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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第5章 三人の転生者《イレギュラーズ》、羽ばたく

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5-03.風土病

 ハイラルの実家ヤマトゥーン家を訪れたのは、ホウレンソウのためである。


 この春にツェルマット教会の養成院を卒し助祭捕に叙階されたこと、教会内部の派閥闘争から距離をとるため祭祀職巡礼行名目で旅に出たこと、まずは試練の迷宮で恩恵ギフトを得ようと思っていること。

 直接伝えておくべきだよねという話である。


 勝手に巡礼に出ることで出世レースから脱落した件について、叱責も覚悟していたハイラルだったが、ごくすんなりと了承された。


 ヤマトゥーン家にとって大事なことは、自領の教会のコントロールであって、ハイラルが司祭に昇階してからが本番。

 もとより昇階に時間がかかることは大前提であり、派閥争いのとばっちりを避けての多少の回り道なら次善策との判断である。


 若干なげやりともとれる御当主オブムス様の態度は、より大きな懸念が頭を占めていたためだった。

 騎士隊長を務める弟君、ウイフェン様の御病気がかなり深刻であるらしい。


「あいつはまだ嫁も娶っていない。子も成せぬままに見送ることになるとは……」


 ツェルマット教会の法術師は、医療方面の研鑽も積んでいる。

 ハイラルはなんちゃって法術師だが、同輩のミナヅキや三人娘はまともな法術師であり、オブムス様は一縷の望みをかけ、ハイラル経由でウイフェン様の治療を依頼してきた。


「クエスト受注きましたー」

「断れない依頼って、クエストじゃなくて強制イベントだと思うんだ」


 ミナヅキは愚痴るが、なるほど権力者様のご依頼を断るのは難しい。

 それが友人経由とくればなおさらだ。

 河川交易で栄えている男爵家が手を尽くしどうにもならなかった病と聞くと嫌な予感しかしないが、ハイラルはそこまで気負わなくていいと言う。


「そりゃねえ、ウイ兄さんの快癒を願わないわけじゃないよ。ただ、この土地に古くからある病なんだ。オブ兄上もダメでもともとだって言ってたし」


 なんせ俺たちの主力は数え十三歳。一番上のスコールの兄貴でも十六歳のフレッシュな一行。ぶっちゃけガキである。

 オブムス様は、ガキに重責を負わすお方ではないようだ。

 そうはいっても、俺たちだって名とか評判とか自尊心とか、背負うものはあるんですけどね。


「風土病かあ。……感染うつするのか?」

「水の毒が原因だろうと言われてるけど、看病したから感染ったという話はなかったと思う」

「おい、水の毒って」

「当然、湯冷ましを使っているさ」


 水を介した病原菌などの経口感染という知識は知識層だけのものだが、生水を飲まないという予防法は広く慣習として広まっている。

 とはいえ水を沸かすにも燃料がいるわけで、貧困層では実行できないなんてこともざらである。


 領主ヤマトゥーン家の人間で、騎士隊長という重職を務める者が発病しているとなると、よほど運が悪かったのか、はたまた経口感染以外のルートがあるのか。

 さらにイヤらしくなると、重金属等の蓄積による発病という線もある。


「まともな法術や医学的なことはミナヅキたち任せだ」

「ウヅキたちも、手伝ってくれてもいいんですよ」

「自分らは、周辺調査でもしとくわ。地方病、風土病なら聞き取りや、男爵家の文献調査で特徴把握できるやろ」


 善は急げではないが、着手を遅らせたところでいいこともない。

 ミナヅキをはじめフィル、ヒル子、ミルディーフは直接ウイフェン様の看病に、残りの俺たちはハイラルを顔として周辺調査を開始した。


「古文書にも載っとる、厄介な病らしいわ」

「【毒消】と【解毒】をかけてみたけれど、効いてる感じはなかったわね」

「【抗病】は効果が出るまでに間があるから判断保留で」


 俺たちは、今夜もまた御当主様と夕食を共にするという栄誉を授けられた。

 さっそく所見などを求められたのだが、ミナヅキ班も俺たち班も、知りえたことは気の滅入る話ばかりであった。


「で、あろうなあ……」

