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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第1章 三人の転生者《イレギュラーズ》、出会ってしまう
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1-04.俺たちは呼び名を手に入れた

 俺たちは呼び名を手に入れた。


 俺はウヅキ。前世の生まれ月に由来する。

 「イワークん家のチビ」がミナヅキ、「ウォルダんとこの小倅」がハヅキ。


 「アルベルトん家の(アルベルティ・)末の小僧(マッサ・コーズ)」をどうひねっても「ウヅキ」なんて呼び名は出てこないし、金髪碧眼美少年(自称・三歳)という外見的特徴からも導き出せない。ほかの二人も同様だ。

 なので、周囲には首をひねられたが、互いにそう呼び合っているという事実を積み重ねるうちになんとなく定着した。

 ただし、俺たち三人組をさす「ヅキヅキッズ」は頂けない。断固拒否である。


 年齢を重ねるとともに多少鮮明化した前世の記憶を持つ、転生者という秘密を抱えた俺たち三人は当面を様子見、情報収集にあてることにした。

 転生もののテンプレの一つ、転生者同士で潰しあうような真似は厳禁だ。

 『三人寄れば文殊の知恵』、『三本の矢は折れにくい』。第一、そんなことをしている余裕はない。

 三人で協力しあわなければ、この先生きのこることすら危ういというのが俺たちの一致した見解である。万年腹減りは切ないのである。


 もちろん、せっかく転生したのだから野望というか妄想はある。

 この世界、いわゆる中世レベルの文明に魔物や魔法もあるらしい。

 冒険者になる、世界を旅する、悪徳領主をやる……だが、主人公に都合のいい物語フィクションと違ってリアルなワールドにノー・チートでボーンした俺たちのマストは、なにはともあれサバイヴだ。

 ごはんお腹いっぱい食べたい。

 目先のことからコツコツと。生まれ変わったところで小市民根性は抜けないんだなと、俺たちは笑いあった。


 俺たち三人の三歳児を子守り引率する「サウビスん家の小娘」と俺の直上の兄は実に偉大な者たちであった。

 うろつける範囲は、より年上や大人たちの手によって収穫されつくしており、たまのおこぼれでしか果物や木の実などは手に入らなかったものの、味はともかく食うことができる山菜、蜜を吸える花など教えてもらったことは数多い。

 なによりも、石包丁という革命的道具に続き、河原で焚火という禁断の火遊びを始めたのは彼らの功績だ。


 焚火痕を見つけた大人によって兄貴たちはきついお叱りを受けたが、それは彼らの罪科。あるいは年上の、引率者の責務というやつである。

 その後、不機嫌な兄上様からゲンコツを頂くという理不尽な目にあったが、とりあえず河原であれば焚火黙認という結果を手にしたことのバーターだと思えば我慢しよう。


「まずい」

「これまた、なんというか、えぐが増したか……」


 火あぶりしたところでグルグル草はまずかった。山芋か何かの根っこは多少うまくなったが同時にえぐ味も増した。


「そうだ、魚、獲ろう」

「魚か」

「魚だ」


 なるほど、ここは河原である。小川だが、小魚くらいはいる。

 早速、兄者たちをそそのかして網をつくる。


「ツタを裂いて細かくして編めば網になると思うんだ!」

「へー、ウヅキにしては良い案ね」

「俺、水はちょっとなあ……」

「溺れるのは怖いよね。だから、ツタのロープで結わえてあげるよ」


 さりげなく兄貴の逃げ道をつぶすミナヅキ。黒髪黒目のこいつは、実は腹も黒いんじゃないかと俺はひそかに疑っている。


「膝くらいの水深でも流れにさらわれるそうですし、安全策はいるでしょう」


 赤毛青目のハヅキは、自ら腰にツタ・ロープを結わえると川水に足を入れた。

 集めてきた木の枝を檻をつくるように差し込んでいく。


「確かこう、逆三角形的に入り口は広く出口は狭い、だったかなー」

「……檻の目を詰めないと、大物以外脱獄し放題じゃね?」


 小魚が、差し込まれた枝と枝の間をするりと抜けていく。


「……なんてこった」


 そんな失敗もあったが、夏の間に数日に一度くらいは小魚を食すこともできるようになった。

 また、「サウビスん家の小娘」がちょろまかしてきた塩は、刃物・火に次ぐ第三の革命を俺たちにもたらした。文明度急上昇。ビバ調味料!


