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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第1章 三人の転生者《イレギュラーズ》、出会ってしまう

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1-11.俺たちは動揺した

 俺たちは動揺した。

 無理もないはずだ。春、新年の始まりの日の狼の群れ発見に続き、ゴブリン流民集団とのエンダー村防衛戦、やっと落ち着きが出始めたところでの凶報である。


「ご領主様がられた!」

「オーガだ! オーガが出た」


「ねえちょっと、運営さん、イベント連発しすぎじゃないですか?」

「ウヅキ、何の話だぁ?」

「とにかく一度村に戻るぞ」


 直上の兄スコールにうっかり独り言を聞かれてしまったが、親父殿の鶴の一声でうやむやにできた。

 うちだけでなく一家総出で畑仕事に出ていた連中そろって急ぎ集落に戻り、詳しい事情を知った。


「相打ち、か……」

「奥様……、不意をつかれなければ、このようなことには……」


 クルップおじさんが泣き崩れた。

 オットーおじさんの遺体を背負ってきたものの、自身も深手を負っていたようでそのまま意識を失う。

 無表情な奥様の差配でクルップおじさんと猟師のおっさんの傷の手当、物言わぬオットーおじさんの検分、連れ帰れなかった同行していた村人の遺体の場所の確認など、矢継ぎ早にやるべきことが決定し誰それに割り当てられていく。

 今日ばかりは男前な顎も鳴りを潜めた末姫様が、奥様のスカートにしがみついている姿が印象的だった。


「ふぅ……ああ、そこのヅキヅキッズの三人、ソウニャについていなさい。ソウニャ、お部屋で静かにしているように」

「母様?」

「騎士たるもの、戦士たるもの、戦場に出れば生きるか死ぬかです。母は領主代理としてすべきことがあります。厳しく聞こえるでしょうが、今はソウニャにかまっている余裕がありません」

「……わかり、ました」


 さすがにイレギュラーズだと訂正もできず、俺たちは末姫様とともに領主館に入った。

 ただ末姫様は自室ではなく書斎に入り込んで、俺たちに向かって本を投げつけてきた。


「父様が不覚をとるなど、オーガとはどれほどのものか! 調べなさい」


 言い放つと、自身も一抱えもあるような大きな本を引っ張り出して床に広げる。

 オットーおじさんのことは嫌いじゃなかった。うちの今生の血縁上の父よりも好きだったとさえいえる。まあ、家族であり予備の予備の予備でしかない男児と、領民のガキとでは扱いが異なるのもわかるのだが、よりよく扱ってくれるほうに親しみを覚えるのもまた自明の理ということで。

 そんなオットーおじさんが死んだ直後にもかかわらず、情報収集のチャンスと思ってしまった俺は人でなしの不謹慎野郎かもしれない。


 四人がかりで調べた結果、オーガとはゴブリンが魔獣化したものだということがわかった。

 小鬼ゴブリン闇の恩恵を受け(ダークサイドに堕ち)食人鬼オーガと化すのだという。


「闇の恩恵って何よ」

「えーと、こっちの本のここ、『我々が試練の迷宮で神々からの恩恵ギフトを授けられるように、滅びの力を宿した獣や人のことを俗に闇の恩恵を受けたという』とあります」


 書物の名前は『試練の迷宮攻略記』。

 他の本のように羊皮紙に豪華装丁というものではなく、領主館で見た限りではそこそこの質の紙を綴っただけの冊子で、オットーおじさんもよくめくったのか手垢なども残るよれよれの本である。

 担当として中身を確認したミナヅキがいうには、多少物語仕立てになっているが、攻略本の類らしい。試練の迷宮の意味や各階層に出現する魔物、恩恵を得る方法などが載っていたという。


「身長は二メートルを超えるなど、素体となったゴブリンとは比較にならない強靭な肉体、高い回復力、そして人肉食を行う……知性は劣化しているようですが、単純なパワー勝負だと人間ヒュム種を凌駕するようです」

「でも、父様には闘気術だってあったのに!」

「不意をつかれた、という話だったからな。正面切ってのタイマンならともかく、奇襲だったんだろう」


 後に聞いたところでは、先の戦で逃げ散ったゴブリンの子どもの群れを始末していたときに、左手横合いからオーガの突撃を受け、それで負った傷がもとで十全の力を発揮できなかったという。

 それでも相打ちに持ち込んだのは大した武勇となるらしい。オーガとは、それほどの相手なのだ。


 オーガについてひとまずの調査結果がでてのちも、末姫様は読書に没頭された。

 まるで触れるなと言わんばかりの堅い態度に、俺たちもあえて慰めなどはせず、ただ同じ部屋で過ごした。いささかオットーおじさんの遺伝子が仕事しすぎた顔立ちは俺の好みではないが、涙を見せなかったのはさすがの男前だと思う。


 前世におけるヨーロッパ中世での羊皮紙の装丁本の値段はエグイものだったはずだし、今世でも事情は似たようなものだと思う。

 手書きで写本している限り最低限のコストというものが高止まりするので、紙の本であってもそれなりの値段はするだろう。

 なので書斎に納められた約三〇冊、これが多いのか少ないのかの判断はつかない。

 ゴブリンの社会形態だの文化だの、所蔵量に対してゴブリンに関する書籍が多い気がするのは、森を挟んで対峙する間柄ゆえのものだろう。


 なお余談になるが、いわゆるゴブリンについて、緑がかった皮膚やとがり耳、薄い頭髪といったどことなくおなじみの情報に加え、他種との交雑は一世代限り可能だが、そもそも論としてゴブリン種の美的感覚等はゴブリン種に最適化されている……などという、重要だけど何の役にも立たない情報を得てしまった俺が渋い顔をしたことは三人のなかだけの話である。

