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遊星迎撃隊―Starship Breakers   作者: 暗黒星雲
Starship Breakers
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第12話 楽しい宇宙旅行

 ほどなく宇宙空間に到達する。

 厳密にはまだ大気圏内で高度400㎞程の熱圏といわれている辺り、人工衛星の軌道では低軌道にあたる高度らしい。

 現在は第一宇宙速度7.9㎞/sで飛行中。楕円軌道で地球を一周半眺めた後再加速して月へ向かう。

 まあ、オレがこんなに詳しい訳ではなく、目の前のパネルがそう言っているだけなのだが、偉そうに妹には説明してやる。


「辰兄ちゃんって物知りだよね」


 と、羨望の眼差しを向けてくるものだから少々調子に乗ってしまうのかもしれない。

 簡易宇宙服の着用義務が解除され、平服でもOKとなった。

 一人一人乗務員が手伝って簡易宇宙服を脱がせてくれる。体操着だった妹は別室で着替えてきた。皆トイレを我慢してたようで、トイレ前には列ができていた。


「由紀子はトイレ大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。そんなこと聞くのはセクハラだよ」

「いや、俺は一応保護者だからな。確認しとかないとな、もらしちゃ大変な事になるし」

「だから余計なお世話だって」

「そうか。スマンな」


 とか言ってるところへアナウンスが入る。


「15分後に人工重力装置を解除します。30分間無重力状態をお楽しみいただけます」


「だってさ。無重力でおしっこするのは難しいんだぞ。良いのか?」

「やっぱり行く。こっち見るな!」


 あっかんベーをしながら走っていく妹である。やれやれ。世話が焼ける。俺も漏らしちゃまずいと思いトイレへ並ぶ。男の方が列が進むのが早いのは助かる。


 昔は衛星軌道にいる場合は無重力が当たり前だったらしい。地球の周りを周回するっていうのは、永遠に落ち続ける事でもある。速度が速いと宇宙へ飛び出す。遅いと地上に落ちる。そのギリギリ中間の速度がいわゆる第一宇宙速度なんだ。


 トイレを済ませて戻ってくると妹も戻ってきた。


「みんな外人さんだから恥ずかしかったよ」

「そうだよな。フランスとかドイツの人が多いみたいだな。日本もやればよかったんだよな」

「どうしてやらなかったの?」

「PRA(Pacific Rim Alliance:環太平洋同盟)としては高校生を招待。日本は別枠で障害者だったんだよ。だから小学生を募集したユーロに応募したんだ」

「ふーん。中学生はなかったんだ」

「そうらしいね」

「でも、無重力ってどんなだろううな?ワクワクしてきた」

「ジェットコースターとかで落ちるときの感覚だよ。アレがずっと続くんだ」

「MARIKAちゃんみたいに飛びまわれるかな?」

「ふわふわ浮いてるだけで動きにくいと思うよ。MARIKAちゃんみたいな魔法少女とは違うんだ」

 TVアニメの話がでる。「魔法少女MARIKA&SERIKA」だったか。この程度は付き合ってやらないと機嫌が悪くなるのだ。妹のアニメ趣味を把握するのも保護者代理の務めだ。


「間もなく重力装置の解除を行います。危険物や首を絞めるものは仕舞って下さい。ペンなども危険物となりますのでご注意ください。女性の長髪も絡んで危険な場合があります。なるべく後ろで括るかまとめてくださいますようお願いします。また、カメラや携帯端末はストラップを使用して腕に固定されることを推奨いたします」


「だってよ。お前大丈夫か?」

「大丈夫。買ってもらったカメラはちゃんと左手にストラップ巻いてるし髪も括ってるよ」

「いや、そうじゃなくてさっきお前ミニスカートに履き替えただろ?」


 そう、こいつはさっき体操着から着替えたのだ。今着ているのはミニスカートとノースリーブのブラウスだった。ミニスカートでそのまま空中を浮いてもらうのは保護者としてもマズイと思うのだ。


「このおおおおおお!エッチスケベポルノ痴漢変態温泉ミミズ芸者!見たら殺すわよ」

「いや、それどこで覚えたんだ?それに何で体操着から着替えたんだ」

「だってあれ可愛くないんだもん」

「そうかもな。でもさ。お前のスカートの中見てもだれも喜ばないだろうから大丈夫だろ」

「辰兄ちゃんに見られるのが一番嫌なの。ほんと、見たら殺す。七年殺しと電気あんまの刑だからね。わかった?」

「わかったよ。見ない。見えそうでも見ない。約束する!」


 今時の小学生は何処であんな言葉を覚えるのだろうか……温泉みみず芸者とか電気あんまとか……


「それでは重力制御装置の解除をいたします。床や天井を蹴ったりしないようお願い申し上げます。それでは皆様無重力をお楽しみください」


 体がふわりと浮あがった。

 この浮遊感はたまらなかった。

 これが無重力だ。

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