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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第2章 三人の転生者《イレギュラーズ》、修行回に突入する

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2-04.魔石チャージ事件

 エンダー村から売られた子どもたち仲間の一人、ホセの身に起こった顛末は胸糞の悪いものだった。

 ある程度、背景事情の想像がついてしまい、なおかつ、それに対して打つ手がないということも気を滅入らせる。


「ウヅキの件の追及は、墓参り……墓はないかな。その他大勢だし。ともかくホセの冥福を祈ってからということで」


 いや、打つ手がないは正確ではないな。

 正確には、わが身の破滅をいとわない自爆テロめいた手くらいはある。あるが、じゃあホセのためにそこまでする義理はあるのかと。

 そも、打つべき加害者が誰なのかすらわかっていないのだ。

 仲間意識はあっても、ホセをしのぶ墓参りならぬ墓場参りですら、所詮は己の気持ちを整理するための儀式でしかないのかもしれない。


 伯都ツェルマットを囲う城壁の外にある無縁墓地に向かうため、門番の兵隊さんとやり取りを交わす。

 どこの誰かの誰何は特に記録などは取っていないようだが、職業柄、記憶力がいいのだろうか。それとも単に、俺たちのような子どもにシャカリキにならないだけなのか。

 さておき人数分の木札を渡される。なくしたら入市税払わないと入れてやれないからなと脅し付き。悪所スラムに近づくなとの忠告も付き。


 幸いにスラムとは違う方向に歩くことしばし、簡素な教会の付属する石で低く囲われた墓所に到着。基本、伯都の近郊は畑地とちんまりとした林くらいしかない。迷いようがない。

 墓守に挨拶して、道端で摘んだ花を比較的新しい土が見えている地面の一画に添える。


「あっけないもんだ」

「まあ、命の軽さはいまさらではあります」

「七歳までに、半分近くいなくなっちゃいますからねえ」


 墓地に長居するものでもなし、伯都に来てから初めての壁外散策だが特に見るものもなし。

 ぽつりぽつりと人影の有る街道を伯都に向けて歩きながら、俺への追及が始まる。


「で、思わせぶりにしてましたが、魔法薬液ポーション製造の秘密、掴んだんでしょうね」

「産業スパイきたこれ」

「いやまあ、すげー単純な話なんだが、魔法薬液ポーションは魔力で薬効を増強してるわけじゃん。だから、魔力がチャージされていないと、ただの薬液でしたという、それだけのことでさ」


 俺の上司、工房長のネイトナル様が薬液を瓶詰後に置いておく部屋で何をしているのか。

 こっそり様子をうかがったつもりだったが、いい笑顔で首根っこをつままれた。身長差が憎い。人間、頭上への警戒はどうしても薄くなるものである。


魔法薬液ポーションの仕上げ、魔力注入工程に興味津々のようだな」

「イエス・マスター」


 魔法薬液ポーションとは、薬効成分、魔力剤、溶剤、ついでに吸収・反応を助ける補助剤、栄養分、香料などで構成される溶液である。

 薬効成分を魔力で強化することで、傷がすぐにふさがるなどの即効性や強い効果が表れる。その魔力を溶液中の魔力剤に注入する工程、それが工房長のみが行い俺には縁がなかった工程だった。

 ただし魔力は揮発していくため、ポーションの有効期間は長くない。

 また、薬効にも有効な期限が自ずとあるという。そのあたりのぎりぎりをチューニングするのも錬金術師(薬剤系)の腕の見せ所だとかなんとか渋い声でレクチャーしてくださる。


 そうなんだよ。聞けば、教えてくれるんだよ。

 ただし、聞き方にこう、なんというか、こちらの熱意みたいな、そういうものがこもってないと軽くあしらわれるだけで。


 しからば魔力とは何ぞやと問えば、命ある者なら誰でも持っているものと返ってくる。

 では俺にも魔力があり、ポーションに魔力を込められるのかと問えば、前半は是、後半はしばし沈黙。


「なるほど魔力とは命の力と考えられ、誰にでもあるものである。しかしながら、それを体外に出すとなると相応の技術、魔力のコントロールを会得していない者には無理な相談となる」

「そんなー」

「また、魔力量という問題も付きまとう。世に魔法使いを志す者の多くが、これらの問題を解決できず道を断たれる」


 才能の一言で済まされてしまう話だと、我が敬愛する上司様は去れと言わんばかりに手のひらを振った。

 だが俺は知っている。こいつはフリだ。食いつかないようならばそれまで。あの手のひらは釣りで言うルアーのようなもの、誘われている……ゆえに全力でフィッシング!


「俺に才能のあるなしはわかりません。しかし、魔力とは何なのか、そのコントロールとはどのようなものなのか、知りたいのです!」

「はっはっは、無知とは恐ろしいものだな。そこまで言うのであればよかろう、手を出してみろ」


 ネイトナル様に促されるまま、俺は両の手を突き出した。

 その手を取ったネイトナル様の手のひらから、……うぉ、なんだこれ!


