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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第2章 三人の転生者《イレギュラーズ》、修行回に突入する

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2-06.幼年期の終わりに

 俺たち六歳の秋深し。

 日課として続けてきた魔石へのチャージがどうもうまくいかない、何か詰まっているような感じがすると上司のネイトナル様に相談したところ、件の魔石を出してみろという。

 懐から取り出したそれを測定器、魔石含有量判定の魔道具上に置いたネイトナル様は、ほどなく渋い声を響かせた。


「ほう、確かに魔力が満ちているな。ゲージはSI2(Strongly_Includ_2)にわずかに届かないがいいだろう、ご祝儀だ」


 一代騎士ナンディール・ラ・ニートナルのポーション工房に、パシンと音が立ち、台上に大銅貨が置かれた。


「ゲージが、届いていないとのことでしたが?」

「魔石の質によって含有できる魔力には限界がある。この魔石はこれで限界ということだな」


 一般に、魔石を動力源として用いる道具を魔道具というが、判定器は魔石を内蔵しない。

 単純に、セットした魔石の魔力がどこまで通るかを示すゲージがあり、それで含有魔力量を判別しているだけのシロモノだ。

 そして個々の測定器のクセもあれば、基準点からどのくらいの幅を許容するかのブレもある。

 俺の魔力を込め続けた魔石は、工房の測定器の示すグレードSI2基準点にはわずかに届いていなかったが、幅の内であると言われた。


 SI2は標準的な魔石という位置づけだ。魔物狩り組合他での買取値が大銅貨一枚となる。

 俺は、今生で初めての稼ぎともいえる大銅貨を握りしめた。


 カス魔石に魔力をチャージして売ることが若手魔術師の小遣い稼ぎであるという。

 魔力の制御訓練にもなるということでチャレンジしてきたが、大銅貨一枚とは成人職人の日当の半分以下の価値でしかない。足掛け四か月もかかっていては小遣い銭にもなりはしない。

 だが、やらなければ得られなかった。

 ははっ、六歳児の手には、ちょっと大きいな。


 その金を、ハヅキがくれという。


「おいちゃんに任せとき。これは投資やねん」

「やめてお父さん。これはタダシの給食費なのよ」

「うるせー、おまえは黙って金だしてればいいんだぁ。ぐぅへへー」

「タイム。タダシってだれじゃい」

「いや、なんとなく?」


 この手の小芝居は俺とミナヅキの専売特許のように思えるが、ハヅキもたまにははっちゃける。

 のっかったミナヅキともども改めてハズキの真意を問いただした。


「紙と鉛筆。一応、身内価格で調達できるから」

「なるほど。確かに必要だ」

「あーウヅキ、僕にも分けてくれませんか?」


 基本的に知識は暗記するしかない、技術は身体で覚えるしかない生活を送っているが、記録を残せるのならば残したい。

 記憶は記録ほどには信用できないものである。


 大銅貨一枚というのは、子どものお小遣いにしては多いが、商品を配達するほどの売り上げではない。まして身内価格では。

 俺がハヅキの丁稚先のノウブラウンド商会まで出向くというのも厳しい。

 平日はお仕事の時間。その分こうして安息日には休暇を頂いているのだし、文句はない。

 なので、紙と鉛筆は次の安息日に受け取ることにした。


 俺の魔石が満杯になったということは、ミナヅキとハヅキの魔石もそろそろいい塩梅なのではなかろうかと水を向けると、確かに魔力を流し込みにくいと感じつつあったという。

 念のため「詰まった」と感じるまではチャージしてもらうことにして、次のカス魔石も渡しておく。工房に、カス魔石は余っているのだ。

 翌週、ハヅキの持ってきた紙束を三等分して分け合う。「多分、目一杯」チャージしたという魔石も預かった。


「できれば写本をして、自分にも回してほしいとこやけど」

「僕はまだ、写本はもちろん書庫への出入りもできないんです」


 写本自体は、養成院の候補生の果たすお勤めに含まれているそうだが、基礎の基礎課程にあるミナヅキには解禁されていないという。

 入って一年未満のガキにやらせる仕事ではないということだ。


「当面は、これまでの座学のまとめをしようかと。自前のノート持ってないのって、やはりどうしてもね」

「そういや外部組は、金持ちや貴族関係者が多いって言ってたなあ」

「内部組とも基礎知識量が違うでしょしなあ」


 ミナヅキの所属する養成院は、当人曰く多様で複雑怪奇な人間模様が観察できる場である。

 まず、教会の運営する孤児院から選抜された内部組という派閥がある。彼らは仲間意識が強く、容易に外部組の者とは打ち解けないという。

 次に、教会組織に伝手をつくるため送り込まれた貴族の跡継ぎではない子弟や富豪の子などの余裕のある外部組。

 そして養成院は、近隣一帯でほぼ唯一の教育機関という側面もあるため、ミナヅキのように後ろ盾も金もない者もいる。これも区分は外部組。おおむねハングリー精神に満ち溢れた付き合いにくい人種だとか。


