1-3 「大喜利部に来たお題に一同困惑。どんなお題だった?」
大喜利部に新入部員が入り、部員は3人になった。
お題を集めようと部室の前に募集箱を配置してから、1週間が経過した。
1週間の間で集まったお題の数は……1つ。
その1つはただのおふざけの文章で、実質お題は来ていないと言ってよい状況だった。
「まだ知名度が足りないようだな。ユキとランで友人にも広めるようにしてくれ」
というのは小手毬先輩の談。自分にそんな友人がいるわけもなく、特に状況は改善されることはなかった。
先輩が広めればよいのではとも思うが、あまり友人が多くはなさそうなので中々言いにくい。
そんな状況の間我々大喜利部は、基本的にただ駄弁るだけの日々を過ごしていた。
「また今日もお題来てませんね。」
「そ、そうですね……」
「まあ焦ることはない。待っていればいずれ来よう。」
先輩はこんな調子で、お題が来ることを信じきっている様子である。
人が良いというか、騙されやすそうだなあと、そんな心配さえしてしまう。
「なあユキ、今日のお題を出してくれ。」
お題が来ない分、毎日こうして自分がお題を考えることになっている。
流石にお題を考えるのもしんどくなってきているので、そろそろ何か動きがほしいところだ。
ちなみに二人の大喜利力は一向に成長していない。いつになったらまともに大喜利ができるやら。
「うーん、お題ですね、ちょっと出てこないので待ってください。」
今日はどうしようかな。そろそろ変わったお題を出してもいい頃かもしれないな。
なんて考えていると、ランが驚いた様子で急に立ち上がった。
「い、今、教室の外に人影が見えました!」
「ほう、本当か。もしかしたらお題を入れたのかもしれないな。ユキ、見てきてくれ。」
「えー、なんで自分が……」
なぜかいつも箱を見るのは自分の仕事になってしまっている。先輩にそう言われるとなぜか断れないのだ。
さて、教室の外の箱を見に来たが、人の気配は感じられない。
どうせ何も入ってないだろう、なんて思いながら箱の中を覗いた。
……紙が入っていた。それも、裏紙やノートの切れ端のようなものではなく、二つ折りにされた可愛らしい便せんである。
緊張が走る。下駄箱にラブレターが届いた気分に近いのかもしれない。まあ、実際に届いたことはないが。
1人で先に見てしまうのは悪い気がするので、中身は見ずに取りだして教室に戻ることにした。
「ゆ、ユキさん、お題、届いてましたか?」
何も言わずに、二つ折りのままの便せんを机の上に置いた。
「わ、わあ!お題ですか!」
「うむ。中身を見てみようではないか。」
そう言って先輩は便せんを開き、中身の文章を読み上げた。
「『気高き高嶺の花よ 路傍の石は地を転がるばかり』
……ふむ、詩的だな。ユキ、こういったお題の形もあるのか?」
「こういうのは見たことないですね……」
これじゃあお題でもなんでもない。もしかしたらこの世のどこかには存在するかもしれないが、普通に考えればただのポエムである。
「え、ええ……じゃあ、またいたずらですか?」
「うーん、まあ、そうなっちゃいますかね。」
ランはとても悲しそうな様子だ。先輩とは違い、表情から感情が読み取りやすくて助かる。
一方で先輩は何か考え事をしている様子だが、何を考えているかはわからない。いたずらへの対処法でも考えているのだろうか。
少し時間が経ち、相変わらずの無表情で口を開いた。
「いや、これはただのいたずらではないな。」
「じ、じゃあ何でしょう?」
「ユキが言うにお題ではない。だが、この綺麗な便せんに、意味深な言葉。
何かしら、我々大喜利部へのメッセージ性があると見て間違いないだろう。」
「なるほど、そうともとれますね。どういう意味だと思います?」
正直なところ謎のポエムにしか思えなかったが、このポエムを先輩がどう解釈するのかが気になった。
「順当に考えれば『気高き高嶺の花』『路傍の石』はそれぞれ何かの比喩だろう。
『高嶺の花』は、『見えているが手に入らない憧れのもの』、女性への恋愛感情の比喩に使われることが多いな。
『路傍の石』は、『気にも留めないような価値のないもの』、おそらく先ほどの女性との対比だ。
それが『地を転がる』のだから、『どうすればいいかわからない』といったところだろうか。」
「な、なるほど……」
ランは例のごとく真剣に話を聞いてうなずいている。先輩の流暢な解説と合わせると、なんだか古典の授業を見ているようだ。
「というわけで解釈としては、『身分の合わないような女性に恋をしてしまいました。どうすればいいかわからず困っています』あたりでどうだろうか?」
「お、おお……!小手毬先輩、すごいです!」
ランはたいそう感心した様子で、パチパチと拍手までしている。先輩もまんざらでもなさそうに、いつも以上にふんぞり返っている。
実際自分も、きれいな解説をする先輩に感心してしまった一人ではあるのだが。
「さて、ユキはどう思う?」
「先輩の解釈に全面的に同意です。ですが、これを投函した人は、なぜ大喜利部に渡したんですかね?」
「た、確かにそうですね……。わざわざ大喜利部に渡す理由がないです……」
