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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第5章 三人の転生者《イレギュラーズ》、羽ばたく

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5-06.反省したならカイゼンだ

 ノルトラムの街には試練の迷宮がある。

 初めての本気アタックで最下層を目指した俺たちは、出発から五日目に無事に第十層へたどりついた。


 水と食料は十日分を持ち込んだので、計算上は即引き返してギリギリとなったが、これでおおむね予定通り。

 なぜかといえば、第十層には地上に帰還できる転移紋というものが存在することがわかっているからだ。


 恩恵ギフトを得るための条件の一つ、聖杯に捧げる聖石が集まっていないのに第十層を目指したのは、俺たちのパーティとしての実力の確認と問題点の洗い出し、そしてこの転移紋を実見することが目的であった。


「グギギギギ」

「いやー、どれりゃーでっかくて複雑でんなあ」

「これで地上の、神殿の帰還の間までの一方通行らしいよ」


 神々に、その権能をお示しくださいと願い奉る魔導刻印は、その形状がキモである。

 魔導技師の間では正確な刻印でないと神々にそっぽを向かれてしまうと言われているが、正確でないと祈りが伝えられず聞こえていないと言うのが正しい気もする。


 試練の迷宮第十層の帰還の間に記された転移紋も分類上は魔導刻印なのだが、巨大で複雑怪奇すぎて描き写す気力すらなくなる代物であった。

 十二畳くらいの広間一杯に、髪の毛クラスの線が無数に結ばれているってさあ、写真でも部分部分しか写せねえって。

 俺の歯ぎしりをよそに、ハヅキは両手をついて外周部に顔を近づけている。


「おー、ほっそい線の中にさらに文様みたいなもんまでありよるわ」

「魔導刻印、魔導回路って、大きさに応じて消費魔力も変わるんでしたよね?」

「迷宮からの魔力供給あってのシロモノっぽいですね」

「グギギギギ」


 ええそうですね。

 人には過ぎたシロモノってことですね。わかりましたよこんちくしょう。


「過去に転移の魔法陣、魔道具が実用化されていないのも道理だね」

「まあ、いいじゃん。ウヅキたちは【転移門トランスファー・ゲート】を使えるってだけでもすんげえことなんだぞ?」

「たまに忘れそうになるけど、そうなのよね」

「ん」


 魔道具リターン・アンカー併用でも、転移門トランスファー・ゲートを使えるのがパーティ内で俺たち三人だけというのが怖いんだけどね。

 魔法はどこまでも属人的で、つまり俺たち三人が動けない状態だと転移門も使えない。

 今は実証実験も兼ねて伯都ツェルマットの拠点と頻繁に行き来している。

 割と便利使いに慣れてきてしまっている自覚があるだけに、設置型の転移門が作れればと、はかない希望を抱いてしまった俺は悪くねぇ。


 ま、見込みなしとわかればしょうがない。諦めよう。

 次に、転移紋使って帰るかどうかを議題とし、使わないと決まった。

 転移紋で神殿に跳ぶと、隠し部屋にひそんだ鑑定持ちにギフトやスキルをすっぽ抜かれるって都市伝説、都市伝説じゃないみたい。


「鑑定系のギフトで、どこまでわかるのかはあいまいだけど、習慣だよね、得たギフトを伏せるのって」

「情報を抜きたいなら神殿の帰還の間じゃなくても、迷宮入り口を張ってもいいですしね」


 つまり、鑑定持ちにある程度の情報を抜かれることはどうしようもないのだが、あえて晒すでもないという慣習なわけだ。

 切り札を伏せるのは当然だし、自分のギフトを明かすのは信頼の証みたいな。

 いかにも冒険者っぽくて、俺はいいと思います。


「実際には、ギフトを得てもいないけどな」

「それを言っちゃあおしめぇだ」


 なぜ転移紋を使わず、歩いて帰るかといえば、ついでに聖石を集めるという意見が強かったからだ。

 ギフトを得る条件の一つが、百個の聖石を第十層奥の間にある聖杯に捧げるというものである。確かに杯っぽい形をしていた。

