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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第5章 三人の転生者《イレギュラーズ》、羽ばたく

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5-05.試練の迷宮

 季節は夏である。

 一年の中で、最も太陽様が光り輝き、命の躍動と暑さもたらしてくださる夏である。


「ヤマトゥーンの領都は暑かった」

「川沿いですからね。湿度が高いんでしょう」


 ハイラルの実家ヤマトゥーン男爵家は、カブツ川を介した河川交易で富を得ている。そのため領都も領地の東端で川沿いに立地している。

 その領都より西へ五日。

 ここはツェルマット伯爵領のノルトラムの街となる。さらに北に三日ほど行けば懐かしの伯都ツェルマットだ。


 ノルトラムの街はヤマトゥーン領へ向かう街道分岐点というだけでなく、試練の迷宮が所在するという特徴がある。


 神々が、魔物と戦う人類へ恩恵ギフトを与えてくださる試練の迷宮は、割とあちこちにあるらしい。

 俺たちのアクセスできる最寄りの試練の迷宮が、ノルトラムの街にあったという話だ。


 試練の迷宮ではいくつかの条件をクリアできれば恩恵ギフトを得ることができる、かもしれない。

 恩恵ギフトは選べず当たり外れもあるとはいうが、特殊な技術・能力(スキル)をポン付けで得られるのだから、神様ってスゲーな案件である。


「やはりここは【安産】の加護でしょう。比較的授けられやすいそうですし、望みはあります」

「ん!」


 拳を固めるフィルとミルディーフ。

 出産時の母体死亡率はそこそこあるからなあ。

 俺たちのような転生者、転移者の存在は確定しているが、一人一人の影響力なんて知れたものである。

 衛生や医療の概念は一部近世~近現代レベルだが、技術や実態をバックアップする社会構造はいわゆる中世。どうしようもないことばかりだ。


 三人娘の中でヒル子だけは違う意見を持っていた。


「どうせなら、もっとカッコイイのがいい」

「わかるぞヒル子。せっかくのギフトだもんな」


 本当に、たまにこういうところがあるから見捨てられないんだよなあ。

 ヒル子の栗毛をわしゃわしゃと撫でてやっていたら、ミルディーフまで頭を突っ込んできた。


「俺は肉体強化系か剣技系だと嬉しいな」

「鉄板だよねえ。僕は鑑定系でもいいな」

「自分、めっちゃほしいわ鑑定系」

「魔法系も、それこそ【虚空蔵】のような再現できないものは美味しそうです」


 たとえば剣技などは、ギフト持ちの動きや技を真似するところから流派が生じ、現代に伝承されている。

 魔法も同様。【虚空蔵】という、いわゆるアイテム・ボックスを再現しようともがいた収納の魔法は存在する。

 収納魔法の実用性は皆無なのが悲しいが、ファイヤー・ボールのような成功例もある。


 いわばギフトのリバース・エンジニアリングによって広まった技能スキルはたくさんあり、それらは努力次第で身につけることができるかもしれない。

 ならばこそ、ギフトでしか取得できないスキルが欲しいのは一種のコレクター心理ともいえよう。

 俺たちはどんな恩恵ギフトを得られるだろうか。


 夏の暑さを主張する外と違って、迷宮内の空気はひんやり涼しい。

 しかし、ミナヅキや三人娘は途端に顔をしかめた。

 魔法使いとしての能力が高い者ほどかかる、迷宮酔いと呼ばれるビギナーへの洗礼である。


 その正体は魔力酔いとストレスだ。

 魔力制御を鍛え上げた結果、魔力感知的な技能を手に入れた俺たちは、肌感覚として周囲の魔力の刺激に敏感だ。

 迷宮とは存在そのものが魔力で満ちており、全周からチクチクやられる。

 魔物もまた魔力の塊のようなモノ。その存在を強烈なトゲトゲ・プレッシャーでアピールしてくる。


 今日はミナヅキが吐いた時点で撤退。

 ハイラルはびっくりしていた。


「迷宮酔いというのは、聞いていた以上にひどいものみたいだね」

「慣れるっていうけど、プレッシャーがキツイのよ」


 魔力感知の精度と慣れの問題で、迷宮酔いにも個体差がある。

 今日のミナヅキは、俺の初体験時と同じくらいと思えば、デブリーフィングでだんまりを決め込んでいるのもむべなるかな。

 三人娘や俺は、吐き気は収まったものの頭には鈍痛が残っている。


 ハヅキは平気な顔をしているが、俺たちが動けないときにスコールの兄貴とともに迷宮潜りを繰り返していたし、いわゆる慣れ、魔力感知の感度の調整が進めばああなるという希望と思うことにする。

