第6話 貴族街での襲撃
ラピス視点続きます。
「さて、そろそろ暗くなってきますし、帰ることにしましょう。」
思っていたよりも収穫の多い休日でした。
残念ながら、タレの方は入手できませんでしたが。
いつか、アーテル様を連れて、こういうところを案内したいものですね。
今日のことをどういう風にアーテル様に伝えようかと悩みながら、王城の方に向かっていると、私は周りの様子がおかしいことに気がつきました。
「・・・人がいない?」
王城の周りには貴族や大商人などの屋敷が建つ貴族街となっており、平民などが入ってきづらいのは確かです。
なので、中央広場のような場所と比べて、人が少ないのは分かるのですが・・・それでもこの時間に、人が1人もおらず、馬車が通る気配もないというのは不自然です。
「何かおかしいですね・・・」
「そりゃそうだろうよ。メイドのねーちゃんよ。」
「っ!」
私は声が聞こえた方向にバッと振り向くと、男が1人と子供が2人立っていました。
全員、貴族達が住むこの辺りにいるような恰好ではありません。
男はならず者というべきでしょうか、スラム街にでもいそうな恰好をしています。
子供2人はボロボロのポンチョのみのようで、まずまともな服を着ていません。
「何の用でしょうか?」
「おぉ、話を聞いてくれるのか、こりゃ楽でいいな。」
男は大仰に肩をすくめる。
その動作に私は少しいらっとした。
「どなたに依頼されたので?」
「さぁな。」
さすがに依頼主を教える程、馬鹿ではないようです。
ですが、貴族がいるこの場所でここまでのことができるというのであれば、侯爵以上は確実です。
多分、あのクソ殿下の差し金でしょう。
「依頼主はヒットリア侯爵ですか?それとも、ダンティール子爵?」
ヒットリア侯爵はくそ殿下を支持している貴族の代表です。
ダンティール子爵はヒットリア侯爵の傘下にいる貴族です。
多分、この2人のどちらだとは思うのですが。
「どっちも違うな。まぁ、依頼主はあんたを捕まえてから、教えてやるさ。」
「知っているのならば、吐かせることにしましょう。」
私は水の印を五段階の内の第三段階まで覚醒できています。
第三段階まで覚醒している人は貴族でもそう多くはありません。
なので、ただのならず者に負けるはずがありません。
右手の甲にある印を腕に、そして、体の右半分まで広げます。
「そんな・・・どうして・・・」
「悪いなぁ、あんたが第三段階まで覚醒できるのには驚きだけどよぉ。俺も第三段階なんだよなぁ。」
「なぜ、第三段階まで!?それにその印は!」
「そう、お察しの通り、闇の印だぜ。魔人じゃないけどな。」
男達の方を見ると、男の体には闇の印の証である紫色の印が顔半分に現れていました。
後は服で隠れて見えませんが、顔半分まで到達しているということは、体の半身まで広がっているということ、つまり私と同じ第三段階ということです。
それに、男の両隣にいる子供2人も第二段階に到達しているようです。
顔には印が広がっていませんが、腕には広がっています。
「正直なところ、まずいですね・・・」
逃げ出すのが一番ですが、男も子供達もかなり厄介です。
子供2人はそれぞれ風の印と地の印を持っているようです。
風属性と地属性は攻撃性は低めですが、相手の邪魔をしたり、防御したりと応用性に富んでいます。
それに闇属性は光属性と対になる最強の属性でもあります。
kの時間帯なら、自然にある闇も多く存在します。
逃げるのは多分、無理ですね。
「唯一の活路は・・・」
今日の門番は仕事熱心なクリック様です。
ある程度、派手な音を出したり、目に見えるような異変を起こすことができれば、他の人を行かせるか、駆けつけるかしてくれるでしょう。
「おぉっと!そうはさせないぜ。」
私が水を上に向かって、大きく噴き出させようとした瞬間、男の影が私の頭上に伸びました。
私は即座に水を噴射する方向を上ではなく、男達の方に変更して、水を噴射しましたが、突如そそり立った壁に難なく防がれました。
「っ!」
相性が悪すぎます。
水属性の攻撃力はあまり高くありません。
特に物理的な攻撃に対する防御力が高い風属性や地属性には相性が悪いです
これが炎だったら、まだ勝機はありました。
運が悪いのではなく、私の属性が分かっていた上で連れてきたのでしょうね。
「残念だったな。」
「きゃあっ!」
男の影がまた伸びて、縄のようになり、私を拘束しました。
全身を拘束されたので、バランスが取れなくなり、私は地面に倒れこんでしまいました。
「き・・・むぐぅ!」
私は叫んで助けを呼ぼうとしましたが、影が私の口を覆いました。
どうやら、男の第三段階による特殊能力は影を物質化することのようです。
本来なら、物理的な要素を持たない影を物質化する能力、かなり強力です。
男は私の傍へ近づいてきました。
「さてと、もうこれで何をしても無駄だぜ。水を出したとしても、俺かこいつらが妨害するからな。」
「んんっ!」
「ひゃ~、王子様があんたに惚れこむのも分からんでもないなぁ。こんなに綺麗なんだからよ。」
スッと男は私の顎のあたりを撫でました。
ぞわっとして、とても気持ち悪いです。
「さてと・・・そういえば、依頼主が誰か教えてやっていったよなぁ?教えてやるよ。どうせ、今から会うことになるしな。」
くそ殿下の配下であることは分かり切ったことなので、今更聞きたい話でもないんですが・・・。
それに私にはまだ奥の手が残っています。
できれば、使いたくありませんし、禁止されているのでそう簡単には使えませんが・・・貞操に危険があるようでしたら、使うしかありませんね。
「驚け、第二王子のエリオム殿下だぞ。」
「ん?」
あれ、この男は今、何と言ったのでしょうか。
エリオム殿下?
いえ、それはそうですけど、まさか、くそ殿下が自分で直接、私を誘拐するように依頼をしたんですか?
「あれ?あんまり驚かねぇな。俺は驚いたんだぜ。突然、俺らのアジトにエリオム殿下とお付きの執事が来たんだからよ。」
あのバカ殿下は何をしているのでしょうか。
王族がこういう犯罪組織に関わることは完全な禁忌、タブーです。
「あんた、あの第四王子の専属メイドなんだってな。俺の推測なんだけどよ、第二王子は第四王子を消そうとしてるんじゃないのか?」
したり顔で語っているところ、申し訳ないのですが、多分違います。
私を口説いていたのもそれの一環ならば、そうでしょうが・・・アーテル様が陛下に愛されているのは、くそ殿下ですら分かっていることなので、直接的な被害を負わせることはほぼしないでしょう。
「違うのか?まぁ、いいや。とりあえず、引き渡しの場所に連れていくぜ。」
グイッと男の影が私を持ち上げます。
このまま移動する気なのでしょう。