 一人頭で百個なわけで、八人で八百個。

 相当頑張らないと集まらない。


「しかし……、いかにもガチャだな」

「くそっ、またしてもガチャか!」

「聖杯ガチャかよ!」


 ガチャガチャ言い出した俺たちを、兄貴たちは生ぬるい目で見ていた。

 なんかもう、自重しなくなってるもんね、俺たち。いつものことって感じ。


 物資の問題もあり、一日だけ第九層で本気狩りし、安全地帯である第十層で大休止。

 のち、二日かけて地上までもどった。

 荷物はどんどん軽くなるし、層が浅くなればなるほど敵の出現率も落ちるから、行きとは違って走り抜けるだけなら難しくはないという感じである。


 とはいえ、足掛け八日に及ぶ迷宮チャレンジ。

 疲労やストレスは溜まっているだろうし、物資等の補充も必要なので、デブリーフィングだけしっかりやって三日の自由休暇とした。


「そろそろ髪整えようと思うんですが、ウヅキ君、ツェルマットまでいいですか?」

「俺も師父や魔道具屋さんとこ行ってきたいし、えっと、何人?」


 養成院を卒して「肩にかからない程度」縛りのなくなった反動か、三人娘とも髪を伸ばしている。

 いわゆる坊主頭だったミナヅキとハイラルも、髪の毛の情報量を確保しようとするのはいいのだが、お手入れは必要かもしれない。

 俺はロンゲのひっつめ髪なのでたまに前髪と長さ調整だけでいいが、ハヅキは少し目を離すとぼさぼさになる。スコールの兄貴も同様だ。


「理髪師はノルトラムにもおるし、全員でいなくなるのもあかんやろ」

「だな。俺はこっちで羽を伸ばすさ」

「僕も、実家に手紙を出したいので、ツェルマットからだと遠くなりますし」


 俺とミナヅキと三人娘でツェルマットの拠点まで転移する。

 理髪云々は各自に任せ、俺はニートナル屋敷に移動し、師父ネイトナル様への挨拶を済ます。

 ついでに家令さんにも会ってお小遣いを確認しておく。意外に増えている。


 俺とハヅキの仲ということで制限していた販売権を、ハヅキの古巣ノウブラウンド商会にも開放したことがまず一点。

 俺たちの巣立ちに合わせ、実際の製造が弟弟子たちにシフトしたわけで、俺の制限を残す必要はないだろう。

 そしてハヅキがせっせとヤマトゥーン領に持ち込むなどしたのが二点目。

 キサラギ・ポーションの流通経路が増え、売り上げが上向いたことで、権利金としての俺の取り分も増えているらしい。


「ウィーっす、儲かってるぞー、サンキュー」

「兄弟子ぃ」

「なんだウヅキ、遍歴出たくせにちょくちょく帰りすぎじゃねーの」


 工房を回す弟弟子たちに顔見せついでに、自家用のシャンプーとリンスの在庫を確認。

 しばらくもちそうだったので材料の仕入れだけ発注書を作り、その足で魔導技師のメセドリウスさんのもとを訪ねた。


「というわけで、この呪符スロット付きの杖なんですが、【光玉】を刺しとくと【魔法の矢】を使うとき明かりがなくなってしまうという問題がでました」

「そりゃまあ、そうだろうなあ」


 いやね、杖で光玉、手持ち呪符で魔法の矢って、俺やハヅキはできたのよ。

 ミナヅキともども、呪符は見せ札、実際には無詠唱魔術ぶっぱでもいいし。

 だけど、三人娘は杖側に魔力流しながら手持ち側に適度な魔力を送るってことがどうにも苦手らしく、戦闘時に危なっかしくて見てられず、役割を限定せざるを得なかったのだ。


 全員の手荷物へ聖石ランタンの導入など、明かりは八人のうち誰かが保持していればいいが、とっさに攻撃手段があるかないかは大きな差となる。


「そこで、カードスロットを2つに増設。手元スイッチで魔力を流す塩梅をセレクトやコントロールできるようにしようかと」

「けど、どうせ一枚は光玉なんだろ? ならそっちは常時流すようにしておいて、二枚目にだけ魔力を流す流さないを決めるトリガーでよくないか?」

「なるほど」


 魔導回路としてははっきり二系統にわけてしまえばいい。

 魔力を流す魔導線を手元までひき、片方を接続スイッチとなるトリガー経由に……


「いっそ光玉のほうは魔石内蔵の魔道具化していいかも」

「おっ。となると呪符じゃなく直で埋めこみゃいいか」


