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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第1章 三人の転生者《イレギュラーズ》、出会ってしまう
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1-06.俺は悪くない

 俺は悪くない。


「おまえたちがヅキヅキッズか?」


 などと急に()バカな()ことを()尋ねてきた若様が悪い。

 俺の即否定に続いてハヅキも赤髪を揺らしながら力説する。


「自分たちはイレギュラーズです!」

「おや? サウビスの娘が言っていたのだが……」

システィナ(おさげの悪魔)め、いつまでも姉貴分気取ってますね。僕たちはヅキヅキッズだなんて絶対に認めない!」


 冬の迫る中、手下たちとともにドングリ集めに精を出していたところにやってきたエンダー村の領主の子、カイアス若様はオットーおじさんの遺伝子が仕事をしたなと一目でわかる顔立ちをしている。そのうえ、おじさん同様に顎ひげまで生やしているのだから、歳の差以外はそっくりだ。

 当然のように付き従う従者のキルビスもまた、親であるクルップおじさんとどことなく似ている。


「熱を出したと聞いていたが、元気そうじゃないか」

「水はあぶないべさ。川遊びはほどほどにするべぇよ」


 牛痘にわざとかかることで天然痘のワクチンとするという、ファンタジー世界への転生ものでおなじみの知識チートを実行した俺たちだが、対外的には川遊びが原因の体調不良ということになっている。

 この世界に天然痘があるのか、あったとして牛痘ワクチンで対抗できるのかはわからない。

 効果があるのなら、せめて村内だけでも広めたいという思いはあるが、わざと傷をつけてウイルス汁を塗り込むなんてあからさまにヤバイ誤解を招きそうな真似はちょっと……。

 それに、肝心の牛さんは収穫祭の目玉として、すでに美味しく頂かせてもらっちゃったので、新たに牛痘の種をとることもできない。


 また、この世界の牛痘が前世記憶にある牛痘と同じとも限らないわけで、わりと危ない橋を渡っていたんだなとも思う。

 生まれも育ちも貧乏農村な五歳児の入手できる情報には限度があるだろうが、それにしても暗中模索感が付きまとう。

 記憶にあるヲタ知識だと、もっとこう、神様目線的な俯瞰情報とか『正解を知っている』とかが転生者の強みだったんだけどなあ。現実は世知辛いぜ。


「ヅキヅキッズでもイレギュラーズでもなんでもいい。おまえたちが我がエンダー村の六歳以下を統べるガキ大将だと聞いて、顔を見ておこうと思っただけだ」


 乳幼児の高死亡率を背景に、村では七歳を一つの区切りとする習慣がある。

 俺たちは当年数えて五歳だが、縄文式土器を生産するに至った河原文明の指導者かつ先日の戦争に勝利したこともあって、六歳以下の幼児たちのトップに君臨している。


 ちなみに育児に関してはみんな放任主義というか、ほぼ放置。

 愛情がないというわけではないだろうし、手をかけられない事情もわかる。命が軽い時代、情が深すぎてはキツイというのもあるのかもしれない。

 ただねえ、今生の父母や歳の離れた兄などは最低限家族だとは意識しつつも、意識しなければ赤の他人感があるというか。

 俺が特別に薄情というわけではなく、ミナヅキ、ハヅキという転生者仲間も、そして多分転生者ではないすっぴんのガキどもも、おおむねそんな感じ。


「それにしても三人ともふてぶてしい顔つきだべ。五年早く生まれてたら、セオルド様につけて伯都まで送られたかもしれやせんね」

「セオルドとは入れ替わりになるな。まあ、春まではともに過ごせる」


 セオルドとはチビ若様。確か十か十一歳。

 村の次期領主はカイアス若様としても、その弟の付き人という地位も村内上位にはなるだろう。どうやら俺たちは、生まれるのが五年遅かったらしい。


「春になったら領内巡りもでがし、忙しくなりやすなあ」

「我が村には教会すらない。ひいひい爺さんが拓いてここまできたが、俺の代で倍に広げる。広げるつもりだが、ないない尽くしだなあコレは」


 もう、俺たちのことなど眼中にないかのように若様主従は笑いあった。

 実際、眼中にないんだろう。

 森を拓くにはまずは獣・魔物を狩りで間引いてからどうこうとか領主館も増改築しようとか、そんなことを話し合いながら去っていく。


「貧乏領主の子に転生、NAISEIチートというのも、テンプレなんですけどねえ」

「俺らはそういう立場すらない身だからなあ。NAISEIもKEIEIもご縁がないさ」


 俺とミナヅキはヲタ会話をしながら河原に向かう。

 がんばった手下たちへの報酬配分、集めたドングリをツボで蒸し焼きしながらハヅキがつぶやいた。


「チビ若様の側近候補は始まるまえに終わっちゃったようですが、取り巻きというのは狙うべきポジションかもしれませんね」

「ふむ?」


「自分たち、とにかく知識が足りてません。村内で通用する常識はともかく、この世界で生きるための知識、神話・伝説、歴史に社会制度、魔物、そして魔法。とにかくありとあらゆる知識が足りないから、判断一つの正誤基準すら持てないでいます」

「そうなんですよねえ」


 せっかくファンタジー世界に転生したのだから、世界を旅したい、冒険者やってみたい、悪徳領主になりたい……といった野望はそれぞれにある。

 現状では妄想でしかない野望を脇に置いて、実績を上げることで将来的に村人としての立場をつくるのも悪い選択肢ではない。


「ガキ大将として面通しされたっぽいし、嫌われるよりも、使える人材と思われるほうが優遇されるのは間違いない」

「若様に取り入って、知識ゲット立場ゲットですか」


 俺たちは、同世代の中では比較的いい身体をしている。体格的な意味で。

 満腹するようなことは年に数度の祭りの時くらいしかないが、地道に集めたドングリやら罠に追い込んだ川の小魚やら、そういう食料確保の積み重ねが身体をつくっている。そして今のところ俺たちの知る世界では、ほぼほぼすべての案件について、力イズパワーが通用する。

