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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第2章 三人の転生者《イレギュラーズ》、修行回に突入する

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2-05.大銅貨一枚

 すべては不幸な事故、そういうことになった。


 エンダー村出身の仲間、ホセの墓場参りから伯都への帰路にて、突然気絶したハヅキに俺とミナヅキは右往左往した。

 とにかく呼吸と脈をみて、生きていることを確認。ちょっと場所を移して日当たり風当たりに配慮する。

 意識を取り戻したハヅキはまたぐらに残る湿り気に顔をゆがめたが、その程度で済んでよかった。


「魔力ってのは命の、魂の力そのもの。なくなりゃ死ぬ」

「ふぇええええ」

「気絶ってのは、その手前でとめる防御反応なんだそうだ。魔力コントロールがうますぎると、本当に使い切って死ぬ、らしいぞ」

「ていうか、ハヅキは魔石に魔力を送りこめたんだ……」

「最低限、魔力制御できたってことではある」

「フンスッ!」


 俺とミナヅキは、胸を張るハヅキのまたぐらからそっと目をそらした。

 しばし、負けじとミナヅキもうんうんうなっていたが、あっと声を漏らして魔石を取りこぼした。


「やばい感じがした。こう、ぐわっと全身の力持っていかれるような」

「ああ、自分もそれ感じた。で、次の瞬間には意識とんでたっぽい」

「魔力の制御訓練はともかく、たまれば換金してもらえるからな」


 クズ魔石に魔力を送り込み、チャージが十分になれば買い取ってもらい金に換える。夢の広がる話である。


「では、最悪気絶してもいいように寝る前にチャージを試みるようにしますか」

「ミナヅキの錬気瞑想は寝起きにやってみるよ」

「もし、闘気術でいう気と魔力が同じものなら、相乗効果があるかもな」

「違っていても、損をするわけではないですしね」


 この日より俺たち三人は、魔石チャージでの魔力制御訓練と、闘気術のとっかかり、体外の気を取り込む訓練の両方を日課とした。

 もちろん寝る前にはトイレタイムを済ませて出し切ること。不幸な事故は予防しなければならない。


 週に一度の安息日会合で互いの状況や学習成果を共有しあうものの、錬金術師の名を冠するポーション工房の下働きの俺と、数多くの丁稚を抱えるノウブラウンド商会でのハヅキの生活にそうそう目新しいことはない。

 勢い、系統だった知識を教え込む座学の有る、教会の養成院所属のミナヅキが教師役をやることになる。


「……とまあ、教会の都合という色眼鏡は入っているんでしょうが、この世界での人間ヒュム種や他種族との関係、文明度など、今週の学びのまとめです」

「助かるわ。それにしても自分、教えてもらってばかりやなあ」


 ハヅキだって、ノウブラウンド商会でのあれやこれやをざっくり共有してくれている。

 ただし俺もそうなのだが、働き手として勤めている関係上、得られるものが知識よりも実技に寄っている。

 もちろん実技なので、経験を積むことでいわゆる技能スキルに結びついていくはずなのだが、ゲームと違って数値的に見えたり効果がはっきりわかったりするものではない。

 ハヅキでいえば将来的には商人系で必須となる計量・算術の類はもちろん、目利きとか交渉とかも会得できる可能性はある。可能性を掴むためには、場数を踏むしかない。

 ミナヅキのように口頭で伝えられることには限りがあるのだ。


「僕にとっても二人に教えるのはいい復習になっています」

「他人にものを教えるには、教える内容を理解、整理できていないとってやつでんな」

「当面、知識はミナヅキに頼るしかないだろ。俺、ようやく何種類かの薬草を見分けられるようになってきたけど、ひたすら場数踏んでだし、二人の今に直接役立つものでもないしなあ」


 絵図入りの薬草本というものはある。

 というか、最近は仕入れた薬草の判別を試されていて、ネイトナル様にお願いして実物と掲載ページとを比較させていただいている。正解率はお察し。

 これは俺の言い訳ではなく、実際にそれくらいに難しいのだ。

 知識として個々の薬草の特徴を掴むこと、違いを把握すること。そのうえで、現物相手に知識との差を埋めること。

 クッソ悔しいのは、違いを指摘されても俺にはわからないことだな。


「うんまあ、自分も、技能スキルの会得なんて場数踏むしかないのは承知やで。そのうえでこー、なんちゅうか受け取ってばっかはあかんよねって」

「大器晩成ともいいますし、知識は先行しやすいってことでひとつ」

「何事も、一朝一夕にはならんさ。魔石チャージだって、ちっとも進まん」

「それな」


 クズ魔石にチャージして、買取にだしてお小遣いゲット作戦はとん挫していた。

 ミナヅキのいうように、毎晩の寝る前チャージで魔力を送り込めているという実感はある。ただ、ちっともたまった感じがしない。


「魔力を送りこめてるって実感はあるんですけどね」

「朝の錬気瞑想も続けてるし、うまくいったときの腹の底から熱くなる感じも増えてきてるんだが、闘気術のとの字も再現できてないしなあ」


 身体を動かす柔軟体操やらミナヅキ経由の護身術やらの鍛錬と違い、魔力や闘気の自己鍛錬は結果が見えないことが俺たちのモチベーションを下げていた。

 いや、いいのよ?

