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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第2章 三人の転生者《イレギュラーズ》、修行回に突入する

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2-11.夏至祭の夜

 新緑のころから毎週ではないが、法術ブート・キャンプは、ハイラル様の実家であるヤマトゥーン男爵家が伯都に有する屋敷の庭で開催している。


 夏間近なある日、俺は、ネイトナル様およびその奥様の御下命を受け、友人たちをニートナル家のお茶会に誘った。

 誘ったはいいが、俺は現実のお茶会というものを知らない。

 主催はニートナル家のご夫妻だとしても、一応は俺もホスト側になるのだろうか。何をすればよいのか、あるいはしてはならないのか、敬愛する上司様に詳しい指示を仰がなければ。


 ミナヅキおよびハヅキ、そしてハイラル様は即答。フィル、ヒル、ミルディーフからも出席の意向を得る。

 このところブート・キャンプに顔を出さなくなっていたヘンドリックとムウレリアについては伝言を頼むにとどまった。


「魔力を感じるところから躓いていたから、ムリもないっちゃないんだが」

「励ましもプレッシャーになってもうて、ますます足が遠のく悪循環やからなあ」


 この件でハヅキには貧乏くじを引かせてしまった。

 いずれなにかしら埋め合わせをというと、自分らの仲や気にするなと返してきたが、そうもいくまい。


「ウヅキたちが気に病むことじゃないよ。結局、法術は『才能』だからと、むしろさばさばしていたし、それにヘンドリックは他の事で忙しいようだしね」

「朝の礼拝後、ムウレリアを誘って出かけちゃったもんね」


 ヘンドリックとムウレリア。

 いかにして、この二人の魔法(法術)の才能を目覚めさせるかと頭をひねっていた俺たちこそ、空回りしていたようだ。

 当の二人はすでに見切りをつけ、二人だけの世界に目覚め始めていたという。


「そういや、春から急に背は伸びるし声が低くなるし。ヘンドリックめ、色気づきやがったな!」

「将来の伴侶を探すのも、大事なことではあるよ、うん」


 なるほど、ムゥムゥのやつはちゃんと胸がついているしな。……同じものを食べているはずなのに、ヒル子、残念な子!


