき、その直感は的中していた。
「こんにちは。貴女が依頼者のノノさん?」
「はい。そうです、ルナさん。今日は依頼を受けてくださりありがとうございます」
「教会の空気感が異質だけど、何かあったの?」
「実は、リーゼさんが数日前から行方不明なんです。最初は単なる失踪かと思いましたが、ナナミさんからリーゼが誘拐されたとの報告がありました」
「誘拐…?」
その言葉が耳に入った瞬間、心臓が凍りついた。信じられない思いが胸に込み上げる。
「どうして…どうしてリーゼが誘拐されなきゃいけないの!?何も悪いことなんてしてないのに!」
「ナナミさんが連れていかれそうになった時、リーゼさんが庇ったみたいです…」
「リーゼは神に祈らないと魔法が使えないって、自分が弱い存在だって理解してるはずなのに…」
ノノは静かに頷いた。
「リーゼさんは私たちを守ろうとしたんでしょうね…。依頼の方、どうしますか?」
「受けるよ。だって、また誰かが狙われるかもしれない。リーゼが守ろうとしたみんなを、今度は私が守る」
私はそう言いながらも、胸の中の不安は消えなかった。だけど、今はやれることをやるしかない。
*
その夜、私は教会の自室で、手に持つペンダントを見つめていた。これはリーゼに渡したペンダントで、彼女の位置を追跡するための魔法がかけてある。リーゼがどこにいるのか、このペンダントが教えてくれるはず…。
「リーゼ、お願い…どこにいるの?」
祈るような気持ちで魔力を注ぎ込む。しかし、表示されたマップはノイズだらけで、リーゼの位置はどこにも反映されない。どういうこと…?
「なに…これ?」
画面全体に走るノイズを見て、心臓が早鐘のように打ち始める。何度確認しても、リーゼの反応はまったくない。まるで彼女がどこにも存在しないかのようだ。そんなはずはない。
「なんで…リーゼ…どこにいるの…?」
焦りが体中を駆け巡り、冷静になろうとしても、頭が真っ白になる。リーゼが危険な状態にあるのは間違いない。私が動かなければ、彼女は取り返しのつかないことになるかもしれない。
「絶対に…絶対にリーゼを救わないと…!」
私は居ても立ってもいられなくなり、すぐに外へ飛び出した。街を捜索している中、リーゼと初めて会った場所へと流れ着く。彼女との思い出が蘇るが、今はそれどころじゃないと懐かしむ想いを振り切る。そして辺りを見渡すと、暗いローブをまとった不審な男が黒い鳥を飛ばし、路地裏の家屋の扉を開ける姿が目に入った。
「怪しい…」
私は男の動きをじっと見て、彼が扉の中に入った後、慎重に扉を開けて入り込む。扉の奥には転移ポータルが設置されているのが見える。この男は…何か大きな陰謀に関わっているに違いない。今ならまだ追いつける。そう思った瞬間、私は声を上げた。
「貴方、何をしているの!?」
男が驚いたように振り返り、無言でローブの中から短剣を抜き取った。鋭い刃が闇の中で鈍く光る。私は咄嗟に魔法を準備し、対峙する。
「子供たちを誘拐して、金儲けでもしてるつもり!?目的は何?」
「ふっ、ノーコメントだ」
男はそう言うと短剣を振りかざして攻撃を仕掛けてきた。素早い動きに、私もすぐさま反撃の魔法を繰り出す。けれど、放った魔弾は彼の素早い剣さばきで次々と弾き返されてしまう。
「ここの冒険者は思ったよりも弱いようだな…」
「誰が、弱いって!」
私は牽制程度の魔法じゃダメだと強力な魔法を放った。男は再び短剣を振るいそれを切り払おうとした瞬間、魔弾が振り下ろした短剣を弾き飛ばした。
「ぐっ…!」
男の手から短剣が離れ、地面にカランと音を立てて転がった。チャンス!そう思って距離を詰めようとした瞬間、男は一瞬の隙を突いて転移ポータルに向かって走り出す。
「待て!」
「タイムオーバーだ。さようなら、か弱い冒険者さん」
私は追いかけようとしたが、男はポータルに飛び込み、そのまま消えてしまった。ポータルは彼が消えた直後に閉じられ、逃げられてしまったことに悔しさがこみ上げる。
「逃げられた…ごめん、リーゼ…」
私は地面に転がっていた短剣を拾い上げた。柄には奇妙な紋章が刻まれていた。この紋章が指し示すモノは、果たして何なのだろうか。この頃の私には知る由もないことだった。




