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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第2章 三人の転生者《イレギュラーズ》、修行回に突入する

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2-12.次のステージへ

 夏至祭の夜、俺は錬金術師の弟子へとジョブ・チェンジした。


 ご主人様の命令への拒否権だの抵抗権だのを持ち出して拒むつもりもない。

 貧村で農奴の子に生まれた者として、素直に大出世である。


 単に今生の人生設計が広がるというだけではない。

 前世記憶持ちという縁で結ばれたミナヅキ、ハヅキともども、せっかく異世界に転生したのだからと抱いた野望への手掛かりとしてもありがたい話である。

 俺のいわゆる冒険者稼業はともかく、世界を旅するだの悪徳領主をやりたいだの、お辛い現実から逃避した妄想にすぎなかったヨタ話に、わずかなりと実現の目が出てきたといっても過言ではないのではなかろうか。


「何はともあれ、めでたい話ですね!」

「ミナヅキも法術師プラスの放浪司祭ねらいで布石打ってはりますしなあ、自分だけ置いてきぼり感あるわあ」

「ハヅキの丁稚先は商家だかんなあ。んー、悪徳領主やるにも財源の裏付けはいるだろうが……」

「ああいや、自分も頑張らなってだけですねん」


 俺とミナヅキは、売られた先が特に『都合が』良かったということになるが、ハヅキだって別に悪くはない。

 ノウブラウンド商会での丁稚奉公丸二年、寝食は保証され、配達・伝言などのお使いついでに伯都を散策する時間や、わずかとはいえお小遣いも支給されている。

 俺たち三人は、エンダー村時代に読み書きを会得するチャンスがあったことが、現在の良縁につながっているといえるだろう。


「旅をするだけや冒険者っぽいことなら身一つでもできますが、悪徳領主となりますとねえ」

「商家の丁稚で会得できるものだけでは足らんわなあ。ま、これも抱いた野望の大きさの代償や」

「俺たちも協力するが、現実に、領主になるってのだけでもハードルたけぇよ」

「目標は高いほうが楽しいわ。自分らまだ八歳やし、焦らずたのんます」


 ところで、俺が思う以上に師弟関係というものは重い意味があるらしい。


 ニートナル家の当代ナンディール様は、今でこそ頭に『妖精が住み着いて』しまわれたいわゆるボケ老人だが、一代騎士爵を賜るほどの傑物であられた。

 代替わりすれば平民落ちということになるが、であっても俺の師ネイトナル様は錬金術師であり、ポーション工房を経営する富貴層にとどまる。

 弟子となった俺は一門の者としてニートナルを名乗ることになる。

 もちろん家督継承権などはないが、名を与える・名乗るとは、師弟関係の縁がある意味で血縁以上のものであことを象徴する。


 俺は師に連れられて、伯都の魔術師組合にウヅキ・ニートナルの名を登録した。

 ツェルマット魔術師組合のメダル、そしてとんがり帽子が支給される。魔術師であると世に知らしめ、身分の証であり後ろ盾を示すアイテムだ。

 登録に際しては魔力量計測盤とやらで魔力量を測られたが、多いとも少ないとも言われなかった。


「見事な魔力制御ですな。ネイトナル君、よき卵を得たようで」

「ありがとうございます。よき魔術師に育つよう、私も責務を果たすつもりであります」


 師父ネイトナル様のお言葉は、いつ聞いても落ち着く渋い声だ。

 組合での登録と、連絡の取れる登録魔術師へのあいさつ回りを終え、ポーション工房でようやく息をつく。

