1-4 「高嶺の花と呼ばれる生徒。一体誰のこと?」
さて、今やっていることを整理するとこうだ。
大喜利部に女の子から謎のポエムが届き、それを我々は部員への告白と解釈。
その子に告白してもらうため、校舎の中へと探しに出た。
冷静になって考えると中々おかしなことをやっているとは思う。
確かに投函者の子が困っているという可能性もあるが、それにしてもお人好しというか、なんというか。
小手毬先輩の行動力には驚かされるばかりである。
「ユキを好きになるということは、ユキと同じ1年生と考えるのが妥当だ。
この時間まで教室に残っているとは限らないが、可能性は低くない。1年生の教室から探そう。」
「あ、あのー。もし他の学年の方とかだったらどうしましょう……?」
「ああ。その時は全ての教室を回ればよい。1学年4クラスしかないのだから、高々12クラスで済む。」
なんとも力強い言葉だ。後ろを歩く我々のことは何も考えていない、というのが欠点だが。
そんな部長に引っ張られ、部員の面々は1階の1年生の教室の前までやってきたのだった。
「まずは手前の1組から見ていこうではないか。ああ、ところで君たちは何組だね?」
「に、2組です!」
「4組ですね。」
「ふむ、では4組が本命とみておこうか。じゃあユキ、まず1組を見てきてくれ。」
「え、自分が行くんですか……?」
「当たり前だろう。君が告白されに行くのだから、君が行かないでどうする。
後ろに我々もいるのだから、安心したまえ。」
「そう言われればそうですが……」
自分が告白されるために教室を回るという状況。
何をどう考えてもおかしいとは思うのだが、先輩は仁王立ちで反論する余地がない。
仕方ない、教室に入る方針で考えるしかなさそうだ。
まず、教室に入りどう声をかければよいかだ。「私のこと好きな人いますか?」が不適切なのは間違いない。
そんなことをすれば、明日登校するころにはあだ名が「ナルシスト野郎」になってしまう。
無難なのは「大喜利部にお題を入れた人いませんか?」あたりだろう。
そして、もし本人がいたらどうするか。その時は、それとなく内容について聞くだけにしよう。
先輩には「度胸がない」と詰られるかもしれないが、ナルシストの烙印を押されるよりは圧倒的にマシだ。
「おいユキ、何をそんなに悩んでいるんだ。早く教室に入るがよい。」
……さて、そろそろ先輩の刺すような視線が痛い。教室に入ろう。
「すみませーん、大喜利部にお題を入れた人いませんか?」
教室には2,3人がまだ残っていたが、尋ねてみても、「大喜利部って何ですか?」と全く知らない様子だった。
2組、3組にも同じように入ってはみたが、同じような調子で特に収穫は無し。
2組の生徒が偶然ランの友人だった、ということくらいである。
「あとは本命の4組だ。これがダメなら、次は2年生の教室を回るぞ。」
「そ、そうですね……4組にさっきの人がいればいいんですが……」
4組は自分のクラスだから、友人がいないとはいえ流石に顔くらいは覚えられているだろう。
特にやましいことがあるわけではないが、先輩たちに見られているとなんだか少し気まずい。
また立ち止まっていると、先輩から再び鋭い視線が飛んできた。さっさと入って終わらせてしまおう。
「すみませーん、大喜利部にお題を……」
「あ。あの時の不審者さんですね?」
「え?不審者?」
教室にいたのは1人の女の子だった。急に呼び止められたが、正直この女の子にはまったく見覚えがない。
背はランより高く、髪型はツインテール。一番の特徴はその雰囲気だ。一度見たら忘れなさそうな独特のものを持っている。
というか見覚え以前に、不審者って何だ。部室でも弁解をしたが、全くそのようなことをした覚えはない。
「や、やっぱりユキさん、女の子に何か悪いことを……」
「ほう。ユキ、聞かせてもらおうじゃないか。」
……後ろからついてきた2人が不穏な空気を漂わせている。非常によくない展開だ。
いや、全く身に覚えはないんだが。
「あのー、何のことでしょう?」
「ユキさんというのですか、なるほど。
ユキさん、富士山、既視感、こしあん。ユキさんは、こしあんが好きと。」
返答を華麗にスルーされてしまった。そして急に何の話なんだ。
「確かに粒あんよりこしあん派ですけど……。」
「あ、あたしは粒あん派です……!」
「私はユキと同じくこしあん派だ。」
後ろの二人もなぜか律儀に答えているが、その必要はないと思う。
「そんな私は、クリーム派ですね。クリームには、ドリームがあります。」
「は、はあ……」
教室に入ってから、この謎の女の子のぺースに振り回されっぱなしだ。
このまま振り回されていても埒が明かないので、早く当初の目的に戻ろう。
「それで、大喜利部にお題を入れた人を探していまして……」
「ああ、本題を忘れるところでした。
僕ですよ、大喜利部にお題を入れたのは。」
え、ええええ……。この女の子が、探していた投函者なのか。
そう言われてみれば、確かにあのポエムを書きそうではあるが……。
「そのお題の内容について、少し聞きたいことがありまして。」
「はい、そうですよね。
……お二方には申し訳ないですが、一旦ユキさんと二人でお話をさせてください。」
……先ほどまでの笑みは消え、急に真面目な表情で話し始めた。
二人きりで話、か。これは本当に、告白という可能性もあるかもしれない。
脳内で、「クリームにドリーム」と、夕日に照らされた真剣な表情がせめぎ合っている。
「ああ、わかった。ユキ、部室で待っているぞ。」
「ゆ、ユキさん、頑張ってくださいね!」
2人が教室から出て行くのを見送り、教室には自分とこの不思議な女の子だけが残された。
「さて、ユキさん。単刀直入にお話させてください。」
「は、はい……」
彼女はその表情を崩さず、自分の方へと一歩近づく。
「僕は、小手毬先輩に一目惚れしてしまったのです。」
「……え?」
話が急すぎて、間抜けな声が出てしまった。
「ああ、そう言ってもよくわからないですよね、少しだけ説明させてください。」
「は、はい……」
「1週間ほど前に、小手毬先輩とあなたが廊下でやり取りしていた時があったじゃないですか。」
「あ、ああ。ありましたね。」
おそらく入部して2日目、ランが入部した日のことだろう。何か特別なやり取りがあった記憶はないが……。
「偶然遠くから見ていた僕は、先輩は小学生の少女で、あなたのことは不審者か何かだと思い込んでしまったのです。」
「はあ、それで不審者と言っていたんですね……」
普通、校内に小学生と不審者が同時にいたら大問題になると思うけど、それはいいのか?