「そうだな。『困っている』という解釈を前提として、大喜利部に相談を持ち掛けていると考えよう。
『好きになった相手が大喜利部の友人なので、間を取り持ってほしい』という形はありえるだろうな。」
友人か……。今のところ、この学校に大喜利部の2人以外の知り合いはいない。
ただ、お題が来なかったことを考えると、残念ながらこの2人にもほとんど友人がいないはずだ。これは言いにくいので黙っておくが。
「あ、あのー……」
2人に失礼なことを考えていると、ランが申し訳なさそうに手を挙げた。
「これは関係ない話かもしれないんですが、さっき見た人影は、女の子だったと思います。」
「え、それ本当?」
「は、はい。髪が長くて、胸のリボンも着けてるように見えました。」
「さっきの先輩の解釈と照らし合わせると、少し噛み合わないかもしれないですね……」
女の子が女の子を好きだ、というパターンも捨てきれないが、一旦考え直す必要がありそうだ。
「ふむ。『高嶺の花』の解釈を変える必要があるかもしれないな。」
そう言って小手毬先輩は、流暢にその解説を再開した。
「1つ目は、『高嶺の花』が指す女性がその投函者本人という解釈だ。
『あまり好みではない男性に迫られて困っています』のようになるかもしれない。
2つ目は、『高嶺の花』が男性を指す可能性だ。『高嶺の花』が必ず女性を指すとは限らないからな。
この場合『身分の合わないような男性に恋をしていまいました』という解釈になる。」
本当にこの先輩は頭の回転が早いと感心する。残念ながら、大喜利をしていないとき、という条件付きだが。
「そ、そうなると、それこそなんで大喜利部に……?」
その言葉を聞いて、先輩の目線が自分の方に向いた。
「1つ目の解釈ならば、その『好みでない男性』はユキかもしれないな。相手の部活内に告発をする、というのは常套手段だ。
2つ目の解釈ならば、先ほどと同じだ。我々の友人が対象と見ていいだろう。」
「え、ユキさん、女の子に嫌がらせしてるんですか!?」
「いやいやいや、何もしてないですよ!そもそも好きな人とかもいないですし!」
神に誓って、全くそんなことはしていない。というかまず友人がいないのだから、恋愛をする土俵にも立てていないし。
だけど、そう言って2人に信じてもらえるだろうか……?なんだか急に不安になってきた。
「ユキが何もしていないというなら、その通りだろう。私はユキを信じてるからな。そう考えると、1つ目の解釈は捨てていいだろう」
「先輩、ありがとうございます……」
そう言い切ってくれる先輩、本当にかっこいいな。
……あれ、よく考えるとこの話題を出したのも先輩で、それを却下したのも先輩。もしかして自分、騙されてるのかも。
「そ、そうですよね!ユキさんそういう度胸なさそうですし!」
「ランさん、今さりげなく自分のこと悪く言ってません?」
ランは相変わらずだが、部活内の自分の立場が脅かされることはなさそうで一安心だ。
「さて、2つ目の解釈となると、投函者の好きな相手が我々の友人にいるということになるな。心当たりはあるかね?」
「あ、あんまりお友達がいないので、心当たりはないです……」
「自分も友達はいませんね。」
「では私の友人ということになるが、私に男性の友人はいないな。」
ああ先輩、友達いたんですね、よかった……
「おいユキ、何だその安堵の顔は。」
「いえ、なんでもないです。」
「せ、先輩にお友達がいてよかったってことですよね!」
ここで最悪のフォローが入ってしまった。ランは本当にこういうときだけ勘がいいから困る。
しかし先輩はこんな発言もほとんど気にしていない様子で、淡々と話を再開した。
「2人とも失礼な奴だな……まあいい。しかし、そうなるとまた振り出しに戻ってしまうな。」
「うーん、ここまで引っ張っておいてなんなんですが、いたずらの可能性も考えるのはどうでしょう?」
「もちろんその可能性もある。だが、助けを求めている可能性が捨てきれない以上、このまま無視するわけにはいかない」
「そ、そうですよね……困ってるかもしれませんし……」
「ですよねー。」
先輩はランを入部させたときもそうだったが、困っている人を放っておけないようだ。
こうして再び悩んでいると、ランが不安そうに手を挙げた。
「ち、ちょっと考えにくいんですけど、好きになった人がユキさんの可能性もあるんじゃないですか?」
「そうだなラン、その可能性もある。確かに考えにくいが、今はその線を追うしかないだろうな。」
「あのー2人とも、余計な一言がついてませんか?」
とは言え、可能性を否定されなかっただけマシか。
正直、自分が好かれるようなことは考えにくい。なぜならほとんど人と関わってすらいないからだ。
「まあもし、万が一そうだとしてですよ。あとはもう、こっちは待つしかないじゃないですか。」
「何を言っているんだね君は。君がその子の所まで行けば良いではないか。今から探しに行こう。」
「え?」
至極当然かのように放たれたその一言をきっかけにして、大喜利部の面々は部室を出ることになった。