 ちなみに伯都の組合登録魔術師は俺以外で十三人。登録せずとも魔術師としての活動はできるが、組合員・非組合員あわせても教会所属の法術師の数に及ばない。

 魔術師にとって才能ある弟子の発掘は常に重要な課題だそうな。


「魔力量計測盤で、いわゆる『才能』ある子をもっと発掘できるのではないのですか?」

「あれは魔力を体外に放出できるかどうかの判別にしか役立たん。最低限以上の魔力制御を身につけた者にしか反応しない欠陥品だ」


 理屈は、魔石の魔力含有量を判別する魔道具と同じ。

 魔力制御しだいで出力できる魔力量が動いてしまうため、測った魔力量の多寡そのものにあまり意味はないという。

 魔力制御の技量によって、同じ発現効果を得るにも魔力消費は異なる。

 例えばマジック・アローを何本放てるかを数えても、それは継戦能力を知る基準。魔力量の絶対値を示すものではない。


「ゆえに魔法とは、事実上、魔力制御と魔力量ということになる」

「実用的な能力、魔法使いとしての力量は、魔力制御と魔力量を合わせた状態でしか判断できないということですね」


 魔法を発現できている時点で、俺たちの四つのキモのうち、イメージと確信はクリアできている。いわば、魔法使いにとっては大前提なので省略された形だ。


 晴れて錬金術師の弟子となった俺は、社会的地位の上昇とともに労働と勉強に励むことになった。


 ポーション工房の仕事は従来通り。

 工房オペレーションの枠をこえて、薬剤師としての勉強がドン。魔術師としての勉強がドドン。修行もドドドドン。

 いやまあ、修行に関しては主に魔力切れ直前まで魔法を放てというものなので、毎晩の魔石チャージの延長線上ではある。

 もちろん、寝る前に再度限界ギリギリまで魔石チャージ。目覚めたら錬気瞑想と体術もどきも日課として維持。


「ねえ、大丈夫なの?」

「大丈夫、大丈夫ッスよ。俺が大丈夫じゃないなんてマジありえないッスから大丈夫ッスよ」

「もういい、ウヅキ、休め」


 ミナヅキ君こそ目の下にクマ~が住み着いてませんかねえ。ちゃんと寝れてますかぁ?

 俺たちはヒル子がドン引きするうつろな笑いを互いに交わし、写本を交換した。


 法術コースに入ったミナヅキは、ついに写本部屋への出入りが解禁、書庫の一部も閲覧可能になっている。

 俺もまた、自分の教本は自分で写本することから始まっている。師父の書庫、新しい知識へのアクセスだぜぇ、フフフフフゥ~。

 写すしかない、このビッグチャンスに!


「ハイラルのおかげでランプも使えるので、夜時間を使えるのが嬉しくてねえ」

「これまで、太陽任せの生活だったからなあ」


 いや、自然な生活だと思いますよ。明るくなったら起きて、暗くなったら寝る。実に健康的。

 だが俺たちは、前世日本人なのだ。不夜城で二十四時間戦っているコンビニが当たり前の生活を知っているのだ。


「うーん。ここは心を鬼にして、油の供給を止めるべきか……」

「それならそれで自前で調達しそうなんですよねえ」

「そりゃ売るで。商人として、親友としてもな」


 ハイラルとフィルの目線を受けて頼もしく言い切るハヅキもまた、毎週の安息日に会うたびに疲労感を引きずっている。

 背が伸びてきた身体のアンバランス感もあって、どこか危うい感じが漂うが、踏ん張りどころやねんとのこと。

 俺たち、見かけはともかく、前世の記憶を持ついい大人でもある。無理と無謀の見極めはできる、と思う。


「で、何をやってるん?」

「他店や市場の観察や」


 通常の丁稚の共同作業、日常の料理・洗濯・掃除等の家事当番や、店番・倉庫整理のかたわら、配達御用聞きなどで外に出た際に、どこに何があり、いくらで、状態はなどを記憶。

