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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第1章 三人の転生者《イレギュラーズ》、出会ってしまう

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1-10.俺たちの初陣

 俺たちの初陣。

 そういうことになるだろう。数え六歳になったばかりの春、俺たちはゴブリン集団から村を守る防衛戦に頭数として参加していた。


 この世界におけるゴブリン種はいわゆる魔物ではない。人類の一種であり、独自の文化を有する文明社会を運営する勢力である。

 エンダー村の前に現れ布陣したゴブリン集団は、流民の類であるらしい。そして人間ヒュム種勢力の先鋒たるエンダー村としては、異種族が近隣に根を張ることを許すわけにはいかない。


 といった背景事情から、相互に敵として決戦せざるを得ない状況で対峙し、戦始めの笛の音、掛け声、雄叫びとともに矢合わせにて戦端が開かれた。

 投石隊として戦力配置された俺たちの戦争は、ひどく間延びした時間をただ耐えることから始まった。


「弓持ちはどんどん放て。ワッパどもは構えろ、ひきつけるぞ」


 やや緑がかった肌色の壁が地響きを立てて迫る中、オットーおじさんはなかなか石を投げさせてくれない。

 いくら堀と柵を挟んだ向こう側とはいえ、逆にいえば頼りない堀と柵しか身を守る防壁はないのだ。

 双方ともに矢を射れる人材は少ないようで、おまけに楯で防がれてもいる。確かな損害は与えられていないように思える。


「よーし……投石隊、放て! 放て!!」


 ようやく解禁された、オットーおじさんの指揮のもとひたすらに石を投げるだけのお仕事。

 といえば簡単そうだが、現実に敵と向かい合う状況は手に汗握るどころか膝がっくがくで喉も渇く。

 後に振り返れば、思考も視野も極端に狭くなっていたように思う。柵の向こう、迫りくるゴブリンたちしか見えず、目を離すこともできない。


 クソッ。柵に当たっちまった。焦っているのか、次の石を拾うおうとする手が震えている。

 とにかく棒に石受けを備えただけの投石器を振り抜く。

 狙って飛ばせるものではないから、とにかく集団にむけて投げ込む。とんでもない方向にそれたり、楯で防がれたり。

 お、当たった。ったか? 膝上あたりに当たったゴブリンが倒れ、集団に埋もれる。あれは俺の投げた石だぜ。

 げぇ、矢が飛んできてる……


「ひぃッ」

「フンスッ」


 やべぇよおっさん、矢を切り払いやがった。


「ビビるな! 勝っているぞ、とにかく放て」


 チクショウチクショウ。

 なんで俺たちはこんなに小石を集めてしまったんだ。ストックがなくなれば退けるのに。そうだよ投げ尽きれば退けるんだよ。

 ああもう、なんで石が減らないんだ。


「よしっ、ワッパどもは退け! 槍持ち柵に張り付けぇ!!」

「オラァアア」


 突然の解放宣言。

 怒号と怒号がぶつかり合う。雄叫びを背に、俺は引きつる喉のせいで息がうまくできず、苦しみ喘ぎながら館まで走った。

 投石隊として配置されたのは原則七歳以上で大人未満の子どもたち。六歳台は俺たち三人だけである。つまり、全員年上。


「見てたか? おいらの一撃で脳天弾けてたぜ」

「ふかすんじゃねーよ。有効打ならオラのほうが数当てたっさ」


 領主館という安全地帯に逃げ込んで、水を口にして人心地。

 恐怖の裏返しか、戦場での興奮の続きか、妙に威勢のいいことを言いあう連中の中には、俺の直上の兄スコールの姿もあった。このところシスティナとの仲は芳しくないようだが、男連中でつるむほうが楽しい時期なのかもしれない。