 ハイラルは、まあ、そのね。魔法使いとしての才能には見切りをつけておられるしね。


「護衛役は必要だけど、全員で第一層をうろうろするのも芸がないかな」

「芋虫ボールなんぞにどうこうされるとも思えないしな」

「じゃあ、スコール兄とハイラルには、ミナヅキたちが慣れるまで交易やってもらいましょか」


 お馬さんは、厩舎につないでおくだけでもお金をむしゃむしゃしてくださる僕らの大事な仲間です。

 ヤマトゥーン領内に関しては御領主様発行の通行特許状が、なぜか回収されずにそのまま手元にあるため関税フリーでゴーゴーなのだ!

 転移門トランスファー・ゲートも駆使した節税術で儲けも上乗せなのだ!


「自分が、パーティ資金、稼がなあかんねん!」

「さすハズ!」


 しばらく、迷宮慣らし組と交易組とに分かれて活動を続ける。

 また、安息日は絶対に、できれば週の中でもう一日は完全休養日にして無理だけはしないように心がける。

 俺たちだけならともかく、ヒル子たちに合わせると本当に無理が効かない。


「いいと思うぞ。ウヅキたちは、生き急ぎすぎてるようにも思えたしな」

「無理なんて、しなきゃならないときだけで充分だよ」

「慣らしてる間、ガッポガッポ稼ぐさかい、焦らんでええんやで」


 財布の重さは心の余裕とはよく言ったものだ。

 俺たちがじっくりと迷宮に身体を慣らしている間にも、ギフトを求めて来た者たちが入れ替わっていく。


「一度、本気でアタックをかけようと思う」


 夏の盛りが過ぎるころ、慣らしの終わった皆を前に、『試練の迷宮攻略記』という薄い本をかざして俺は決意を語った。


 誰かの手記がベースの、いわば攻略本である。

 内容の信憑性については経験的に検証されてきたため、ご当地ではこうといった程度の若干のローカライズで対応できる。


「試練の迷宮第十層には、地上帰還用の転移紋が描かれた部屋があるらしい」

「転移先に神殿を建てるようだね」


 つまりそれは魔導刻印じゃないんですかあ?

 魔道具リターン・アンカーと併用することでなんとか実用している転移門トランスファー・ゲートと違って、設置型の魔導刻印で転移できるならもっと楽になる。

 行くしかない。試練の迷宮最下層へ。


「実用化されてないってことは、『使えない』理由があるんだと思いますよ」

「せやねえ。人の欲は甘くないで」

「せやかて工藤、我がの目で確かめんと納得できんやん。それに、一度本気アタックしとくべき時期なのも確かだろ」


「クドゥって誰?」

「キニシナイで。ウヅキの口癖みたいなものだから」


 第十層の転移紋はともかく、数日がかりのアタックでどこまで行けるか試すことは必要であると全会一致をみた。


 魔物狩り組合(ハンター・ギルド)から、買える分の地図は買ってある。

 各階層に出現する魔物についても一通りのスペックは頭に入っている。

 恩恵ギフトを授かる条件の一つ、聖石は集まっていないが、第十層を覗くだけなら特段問題はない。


「せっかく第十層目指すなら、一人分だけでも確保しておけばよかったね」

「いうてなあ、ぜんっぜん集まらんのな」


 他の迷宮産の通常の魔物と違い、試練の迷宮の魔物は倒すことで聖石が得られるのだが、これが渋いのだ。

 身体慣らしでうろついていた第一層では、十匹倒してようやく一つ手に入るかどうか。

 浅層は、魔物自体の出現率も低いため、危険度は低いが稼ぐこともできない階層となっている。


「ウィ兄さんも言ってたね。聖石集めが一番手間だったって」

「一人百個だもんな。深層でないとまともに集まらんみたいだし」

「今回はどんだけ潜れるのか、深さと日数のテストでもあるっちゅうことや」


 ちなみに試練の迷宮内と伯都の拠点との間で、転移門トランスファー・ゲートで転移することはできなかった。

 より正確には、なんかやべぇ感じがしたのでやめた。

 迷宮とは摩訶不思議空間。下手なことをして『*いしのなかにいる*』エンドでは泣くに泣けない。


 さらにちなみに瞬間移動(テレポーテーション)は使えそうだった。

 リターン・アンカーを用いない、オリジナルの方。視界内での空間の入れ替えくらいだと、摩訶不思議空間内でも問題ないのか?

