第4話 脅しと笑顔
個人的にいい雰囲気に書けたんじゃないかなと思ってます。
「そういえば、エリオム兄さん、ラピスのことを口説かなくなったんだってな。」
俺はベッドの上で寝転がったまま、椅子に座ってくつろいでいるラピスに話しかけた。
というか、ラピスはこんなにさぼっていていいんだろうか?
俺の部屋でくつろぎ始めてから、もう2時間近く経っていると思うんだけど。
普通に紅茶飲んでるし。
「えぇ、おかげさまで大助かりです。」
「・・・さすがに、エリオム兄さんに同情するよ。」
にっこりといい笑顔でほほ笑むラピスを見て、思う。
どんだけ嫌っていたんだ、と。
エリオム兄さんもやり方が悪かったと思うけど。
「それよりもアーテル様。そろそろ勉強をなさいますか?」
「それは、まだこの部屋でくつろぎたいと?」
もう2時間もくつろいでおいて、まだ休憩を求めているのか、このメイドは。
仕事はできるのに、なんでこんなサボり癖がついているんだろうか。
「えぇ、それもそうですが・・・文字を学びたいのでしょう?」
「そりゃあ、文字の読み書きが出来た方がいいだろ。」
「それは。5歳の考えじゃないですよ。」
クスクスとラピスは笑う。
文字の読み書きが出来た方がいいって、確かに5歳の子供が言うことじゃないな。
ラピスは俺が転生しているというのはさすがに気がついていないだろうが、何か勘づいている部分はあるだろう。
俺もラピスの前では隠していない。
このまま、ずっとラピスとの関わりが続けば、いずれは話すことになるだろう。
「まぁ、頼むよ。」
「はい、今日はどんな本にしますか?」
「今日はあまりやる気が起こらないから、軽めの内容で。」
「はい、承りました。」
ラピスは教材となる本を取りに行くために、部屋から出て行った。
この部屋にも本は置いてあるが、数冊程度しかない。
会話ができても、文字の読み書きがまだ不十分な俺の部屋に大量に本が置いてあっても意味がないから、それも当たり前なのだが。
「つーか、エリオム兄さんがそう簡単にラピスのことを諦めるかな?」
あの時、父上に奏上するとラピスが言ったので、鳴りを潜めているだけかもしれない。
まぁ、ラピスのことだから、話が大きくなる前にどうにか対処するだろう。
この件に関して、俺が手伝えるのは父上に伝えることぐらいだと思う。
それも、ラピス本人ができることなので、実質、ないに等しいのだが。
『おい!王国の面汚し!ラピスを俺のメイドにするように父上に言え!いいな!』
「うわっ!?急になんだよ!」
突如、部屋の中で声が大音量に響く。
エリオム兄さんの声なのは確かだが、この部屋にいる訳ではない。
『もし、ラピスが俺のメイドにならないようなら・・・ひどい目に会うからな!忠告はしたぞ!』
「これ・・・風の印か。随分と器用なことするな。それにエリオム兄さんにしては随分、遠回しなやり方だな。」
風をうまく操って、俺の部屋に直接、声を届けているのだろう。
このやり方は多分、誰かが入れ知恵して、手伝っているのだろう。
この声は一方通行で、俺の声は聞こえていないみたいだ。
まぁ、聞こえていたとしても、エリオム兄さんなら無視するだろうけど。
「しっかし、まだラピスを諦めてなかったのか。どうすっかなぁ、俺もラピスを手放したくないしなぁ。」
俺がこうやってだらだらしていても、あんまりとがめないし。
ラピスは俺のことを王国の面汚しだと思ってないし、逆にその発言に怒ってくれさえいる。
貴重な味方だし、何より、俺もラピスのことだが好きだ。
男女の意味ではなく、友達的な意味だけど。
「失礼します、アーテル様。ただいま戻り・・・ました・・・どうなさったのですか?なんで笑っているのですか?」
部屋に戻ってきたラピスは俺を見て、不思議そうな顔をしている。
「ん?笑ってたか?」
「はい。」
自分では気づかなかったけど、俺は笑っていたらしい。
エリオム兄さんの脅しは、俺には逆効果だったみたいだ。
「そっか、まぁ、別に気にしなくていい。」
「そうですか?」
「そうそう。」
俺は戸惑いを前面に押し出しているラピスを見て、少し笑った。
エリオム兄さんには悪いが、俺はラピスを手放す気はない。
だって、ラピスと一緒に過ごす時間はこんなにも心地よいのだから。