 秋にはひたすらにドングリを集めた。

 『縄文クッキー』というワードが俺の魂に囁いたのだ。


「まずい」

「えぐい」

「そりゃあ木の実だし、食って食えないことはないだろうが、マジで食うんか……」


 石を打ち合わせて皮を剥いたドングリにかじりついた俺たちに兄者は引き気味だが、『縄文クッキー』になるはずなのだ。

 どうにかしてマシな味にする方法はあるはず。

 リスじゃあるまいしとか、豚の餌だぜとか言っている兄者たちを無視して、三人で額を寄せ合う。


「水にさらせば、多少はえぐ味はぬけると思うんだが」

「クッキーってことは、粉にして固めて焼く?」

「それはちょっと、手間ですね」


 粉にするのは面倒なので、とりあえずそのまま焼いてみるかということになる。

 ドングリを、木の枝の又の部分に挟んで焚火にかざす。枝が燃えない程度に、かつ皮に焼き色つくくらいの火あぶりの刑に処したところ、あろうことかヤツは弾けた。


「うぉおお!」

「あっぶねーなおい、何やってんだよ」


 焼きドングリではなく兄貴のゲンコツを食らってしまう。こんなはずじゃなかったのに。


「皮、剥いたものにしましょうか」

「だね」


 一度の失敗でめげていてはこの先生きのこることなどできやしない。頑張れ、きのこれ。

 あっつあつのドングリを掌でお手玉して冷ましてから覚悟を決めて口に放り込む。


「……甘い」

「マジだ」


 まさかの甘味に、次々に焼いては食らう俺たちに、兄貴たちも気になったのか手を出してくる。


「……うまいじゃん」

「うそ、これ豚の餌よ」


 いくつかの試行錯誤を経て、最終的には焼き芋の要領で、直接火にあてるのではなく焚火の下に石を挟んで埋めるようにした。

 焼きドングリうまい説は俺たちのグループから他のグループにも伝播し、騎士エンダー家の領地・エンダー村の子どもたちにドングリ争奪戦をもたらすことになったのだが、それは後の話。