 魔力制御の訓練はともかく、とにかく魔石にチャージがすめば金になるはずですしー。


「今やっていることが、理論的に最適ベストな方法かはわかりません。しかし、現状知りえた中での最善ベストな方法であるのは事実のはずです」

「まあなあ」

「それに、闘気術の錬気瞑想、まったく効果がないのであれば、教会、養成院だってカリキュラムから外すでしょう」

「そらそうやねえ」


 俺たちは、魔力と闘気とは実は同じものなのではないかと疑っている。

 最悪違っていても、闘気術は闘気術で修めたいものだし問題はない。


「仮に、魔力や闘気も適切な修練で伸びる身体能力だとすれば、前世のスポーツ系の理論を援用できるはずです」

「つまり?」


 拳を固めたミナヅキは言い切った。


「筋肉は、裏切らない」

「お、おう」


 スポーツ理論はともかくダイエット理論はよく知っている。

 まあその場合、初期は効果が出て停滞する時期をどう超えるかという話なのだが、初っ端から効果が実感できない俺たちにあえて援用するなら「信じて耐えろ」ということになるだろうか。

 朝晩の日課として習慣づけつつあったところでもあり、ここでやめるのも投資した時間が悔しいというサンクコストの呪縛もあり、闘気を取り込む錬気瞑想と魔石にチャージする魔力制御訓練は続けることにした。


 それぞれの下積み生活は充実しつつ、ファンタジー的な希望、魔法への憧れは開花以前に蕾があるのかどうか状態。

 「才能」という、ただ一言にこれほどまでの敗北感を生み出す力があるとは知りとうなかったなどとぼやきあい励ましあって、六歳の夏が過ぎていった。


 そんな日々のなかで、エンダー村から伯都に売られた仲間の一人、ホセの事件は意外な展開を見せた。


 俺たちが何かをなしたわけではない。

 ただしきっかけとなったのは、ハヅキがホセの状況から推測したことを丁稚奉公先のノウブラウンド商会で相談したことだろう。


 相談された丁稚仲間にしても、男児を狙う性犯罪者が野放しというのはまことに居心地の悪いものである。

 それでも、男児の尻狙いというだけなら悪所を避けろ注意しろで済まされただろうが、ホセは殴り殺されている。期間雇用賃先払い済みの雇い主にとってみれば、己の財産の棄損に他ならない。

 話は先輩丁稚から下女系統と番頭系統に枝分かれし、さらに上や横にも広がり、責任ある立場の者がホセの買い主だった鞣し職人集団とも接触。ノウブラウンド商会、取引先は広い。

 伯都に住まう少なくない商人・職人に注意喚起と情報提供を求める連絡が飛び交い、実にあっさりと容疑者の特定に至ったという。


 ……要するに、ホセ以外にも犠牲者はいたのだ。

 だが、個々には泣き寝入りするしかなかった相手。ツェルマット伯爵旗下の何某なにがしという騎士。

 かの方は訓練中に落馬、帰らぬ人となったという。


「商人こえぇ」

「ホウレンソウは大事っちゅうことやねえ」


 ハヅキはあらぬ方を見やってうそぶいたが、明らかにこう、裏向きの人材が活躍なさっちゃってません?


「なるほど、僕らの力ではどうしようもなくとも、後ろ盾の組織に働きかけることはできるということですね」

「まあ、自分もこう話が転がるとは思っていなかったわけで。丁稚仲間に注意喚起できればいいや程度のつもりやったんが」

「……きっかけ、だったんだろ。多分、上の方でも不良騎士の何某なにがしについては前々から因縁があったとか」


 組織の後ろ盾か。

 これから先も生きるうえでかかってくる問題や避けられない困難を、何が何で俺たち自身がどうにかしなければならないと思い込む必要はないと。

 気概はともかく、頼れる人やところがあるなら頼ってしまうのも手。伝手やコネも含めて俺たちのパワー。


「人は一人じゃ生きられないか」

「寄らば大樹の影ですねえ」

「……北欧神話には、世界樹イグドラシルをかじるニーズヘッグいう蛇がおりまんねん」

「きれいにまとめってとこで余計な要素入れるんじゃねーよ」


 まあ、ニーズヘッグでもいいんだけどね。

 組織内に潜伏しいつの日かを企図するなんて復讐者チックなシチュエーションは嫌いじゃない。嫌いじゃないけど、今の話の流れにあわないでしょーが。


 とりあえず、ホセの冥福を祈る。

 俺たちがグダグダできるのも生きていればこそ。その背後にある無数の死を忘れるなかれ(メメント・モリ)


「……なあハヅキ、最近しゃべり方変になってない?」

「変いうか、商人言葉っちゅうもんや。……自分、そういうのにも慣れないといけないんですよ」

「ああ、僕のほうでもありますよ。落ち着いた抑揚と飾るべき言葉に気を遣えって」


 そういうものであるらしい。

 社会的地位や身分、立場、階層、属するコミュニティそれぞれに相応しい言葉遣いがある、ようでもあるし、すごい身内感覚の延長のようにも見えるし。


「女子学園モノで流れる『ごきげんよう』とか『何薔薇の君』とかみたいなもんですって」

「OK、把握」


 なるほど、相応しい言葉遣いはありま~す。


 そんなこんなで秋深し。

 一代騎士ナンディール・ラ・ニートナルのポーション工房に、工房長のネイトナルの渋いお声が響いた。


「ほう、確かに魔力が満ちているな。ゲージはSI2(Strongly_Includ_2)にわずかに届かないがいいだろう、ご祝儀だ」


 パシン、と音を立てて台の上に大銅貨が置かれた。



【メモ】

 筋肉は裏切らないが、反乱は起こします。

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