第2話 5歳になった
あれから4年半が経ち、俺は5歳になった。
3歳の頃から、ある程度、会話ができるようになって、色々と情報を集めることができた。
俺の名前はアーテル・グロリア。
この異世界スキエンティアにあるグロリア王国の第四王子だ。
この事実を知った時、俺はかなり驚いた。
貴族っぽいなとは思っていたが、まさか王族だとは思ってもなかった。
父親は国王で、母親は俺を産んだことで他界してもういないらしい。
非常に美人だったらしいので、会えないのが残念だ。
俺は母親に似ているらしく、顔立ちもどちらかというと女の子っぽい。
鏡で見てみたが、自分でも驚く程、容姿が整っていた。
「・・・暇だ。」
5歳になったのはいいが、暇なのは相変わらずだった。
王城からは出られないし、身の回りの世話はメイドがやってくれるし、やることがぶっちゃけ勉強しかない。
それに俺はとある理由から、王位継承権を持っていない。
なので、勉強を必死にやらないといけないという訳でもない。
もちろん、王位継承権を持っていなくても、王族であることには変わりないので、必要最低限の知識とマナーは学ばないといけないが。
「アーテル様、入りますよ。」
「ん?いいよ。」
「失礼します・・・って、また寝てたんですね?」
俺の部屋に入ってきたのは、俺の専属メイドであるラピスだ。
ラピスは城にいるメイドの中で今のところ最も若い15歳だ。
俺に一番年齢が近いということもあり選ばれたらしい。
ラピスは群青色とでもいいのだろうか、明るめの夜空のような色の髪と瞳を持つ美少女だ。
多分、俺が見てきたメイドの中では一番容姿が整っていると思う。
「寝てたんじゃない。寝転がっていたんだ。」
「どこでそんな屁理屈を学んだんですか?エリオム様からですか?」
「相変わらず、エリオム兄さんに対して、当たりがきついな。」
「だって、しつこいですから。さっきもそれで仕事の邪魔をされたんですよ?アーテル様からも言ってください。」
話題に上がったエリオム兄さん、エリオム・グロリアは第二王子で今15歳で、ラピスと同い年である。
金髪碧眼の美少年なのだが、周りの影響もあるのか、傲慢な性格であまり親しまれるようなタイプではない。
そんなエリオム兄さんだが、ラピスのことが好きで、ラピスに見かけるとは口説いているらしい。
ラピスはそれをあしらっているそうだが、相手は仮にも王族、いくらあしらうにしても限度がある。
仕事中とは言え、追い返すのはほぼ無理、に絵g出すのも色々と難しいだろう。
最近は特にラピスを口説く回数が増えているようだった。
まぁ、ラピスはエリオム兄さんの気持ちに応える気はないみたいだけど。
「無理無理、俺じゃあエリオム兄さんに逆らえる訳ないだろ?あっちは王位継承権あり、俺はなし。それに、俺は王族の面汚しとまで言われてるんだろ?」
俺に継承権がないのは、きちんとした理由がある。
別に年が離れているからという訳でも、何かやらかしたから剥奪されたという訳でもない。
そのことについては今は置いておこう。
「・・・どこでその情報を?」
「いやいや、エリオム兄さん自身が俺に向かって言ってたよ。それに城にいるメイドや執事、騎士達も噂はしてるだろ。」
ラピスは目を細めて、何か威圧感みたいなのを出しているけども、そう隠しているような話ではない。
国民の方にも伝わっていてもおかしくはないだろう。
いや、逆に恥ということで、存在を隠されているかもしれないが。
「本当に・・・アーテル様が王様になれば、この国も安泰でしょうに。」
「いやいや、レイ兄さんがいるだろ。王太子だし、優しいし。」
王太子であるレイ兄さん、レイナート・ディ・グロリアはすごい優しい。
ミドルネームの「ディ」は王太子の証である。
エリオム兄さんと同じ金髪碧眼の美少年なのだが、エリオム兄さんの真反対と言える性格をしていて、非常に穏やかで優しい性格をしているので、色んな人に慕われている。
エリオム兄さんを王へと担ぎ上げる動きもあるが、貴族の8割方がレイ兄さんについている。
国王である父上もレイ兄さんに王位を渡すつもりみたいだし。
「確かにそうなんですけど・・・レイナート様はいささか、考えが甘いところがありますので。」
「ちょいちょい、メイドがそこまで言っちゃっていいのか?」
ラピスは少し言いすぎだ。
王族の意向に対して、異議を唱えるような発言はあまり言わないでほしい。
どこで聞かれているか分からないし、もし聞かれていたら、ラピスが処罰される可能性もあるし、俺もそれに巻き込まれる恐れがある。
「そういうところですよ、アーテル様。まだ5歳にもかかわらず、そういう思慮深いところが王にふさわしいと言っているんです。」
「ないない、ただ保身に走ってるだけだって。俺はこうやって、ゆっくり過ごしていければいいよ。」
