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三人の転生者《イレギュラーズ》 ~神様チートはないけれど、仲間と一緒にやっていく~  作者: 凡鳥工房
第1章 三人の転生者《イレギュラーズ》、出会ってしまう
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1-01.俺は三歳児である

 俺は三歳児である。

 名前はまだない。

 そして俺は、誰にも相談できない違和感に苦しんでいる。


 違和感はずっとあった。

 それこそ、よちよち歩きのころ、なんとなく自我というものを自覚してからずっとだ。

 しかし、そのことについて考えられるようになったのは最近のこと。


 理由はずばり、身体が成長したせいだろう。特に脳みその成長と学習が影響を与えているものと推測している。

 はっきりとした思考とは、つまり言葉と文章だ。複雑な分析含む思考には、当然に脳みそに言語が入力されてなければならない。

 言葉にならない思考というものもあるにはあるが、それはよく言って直観的、悪く言えば短絡的とか動物的とかいうような、刹那の間からごく短い時間しか保てない思考だ。いっそ思考ではなく感情と言い切ってしまっていいかもしれない。


 だというのに、俺は、周囲の人の話す言葉をなんとか覚える前から、別の言葉による思考をしようとしていた。そして、うまくいかなかった。脳みそふやふやじゃーしゃーない。

 なので、まとまった考えをできるようになったのは、つい最近のことなのだ。それも、コッチで覚えた言葉ではなく日本語で。


 はっきり言おう。

 俺には、前世というものがある……と思う。


 なんともおぼろげではっきりしない記憶が断片的に思い浮かぶ、知るはずのないことを思い出せるという感覚は妙な気分だ。

 記憶というものが脳細胞のネットワーク構造に拠るものであるならば、すっぴんの三歳児の脳に前世の記憶が残っているわけがない。

 してみると、俺の思う前世の記憶とやらは、魂にこびりついた残滓とでもいえるものだろうか。

 いやそもそも、本当に俺の記憶なのか。そして記憶とはなんなのか。


 ……テツガクめいた思考のドツボにはまりかけた頭をふって仕切り直す。

 賢者のごとき知恵とまでは望まないが、インスタントに使える知識や経験があるならまだしも、暫定前世記憶は頼りなくおぼろげなものでしかない。

 前世持ちなどという存在がどのように扱われるかの情報も持っていない。

 下手をすれば悪魔の子として生きたままじっくりウェルダン・コースかもしれない。そんなのはイヤだ。死にたくない。


 自分が自分でない自分だったという記憶、感触という違和感はあるが、身体は三歳児。

 三歳児らしい振舞いで周囲の様子をうかがい、目立たず、生き延び、情報を集めるべし。


「ちょっと、『アルベルトん家の(アルベルティ・)末の小僧(マッサ・コーズ)』。ちゃんとついてきなさい」


 生まれながらの茶髪を編みこんだおさげを揺らして、「サウビスんの小娘」が俺をにらんでいた。

 やばい。

 最近、ようやくあれこれ考えられるようになってからの俺は、沈思黙考にはまっていた。だってほら、考えられるって楽しいぜ?


「おいおい、俺も『アルベルトん家の小僧』だぜ」

「あんたはもう『末』じゃないじゃない」


 「サウビスん家の小娘」と俺の兄の一人が笑いあう。仲の良いことで。

 さておき、二人は俺含め歩き回れる程度になった幼児連中を引き連れて河原へ向かっていたところである。いわゆる一つの子守ってヤツだ。

 二人だってまだまだ子ども。畑仕事の役には立たないが、よりチビを監督はできる。

 どれくらい子どもかといえば名前を持っていない。あだ名はあるが、「おさげ」と呼ぶと怒るので言わない。学習した。人は学ぶ生き物である。


 ちなみに俺は先ほどのように「アルベルトん家の末の小僧」と呼ばれているし、こないだまではそれが名前だと思っていたのだが、違った。

 数え七つになるまで名前は付けないという習慣があるんだそうだ。

 七歳で名付け、特に何もなければ成人してもそのまま。このへんの農民・農奴はそんなものらしい。

 だから、三歳児の俺は名前はまだない。


 おぼろげな前世記憶によれば、明治期あたりの日本でも「七つまでは神のうち」と言ってたはずだから、乳幼児の死亡率は高いんだろうと考えると、そういうこともあるのかなって程度の話だ。

