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遊星迎撃隊―Starship Breakers   作者: 暗黒星雲
第三章 英雄の魂
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第25話 防人の記憶

 俺は戦争ばかりやっていたのか。

 きっとそんな性分なんだろう。


 戦争が好きなのではなく、危機に対してじっとしていられない。そういう事だろ思う。

 

 22世紀での日中戦争では米軍のパイロットとして参戦。

 20世紀では桜花搭乗員として特攻作戦に参加。

 16世紀には唐の将軍として豊臣秀吉の軍勢と戦っている。

 13世紀には鎌倉武士として元寇にて武勲を上げた。

 7世紀白村江の戦い。百済の将軍として日本と共に唐と新羅連合と戦う。


 主な記録だが、ずっと日本人というわけではなかった。しかし、何度か英雄として称えられた事があるようだ。

 

「英雄の魂なのですよ」

「そうなのか?」

 ナディアの言葉に俺が聞き返す。

「そうみたいです。客観的には損な性分が裏目に出ているのでしょう。負け戦も多いですからね」

「もしかして、何万年も?」

「そうですね。軍事で社会に貢献する魂だと思います」

「なるほど」

 突然の話にやや追い付けない部分もあるが、何故か納得している。

 そう言えば、霊魂や転生輪廻に関しては特に違和感なく受け入れている気がする。ダークエネルギーと霊界エネルギーの多くが一致しているという理論を聞いた時にも妙に納得していた。こういう事を受け入れられる者がランス搭乗員として適性があるのだろう。

「ここに留まってもらったのはこのお話をしたかったからなのです。思い出して欲しかった。肉体を持つと、輪廻の記憶を全て忘れてしまうのです」

「それと、霊体の修復もしなくてはいけなかったからな。手足がバラバラになってたんだぞ」

 ナディアと次郎の言葉に納得する。

「肉体に戻ってもしばらくは不自由すると思うが、一ヶ月程度で回復するはずだ。もう帰ってやれ。時計の音が聞こえるだろう」


 チクチクチクチク


 聞こえる。機械時計の音だ。アイリーンから貰ったスピードマスターの音。

 そうか。

 俺はこの音を道標として必ず戻ると誓ったんだ。

「分かった。戻るよ」

 次郎とナディアは微笑んでいた。

「じゃあ。アイリーンによろしくね」

 ナディアは手を振る。その後すぐに、俺の意識は元の肉体に戻っていた。


 目を開いた俺にアイリーンが抱きついて来た。

「辰彦!」

 涙を流している。

「きっと、きっと帰ってくるって信じてた。時計もちゃんとねじを巻いたわ。聞こえるでしょう」

 そう言ってスピードマスターを耳に当てる。

「ああ、聞こえている」

「辰彦」

 俺の胸に顔を埋め泣きじゃくるアイリーン。

「遅くなってすまなかった」

「いいの。戻ってきてくれたから」

 シャツは涙で濡れてしまった。そこへ艦長と軍医が入ってきた。

「秋山君。良く戻ってきたな。気分はどうかね」

「まあまあです。義体に入っている時よりはずっと気持ちがいい」

「じゃあ診察するよ。時山君、離れてくれるかな」

 ハンカチで涙を拭きながらアイリーンが離れる。軍医はテキパキと診察を始めた。

「起きれるかね」

 俺は首を横に振る。

「右手を動かして」

 動かそうと思うのだが動かない。

「じゃあ左手、右脚、左脚」

 全く動かない。

「詳しく検査しなくてはいけないね。それでは……一時間後に迎えに来させる」

 アイリーンの顔を見ながら軍医が言う。一応、気を使っているのだろう。

「分りました」

「秋山中尉。作戦の報告だ。当該小惑星は見事に粉砕した。大型の破片が4つ、中型の破片が12、小型は数え切れん。大中の破片は全て地球との衝突コースから逸れている。作戦は成功だ。ご苦労だったな。勲章を申請している。しかし、中尉の現状を鑑みて、この作戦は今後実行しないよう提言する。乗りたいと言っても乗せてやらん」

「了解しました」

 俺もあれにはもう乗るつもりはない。


 軍医と艦長は病室から出て行った。


 サイドテーブルにある時計のカレンダーを見る。俺は三日三晩眠っていたようだ。その間、彼女は俺にずっと付き添っていた。ほとんど眠っていないのだろう。パイプ椅子に座り、俺の胸に体を預けたまま眠ってしまった。


 霊界で出会った黒人女性のナディア。彼女の話も聞かせてやらねばなるまい。


 体が動かなくなった俺は、もう英雄として活躍できる場所はないと思う。次郎は一ヶ月で回復すると言っていたが、自分の手足が吹き飛ぶのを自分で見ているのだからすぐには信用できなかった。このまま除隊するとしても、それは運命として受け入れるしかないと思った。

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