投手交代
満塁ホームランで愕然とする中で1番最初に声を上げたのはゆかりさんだった。
「まだ初回でしょ!切り替えてけ相川!」
ゆかりさんの大きな声に百合山ナイン一同は下を向いていた顔を上げ直した。
「天谷君貴方もよ!声出していきなさい!」
「はい!」
ゆかりさんはまだ諦めてない。これだけで百合山ナインは奮起した。
『5番サード桜君』
「相川こっからだぞ!締まってけ!!」
「打たせてけ!絶対捕ってやる!!」
投手に内外野から声がかかる。
「全く、、、あんまり大きな声出させないでよね」
ゆかりさんが俺の足を踏みながら言う。いくら人見てないからって俺に当たらないで下さいよ、、、
「すみません、でもゆかりさんの一声で助かりました。ありがとうございます」
「今後ないからね」
相川が第1球を投げた。
カキーン!打球は快音残してレフト後方へ。
「高橋さん!」
「うおおお!!!!」
高橋さんが横っ飛びで打球を抑えた。
百合山ナインから歓声が上がる。
「ナイスキャッチ!!!」
「ナイキャー!!」
しかし続く6.7番に連打を浴び再び1死1.2塁となる。館山さんは変化球中心に責めているが肝心な変化球がコースも甘く変化量も少ないため簡単に弾かれてしまう。ストレートはほんとに通用してなかった。
「タイム!」
野村監督がタイムをかける。伝令かと思って内容を聞こうとしたのだが。
「ピッチャーの相川がライトに。ライトの佐々木に変えてピッチャー林」
ベンチの皆が驚きの目で野村監督を見つめた。前までの公式戦ではどんなピンチでも変えなかったのに。監督の心境にも変化があったみたいだ。交代して外野に回った相川は不満がモロに顔に出ていた。
「天谷さん」
「ん?どうした薫ちゃん」
「自分少し怖いです、、、ほんの1秒でいいんで手握ってもいいですか?」
「ん?そんな事でいいなら」
手を握ると薫ちゃんの手は冷たかった。緊張の表れだろう。少しでも勇気づけるように強く手を握って俺は言った。
「大丈夫だよ!薫ちゃんの球は打たれないから!自信持って投げてきな!」
そう言うと少し体温が上がったのか手にも熱が帯びてきた。
「ありがとうございます!行ってきます!」
「おう!」
相川が外野に戻ってきた事により変わった佐々木が声をかけてきた。
「純一が監督に変えろ言うたの?」
「ううん、監督の独断だよ。ベンチ皆びっくりしてたよ」
「マジか!でもいい変化だよな。勝ちに行ってるのがわかるわ。全力で応援しようぜ」
「おうよ!」
マウンドでは薫ちゃんの投球練習が始まっていた。見た感じではボールは走ってるように見える。館山さんが構えたコースから本当にぶれがない。任せたよ薫ちゃん。
『8番ピッチャー月村君』
相手打者はバントの構えをしていた。月村は打率1割台と低く次の打者に回すようだった。
薫ちゃんは確実に1つアウトを取るためにわざとバントのしやすいアウトコース高めにボールを投げてしっかり1アウトを貰った。これで2アウト2.3塁となる。
『9番レフト田村君』
「よし2アウト!薫ちゃん打たせてこ!あと1つだよ!」
俺の声に対してコクンと大きく頭を頷かせた。9バンドはいえ打率2割8分。他のチームなら十分に上位を打っていてもおかしくない打率なだけに油断はできない。
薫ちゃんが第1球を投げた。インローへシンカーが決まり1ストライクとなる。
「おけ!ナイボーよ!」
「いいぞ!薫ちゃん!押してけ!」
内外野からも声が飛ぶ。
第2球を投げた。
「ストライクツー!」
外側いっぱいのストレートが決まりこれで追い込んだ。
時間いっぱい使い館山さんとのサイン交換が終わる。
第3球を投げた。
カキッ、鈍い金属音とともに打球はショート手前のボテボテのゴロとなる。
「鳥谷さん!」
「任せろ!!」
打球にいち早く反応していた鳥谷さんは勢いそのままにランニングスローで一塁へ送球した。
「アウト!!」
塁審が高々と右手を上げる。タイミングはギリギリで鳥谷さんの打球反応がなければセーフだった。ファインプレーだ。
3アウトを取って帰ってくるナインに俺達は明るい声をかけた。
「まだ初回よ全然大丈夫よ!薫ちゃんナイピー!相川は切り替えてけよな!」
「ありがとうございます!」
「監督、なんで俺下げたんすか。こっからだって時に」
相川は不満をそのまま監督にぶつけたようだった。
「自分で投げててわからないのか?俺からも公式戦前に変化球磨いとけって指示出したはずなんだがな。いざ試合になってみたら何ら変わってないじゃないか。ストレート1本で抑えられない相手だって部室で何回も言ったよな?今日はマウンドへ上げる気は無い。打者でしっかり貢献してこい」
「、、、」
相川は無言で明後日の方を向いていた。それを見て監督は。
「わかったかって聞いてんだよ!お前一人だけが部員じゃねーんだよ!校長とかから相川を贔屓しろ言われてきたがもう限界だよ。俺は勝ちたいんだよ!ここにいる皆で甲子園にな!ネクスト呼ばれてるぞ!しっかり狙い球絞っていけよ!」
「はい!」
ネクストの高橋キャプテンは急いで打席へと向かった。そして俺達部員は監督の熱い想いが分かったことでチームが一つになった気がした。この勢いがあれば4点差なんて絶対にひっくり返せる。そんな雰囲気が百合山ベンチにはあった。