「うほぉ?」

「これが、魔力だ。私の魔力を手のひらを通しておまえに押し込んでいる」


 まず感じたのは熱気。次にピリピリした刺激。そして背筋がきゅんとなるやばい感覚の寒さ。

 そんな得体のしれないものが俺の中、血管……いや神経か? 手のひらから腕、腕から胸、胸から首と腹、といった塩梅で走り抜けた。

 うんぬんかんぬん。


「うん、わかった。ウヅキは憧れのダンディーおじさまとシェイク・ハンドでハートがドキドキってことだね」

「重症ですね」

「ちげーっての!」


 墓場参りからの帰路、俺の回想に無粋な茶々を入れるミナヅキとハヅキをどついて、手近な木陰に腰を下ろす。

 あたりに人影はない。


「前提として、誰でも魔力は持っている」

「『命の力』だもんね。教会管理下では高度に政治的な事情から魔力とはいわずに法力、魔法・魔術ではなく法術と呼称するけど、根っこは一緒だってさ」

「じゃあミナヅキは法術使いこと魔法使いになれるかも、なんだね?」

「いや結局、才能第一ってのはウヅキの話と同じでさ……」


 教会の養成院では、辺りを照らす光の術の呪文を唱える時間があるという。

 件の時間に光をもたらすことができた者は才能ありとして法術コース追加。養成院に数年いてもできない者は、どこかで諦めて専門職コースに入る。


「うーん。せっかくのファンタジー世界、魔法には憧れてたんですが」

「才能といわれちゃうとねえ」


 がっくり肩を落とすハヅキとミナヅキに対し、俺は不敵な笑みを浮かべて見せた。


「言っただろ、『誰でも魔力は持っている』と。魔力量のほうは才能かもしれんけど、魔力自体は俺たちにもある」


 ネイトナル様の受け売りになるが、魔法とは魔力操作の技術と魔力量しだい。

 そして魔力とは魂の力・命の力、だから心を強く持ち、魂を震わせ、強い意思で操作する。うんぬんかんぬん。


 俺は、ネイトナル様の手ほどきにより、魔力というものを感じることに成功した。

 不思議なもので、一度体験してしまえば、なんとなく、ああこういうものかとわかる。最初の刺激こそネイトナル様から送り込まれた、いわば異物ではあったが、魔力とはもともと俺の内にある力ではあるのだ。


「手を出してみろよ。ただ、俺だってなんとなくだし、抵抗されると通せないっぽいから、なるべく力抜いてくれよ」

「任せろ! 真剣ゼミでやったところ、ではなく数多の転生もので見た展開、初めてだけど受け入れ態勢はバッチリさ」


 手をつないで魔力を感じさせるなんて、言われてみれば定番テンプレだねなどとノリノリの俺とミナヅキに若干ついてこれないハヅキ。


「初めてだからとか力抜けとか、なんかその、困る」

「……」

「……」


「ちょ、おま、意識してまうやろ、そんなん」

「いやぁーん。ウヅキにおかされる~」

「仲良きことは美しきかな?」


 おバカなじゃれあいはともかくミナヅキ、そしてハヅキにも俺からの魔力をズビビビーっと送って異世界リアリティ・ショックを体験してもらう。


「これが、魔力だ!」

「さすウヅ!!」

「でかしたっ!」


 両手をにぎにぎし赤毛をゆさゆさゆすぶるハヅキと対照的に、ミナヅキは首をひねって宙を見上げた。

 ちょっとばかりショックが大きすぎたのかといえば違った。


「ウヅキの追及後、僕からの共有ネタのつもりでしたが、これ……この魔力ってやつ、闘気術のための錬気、瞑想で体外の気を取り込む訓練でうまくいったような気がした時の感覚に似てる?」


 養成院で教える護身術の一環に闘気術もあるという。もちろん、本格的なやつはそれこそ聖騎士コースなどへ分化してからの話らしいが、基礎修練として錬気なる訓練を行うそうだ。

 ミナヅキが俺たちに手ほどきをしてくれたが、腹で呼吸するだの背筋を伸ばして背骨沿いに闘気の炎が回るイメージだの、気を練るといわれればそうかな、という感じ。


「つまりですね、魔法・魔術と法術が政治的な区分でしかないように、魔力と闘気も同じものなんじゃないかって話です」

「確かに、エンダー村で見たオットーおじさんやカイアスの闘気術って、自分たち目線では魔法そのものでしたが」


 剣振って、纏わせた闘気を飛ばして遠距離攻撃。この世界では闘気術というらしいけど、俺たちからすれば魔法であったことよ。

 ただし、神話伝承だと、魔法・魔術はエルフやゴブリンなど、闘気術・闘気法はオークなんかが由来の技能スキルのはずだ。


「力の根っこは同じで、発現の仕方、制御技術の流派の違い、みたいな?」

「けど、錬気瞑想って『体外』の気を取り込むんだろ? 魔力はそれぞれの命の力やぞ」

「……それこそ、『星の力』的なパワーとか」


 三人で頭をひねったが結論がでるはずもない。

 俺たちで思いつくことならば、過去に凄い人たちが検証している可能性が高い。魔力と闘気の関係解明は先々への課題とし、今できることやるべきことに切り替える。

 俺は懐からカス魔石を取り出して二人に渡した。


「これに魔力を注入していくのが魔力コントロールの訓練になるだろうってさ」

「これが、魔物から獲れる魔石ですか」

「そのカスな。魔力を使い切ったゴミ。だけど、再チャージできれば差額分で買い取ってくれるって」


 カス魔石といえどポーションの魔力剤のもとであり、また、魔法使いにとっては魔力チャージして差額を稼ぐことができる商材でもあり、一山いくらのジャンク値とはいえ取引されている。

 俺の渡したカス魔石は工房の備品であり、もちろん工房長ネイトナル様から許可を得て持ち出している。


 魔力の制御訓練の効果はともかく、チャージすれば金になる。

 成人までの期間賃金はすでに全額ピンハネされ済みの俺たちが自由にできる金を手にする手段、そのとっかかりにミナヅキとハヅキも食いついた。

 真剣な顔でカス魔石を握りしめ、集中力を高めている。


「むむむ……」

「ただし、魔力とは魂の力・命の力。魔力切れはすなわち死って……おおおおおい!!」


 俺たちの目の前で、突如、ハヅキが白目をむいて崩れ落ちた。

 その腰の下に生ぬるい水たまりが広がる。



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