「ウイ兄さんの発病からこちら、手は尽くしてきたはずですしね」


 ハイラルのもう一人の兄アイクリス様は、ウイフェン様の分の仕事も引き受けて領内を飛び回っており不在。

 河川交易で栄えている男爵家なのに人員的に割とかつかつなのは、先々代・先代と続けて「やらかした」からだそうで、貴重な一門衆に財貨を惜しむような真似はしない。


「ハイラル。当面は俺とアイクでしのぐが、最悪は還俗も考えておいてくれ」

「……はい」


 夕食後は、客室に集まっての身内ミーティングである。


「お腹がすっごい膨らんでてね、顔色も黄色、黄疸おうだんだよね」

「でも、肝機能に問題があるなら【解毒】で改善できるはずだし……」

「んー?」


 自覚症状は、まず高熱を発するところからだという。

 そこからゲリ、血便と続き、身体が黄色っぽくなる黄疸やお腹が膨れる腹水、衰弱し、ついには死に至る。

 ウイフェン様は死の二~三歩手前といったあたりか。


「こっちの聞き取りだと、別の風土病もあってな、なんでも水に入って肌がかぶれるんだそうや」

「サンプルとったが、酸でもアルカリでもなかった。局所的なものか、ウルシの毒みたいなもんでも混じってるのかもしれない」

「そっちの病気は今は関係ないだろ。ウヅキ、お前錬金術師なんだし、毒消しって作れないのか?」


 兄貴ぃ、毒消しって、まず毒を特定しないことには始まらないのよ。

 手当たり次第で試して、副作用で患者が死にましたなんてことになったら笑えないしな。


「それに水の毒とはいうが、法術の【毒消】が効かないなら、原因はいわゆる毒ではないんだと思うぞ」

「となると、【抗病】頼りになりますね」

「毒、細菌、水辺でやまいいうたらも一つあるやろ」

「……寄生虫?」


 ハヅキは大きく頷いた。


「ぽっと出なら突然変異のウィルス説推しやけど、昔からの風土病なら疑わしいんは寄生虫や!」

「寄生虫かあ。だと【抗病】も効かない。法術としては手詰まりかな」

「虫下しは試したか?」


 確認してくると言い残してハイラルは部屋を出ていった。


「……寄生先が消化器系なら虫下しも効くが、黄疸でてるなら肝臓まわりが臭いよな」

「薬でどうにかできるアテはないですか」

「厳しい」


 翌日から、城下の薬剤師の協力をあおぎ、何種類かの虫下しを試してみるが、結果は芳しくなかった。

 うんこを水溶きしてチェックするも、肉眼ではたいしたことはわからない。

 三人娘を中心に、【治癒】で重点的に肝臓を癒し、機能回復と症状改善をはかる延命療法にシフトする。


「寄生虫なら、悪性新生物よりは判別しやすいと思って、感知を試みてみたよ」


 魔力とは命の力、魂の力。個々の個体ごとに微妙に異なる波長というか色というか匂いというか、そういう差異がある。

 がん細胞や白血球なんかは微弱すぎて感知判別できなかったが、微小とはいえ寄生虫ならサイズが違う。


「肝臓付近に何かいるっぽいなーくらいのぼやぼや加減」

「狙い撃ちするのは無理か」


 とにかく延命するだけの手詰まり感に落ち込んでいく日々に、ヒル子が切れた。


「肝臓周辺に虫がいるっていうなら、肝臓とっちゃえばいいじゃない!」

「おい、そんなことしたら兄さん死んじゃうだろ」

「どうせこのままでも長くないわよ。それとも何、あんたの兄さんが死ぬその日まで、私たちに延々と【治癒】かけ続けろっていうの?」


 ヤマトゥーン家でウイフェン様の看病は、あくまでも旅の途中の寄り道、友人ハイラルへの義理立てに過ぎない。

 ツェルマット教会に依頼して、施術院の法術師派遣してもらいなさいよとくれば、正論過ぎてハイラルも言葉に詰まった。


 肝臓周辺に巣くう寄生虫という、これまで不明だった原因に一歩近づくという成果はあげた。

 なぜヒル子のプランを採用していないかといえば、そりゃ肝臓全摘出なんてしたら間違いなく死んでしまうことと、余所に卵や個体が残っていれば元の木阿弥だからである。


 快癒の見込みなしとの判断に、御当主オブムス様、将軍のアイクリス様、そしてハイラルが肩を落とすが、当人のウイフェン様だけは異なる反応を示した。


「どうせ死ぬなら、戦って死にたい」

「弟の腹を裂けと、この俺に言わせるのか!」

「俺はまだ、この世に報いる志を果たしていない。この身を裂いて病因究明に資するなら、死もまたほまれいくさたらん」