「なによ? なんで私を見るの?」

「……いやな、おまえ俺の特訓で法術師になれたわけだけど、対価を身体で払ってもらおうかとな」

「ふぇッ!?」


 ツンではなくただ目が悪いだけなどいろいろ残念な割に、いいリアクションするんだよなあ。ついつい弄ってしまう。

 それに、とっさの出まかせだったが、悪いアイデアではないかもしれない。


「いいかヒル子、おまえは普通の美人になれる素質はある」

「は、はあ?」

「十年とはいわない。五年だ。五年、ハイラルにたかって飯を食え!」

「は、はぁ??」


 現在、十一歳だったかのヘンドリックの例にあるように、当年数え八歳の俺たちも、そろそろ第二次性徴が始まってもおかしくない年頃である。

 だというのに、ヒル子、フィルにミルディーフと今はいないムウレリアも、そろいもそろって髪につやがない。

 前世日本人クラスの清潔洗髪習慣などはやりようもない世情ではあるが、脂っ気はあってもつやがない。

 今生のおしゃれ方面だと、髪の香りつけとつや出しのためには香油を塗り込むんだったか。それにしたって孤児院上がりの養成院候補生の手持ち資金ではやりようがないだろう。


 おしゃれだなんだかんだ言う前に、とにかく栄養が不足している。

 俺はヒル子の肩を掴んで言い含めた。


「栄養だ。成長するには栄養が必要だ」


 せっかく大事な話をしてやっているというのに、視線を右往左往させていたヒル子は項垂うなだれたあとしばし硬直、突如として俺を振りほどいた。


「ばかー!」


 フィルとミルディーフは両手を自分の胸に当てていた。


「……栄養が足りれば、おおきくなるのかな」

「ん」

「少なくとも、足りなきゃ育たんだろ?」

「それはそうだね。ところで、その、……私も身体で払わなきゃいけない?」


 俺は軽く手首を振って応じた。


「いいかフィル、ミナヅキはむっつりだ」

「むっつりですか!?」

「おい」


 本当のことじゃないか、むっつり。

 それに元はと言えば、ミナヅキの座学まとめノート目当てに集まった学友だ。

 ヒル子はなあ、栗毛ってのがいかんのだよ。エンダー村時代の良いほうの思い出、焼けばおいしくなるドングリを連想してしまう。

 ミルディーフはなんなんだろう。じーっと見つめてくるのがあかんです。


「ヘンドリックとムウレリアのことは、どうしようもないか」

「もともと、私とムウレリアとはそれほど仲がいいわけでもないし別に。フィルは気になる?」

「私とムウレリアは同じ名付け親仲間と言えばそうだけど、一緒に育った密度はヒルデガードのほうが濃いんだよね」


 長いではなく、濃いですか。わかります。

 そういえば、とミナヅキは手を叩いた。


「フィリアもムウレリアも『リア』そろいなのって、名付け親のクセなんだ?」

「そう。なのに、猫はフェリシアなんだよ! おかしいよね?」

「え」


 ミナヅキよ、そこで助けを求める視線を飛ばされても困る。

 名付けルールの話題を振ったのはおまえだ。フィルの相手はおまえ自身が責任を持って執り行ってくれ。

 地味に危機察知能力の高いハヅキはいつの間にかハイラル様と闘気術の実演をしあっている。


 余計な話題がどんどん広がっていくが、それもまた友達との集いなればこそ。法術ブート・キャンプに相応しい内容も粛々と実行された。

 俺たちも含め、各自それぞれの課題にまじめに取り組んでいる。勝手に脱落した者にまで責任は持てない。ヘンドリックとムウレリアのことは忘れよう。


 夏至祭の最中のニートナル家のお茶会は、俺が何をするというものでもなく、つつがなく進行した。

 日除け布を張った庭で、ネイトナル様とヌビア奥様をホストにしたお茶とお菓子と談笑の穏やかな時間。

 ハイラルとヘンドリックは貴族階級の出として如才ないトークを披露し、女子たちは小動物化してお口モフモフしていたが、それもまたヌビア奥様の御心の内であったようだ。

 俺、ミナヅキ、ハヅキの三人に対しては、お茶会を終え皆を見送ったのちの話題となった。


「ウヅキもハヅキもミナヅキも、三人とも可愛いかったわねぇ」

「まったくだな。ウヅキが特別ふてぶてしいかと思えば、あの二人ともなかなかのものだ」


 夫婦間で可愛いの定義の差が埋まることはあるのだろうか。

 立ち入った話を聞くわけにはいかないが、ネイトナル様ご夫妻には子どもがいない。正確には死産であったらしい。

 妾を囲う気概もない男だと自嘲めいたあと、家は弟に継がせる予定なので気楽なものだと続く。

 その家にしても、一代騎士爵を有するのはネイトナル様の父のナンディール様なので、順当に平民落ち。無理に継ぐほどの価値はないと笑われては反応に困る。

 困る姿を楽しまれているのがまた困る。


「父はな、頭に妖精が住み着いてしまったのだ」


 いわゆるボケ、痴呆症だ。屋敷と工房で過ごしている俺が、当代主人のはずのナンディール様に正式にお目通りしたことがないのはそういうことだ。

 夏の日は長く、お二人は夕食までの間を庭先でのお茶会アフターで埋める気らしい。


「ウヅキ、おまえは法術……いや、魔法を使えるな」

「イエス、マスター」


 質問ですらなく、ド直球の確認に、俺もまた素直に返した。

 俺はネイトナル様には転生関連以外の情報は公開してもいいと思っている。ミナヅキは伏せるべきはあると主張、ハヅキは慎重派だが、こと魔法に関してはブート・キャンプ関連で相談したこともあり特に隠すべき件でもない。