そりゃ、人生2度目だからな、という訳にはいかないで、当たり障りのない返事をしておく。
「まったく、アーテル様に理の印があれば・・・」
「ラピス。」
さすがにそろそろ言いすぎだ。
一介のメイドが言うには重すぎる内容、謀反を画策していると捉えられてもおかしくないレベルの話だ。
喋っている途中で俺が名前を呼んだことでラピスも察したのか、頭を下げた。
「失礼しました。」
「この話はもう終わり。二度としないで。」
「はい。申し訳ありませんでした。」
ラピスも反省したようなので、この話はもう終わりだ。
俺自身も追及するのは面倒だし。
「もういいよ。で、何しに来たの?」
「仕事という名の避難ですね。」
シレッと答えたラピスの言葉に嫌な予感がする。
今の返答だとつまり・・・
「それ、エリオム兄さんが来るん・・・」
「ここだなっ!」
バンッと俺ん部屋の扉がノックもされずに勢いよく開けられる。
部屋に入ってきたのは、金髪碧眼の美少年。
まぁ、言うまでもなく、エリオム兄さんだ。
「エリオム兄さん、さすがにの・・・」
「うるさい!王族の面汚しは黙ってろ!」
「・・・はいはい、分かりましたよ。」
理不尽だがどうしようもない。
エリオム兄さんによる被害を最小限に抑えるのなら、関わらない、あるいは話を聞き流して適度に反応を返すのが一番だ。
「ラピス!なぜ、逃げたんだ!」
「逃げたのではありません。仕事があったため、そちらへ向かっただけです。
つーんとラピスは無表情、いや、どちらかと言うと冷たい表情でエリオム兄さんに対応する。
さっきまで俺と話していた時の声音とは違い、淡々と言葉を口にしていた。
「仕事?あれに使える必要はない!王族の面汚しは城にいられるだけでもありがたく思っていればいいんだ!」
本当にひどい言い方だ。
まぁ、こうやって、だらだら出来ていることには不満はない。
城にいるだけというのも本当のことだし。
「・・・それは本気でおっしゃっているのですか?」
「うっ・・・そ、そうに決まっているだろう!」
ラピスから静かな怒気のようなものが発せられる。
俺もその余波で一瞬、寒気が走った。
「エリオム殿下、さすがにこの暴言は見逃せません。国王陛下へ上奏させていただきます。」
「なっ!父上に!?何故だ!俺は何1つ間違ったことは言っていない!」
いやいや、エリオム兄さん、その前にただのメイドが父上に上奏できることに驚こうよ。
これまでも思ってきたけど、やっぱりラピスは他のメイドとかどこか違う。
「私を口説くのも仕事の邪魔をするのもまだ我慢できます。ですが、アーテル様を侮辱するような発言はやりすぎです。」
「あれが王族にもかかわらず、理の印を持っていないのは事実だろう!」
俺に向かって、ビシッと指を突きつけてくるのはやめてほしい。
ちょっと目障りというか、あまり気分がよくない。
「そういう殿下もまだ第一段階と聞きますが?」
「お、俺はまだ覚醒の訓練を受けていないだけだ!」
「エリオム殿下がおっしゃるなら、そうなのでしょう。ですが、仕えている主君とは違いますが、お世話している相手の侮辱は、私への侮辱とも取れます。私はそういうのは嫌いですので。」
「く、くそっ!覚えてろ!」
三下っぽさ丸出しのセリフを吐いて、エリオム兄さんは部屋を出ていこうとする。
「あ、エリオム兄さん。今度入る時はノックぐらいはしてよ。」
「うるさい!」
扉を勢いよく開けて、エリオム兄さんは部屋から出て行った。
俺の言葉は聞こえてはいたみたいだが、次ノックして部屋に入ってくることは多分ないな。
「お騒がせしました、アーテル様。」
「いや、別にいいよ。俺のために怒ってくれてありがとう。」
「いえ、私も付きまとわれて、いい加減うんざりでしたので。」
ラピスは冷たい表情をしながら、そう言う。
ぶっちゃけ凄い怖いです。
「そう?じゃあ、いいか。あ、掃除の方よろしく。」
「と言いましても・・・物が動いている気配がないのですが?」
ラピスは俺の部屋をキョロキョロと見まわした後、そう言った。
まぁ、布団の上に寝転がっているか、場内で散歩しているか、部屋でボーッとしているくらいで、元から部屋に置いてあるものが少ないし、特に動かしてもない。
メイドにとっては働き甲斐がないかもしれない。
「仕事をやっているふりをして、ゆっくりできるのは楽なので、いいんですけど。」
「メイドの言うことじゃないな。」
「それもそうですね。」
ラピスはふふっと笑う。
その笑顔を見て、エリオム兄さんがラピスに惚れこむのも分かる気がした。
いかがでしたか?
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この小説の題名があまりにも厨二チックなので、代案を募集中です。
今のでいいよと思う方はそう書いてくれると嬉しいです。