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遊星迎撃隊―Starship Breakers   作者: 暗黒星雲
Starship Breakers
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第17話 スピードマスターと進路の選択

 結局、アキツシマへは行けなかった。遠くから眺めただけ。

 しかし、俺達の体験は壮絶だった。クラージュは飛行不能となったため、代替機到着するまで月面に滞在することになった。その間、綿密なメンタルチェックが行われた。生き残った人たちは程度の差はあるが皆PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された。特に酷かったのが凌辱され虐殺された部屋にいた大人たちだった。生き残った人はわずかだが、精神に深刻なダメージを受けていた。そこで親を失った子供たちも深刻だったという。俺達兄妹は軽度と診断され外出を許可された。


 今は、月面都市アリストテレスにいる。

 その繁華街を妹と二人で歩いている。今の妹はいつもの小学生だった。

 あの服が可愛い。帽子が可愛い。フィギュアが可愛い。クレーンゲームがしたい。あのぬいぐるみを取って!!

 うるさいったらありはしない。ああいうのはほとんどイカサマで、どうせ取れないからと諦めさせるのに苦労する。代わりに魔法少女MARIKAとSERIKAのフィギュア2体を買ってやった。まだ、持っていなかったvr.らしく飛び上がって喜んでいた。

「辰兄ちゃんありがとう」

 俺に抱きつきほっぺにキスまでしてきた。

「今度は私が《《兄様》》の欲しいモノを買って差し上げます」

 妹の雰囲気がガラリと変わる。

「お前どうしたんだ」

「あら、私が出てきたらご迷惑ですか?」

「いや、そんなことはない」

 そう、妹の潜在意識が表に出てきたんだ。大人っぽくなり、IQが非常に高くなる。

「そう。なら、何が欲しいんですの?」

「うーん、時計かな」

「あら、そんなものが欲しいんですか?ガラクタ同然ですのに」

 そう、今時時計を持ち歩く人は少ない。携帯端末や様々な器機に時刻は表示されているからだ。俺はその時古物商の店頭にあった一つの時計に目を奪われていた。

『OMEGA SPEEDMASTER MOONWATCH PROFESSIONAL CHRONOGRAPH』

 すでに生産は中止されていたはずだ。オメガスピードマスター。

 アポロ宇宙飛行士が身に着けていたという伝説のクロノグラフ。手巻き式のゼンマイで動く歯車の塊。生産中止されてからもう300年以上経っているはずだ。

「辰兄様。これがご希望ですか?」

「いや、欲しいとは思うけど、買うまでは考えてないよ。でも、アポロ宇宙飛行士が身に着けていたものって聞くだけで胸が熱くなる。月面でこいつに会えるなんて感動するよ」

「そのレプリカでは?」

「いや、改良型だ。ムーブメントを更新していて信頼性が高くなっているんだ。2120年製だって。最終モデルだなこれは」

「そんな事よくご存じですね」

「まあ、な」

 興味がある事は何でも調べる。それは普通だろう。興味の対象がアナログな手巻き式機械時計だっただけだ。こんなものに興味を持つやつは極めて少ない。

「稼働モデル。メンテナンスは半年前で価格は250万円?ふざけてない?コレ高すぎでしょ!」

「仕方ないだろ。メーカーも生産中止しているし、ムーブメントの代わりも無いんだ。壊れたら部品は手作りするんだぞ」

「日本でメンテナンスしたって書いてあるね。へえー」

「ああ、今や日本だけだろうね。こうした機械式時計の修理するのは」

「そうなんだ。あ、中に安いのがあるよ」

 確かに安いのがある。値段は2万5千円。これなら何とか買えそうだが……。

 よく見るとレプリカ品だった。電波による時刻自動修正付のクォーツモデル。針はホログラムで音も出るらしい。手巻きのギミックもついているとか。

「これは、おもちゃね。兄様どうしますか?」

「いや、いいよ時計は諦める」

「そう?あこれはどうかしら。ジャンク品だって」

 奥のケース内にあったスピードマスターにはジャンク品と記載されていた。しかし、価格は25万円だった。

「ふざけんじゃないわよ。本当のガラクタに25万も払えって言うの?」

「いや、修理が200万位かかるんだ。それを考えると高い買い物じゃないだろうな」

「そう?じゃあコレ買って修理する?」

「いや、いいよ」

「でも欲しいんでしょ」

「まあな。将来、働いてお金をためて買う」

「ふーん」

 ニヤニヤしながら俺の顔を見る妹。店員はこちらを見ているが、中学生と小学生が高価な買い物なんてしないと無視しているようだ。まあ、どうせ買う気はない。金も持ってないしな。


 俺達はその後、地球行きのシャトルに乗った。福岡国際宇宙空港への直通便に乗る事ができた。

 両親は空港まで迎えに来ていた。

 母親は行かせなければよかったと泣いていた。

 親父は無事に帰ってきた事を喜んでいた。そしてよくやったと褒めてくれた。

 俺達がクラージュの中で何をしたかを知っているはずだ。

 俺は一人に重傷を負わせ、妹は一人殺している。勿論正当防衛が認められたのでお咎めは無かった。両親は俺達が軽度のPTSDである事を考慮しているのだろう。本当に軽度なのか自信はない。俺の心が晴れることはもう無いかもしれない。


 その後、俺はクラージュが囮で本命が他にあった事、それが小惑星と偶然激突して難を逃れたことを知った。そして、太陽系に巨大な小惑星群が近づいている事も知った。


 その話を聞いた瞬間、俺は自分の進路を決めた。宇宙軍に入る。そして、小惑星の脅威から地球を守る。そう心に誓った。

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