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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第5章 三人の転生者《イレギュラーズ》、羽ばたく

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5-02.初期不良

 春を迎え卒院したミナヅキと合流。

 俺の遍歴修行にミナヅキの巡礼、付き合う商人のハヅキという形でついに元祖イレギュラーズの三人がそろった。


 兄貴のスコールほか三人娘にハイラルまで加わった計八人で伯都ツェルマットから巣立って三日目の夜、俺たちは緊急事態に直面した。


「あー、第一級事案発生につき、転移門トランスファー・ゲートを使用する。転移者は俺と三人娘、再帰還点を示すリターン・アンカーの管理はミナヅキ、再帰還予定は明早朝とする」

「おう?」


 各種実地検証かねて試験運用中の魔道具リターン・アンカーを頼りに、伯都ツェルマットの拠点までの転移門を開く。

 生理が来てしまったミルディーフの世話をフィルとヒル子に託し、俺は自室で嘆息した。


「女の子は大変なんだなあ」


 神隠し騒動を起こすわけにもいかないので、翌早朝にはミナヅキの持つリターン・アンカーを頼りに再び転移。

 みんなと合流し、そそくさと宿を出て次の街ノルトラムを目指す途中で三度の転移門を開き、三人娘にツェルマットのパーティ・ホームで静養を言いつけた。


 当人たちの記憶の限り、三人とも伯都を出たのは今回が初めてだ。

 当初は新鮮な驚きとか、卒院からの解放感とか、そういうワクワク感で楽しめていたものの、疲労は足腰にとどまらず、気疲れものしかかっていたようだ。


「うまく言えないが気負うなよ」

「んん」

「見通しが甘かったです」

「旅って、大変なのね」


 生理云々は脇に置いても、疲れ果てて辛そうな姿を見ている俺たちも辛い。

 もともとノルトラムの街で休養する方向で話がまとまっていたし、すでに転移は解禁したしで、なら最初からパーティ・ホームでいいじゃんと。


「正直、僕も自分の部屋で休みたいよ」

「ろくな内装もしてなきゃ、生活用具もそろってないでんがな」

「金が尽きたんだよ、言わせんなよ恥ずかしい」


 ミナヅキとハイラルも疲れを訴えるが、そんなに何度も、大人数を転移させられる余裕はない。

 野郎のために無理するかって、しないでしょ。


「ああ、うん。転移門トランスファー・ゲートを使えるというだけでも驚きだからね。……いまさらだけど、驚いてなかった僕もどうかしてしまったな」

「だよな。ウヅキたちってどっかぶっ飛んでるから、何やらかしても納得しちまうというか」

「実の兄のスコールでさえそう思うなら、僕がおかしいわけじゃないね」

「ハイラルも兄貴も納得してんじゃねーよ!」


 確かに、転移門トランスファー・ゲートは法術系の高位魔法で、使える人間は希少だと聞いている。

 魔術系の似て非なる瞬間移動(テレポーテーション)も同様。

 どっちも転移先や移動先の指定がクッソ難しいのが原因である。


 俺たちは、転生ものでおなじみのアイテム・ボックスや無限収納が欲しかったのだが、都合のいい魔法やブツは見つけられなかった。

 仕方ないので、転移門の魔法をひねくり回して、拠点に用意した収納庫との物品の出し入れを可能とした改造魔法、収納庫接続門ストレージ・アクセス・ゲートなんてものをでっちあげてみたわけで。

 基点から魔力線マジック・ラインを引く魔道具によって座標指定をまるっと放り投げ、限定・省魔力化を追求し、一応は実用の範囲かなあ状態。


 魔道具リターン・アンカーを併用することでオリジナルの転移門や瞬間移動が実用できるようになったのは嬉しい誤算だ。

 さらに千里眼クレアボヤンス等の魔法も、リターン・アンカーの魔力線を利用することで新たな用途が広がるのではないかと、我が師父ネイトナル様から啓蒙を受けている。


 とはいえ、魔道具リターン・アンカーの動力源、魔石の消耗具合や魔力線の有効範囲、転移門や瞬間移動自体の距離と消費魔力との関係、転移量に対する消費魔力、なんちゃってアイテム・ボックスの魔法の実用性などなど、まだまだ検証途中でもある。