 特製の呪符スロット付きの杖Ver2は製造前にキャンセル。

 Ver3プロトタイプとして、俺の杖に光玉の魔導回路と魔石を搭載する改造を施した。


「やっつけにしては悪くない」

「やっつけ言うんじゃねーよ」


 翌日にはノルトラムに残っていたハヅキからも杖を回収、全員分の改修を依頼するため再びメセドリウスさんのもとを訪ねた。


「ちぃーっす……っと、先客失礼」

「あれ、ウヅキさんじゃないですか」

「おおう、ウェンレイトンさん。ご無沙汰しております」


 ウェンレイトンさんは魔物狩り(ハンター)の大先輩で、俺のデビュー時には護衛として雇われて頂いたこともある。


「知り合いか。なら都合がいい。てめぇの杖が欲しいってな、どうするよ」

「照明付き呪符スロット付き杖?」

「そうそれ!」


 なんでもウェンレイトンさんはしばらく呪符使いとパーティを組むことになり、そういえば俺たちが使っていた杖、あれよさそうじゃないかと思い出したのだという。

 そして、錬金術師ニートナルなじみの魔導技師ということでメセドリウスさんにたどりついたと。

 やっぱり優秀な人だな。


「当人を連れてこられれば良かったんだけど、まだこっちに来てなくてね」

「あいかわらず、訳アリの仕事を回されているようで。優秀な人も大変だなあ」

「ははは、そうでもないさ」


 基本アイデアと設計が俺だから、俺の許諾なしに勝手に売るのは問題だと、メセドリウスさん。

 問題ないんで売っちゃってくださいと言っておく。ついでに、いくばくかの権利金がもらえると嬉しいなあ。


「わーったわーった。適当な額をニートナルの家令に預けときゃいいんだな」

「ええ。ただ、そうそう売れるもんじゃないと思いますけどね」

「まあなあ。単に光玉の魔道具ってだけなら呪符スロットなんぞいらんし、明かりが欲しけりゃ聖石ランタンだってあらーな」


 呪符使いの人数そのものが少ないし、コモデティじゃない道具って、オーダーメイドするしかないのよね。

 持ち込んだ杖の改修をしてもらっている間、ウェンレイトンさんと適当に近況を話し合う。


「へー、じゃあ今はシールセンの迷宮が熱いんだ」

「ダンジョン・マイスターのタナーク氏も来ていますし、ヨス傭兵団も気合入っていますからね」


 ダンマスの田中さん(タナーク氏)は、いい人なのかもしれないが、俺たちなど簡単にコロリさせられるであろう強大な魔力をお持ちなので、できれば近寄りたくない。

 その彼の所在はありがたい情報である。


 俺たち、特にハヅキと縁のあったヨス傭兵団も健在のようだ。

 ブーンレバーの迷宮解放後は、シールセンの迷宮が伯都ツェルマットの最寄り迷宮だし、潰して安全を確保しようという伯爵家の意向があるのだろう。

 気合の入っている理由は、姉姫ラシェル嬢の縁談らしい。


 お相手はツェルマット伯爵家の重臣子息。

 ラシェル嬢、二十歳こえてたもんな。

 今生の世情だと嫁き遅れが心配されるところだし、旧領奪還に関しては脇に置いて、現実的な路線で落としどころを得たというあたりだろうか。


「世界は動いてるんだなあ」

「ははっ、大げさな。俺たちは必死に生きてる、それだけですよ」


 男友達と駄弁って過ごすという実に有意義な休暇を満喫した俺がパーティ・ホームに戻ったところ、師父ネイトナル様がお呼びだという使いが待っていた。


「すいません、執事さんを待たせてしまって」

「いえいえ。当家で一番暇なのが私ですからお気になさらず」


 執事さんは冗談めかしつつもスキのない身のこなしでパーティ・ホームとニートナル家をつなぐ裏木戸をくぐり、ネイトナル様の執務室まで同行する。

 机の上に積み上げられた書簡が、ネイトナル様のお忙しさを象徴していた。


「ウヅキ、参りました」

「ああ、お互い忙しいところにすまないな」


 師父の渋い声はいつ聞いても落ち着くなあ。


「さらにすまないが、おまえに頼みができた」

「イエス、マスター」



【メモ】

・ガチャ=とけるのぉ

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