 この日の俺たちは、ひたすらにほのかな甘味を堪能し、満腹という幸せを手に入れた。


「ドングリも、クリではあったんだなあ」

「あー、でんぷんの加熱分解で糖化してるんだ、コレ」

「理屈はともかく、食い物だ。食い物の味やでぇ」


 実のところ、もっとましな食い物はある。ドングリじゃなく栗みたいな。

 残り物だからこそ、俺たちの手に入った貴重な食料がドングリだったということだ。

 秋の間せっせとドングリを集め、寒い冬を焚火にあたりながら焼きドングリを食す。やがて季節は廻り春が来た。


 俺たちは四歳になり、七歳になった俺の兄貴はスコール、「サウビスん家の小娘」はシスティナと名付けられた。


 兄貴たちには畑や家の手伝いが割り当てられるようになり、俺たちの子守りばかりということはなくなったが、逆に、俺たちが年下連中の子守りに回されるようにもなった。

 そして改めて、乳幼児の死亡率を体感した。


 栄養が不足するというのは、抵抗力が落ちるということ。すなわち、ちょっとした病気でも死ぬということだ。

 食事さえ満足にとれていればおそらく死なずにすんだであろう子たちを、年上年下問わず何人も見送った。

 なにはなくともまず生存。そして生存のためには、食料。

 四歳そして五歳と歳を重ねたが、俺たちの方針は相変わらず目先の空腹対策であり続けた。


 ある意味では、平穏な日々だったといえるだろう。

 三人で意見をすり合わせながら、とにかく食い物の確保にまい進した日々ともいえる。


 そんな日々の中でトピックといえば、ハヅキがもたらした刃物・火・塩に続く第四の革命だ。

 いつもの河原の対岸の露頭から粘土を採取、こねくり回して不細工なツボ状にこしらえ、焚火の中であぶるという匠の技により、土器をもたらしたのである。

 俺たちはついに石器時代を脱し、土器時代に遷移した。


「これでやっと煮物、灰汁抜きができます!」

「さすハヅ!」


 俺たちは焚火の周りで感謝の踊りを舞った。俺たちの子守り対象もまた、何もわかっていないだろうに俺たちの後ろで踊りを舞った。

 だが、俺たちの喜びは無残にも打ち砕かれた。

 文字通り、打ち砕かれたのだ。文明のともしび、土器様が。


 犯人は、別グループのガキどもである。


「許せん」

「ケジメつけさせましょう」

「自分怒らせるとはたいしたものですよ、ええ、たいしたクソめ」


 勝手に使われるのはかまわない。

 河原の焚火やかまど用の石組み同様、俺たちのこさえた魚獲りの罠もウサギ獲りの罠も、ほぼほぼキッズ世代の公共物扱いになっている。

 焼きドングリうまい説もそうだが、変に所有権や独占を主張して目をつけられたり嫌がらせをされるリスクを負うくらいなら、成果を分かち合うことで敵をつくらないというのがミナヅキの意見だったからだ。

 これは自負になるが、俺たちの涙ぐましい努力の恩恵を享受した同世代や年下連中や、上は俺の兄貴のスコールやシスティナの世代とその上くらいまで、俺たちは一目置かれる存在になっていたといって過言ではないはずだ。


 だというのに、恩恵を、文明を否定しやがったバカが出た。

 持っていかれたならまだいい。文明の、土器様の魅惑ボティの誘惑にあらがえなかったが故の窃盗ならば、許せた。

 遊びで、壊しやがった。


「戦争だ」

「戦争か」

「戦争だね」


 エンダー村は、前世日本基準を物差しの一つとして持つ俺たちにしてみれば、辺鄙な小さな村だ。

 騎士という地位を持つ当代領主のオットーおじさん自らが、せっせと畑仕事に精を出すくらい小さな村だ。農民・農奴の家屋数で言えば十数軒。

 だがそんな小さな村の中でも派閥というものはあり、親同士の関係は子どもたちにも影響を及ぼす。

 絶対基準で見れば所詮はドングリの背比べだが、立場の上下は相対的なものだけに豊かだろうが貧しかろうが派閥が生まれるのもわかりはする。


 対立派閥に属する者の子、俺たちの台頭が気に食わないシスティナの親ほかの使嗾しそうは、あったかもしれないし、なかったかもしれない。その辺を追及したところで俺たちに得るものはない。

 だがともかくもそれは大人の事情だ。

 俺たちは五歳児である。子どもである。子どもの事情で動く生き物である。

 子ども同士なら容赦はいらない。

 つまり、戦争だ。


 俺たちは、バカどもご自慢だった森の中の秘密基地を襲撃、占領した。



【メモ】

 ドングリは、ブナ科のコナラ属・シイ属・マテバシイ属の木の実全体の名前。

 シイやスダジイ、ツブラジイ、マテバシイ、ミズナラ、コナラなどが食べられるらしい。

 ただし、一部の種以外はタンニンやサポニンによる渋みが非常に強く、渋抜き必須。

 なお、いわゆる『縄文クッキー』の材料ではあっても、三内丸山遺跡(青森県)では栗を栽培していたように、縄文人だってよりよいものがあればわざわざ食べない。現代、ドングリ(粉)を自然食品として扱っているケースはある。

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