「魔石への魔力チャージ、量が増えとるのは事実やなあ」

「僕らのチャージで追いつかなくなったら、魔石そのものを頻繁に交換しないとならなくなるね」

「そこまでしなきゃいけない時点で、俺たちの実用上の限界だな」


 買ってから五年くらいたったヘタレバッテリーのスマホを無理に使うくらいなら、いい加減買い替えようよくらいの実用度だ。


「いや、たとえ一日に二度三度の魔石交換が必要だろうと、需要はあると思うよ?」

「転移門の魔法、使える人材と組み合わせれば、だろ」


 リターン・アンカーの指定基点と現在地との間限定だが、数日がかりの旅が一瞬で終わる。人や物の移動だけで大繁盛な商売にできるだろうな。

 だがしかし、オリジナルの転移門より難易度が下がっているとはいえ、腐っても法術系高位魔法。

 使える人がどれだけいるものか。


 魔法は、使用者が魂で納得していないと発現しないからねえ。

 俺たちはほら、ファンタジー異世界で魔法なら、テレポとかワープとかあって当然的な魂のありようだから、術式の面倒くささだけで済んじゃったけどさ。


「ハイラルはいまさらだから隠さんかったけんど、こんなんおおっぴらにしても権力者様にこき使われる未来しか見えないやん」

「うん、秘匿ですね」

「信用と信頼が重いなあ」


 簡易化転移門を使える俺たち三人にしても、個々で差がある。

 慣れというか、魔力制御の差というか、総魔力量の差かもしれない、そんなこんなの複合要因で、ゲートをつなげる距離や通せる物量に差がでてしまうようだ。

 どこまでも属人的なしろものなのだよね、この世界の魔法って。


「けどあれだよな。関や城門を通さないブツの移動って、ずばり密輸だろ」

「キニシナイ方向で」


 俺たち個人で運び込める量なんてたかが知れてるざますし、脱税の努力は人類の本能らしい。

 前世の記憶によれば、人類史とは課税と脱税の歴史である。

 ところが、自分の意思で払う寄付や喜捨なんかだと、納税よりも額は大きく満足度も高くなるとかなんとか。


 ノルトラムの街を経由しハイラルの実家までの旅を続ける間に、身体的な不都合は誰彼ともなく発現した。

 だけでなく、四六時中顔を突き合わせることによる想定外のストレスに、荷馬車運用でもダメ出しと、いろいろ問題点は出るものである。


「お花摘みがこんなに大変だなんて……」

「そばにいられるのは嫌だろうが、一人にするわけにもいかんのよ」

「本気でイヤ。なんでこんな姿を見せなきゃいけないの? 見てなくても聞こえちゃうじゃない!」


 女子だけで荒事に対応できるならいいんだが。

 そうもいかない以上、ヒル子とミルディーフの野外トイレ・タイムには俺が近くで警戒しとかなきゃいかん。フィルはミナヅキ任せ。


 特殊な性癖や趣味と縁のない俺は、音よりむしろ匂いだけで百年の恋もさめそうだし嫌われるし、つらい。

 夢や幻想を投影できない相手に恋はできないよ。


「みんなの足引っ張っちゃってるの、負い目」

「けど、だからって不満があっても我慢しなきゃってのもおかしいと思うわけよ」

「んふ」

「部下と違って仲間には気を遣うものだねえ」

「自分のペースで歩けない物事が進まないだけで、ここまでイラつくとは思わなかった」

「気遣ってやってるのに一言の感謝もねえとかむかつくよな」

「かといって、善意の押し付けはただの自己満足、相手にとっては有難迷惑というね」


 一時はパーティとして空中分解もしかけた。

 はっきり言って全員一種のヒステリーだったとも思う。疲れとストレスは心を蝕みます。


 気遣いは必要だが、互いに我慢を強いるのも確かにおかしい。

 なぜ俺たちは一緒にいるのか、何が我慢できないのか、どこは譲る、諦めるか。


 話し合っても解決することは限られていたが、話し合うこと自体がストレス発散の面もあり、かと思えばストレスをため込む原因にもなったり。