「錬金術師とは、本来は魔導科学技巧の頂点を極めた者への称号だ」


 陰りゆく夕日のなか、渋い声で話が紡がれた。


 いわく、錬金術師とは、かつて文字通り金を生み出したのだという。

 数多の素材と機材を組み合わせ、魔道具を開発し、最終的に鉛と水銀を素材とし、確かに金を生じたと伝えられる。

 ゆえに錬金術師とは、薬学・化学・鉱物学など森羅万象を理解する学問を修め、魔術師にして、魔道具を生み出す魔導技師。これらの才能を高度に融合した者の称号とされた。

 しかし、金貨一枚分のきんを生み出すのに、金貨一万枚単位のかねを費やしたとか。


「意味がないのはわかるな。大枚を費やして金貨一枚分のきんでは割りにあわない」


 勢い、きんを生み出すことそのものではなく、かねになる技術の開発が目的となっていく。

 また、あらゆる分野に精通した大天才がそうそう現れるものでもない。


「世が下るにつれ条件は大分緩くなり、今の時代には私のように、魔術師にして薬剤師といった程度でも錬金術師を自称することができる」


 最低限、魔術師であり、そこに何らかの分野を融合した技術者としての側面を持てば名乗れる。それが現代の錬金術師だ、と。


「さてウヅキ、私はおまえに言った。魔法とは、魔力制御と魔力量だと。おまえはどう答える」

「俺たち三人の推論では、魔法とは、イメージ、確信、魔力制御と魔力量です」

「その理由は?」

「イメージがなければ発現できません。確信がなければ発現できません。魔力制御が劣れば発現できません。魔力量が足りなくば発現できません」


 ネイトナル様は指を立てて目をつむった。

 テーブル越しに、ヌビア奥様が新しいお茶を用意している。


「よろしい。実に、よろしい」


 次に俺は光の術を使うように指示された。

 教会、養成院で教える正規の光の術のイメージはミナヅキたちを通して俺にも伝わっている。ゆえに現在の俺はなんちゃって光の術ではなく、外見上は光の術に見える光の玉をテーブルの上に発現させた。

 ネイトナル様の眉が跳ね上がる。


「……呪文は、発動語はどうした」

「俺はそれらを知りません。また聞きうる限りでは、抑揚や発音に術者個々人の差があり、音そのものに発現効果はないと結論しました」


 実際には、それっぽい詠唱だの決め台詞めいた発動語には、魂を震わせる効果はあると思う。いわば呪歌的な、自己催眠?

 ただ、呪文や発動語のもとになる魔法語そのものは、どうも手続き言語くさいというのがミナヅキの談。魔力制御だのどんな効果を発現させるだのを、呪文というかたちの、いわばレシピにしているのではないか、とのこと。


「呪文はいわば補助であり、ゆえに短縮詠唱や無詠唱可能。そう判断しています」

「……それは、魔術師組合でも高位階梯の秘儀なんだがなあ。おまえたちは、自力でたどり着いてしまったというのか」


 初心者でも、無詠唱で術を発現させる者はごくまれにいるという。こういうもの、というイメージが強ければできるからな。不思議はない。

 だが、それを理屈として説明できるというのは別の話だとなる。

 ネイトナル様は深く深く、息を吐いた。

 夕暮れに、そこだけ光の玉が照らすテーブルがある。


「ウヅキ、おまえを我が弟子とする」

「家督継承権はあげられないけれど、以後は一門の者としてニートナルを名乗りなさい」


 かくして俺は、ポーション工房の下働きから一躍大出世、錬金術師の弟子へとジョブ・チェンジした。



【メモ】

原子核変換による錬金術:

 元素の核変換が生じる原子炉の仕組みを活用して、戦略的に元素を生成する。

 元素が変換するということは、陽子数が変わるということ。

 ある原子に中性子を吸収させることで中性子捕獲反応や原子核崩壊(β崩壊、電子捕獲)を引き起こし、周期表でみて右か左にある隣の元素に変化させる。

 水銀(陽子数80)→金(陽子数79)の場合、例えば【Hg196→Hg197→Au197】というプロセスが知られている。(※196・197は原子量)

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