 兄のことは放置して、俺はミナヅキ、ハヅキと合流した。


「またしてもパニック! 戦場いくさばでの醜態、オイは恥ずかしかっ!」

「ウヅキどん! 介錯しもすか?」

「ウヅキもミナヅキも、たまに妙な小芝居するよね……」


 ハヅキが大げさに肩をすくめる。

 すいません。


「……なんであいつら退かないんだ」

「退かないんじゃなく、退けないのかも」

「迷宮溢れで集落がつぶれた流民という説を採ると、春先の今、食糧事情なんか最悪になってるでしょうし、戦えるうちに戦うしかないとか?」

人間ヒュムの勢力圏に入り込んでしまった以上、女子ども抱えて動き回るのも難しいでしょうしねえ」


 ここで逃げても先がない。ならば生きるため、略奪のために女子ども含めて玉砕覚悟で仕掛けるしかない、のだろうか。


「先の狼の群れは、このゴブリンたちに押し出されてきたと考えるのが無難か」

「……下手をしなくとも、このゴブリン集団もまた、押し出されてきたと考えられているわけで」

「森向こうで迷宮溢れがあったとして、ゴブリンたちを押し出した魔物の波、こっちまで押し寄せてくるほどの影響はあるんでしょうか」

「わかんねえが、やばいのかも」

「どう転んでも、森の勢力図が変わってしまったのは事実でしょう」

「といって、その程度のことはオットーおじさんたちだって気付いているはず。自分たちにできることもありませんよね」


 投石器という参加券(権)では、森の勢力変化対応クエストには参加できないだろう。

 ただなあ、むやみに参加可能イベントを増やしても、今回同様の望まぬ強制イベント進行に巻き込まれる可能性にも気が付いてしまった。

 末姫様のご学友を任ぜられた三か月では、領主館所蔵の書物を読みつくすことはできなかった。各種判断のための基礎知識の不足は今なお続いているといえる。


「末姫様のご学友を解任されたのは痛かったな」

「逆に、望外の幸運だったと思うしかないです。読み書きの習得に加え、少なくない情報にアクセスできたわけですし」

「写本、させてもらえないかなあ。写本自体は手に入らなくても、とにかく一度読んでおければ」


 お役目を終えた俺たちが脱力しながら取り留めのない話題に転じたころ、エンダー村防衛戦は佳境を迎えていたらしい。


 前提条件として、相手のゴブリンは略奪隊のような荒事専門部隊ではなくどこぞの集落の一般民。こちらも農村民でイーブン。

 もちろん、農民が弱いわけではない。兼業者と専業者を比較したら、専業者のほうがより習熟度が高いだろうという話である。

 ああついでに、技術と並んでマインド・セットの差もあるかも。戦い殺すことに向けた思考訓練、心構えができている者とできていない者とでは、やはり違うだろう。

 普段の力を出せずパニックを起こしていては、まともな判断なんてできやしない。ついさっきの実体験からそう言える。


 加えて食料事情、ヒュム種とゴブリン種の体格、森をさまよってきた直後の疲労度、防衛施設の有無。

 とどめは特殊ユニットの差か。

 ひそかに心配した魔法使いは存在せず、騎士であるオットーおじさんやその従者のクルップおじさんは、文字通りの血風をまとってゴブリン集団に斬りこみ、おさクラスのしるしをとったという。