 言葉が通じるなら交渉もできるが、最終的には物理で殴れるヤツが強い。蛮族だよなあ。そういう世界だから仕方ないんだけど。


「ただ、歳が離れすぎてるよ。二十には届いてないらしいけど、取り巻きは基本同世代だろ?」

「むしろ自分は、子どもだからこそできることもあると思います」


 ハヅキの提案は、若様たちに張り付く、纏わり付くことだった。


 幸いというか、季節はこれから冬になる。

 農作業がほぼない冬の間、大人の男たちは労役として堀や柵の修理・拡張なんかもするが、多くの時間を館の大広間、囲炉裏のある大部屋で駄弁って過ごす。

 暖がとれるというのが大きい。

 女や子どもたちも大人の男たちと似たり寄ったりで、暖をとるために奥様を中心としたサロン……わいわいがやがやを形成する。

 そういう感じで、領主館は村の役場や集会場の機能も持たされている。

 俺たちが出入りしても、エンダー家の生活領域に踏み込まなければ特段問題ない、そういう季節なのだ。


 もちろん俺たちには、エンダー村U-6(六歳以下)の代表選手兼河原文明の指導者として、幼児たちに焼きドングリの配給や、みんなが知っている秘密基地の維持管理という崇高な任務があるが、時間的な自由は大きい。

 若様たちに張り付く。それも、不愉快にさせないぎりぎりを見極めるという、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変な対処が必要なミッションが開幕した。


「ガキどもがまた来たべ」

「ははっ、見られて減るものじゃない。かわいいもんじゃないか」


 ほぼ毎日、午前中に、領主館の庭で行われている従者キルビスとカイアス若様の修練。

 オットーおじさんやチビ若のセオルド様も混じることの多いそれに合わせて、俺たちもつかず離れずで見よう見まねで拾ってきた棒を振ったりなどして見せる。

 若様たちのところに行く前に、ラジオ体操も忘れずに。

 うろ覚えだから第一も第二もごちゃまぜになっていると思うが、五~十分程度で身体がほぐれ、筋が伸びる効果は大切だ。


 さて、だいたいの人間というものは、懐いた相手には優しくなってしまうものである。また、頼られれば応えたくなるのも人情と言えよう。

 そうでなくとも、誰かにものを教えるという行為は上位者意識を刺激し、プライドに満足感をもたらす。

 ミナヅキのおだても効果的だ。黒髪黒目のヤツは絶対に腹も黒い。頼りになるぜ。

 そんな善性や習性を利用して、俺たちは若様たちから体術・剣術などを見よう見まねで、時には直接指導されることに成功した。


 もちろん、この手の修練はすぐに効果が出たり会得出来たりするようなものではない。

 ただ、例えば俺の冒険者ライフという野望的には押さえておきたい技能だし、他の二人にとっても同様だ。

 妄想に過ぎない野望を脇に置いた、悲しいくらいに現実路線のプランBとしても、村の次世代を担う若様たちの覚えをよくしておくことは大事である。


「よーし見てろよ……一刀両断【ウインド・カッター】!」


 いつぞやのおままごとのようなフリではない。

 カイアス若様の振るった剣から何かが飛び出し、十メートルは離れた木の枝を斬り落とす。


「マジか、スゲー!!」

「魔法ですか!? 魔法ですね!!」

「はっはっは、ただの闘気さ。俺に魔法は使えないが、騎士として闘気術くらいは修めておかないとな」


 いや、俺たち目線では魔法です……。

 闘気を纏うとか、それを剣に乗せて飛ばして攻撃とか、前世記憶からすれば魔法にしか見えない。


「魔法もなあ、あわよくば授かれるかと試練の迷宮に潜りもしたんだが……」

魔法騎士マジック・ナイト、響きがいいんでやんすがねえ」


「魔法は、授かれなかったのですか」

「おっと、どんな恩恵ギフトを得たのか、どんな技能スキルを持っているのかなんて、ペラペラしゃべるものじゃないんだぜ」

「気心知れた仲間内や、あとは有名になりゃあ自ずと知られるもんだべが、あれだわ、マナーってやつだべ」


 体術・剣術ももちろん重要だが、休憩時のこうした何気ない会話からの情報が俺たちを刺激する。

 伯都での生活、試練の迷宮、魔法、闘気術、魔物のこと、魔物狩り組合、通貨単位や相場観などなどなど。何一つ聞き逃せないし、ようやく触れた世界の情報だ。

 ミナヅキ、ウヅキともども目を輝かせているし、熱心な聞き手というものは話す側にとっても嬉しいものらしい。


 領主館の庭でくつろぐ若様たちと、今日の修練は終わりかなと軽い整理体操をする俺たちのところに末姫様ことソウニャがとたとたとやってきた。


「兄さま~、母様がヅキヅキッズ来ているなら連れてこいって」

「ヅキヅキッズじゃない、イレギュラーズだ!」


 即答する俺。


「母上が、こいつらを?」

「おまえら、なんぞ悪さでもしたべか?」


 首を振る。いや本当に、叱られるようなこと、身に覚えはないです。



【メモ】

 ラジオ体操:1928年、逓信省(のちの郵政省)簡易保険局により「国民保健体操」としてスタート。なんといっても保険を払いたくない立場の者たちが作成・普及した「国民全体の健康を願って作られた体操」である。効果のほどは知れよう。

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