 物資が生命線だから、補給可能かどうかの検証はしているのです。


 八人という数の暴力に加え、俺たちって割と強い。

 第四層では、『試練の迷宮攻略記』に従い、順繰りに人類型の魔物とタイマンを張ったが、あのヒル子でさえ難なく倒していた。


「【魔法の矢】の呪符って便利ね」

「魔術魔法も覚えろーって言われるのもわかるけど、呪文詠唱しなくていいのはラク」

「とっさに使うにはいいが、とっさに使えるようにしとかなきゃってことでもある。ほれヒル子、ミルディーフの【光玉】刺してある杖と交換しろ」


 前衛職をはるスコールの兄貴とハイラル以外の全員に持たせている特製の呪符スロット付き杖は、まさしくとっさに使えるようにあらかじめ呪符をセットしておくものだ。

 明かりを供する【光玉】をセットしてある杖と、攻撃用の【魔法の矢】をセットしてある杖を、互いに持ち替えながら役割分担をしていた。


松明たいまつも持ってるが、明かりはあればあるだけありがたいからな」

「【光玉】は魔力を供給し続けないといけないし、聖石ランタンも買っておくべきでしたね」

「反省点は各自メモしといてくれよ」


 休憩でも露営でも交代で見張りに立つから、誰かが明かりを維持しておけばいいと考えていたが、反省だ。

 手放しで明かりを供給できるのは大きい。

 ランタンなら、全員に持たせたところで大した荷物にはならないだろう。

 魔石と違って、圧力をかけると光る聖石を利用したランタンなら、火と熱に関する心配もない。


「ミナヅキ、レーダー、チェンジ」

「あいあい」


 仮称・魔力感知は迷宮酔いというデメリットを俺たちにもたらしたが、メリットももちろんある。

 パッシブなアンテナだけでなく、アクティブに周囲の魔力を探ることで迷宮構造の把握や、魔物の配置、さらには他の迷宮チャレンジャーの存在も捉えることができる。

 ハヅキ曰くの人間レーダーはかつての王都行でも活躍したが、魔力に満ちた迷宮内ではさらに凶悪な性能を発揮した。


「他のパーティや怪しい人物を避けることができるのはいいねえ」

「魔力を隠蔽できるような人や魔物、エリアがないとは限らないから、頼り切るのはナシな」


 迷宮内は摩訶不思議空間。買った地図が正しくないことだってあり得る。

 それに隠蔽系の技能スキル、絶対あると思うんだ。


 強大な魔力を有するゆえに俺を恐怖に陥れた、ダンジョン・マイスターの二つ名を持つ魔物狩り(ハンター)タナーク氏は、怖いからこそ避けることもできる。

 だが真に恐るべきは、怖さがわからない相手なのではなかろうか。

 タナーク氏にも関わりたくないですけど。


 レーダー役をミナヅキに交代し、俺は身体をほぐした。

 魔力レーダーやるには集中しないといけないし、したらしたで迷宮酔い、魔力酔いへのカウントダウン・スタートだ。


 実のところ魔物のアピールは強いので、戦闘域にかかるくらいの範囲なら意識せずとも勝手に感知に引っかかる。

 不意打ちを恐れないでいいというだけで、負担はずいぶん軽くなる。


 周辺の状況を把握しているという優越感は確かにあるけど、それ以上に、一度知ってしまった便利は手放せないものだ。

 いまさらレーダーなしで迷宮探索しろとは、目隠しで歩けってなモンである。

 感知のスキマをつかれるかもという恐怖もある。臆病者な俺は、レーダーを切らすことができない。


 階層を重ねるごとに、敵として出現する魔物は強くなったりグループを組んだりと難易度を増していったが、えー、すいません。俺たち戦力過剰でした。


 むしろ問題となったのは女子組のストレス。


「女で魔物狩りやってる人、尊敬しちゃうかも」

「女、捨ててるんじゃないですかねえ」

「ん~?」


「今んとこ、無理する必要ないんで限界前に言ってくれよ」

「帰るにも、来た時と同じ日数時間を見越しますからね」

「うん。私たちも、どこまで我慢できるのかみたいなところがあるから」


 そして、水の問題。

 一人一日二リットルとしても、十日で二十リットル。そのほかに食料機材も各自が背負わないといけない。


「専任の担ぎ屋が生まれるわけや」

「ただ、俺たちの場合は秘密が多すぎるからなあ」


 やってみないとわからないことは多い。

 それぞれに反省点や希望、改善アイデアのメモを書き足しながら、迷宮の奥へ深くへと足を進める。


 初めての本気チャレンジ、第十層に到達したのは出発から五日目のことであった。



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