 ウイフェン様は、ハイラル曰く武闘派で体力自慢のバカ兄貴だそうだ。

 死を見据えるその覚悟やよし。

 俺はミナヅキをつついてプランDへのシフトを促した。


 なに、単純な話である。

 害成す寄生虫を特定できないなら、周辺組織ごとぶっ殺してやれ。

 そのうえで【治癒】で体組織を補修。上位術である【再生】ならモアベター。

 とってもファジーな効果を発揮する魔法は、術者が助けたいと願う対象に働き、害虫を【治癒】しない。はずだ。


「このプランですと、数日にわたる施術でそれこそ死ぬほどの苦痛……これは【麻痺】や【無痛】で軽減できますが、なにより、患者の体力が尽きたらそこで終わります」

「これは戦だ。戦で死ねるなら本懐である」


 俺たちを退室させ、ヤマトゥーン四兄弟による家族会議ののち、プランDの執行が要請された。


 急遽でっちあげた剣山をイメージする攻撃魔法、手のひらから無数の細い魔力線を出し、対象をブスブスやるやるのは俺。

 俺ってツェルマット魔術師組合所属の魔術師なのよね。

 魔術師魔法をハヅキやミナヅキたちにおおっぴらに使わせるわけにもいかないので、しかたない。

 ただの荷物持ちじゃなかったのかと目を剥かれたが、いえ、助祭捕様の従者として関を通っていますのでと答えたら引きつった笑いを返された。


「錬金術師ニートナルのお弟子さんで正規魔術師というと、あのキ印の……」

「キサラギです!」


 攻撃が俺、癒し手がミナヅキと三人娘。消耗する魔力量の差は魔石からの吸い上げでカバーというガバガバ・プラン。

 攻撃からの癒しパターンがうまくいくかどうか、動物実験しようかと提案したのだが、死期は近いと悟ったウイフェン様の強硬な主張で、彼自身を実験体一号とすることになった。


 ウイフェン様はよく耐えた、と思う。

 治癒の術は傷を癒すが、被術者の体力は消耗する。傷を治すのは当人の力だからね。

 だからって、中身は栄養ドリンクな、じんわりと体力回復効果のあるキサラギ赤ポをガブ飲みするのはどうか。


 ウイフェン様の治療で一定の効果を得たせいで、ほかの患者にも同じ治療を施すことになってしまった。

 赤ポも。

 ハヅキとスコールの兄貴にハイラルを添えて、馬車でツェルマット伯爵領ノルトラムの街……の手前まで行ってもらい、転移門トランスファーゲートでツェルマットの工房から直接仕入れ。

 ハヅキの転移門でポーションガン積みしようとすると、そこまで近づかないとダメってことでもあるんだが、交易の偽装にもなっているのでまあよし。


「いっそ、当地に工房を……」

「遍歴修行中だっての! 出たばっかだっての! 俺はあちこち見て回るんじゃー」


 思わぬポーション交易は、ハヅキに満面の笑みを咲かせた。

 ヤマトゥーン領内は、ハイラルの顔と領主特許状を掲げることで関所スルー!

 無税! イェーイ!


「治療費ももろてるし、ウッハウハやでぇ」

「こっちは連日の過重労働でへっとへとだよ」


 なんちゃって剣山術ふくめ、対症療法のノウハウまるごとお買い上げ、ありがとうございましたぁ。

 ただし、快癒ではないのだ。多分。

 攻撃をすり抜けた卵や個体が残留していればいずれ再発するし、感染中、発病中の副作用的なもので障害が出ているっぽい人も見受けられる。


 全員を回復できたわけでもない。

 体力が残っていなければ、治療を途中で断念せざるを得ないし、次の治療を行えるまで体力が回復しなければ、死しかない。


 現在の俺たちにできる手は尽くしていると思うし、ヤマトゥーン四兄弟からも望外の成果だと賛辞を受けている。

 それでもなお、もっとスマートな解決があるはずだと思ってしまうのは、半端に前世の記憶があるからだろうか。


 いつのまにやら春の季節は過ぎゆき、暑くなってきている。

 超重要な客人へとランクアップをはたした俺たち一行は、ヤマトゥーン領に思わぬ長居をする羽目になった。


 今日もまた、オブムス様の呼び出しを受けている。

 俺たちは家臣じゃねーんだけどなあ。



【メモ】

 風土病に関して、住血吸虫を参照しました。ウヅキたちの考察や症状等、必ずしも正しいわけではありません。

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