 人が人とともにあるには、絶対にコミュニケーションが必要だけど、それは言葉を介すとは限らないんだな、などと悟ってしまったり。


「早いうちに、洗い出しできたと思うことにする」

「問題は、問題とわかった時点で半分解決ともいいますしね」

「受け入れる、慣れるも立派な解決策やしね」


 ハイラルの実家、ヤマトゥーン領の都に到着したのは予定より大分遅れたが、それだけの理由と価値はあったと思う。


 もちろん、パーティ行動の初期不良検査だけをやっていたわけではない。


 ノルトラムの街ではミルディーフの復帰を待つ間に試練の迷宮の下見をしたり、お試しで潜って迷宮酔いに慣れようとしてみたりした。

 道中の農村からは農作物を仕入れて街で売り、街では道具や釘などを仕入れて農村で売る。細かい資産運用でパーティの経費をねん出するハヅキに改めて感心したり、どういうわけかウヅキはえげつないなどと言われたりもした。


「クズ魔石買い漁ってせっせとチャージしてたミナヅキに言われたくない」

「転移門を使って関所破りをする人に言われても」

「関税と称して懐に収める汚職役人が悪いねん」


 いやさ、払うべき社会維持費はあると思うよ。

 けどね、現場役人がポケット・ナイナイするのは違うよね。

 百歩譲って、俸給だけじゃ食えない下っ端が少々の役得を求めるのはしゃーないかとも思うけど、限度ってあるじゃん。


「僕には、密輸のノウハウが着々と蓄積されていっているように思えるよ」

「いくらおまえの実家の領地でも、巡回兵という名の追いはぎにくれてやるモンはねえんだよ」

「……耳が痛い」


 ご領主の男爵家の四男にして助祭捕様の巡礼を邪魔するような輩は、不良と呼ぶのももったいない。

 逆にハイラルの名と顔が通用する相手だと、とたんにへいこらしだすのも宮仕えの悲しさか。


 カブツ川のほとりに広がる領都ヤマトゥーンは、意外と大きな街だった。


「さすがに規模は伯都に劣るけど、交易(みなと)を抱えているからね」

「なるほど、実収益は伯爵家より上だと、そう言いたいんやな」

「……公言は、しないでね」


 カブツ川による交易は、下流にある北のゴブリン勢力からは鉄、広く上流一帯からは王国の穀物、東の隣国からのワインなどが主力商品らしい。


「特にゴブリン鉄を扱えるのは大きいね。南の鋳鉄なんかとはモノが違うからね」

「ほぇー」


 客人として城内に部屋を割り当てられた俺たちは、晩餐で当主にご挨拶。

 ハイラルの一番上の兄のオブムス様は二十九歳。人生で最も脂ののった時期にあるが、その表情はさえなかった。


「ツェルマット教会と距離をとったことは認めよう。どう転ぶかわからん派閥争いに巻き込まれては迷惑だからな」

「兄上のお許しを得、ほっとしました」

「ところで、おまえの法術は、その……独特だと聞き及んでいるが、同行者はそうでもないのだろう?」


 ハイラルの法術は、闘気術を応用した、力任せの術だからねえ。

 魔力も闘気も根っこは同じもの。発現の仕方させ方が違うだけって、我が師父でさえなかなかお認めくださらなかったが、実際そうなんだから。


「ええ。僕は法術師という名乗りそのものに価値を見出しただけですので」

「無理やりでもなんでも、術を発現させた以上は法術師か」


 魔法使いって数が少ないですから。

 それだけでステイタスなんだよね。


 御当主オブムス様はハイラルを通して俺たちに依頼をしてきた。

 表向き俺たちは、助祭捕ミナヅキの巡礼行の付き人とか同行者とかだかんね。そして聖職者としてのミナヅキとハイラルは同輩同格。


 ツェルマット教会の法術師は、医療施設である施術院でも研鑽を積んでいる。

 ヒル子でさえ、ただの魔法使いではなく、医者、薬剤師、看護師といった職能を統合したスーパーなエリート人材なのだ。

 その腕を見込んで、弟君の御病気をなんとかできないかとのことである。



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