 週一でメモにまとめ番頭に提出し、所見をうかがうのだという。

 そのメモのまとめはもちろん相応の時間がかかるし、番頭の所見というある種の講義も往々にして長引き、夜が遅くなっているのだとか。


「一番は相場観やな。大きく外れているのを見かけたらすぐに報告するようにって、これはツテと信頼か?」

「商人やるには欠かせない要素ですね」

「意外にな、モノはあるねん。ただ、やっぱり流通が弱いんやなぁとか、騙しの手口とか、学ぶことは多いねん」


 とりあえず、ミナヅキとハヅキには俺が試作中の栄養ドリンク的なモノを渡しておいた。特にハヅキには多めに。

 法術ブート・キャンプでヘンドリックとムウレリアの担当という貧乏くじを引かせてしまった件のワビ的なアレですよ。


 名前の出た二人は少し距離のある友人というポジションに落ち着き、ヒル子とフィルは法術師コースでミナヅキとともに四苦八苦中。

 ミルディーフには焦らず錬気瞑想と魔石チャージを続けるように言い含めている。


「だいたい、俺たちの例でいうと一年弱程度やっていれば、最低限の魔力制御と魔力量はそろうと思う」

「ん」


 腐らずに魔力(闘気)制御力を磨いていたハイラル様は、なんと剣に闘気をまとわせ飛ばすという高等技が繰り出せるようになった。


「一刀両断【ウインド・カッター】! アーッハハハハハ」

「楽しそうだなおい」

「そりゃそうさ! この僕が、まさか闘気術の奥義の一つに届くとはね!」


 実は、俺たちも使えるようになりました。闘気も魔力も区別なく、鍛錬続けてますしね。体裁き的なものはまだまだだけど。

 ところで、この会合の目的は法術師になることなんだけどなあ。


「すこし、真面目な座学です」

「あ、はい」


 魔力量と魔力制御の関係。俺たちの理解でいえば効率のよしあしについての話をする。

 魔力制御が甘ければ、効果を発現するのに大量の魔力を消費する。逆に、魔力制御が優れていれば、少ない魔力消費で同じ効果を発現できる。


「つまり、ハイラル様の魔力量であれば、多少甘い魔力制御でも光の術を発現できるのではないかということです」

「なるほど」


 ただし魔力を根こそぎ使う、力技である。

 魔法使いとしては実用に耐えないところだが、ハイラル様の目的は、まず、術を成功させて法術コースに入ることではないのか。

 入った後ででも、修練・鍛錬を続けていくことはできる。ほどほどの魔力制御を、術師の初歩として目指せばいいのではなかろうか。


「要は、入っちまえばこっちのもんってことでさぁ兄貴」

「くっくっく、ハヅキもワルよのう」

「似合いすぎだぞ、二人とも」


 早速ハイラルは錬気瞑想で闘気、つまり魔力を補充しつつ精神の集中を始めた。

 結論、魔力制御が甘々だと爆発オチになる。

 一瞬の猛烈な閃光をもろに浴びたハヅキがのたうち回る。


「目が、目がぁあ」

「……これは、できたといってもいいのだろうか」

「効果発現はしたわけだしなあ。そこんとこ、どうよ」

「僕に振られても困る」


 それから何週か間をおいて、養成院では少々穏やかになったフラッシュを発現させることで、ハイラル様も無事(?)法術師の卵とあいなった。

 冬の終わりにはミルディーフも難なく光の術を成功させた。


 そしてハヅキも大きな一歩を踏み出した。

 ノウブラウンド商会という大店に常駐する丁稚から、行商について回って商売のイロハを学ぶ見習い商人へとジョブ・チェンジをするという。


「結局な、自分このまま残っても店持ちにはなれん。一生を使用人で過ごすか、小さくとも独立のチャンスはあるかの選択やねん」

「この世界で行商って、危険が危ないじゃないですか。獣や魔物はもちろん、盗賊だってありふれたジョブのようですし」

「世界を旅するのが目的なミナヅキがそれをいうんかい」


 隊商なのでいうほど過酷ではない。むしろ旅というものに慣れる、ノウハウを会得しておくつもりだと豪語する。

 ただ、一度出ると数か月は戻ってこれなくなる。


「その点は心残りや。二人と離れるのは、思う以上にキツクなりそうやわ」

「俺もだ。止めはしないが必ず戻ってこいよ」

「今のうちに僕らにできること、なんでも言ってくださいね」


 俺たち九歳の春、ハヅキは旅立った。


 口減らしのために生誕地エンダー村から伯都ツェルマットに売り飛ばされてから三年弱が過ぎた。

 ハヅキは見習い商人として、ミナヅキは法術師の卵として、そして俺は錬金術師の弟子として、それぞれに次のステップに進んでいる。

 この歩みの先に、それぞれの目的、野望ををかなえるために。




(第2章・了)

第2章(全12回+設定メモ)の投稿は以上です。

ここまでのお付き合いおよび評価やブックマーク、感想をくださった方に感謝します。

引き続き第3章もよろしく。

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