 家で、俺の次に生まれた子も、春を迎える前に死んだ。多産多死、命は軽い。


 俺の見聞きした範囲で判断すると、どうやらこの世界の文明レベルは俗にいう中世、しかも魔物が跋扈し、なんと魔法もあるらしい。

 そんな世界で田舎農村、それも農奴の「(まだ)末っ子」に生まれたとなれば、出生先ガチャに敗北したとしか言いようがない。

 そんなことを考えていたら腹が切なくなった。

 味はこの際どうでもいい。肉だ麦だなんて贅沢も言わない。とにかく腹いっぱい食べたいなあ……


「あたしお姫様、あんたは騎士。わっぱどもは魔物よ!」

「えー」

「また魔物かよー」


 「サウビスん家の小娘」の宣言に、俺も一応の抗議をするが、ポーズだ。

 引率たる年上様がその絶対権力を振りかざせば、俺のようなか弱い三歳児はたんこぶこさえて泣き出すしかないのだから。


 領地の視察の途中で魔物に襲われるお姫様とその騎士、というシチュエーション。

 現実にはそんな状況に陥ってる時点でいろいろお察しだろうが、子どもたちのままごと劇の設定なら十分だろう。俺は魔物役として腕を振り回し声を上げた。


「ガオー」

「つまんないわねえ、ありきたりじゃない。ぜんっぜん怖くないしぃ」


 姫様の容赦のない一撃に、俺は肩を落とし振り返った。

 後ろに控えていた第二第三の魔物こと、同い年ということでひとまとめにされることの多い「イワークん家のチビ」「ウォルダんとこの小倅」と顔を見合わせる。


「お姫様の注文は無茶ばかり」

「無茶振り姫ですねえ」

「ぷぷっ、『無茶振り姫』ってよぉ」


 騎士ナイトこと俺の兄が唇を尖らせて守るべき姫様を笑う。当然、無茶振り姫のご機嫌は麗しくなくなった。


「ちょっと、早くしなさいよ!」


 無茶振り姫の叱咤に、青色の目に三歳児らしからぬ諦観をにじませた「ウォルダんとこの小倅」が妙に大人びたため息をつく。


「しかたない、自分がいきます……デデンデンデデン!」


 俺は絶句した。

 間違いない、ヤツが口にしたのは終わらせるもののテーマ。I'll(アイル) be(ビー) back(バック)な終わらせるもののテーマだ!


「へぇ、なかなかいかした登場じゃない」

「かっこいいじゃん。今度、俺もそっちでデデンやらせろよ」

「あんたが魔物になったら、誰が私の騎士やるのよ」


 目の前の魔物そっちのけで痴話げんかを始めたバカップルはともかくとして。

 「ウォルダんとこの小倅」……こいつも転生者なのか?


 退治されるでもなく、かといってケンカ中に割り込んでも余計な目を見そうだしで、ヤツは俺たち魔物待機所に戻ってきて肩をすくめた。

 青い瞳が澄み切っているのが憎たらしい。

 こいつ、どういうつもりで終わらせるもののテーマなんか……いや、ほかに転生者がいなければ気づくはずもないか。

 俺が転生者だから気づいてしまった。こいつも転生者だと。


「あのー『イワークん家のチビ』、自分、『アルベルトん家の末の小僧』ににらまれてるんですが、なんかやっちゃいました?」

「うーん、カッコイイ登場されて、負けた気になってるとか?」

「ちがわい!」


 にらみつけていた格好になっていたらしい。思わず反射的に否定を返してしまったが、とりあえずどうとでも取れるという意味では悪くなかったかも?

 しかし、どうする。どうする、俺?


 状況がわからん。

 同時期に同じ村に同世代で転生者が二人って、それありえるの?

 急いで思い出そうとしてみたが、俺には転生前後の記憶がない。

 しかし、俺の前世のヲタ知識では、転生者同士が敵対するなんてシチュエーションはおなじみのテンプレだったはず。いやしかし、テンプレ返しもまたテンプレであり、テンプレ返し返しからの捻りも個人的には高得点で……


「デデンデンデデン?」

「そうそう」


 人の気も知らないで、「イワークん家のチビ」が「ウォルダんとこの小倅」を真似て演技指導を受けている。

 ちなみに「イワークん家のチビ」が黒髪黒目、「ウォルダんとこの小倅」は赤髪に青目。ついでに俺こと「アルベルトん家の末の小僧」は金髪碧眼。前世コンプレックス的にはどストライクでお気に入り……ってそんなことどうでもよくて、敵なのか味方なのか、それとも、実は周り全員転生者でこんな悩んでる俺が実はボッチで自滅でババ引いてるだけ、とか?


「『アルベルトん家の末の小僧』、さっきの『ウォルダんとこの小倅』くらいの根性みせなさいよ!」


 さんざんに頭をふり絞って考える俺の苦悩など気にせずに、痴話ゲンカを終えたらしい無茶振り姫の無茶振りが襲い掛かってきた。

 てか、根性関係ないし。


「クソッ」

「がんばれー」

「いってヨシ!」


 魔物仲間に見送られ、俺は体を揺らしながら前進した。


「デーレッ、……デーレッ、…デーレッデーレッ、デーレッデーレッデレッデッデッデレッデッデッデレデレデレッデッデッ!」


 おれ、三さい。むずかしいこと、わかんない。


 だが、これだけはわかる。終わらせるものに勝つにはサメだ!

 残念ながら途中からドヴォルザークの新世界よりに変化してしまう、なんちゃってうろ覚えゆえに出だしだけ。


 左右に大きく体をゆすりながらちらっと視線を向ければ、「ウォルダんとこの小倅」が何かに気が付いた……っていうか、わかるよな、当然。青いおめめを見開いて俺を見ている。


「……やるじゃない」

「一刀両断【ウインド・カッター】!」

「ぐぇーー」


 姫を守る騎士様にズンバラリされ、魔物だまりに帰ってきた俺を「ウォルダんとこの小倅」がにらんでいる。多分きっと、さっきの俺もこんな感じでヤツを見つめてしまったのだろう。

 何か言いたそうに口がもぞもぞするが言い出せない。お互い、そんな感じだ。

 なお「イワークん家のチビ」は、俺たちの葛藤をよそに、目をつむって腕を組んでいる。


「僕も行きます」

「ばっちこいやー」


 「イワークん家のチビ」は無言で探りあう俺と「ウォルダんとこの小倅」の一歩前に進み出た。


「チャー、チャラリラリラリー、チャーラリーラッチャラリランタラン」


「なんでやねん!」

「そこは洋画縛りだろ!」


 姫よりも、騎士よりも先に、俺と「ウォルダんとこの小倅」の手がヤツをしばいた。



【メモ】

・終わらせるもの

・サメ

・生まれも育ちも柴又のつらい男

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― 新着の感想 ―
[一言] 転生ものの出だしの仕方が無理無く無駄無くかつ面白く最高に良い。展開が楽しみです。
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