「あ、気づいちゃったんで言うんですが、『ユキさん』と『不審者』は少し響きが似ていますね。」
「いや急にふざけないでくださいよ」
「失礼、失礼。
そうして見ていると、可憐な女の子がなんと不審者の腕を引っ張ったのです。
僕は、その姿に完全にときめいてしまいました。」
「は、はい?」
何を言っているか全く分からないが、一旦話を聞こう。
「そんな僕は授業をサボり、毎日探し続けました。
女子トイレに張り込み、各教室に監視カメラを設置しました。
そして見つけたのです。その少女はなんと2年生、大喜利部部長、小手毬千花先輩だったのです。」
ああ、授業をサボっていたから見覚えがなかったのか……。と、納得している場合ではないな。
完全にやってることがストーカーだ。早く捕まってくれ。
「あ、監視カメラは流石に冗談ですよ。
見つけたはいいものの、面識のない私には想いを伝える方法がありませんでした。
悩んだ私は、あのお題箱に気持ちを込めたのです。」
「な、なるほど……」
それであのポエムが誕生した、と。『高嶺の花』が小手毬先輩というのは、なんだかわかるようなわからないような。
というか女子トイレは本当なのかよ、怖いな。
「ユキさん、お願いがあります。
なんとかして、僕と小手毬先輩の間を取り持ってくれないでしょうか。
鳥もち、切り餅、いも餅、もちもちですね。」
「いや、そう言われましても……。」
こいつはたまにふざけないと死んでしまうのか?基本的にスルーの方針でいこう。
「せめて、告白する場だけでもいただきたいんですが。」
あの我が道を行く先輩を動かすのは至難の業だし、その方法を考えるのも面倒だ。
無難な選択肢として、大喜利部に入ってもらうのが一番楽なんじゃないか。
「じゃあ、大喜利部に入ればいいんじゃないですかね?」
「えっ、本当ですか?大喜利やったことなくても、入れるでしょうか。
いちょう切り、短冊切りがせいぜいなのですが。」
「はい、部員も足りてないので、先輩も許可してくれると思いますよ。
ただ、いくつか条件をつけさせてください。」
というわけで、入部を条件に彼女とはいくつかの取り決めをした。
「先輩のことをよく知るまで、先輩に告白をしない」
「入部の理由は『大喜利に興味がある』ということにする」
「今回の件は恋の相談だったことにし、それは解決したことにする」
以上の3つである。どれも、大喜利部の平穏を脅かすことを防ぐためだ。
こうして我々は、大喜利部の部室に向かった。
「……まあ色々ありまして、彼女に入部してもらおうということになりました。」
「ふむ。ユキ、ご苦労であった。そして君の入部も許可しよう。」
「わ、私も、部員が増えてくれて嬉しいです!」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね。」
よし、先輩の前で落ち着いているな。一安心だ。
「そして君、名前は何というのかね?」
そういえば、自分も名前を聞いていなかったな。
「のなめといいます。」
「のなめ?それはどういった漢字を書くのだね。」
「野原の野に、舐めるで野舐です。」
「め、珍しい苗字ですね!あたし、会ったことないです!」
「確かに、珍しい苗字だな。まあ、私が言えた義理ではないが。」
そう言って先輩は入部届を書き始めたが、野舐が小声で話しかけてきた。
「いやあのユキさん、この名前は冗談に決まってるじゃないですか。」
「え、冗談だったのか?先輩、入部届書いちゃってるぞ。」
「そりゃ冗談ですよ!止めてくださいよ!」
「ん?どうしたんだユキ。こそこそ喋って。」
「あのー。野舐は本名ではないそうです……」
「ああ、そうなのか?呼びにくいと思っていたところだから、ちょうどいい。君は『ノナ』だな。」
「の、ノナさん、よろしくお願いしますね!」
そんな感じで、ノナの入部が決まった。
冗談ばかりのノナと、冗談の通じない先輩。明らかに噛み合わない二人だが、これからどうなってしまうんだろうか。