 まじめな博物誌系の書籍のようだし、純粋に医学とか生物学とかそういう記述内容なのだろう。

 この世界では、異種族間で薄い本が厚くなるようなこと、情熱の迸りが起こることはまずない。それでいい。そういうことにしておこう。


 続く幾日かも、領主の死という重大事案に村内はごたごたした。


 狼の群れを押し出したのがゴブリンの流民集団であり、ゴブリン集団を流民化させたのはどうやらオーガだったらしい。ここで問題は、はたしてオーガは一匹だけであったのか。

 村の大人たちの結論は否であった。

 いかにオーガと言えど、ゴブリンの村一つを一匹で崩壊に追い込むほどの力はないはずというのがその理由である。

 発生源は魔物溢れからの闇落ち魔獣化か、などと推測を重ねつつも、いつ二匹目、三匹目が近隣に出現しないとも限らないという問題の解決法にはつながらない。

 オーガほどの脅威ではないにせよ、狼やゴブリンたちの残党も、まだ付近の森に潜んでいるかもしれない。


 森への出入りどころか、畑仕事にも制限がかかった。ただでさえ男手が減っていたところに、耕起に十分な時間を確保できない。耕起ができないと玉突きで種まきも遅れていく。

 村内に不安といら立ちが募り、奥様の目元に隠せないくまが浮かぶころ、カイアス若様が帰村した。


 上位者である伯爵のもとで勉学修業に入るチビ若様の護衛兼案内として伯都へと向かってから、おおよそひと月が過ぎている。

 伯都と村の往復にかかる日数に加え、伯爵様にお目通りを願い出てかなうまでの待機時間、あいさつ回りにチビ若様への伯都の案内や手引き等々。

 仕方のないことではあったが、ほぼ一か月にわたる不在は村の上に重い影を落としている。

 若様の帰還まで気を張っていたのであろう奥様は寝込んでしまったし、寝耳に水の親の死に、急遽領主仕事の引継ぎをせざるを得なかった若様にしても心労は察して余りある。


「んだば、森んなかは若様たちが掃除なさるっちゅうことで?」

「ああ、まず半日の範囲、急ぎ片を付ける。おまえたちはとにかく畑を耕し、一刻も早く種まきを済ませてくれ」

「わかんだが、例年並みは無理だべさ」

「それもわかっている。この際、実入りが落ちることは承知で時期遅れでもまくしかない」


 新領主に就任した若様にのしかかった問題は、食料不足である。

 森の安全確保に関しては、現在の村の最高戦力である若様チームでどうしようもなければどうしようもない。

 だが、時期というものに左右される畑作業の遅れは、遅れるほどに収穫逓減をもたらす。しかも男手が減っており、耕作面積も例年より狭まることは確実であった。

 若様チームによる安全確保と並行し、俺たち子どもも総動員した農作業は夏至祭、季節が夏になるまで続いた。


「足らんな」

「ああ、足らんべさ」


 本来なら春期の耕作をねぎらい憩うはずの夏至祭のあちこちで、そんなヒソヒソ声がささやかれる。

 祭りを主宰するカイアスに、こちらも重症で引退した父に代わり家臣団トップに躍り出たキルビスの主従もまた、暗い表情を隠さない。


「よくて例年の七かけか。むしろそこまで盛り返したことを誇るべきかもしれんな」

「耕作地自体は八割確保したが、実入りが悪くなる分見込むとよくて七分、下手すると六分だぎゃ」


 エンダー村の食料収支を明確な数字として知っているわけではないが、俺の生家が農奴であり、俺自身の家内序列が下っ端で配給量がお察しという点を差し引いても、村全体が貧しいことは間違いない。

 食料収支にさほど余裕のない状態の村で、さて収量が三割減るというのはどれくらいの事件か。


「収支トントンの場合で、単純に人口の三割に食べるものがないということになります」

「実際には若干の余裕はあるだろうし、上位者、隣村なんかから買うなり借りるなりの分をプラスして、全員の食事量を減らすなんかもするはずだ」

「それでも、人口の一割から二割弱に相当する分量が不足するかな」


 足りないものは足りない。

 全員で飢えるか、労働の主力に傾斜配分を行い弱者を切り捨てるかとなると、まあ、後者になるだろう。そういう時代、世界だ。


「大人換算で五から十人、できればもうちょっとが切り捨てたい余剰人口ということになるでしょう」

「口減らしですか……」


 久々に館から出てきた奥様が、若様と何事か話し合っている。

 やつれた奥様のスカートのすそを掴んだ末姫様が側に立ち、こちらも頷いている。エンダー村の領主、エンダー家の意思決定がなされた。


「みな、聞いてくれ」


 若様の声に三々五々、村人たちが集まる。


「春に、弟のセオルドを伯都まで送り届けた時のことはすでに伝えたと思うが、ここで改めて話そう」


 曰く、伯都では冬のはやり病で結構な数の死人が出ていたという。

 それがどうしたと首をひねる村民に、若様は「だから」と続けた。


「伯都では働き手、それも子どもたちに任せる丁稚や見習い下男が不足していると、俺は見聞きした」


 ああ、そうですね。はやり病というやつは、弱い者へと牙をむく。大人よりも子どもに死人が多かったことでしょう。

 そして、こっちには減らしたい口がありますよ、と。


「俺自身の代替わりの報告と承認も得なければならない。よって俺は早急に伯都へと向かい、その際に、子どもたちの何人かを丁稚・見習い下男として街へ連れて行こうと思う」


 そう言った若様の目は俺たちを捉えていた。


「あれは、決定という目ですね」

「人生とはクソゲーである」

しかり」


 俺たちの意思とは関係なく、勝手にシナリオが選択されイベントが進行していく。これをクソゲーと言わずしてなんと言おう。



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