第11話 ぶちギレ
「・・・父上、ラピスが何か失態を犯したのでしょうか?」
一瞬、頭に血が上ったが、深呼吸をして落ち着ける。
あくまでも冷静にだ。
今すぐにでも助けてやりたいが・・・ラピスが何故、このような状態になっているのかを俺は知らない。
父上が理不尽または不当な理由でこういうことをするとは思えないので、理由を知らない限りは動くに動けない。
「ふむ、そこのメイドが誘拐されそうになったというのは知っているな?」
「はい、昨日聞きました。」
一昨日の出来事で、昨日はラピスと会っているのだから、知らない方がおかしいだろう。
「まぁ、エリオムが犯罪組織の方に接触して、誘拐しようとしたのが原因らしいのだが・・・そこのメイドを助けた者がいたらしくてな。」
「そうらしいですね。」
ここも同意しておくべきだろう。
ラピスもこの程度の情報なら、俺に話したと報告しているだろう。
「そこでだ。第三段階まで覚醒している相手をあしらえるレベルの強者の存在を王家が把握できていないというの由々しき事態だ。そのため、その強者が何者か、そこのメイドが知っているのかどうかを調べたところ・・・知っていると判明した。」
「どうやって調べたのかを聞いてもよろしいですか?」
「構わん。命属性の印に触れている相手が嘘をついているかどうかを判別できる能力が存在する。ただ、それを欺くような訓練をしていた場合は、無理ではあるがな。」
ラピスのようなメイドがそんな特殊な訓練をしているとは考えられない。
嘘を見破る理術の存在なんて、初めて知った。
おそらく、上位の貴族や重鎮くらいしか知らない、極秘事項なのだろう。
そうでもないとこの能力は意味を為さなくなってしまう。
というか、そんな情報を5歳の俺に教えるのはどうかと思うが。
「それで、強者の正体を知ろうと思ったのだが・・・そこのメイドは頑として答えようとしなかった。本意ではなかったが、尋問を行い、それでも答えず、最終的には拷問をしたものの、答えなかった。」
俺が黙っていろと言っただけで、父上に逆らってまで黙っていてくれるとは思わなかった。
嬉しい気持ちと共に、申し訳ない。
こうなってしまった以上、本当のことを明かしてしまうべきか?
ラピスが助かるなら、俺の秘密がバレるくらい、なんてことはない。
だが・・・今回に関しては色々とおかしい。
そもそも、父上がここまで短慮で暴君のような行動をとるとは思えない。
「その後、捕らえた犯罪組織の者から、そこのメイドを助けた相手が黒髪だったという情報が入り、たまたまお前の名前を言ったところ、そこのメイドから反応があったとのことだ。そのため、アーテル、お前を呼んだという訳だ。」
今ので、嘘を判別できるという理術の正体が分かった。
おそらくだが、特定の心音や脳波の乱れを感知できるという能力だろう。
前世にあった嘘発見器の高性能版だと考えられる。
「・・・父上、それでラピスの処遇は?」
「ふむ・・・国王である余を欺こうとしたのでな。死刑だ。」
「そこをどうにかなりませんか?僕の専属メイドですので。」
これは内輪の恥をさらす話である以上、内密なものだ。
だから、罪の減刑もしやすいはず。
それに、父上が俺のおねだりを断るとは・・・あれ、待てよ?
「結論から言えば、無理だ。今回に関しては国益に関わってくる話となる。ガルトナー、地下牢の方へ連れていけ。」
「はっ!」
「待ってください!」
展開が早すぎて、まだ思考がまとまらず、対応が取れない。
このままでは、ラピスが連れていかれてしまう。
「・・・あー・・・てる・・・さま?」
ラピスの途切れ途切れの声が聞こえた瞬間、俺の中で何かがプツッと切れた感じがした。
それは感情の蓋が壊れた音、堪忍袋の緒が切れた音だった。
「・・・放せ。」
「アーテル、今何と?」
「ラピスを放せ!」
第三段階まで覚醒して、俺はラピスを連れて行こうとしているガルトナーに向かって突撃する。
短距離の転移でガルトナーのすぐそまで移動、転移をして懐にいる俺にガルトナーは超人的なまでの反射で気づくが、もう遅い。
「ぬっ・・・」
「どけ。」
「がっ!」
俺の腕の動きを加速させて、ガルトナーの腹のど真ん中に裏拳を放つ。
ドゴォッ!というすさまじい音とともにガルトナーは吹き飛んで、謁見の間の壁に衝突した。
俺の加速は俺の身体能力や強度を高めるものではなく、単純に時間を早めただけもの。
今の勢いでぶつければ、本来なら当てた腕がぐちゃぐちゃになっているだろうが、当たる部分の時間を止めておいたので、無茶な動かし方による一部の筋肉の断裂で済んだ。
それも時間を戻して、治したので問題はない。
治すまでが激痛なのは確かだが。
「ラピス、しっかり・・・ちょっと待て、おい。」
血だらけのラピスを治そうと抱きかかえて気づいたが、拷問されたはずのラピスに怪我が一切ない。
それどころか、ラピスの直近の過去を確認したが、怪我をした時間すら存在しなかった。
とりあえず、血で汚れていたので、時間を巻き戻して、綺麗にしておいたが。
「ってことは・・・」
父上への違和感、会話上の違和感、ラピスが拷問を受けていないという事実、全てを思い返すと、ある1つの答えが出た、いや、出てしまった。
はっきり言って、信じたくはない。
「はめられたのか?」
「悪かった、アーテル。」
「父上?」
何してくれてんだ?という意味を込めて、できる限り、低い声で威嚇しながら、父上を睨む。
父上はちょっと冷や汗を流しながら、知らんぷりして口部を吹いている。
うまいのが余計にイラっとするな。
「あなた、『ラピスを放せ!』ですって。アーテルったら、まだ5歳なのに、もう自分の婚約者を決めちゃったのかしら?」
「母上っ!?」
天然が入ってる分、母上は父上より厄介だ。
俺の言葉を繰り返すのはやめてほしい。
穴があったら入りたいどころか、穴を掘って入りたいという状態になってしまう。
「アーテル様、私、今すごい感動しています。私のことをこんなにも想ってくださっていたのですね。」
「ラピスまで!?」
いや、ラピスがこうやって、からかってくるのはいつものことだった。
そう思って、ラピスを見ると、ラピスは頬を紅潮させて、俺のことをじっと見ていた。
どうやら、本気でそう思っているらしい。
思わぬ不意打ちにちょっとクラッとした。
5歳だったからよかったものの、もうちょっと歳が上だったら、やばかったかもしれない。
「あぁ、もう!勘弁してくれ!」
父上にせよ、母上にせよ、ラピスにせよ。
この状況は、今の俺には完全にキャパオーバーだ。
謁見の間に俺の切実な声が響くが、その声に応えてくれるような人はこの場にはいなかった。