「……なあミナヅキ。もしかして、ボッチ?」

「ボッチじゃないですよ! 誰がボッチですか! 失礼なこと言わないでください」


 当人が強く強く主張するのだから、あえて触れないのも優しさかと俺とハヅキは口をつぐんだ。

 知識という点で、また護身術とその一環の闘気術の指導で俺たち三人をリードしてくれているミナヅキだが、教会の養成院暮らしは楽ではなさそうだ。

 渋い声が素敵な素晴らしい上司と、村にいるときとは比べ物にならない寝食生活に恵まれた俺は、黙って頭を下げるしかない。

 ネイトナル様がどれくらい素晴らしい上司かというと、紙束を抱えて戻った俺に笑いかけられたことでもわかるだろう。


「買い食いにでも使うかと思ったが、そうか、紙か。ふふ、ふふふふ」


 翌日、夕方まで席を外すとのたまわれたネイトナル様が工房を出たあと、作業台上にわざとらしく小冊子が残されていた。


 盗めということなのだろう。

 ああ、遠慮はしない。急いでざっと目を通して全体像を把握。ポーション製造の基本手順書のようだ。

 工房オペレーションの合間の隙間時間に急いで写し取る。

 夕刻、工房に戻ってきたネイトナル様は作業台上を確認。残念、そこにはない。そこは作業台だからな。ネイトナル様の書類机のほうに返しておいた冊子に目を止め、次に俺を見る。


(やったか?)

(やりました)


 互いに言葉にはしないが、通じたと思う。ネイトナル様は目を細め、喉の奥で笑ったようだった。


 写し取った手順書を読み込み、実際の工程と照らし合わせる。

 おおよそはこれまでの作業の中で予想していた通りだったが、その工程の意味や気を付けるべき点の但し書きなどは参考になった。

 なにより答え合わせができた、ということが嬉しい。

 ただ、いわゆる暗号なのか、単に俺が知らない単語や言い回しなだけなのか……迷ったときは聞いてみよう。


「なるほど、秘匿したいもの、秘匿せざるをえないものは暗号化するのはよく聞く話だが、このような通常の作業書やレシピは売買するため特段の秘密はないぞ」

「ではこの『小さな女神の一滴ひとしずく、泣かず笑わず眼をそらさず。』というのは?」

「……詩的表現というものが流行った時代があってな」


 ネイトナル様は遠くを眺めてつぶやいた。

 微妙に震えた声がまた渋い。

 なお件の表記は、「細心の注意を払って」程度の意味合いで読めばいいらしい。

 うん、まあ。十分に暗号化しちゃってますよこれ。そうでなくとも、前世基準で考えるとあいまいな表記が多いのだ。


「ついでの話として覚えておけ。我がニートナル家では『精力剤』のレシピを秘伝としている。素材も、薬自体も、毒なのだ。ゆえに非公開の秘伝ということになる」

「それは確かに、公に広めるようなものではなさそうですね」

「だが、自己顕示欲というものはやっかいでね。名を成したい残したいという思いは、決してなくなることはないのだ」


 憂い顔、というのだろうか。

 工房の書類机を前に、深く息を吐いたネイトナル様に影がさした。


 日はどんどん短くなり、秋が過ぎ、寒い冬が来て、俺たち三人とも、二個目の魔石チャージができてしまった。

 今度は三か月かかってない。


「魔力制御の腕というより、一回分、一日に送り込める魔力の量が増えたのではなかろうかと愚考する次第である」

「つまり、ウヅキ氏は僕たちの魔力量は成長していると主張なさると?」

「自分、朝の錬気瞑想、あれで取り込める気の量も増えてる気がするねん」


 このころになると、魔力と闘気とは同じものだろうと俺たちの中では結論付けていた。

 根っことなった技術を伝えた種族の違いと、目に見える発現の仕方の違いというだけで、用いる『パワー』としては同じものであろうと。

 世界のどこかには、俺たちの推論を裏付ける資料や研究結果があるんじゃないかとも思う。


「体外の気、つまり魔力を取り込む錬気瞑想と、体内の魔力を制御して外に出す魔石チャージの相乗効果、あると思います」

「……テンプレ風に解釈するなら、魔力袋を広げて総量を増やす吸収と、使い切って防御反応で総量を増やそうとする放出、ですかねえ」

「つまり、『才能』やな」


 ドヤ顔をさらしたハヅキのぼっさぼさの赤髪をくしゃくしゃにしてやった。

 冬の間はともかく、春になったら切ってやらないとあかんな。できれば石鹸も使ってやりたい。今度の魔石の代金で石鹸分けてもらえないか聞いてみるか。


 定期的に刈り揃えられるミナヅキの頭部が寒々しい季節もやがて過ぎ、春が来て俺たちは数え七歳になった。


 そう、七歳である。

 乳幼児の高死亡率時代をクリアしたとみなされる歳である。俺たちは教会広場に軒を並べる屋台でささやかな祝杯をあげた。

 ブドウの搾りかすに水を加え……要はブドウ水だ。問題ない。

 ちょっとした贅沢をする余裕が生まれたともいう。紙や鉛筆、ついでに石鹸もちゃんと買っている。

 ほどなく、三個目の魔石チャージも終了。二か月強。鍛錬の成果が出ているのだと、またしても祝杯をあげた。


 俺とネイトナル様の阿吽のやり取りはともかく、特筆することもない日々が繰り返して本日は夏至祭。

 いつもの教会前広場に集った俺とハヅキは、ミナヅキの友人たちを紹介された。


「やあ、君たちがミナヅキご自慢の親友だね」

「ふーん、まあ、よろしく」


 養成院の候補生、男女四人。イマジナリー・フレンドじゃないよ。



【メモ】

 『ブドウの搾りかすに水を加え~』

 地域により呼び名は異なる。ここではあくまでブドウ風味の水ないしは水マシマシの低品質ワイン。

 イタリアではワインの絞りかす「ヴィナッチェ」に水に加えて発酵させると「ヴィネッロ」。さらに蒸留で「グラッパ」。

 搾りかすで発酵させただけのワインを「ポマースワイン」や「ピケット」などとも。

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