 一般に、陸軍系の部隊では構成員の三割を失うことを全滅というが、これは純粋な前線戦闘員の数がそれくらいとも、組織を回すことができなくなる限界とも。

 ゴブリン集団は軍事用語的な意味での全滅ではなく、ほぼほぼ文字通りの全滅をした。女子どもであろうと、手あたり次第の根切が実行された。


 かくしてエンダー村は防衛に成功したが、撃退しました終わりとはならない。戦の後始末をしなければならない。


「俺たちも、殺したんだよな……」


 死体の処理を進めるなかで、結構な数の骨折、打撲のあとに気が付く。

 投石器による攻撃は、命中率はともかく、楯で防がれればともかく、当たりさえすれば十分な威力を発揮したのだと確認できてしまった。


「正直なところ、思ったほどには動揺してないなというのが印象です。小魚にしろリスにしろウサギにしろ、さんざん命奪ってきたのもあるんでしょうか」

「殺し、命を奪うのにも慣れはあるのかもなあ」

「今回は明確に敵でしたしね。ただ、ああいうの見てしまうと、ちょっと、ね」


 ハヅキの視線の先に、木の棒を加工したものらしい人形が転がっている。

 持ち主だったろうゴブリンは、背中をざっくりと耕されていた。


「やめてくれハヅキ、そのジツは俺にきく……」

「とっさでネタでてくるのも不謹慎な気がしますが、いわゆる冒険者なんていったらコレが日常茶飯事なわけでもあり」

「前世は前世として、はやめはやめに今生にアジャストしていかないと無駄に苦しむことになるだろうね」


 俺たちは上に木人形をのせた件のゴブリンを手分けして持ち上げると、森の際付近で穴掘りを続ける大人たちのもとへ運んだ。

 死体を野ざらしにして、また狼など呼び込んでしまっては元も子もない。畑としても使えない。

 戦場になった畑に穴掘って埋める手筈である。


「どうせもう、この畑は数年は使い物になんね」

「くそが、肥料になりやがれ」

「あー、はぐようなもんもねーべな、放り込め」


 俺たちの運び込んだ子ゴブの死体を一瞥し、すぐ目を離す。

 剣槍ナイフは当然として、棍棒だったり弓矢だったり、衣類や持ち物も剥ぎ取り、金目の物を身に纏わないキレイな体にして穴に放り込んでいく。


「こいつ、銭もってたぜ!」

「ちょろまかすなよ、いったん全部お館様んとこで集めるってはなしだべさ」

「ゴブどもの銭なんかギらねーよ。使い道ねーじゃん」


 伯都など多くの商人が集うような場所でなら両替できるはずだが、村での生活ではゴブリン勢力圏の銭の使い道はない。

 対して鉄製品や衣類は貴重品だ。

 というか、布ってめっちゃくちゃ高いのね。俺たちの纏う継ぎはぎだらけのぼろきれでさえ、売れば幾らかの銭になるらしい。


 対狼戦に続き、またしても大人の男に死傷者を出した村として、戦利品の回収は見逃せない臨時収入となる。

 そも防衛戦という時点で損確定だと思うが、トータルで損であっても損失を減らす努力はしなければならない。

 数日がかりの後始末と並行して勝利の宴とともに論功行賞も行なわれた。武勲優れたる者への褒賞や遺族・重傷者への税の一定免除、特別配給など。回収した戦利品とエンダー家の備蓄から支払われる。


 俺たちにも戦利品のなかから小ぶりなナイフを渡された。

 社会慣習的な意味では、マイ・ナイフというものは本来は七歳以上、下手をすると成人の際に渡されるものである。子どもではなく一人前……とはいわなくとも半人前と認められたという証になる。

 それが俺たちの得た戦の褒賞、ゴブリン殺しの対価であった。


 先の、狼の群れの残党、そして今回の逃げ散ったゴブリンへの追い打ち。

 エンダー村の生活圏に邪魔や脅威が残存しないよう、確実に仕留めるため、オットーおじさんクルップおじさん猟師のおっさん他数人が継続して森に入る。


 春の日々が戦と後始末で過ぎていき、畑仕事に遅れが出ている。

 男手が減った家、重症者を抱えてしまった家、畑が荒らされた家。

 俺の生家にも戦の悪影響がダイレクトに出ているが、さりとてご領主様に文句を言ってもはじまらないわけで、戦の興奮の抜けた村内には疲労感や諦観めいたものが漂っていた。

 村に凶報がもたらされたのは、そういう日々の中であった。


「ご領主様がられた!」

「オーガだ! オーガが出た」


 ねえちょっと、運営さん、イベント連発しすぎじゃないですか!?



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