表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣豪ガウルと邪悪なる神々  作者: アール・ワイ・オー
兄と妹
8/9

悪神の楔


 ガウル達は人影が見えた辺りに駆け寄った。


 そこには少女と、その少女を守るように抱きかかえたままの青年が倒れていた。


 マリアは慌てて二人に近寄り安否を確認する。


 「よかった。二人とも生きているみたい。でも物凄く衰弱してるわ。早く街に連れて行かないと危ないかも」


 「そうだな。バルトス、ここから一番近い街か村はどれくらいで着く?」


 「ここから北に行けばすぐにネージュリア国境に着く。そこからすぐの場所に村があった筈じゃから後半日というところかの」


 「成る程。んじゃ俺がこの眼鏡の男を背負うから女の子の方は姉さんに任せていいか?」


 「ええわかったわ」


 ガウルとマリアは倒れていた二人を背負い山を進むことにした。


 少し進んだ処でバルトスはマリアの背負っている少女に違和感を感じ始めた。


 「マリア、すまぬが少しその少女を借り受けてもよいかの?」


 「え、ええ。構いませんが、どうかされましたか?」


 「うむ。少しのう」


 バルトスは少女をうつ伏せに地面に横たわらせると、少しの間様子を窺うように観察し始めた。

 その後何かに気が付いた素振りを見せた後バルトスは少女の服に手をかけた。


 「バルトスさん一体何をっ?」


 「失礼する」


 そういうとバルトスは少女の服の背中にあたる部分をめくりあげた。


 「これは…」


 「うーむ。やはり様子から見て訳ありとは思っとったがこういう事だったとはのう」


 マリアは驚愕を隠せずといった顔をし、バルトスは眉間に皺を寄せ険しい表情になる。

 ガウルはそんな二人の間から少女の背中を覗き込みマリアと同様に驚きで顔を歪ませる。


 「もしかして、これって邪紋なのか?」


 「この紋様から溢れ出る邪悪なる気は間違いないのう。始めは儂もこの青年が倒したであろうモンスターの邪気が纏わりついておるだけかと思ったがそれにしては濃く何より一向に減る気配がしなかった故に疑問に感じたんじゃが…。まさか邪紋持ちだったとはのう」


 「たしか邪紋を発現した人間はここ数十年現れていなかった筈ですよね?」


 「うむ。少なからずともそういった話はここ数十年表には出てない筈じゃ」


 「ということはこの少女は不幸にも数十年ぶりの邪紋の被害者という事になりますね」


 「そうじゃのう。お主達も知っていると思うが邪紋が出現した者はどんな生まれの者でも例外なく殺さなければいけないというすべての国共通の決まりがあるがお主達はどうしたい?」


 「俺はどこの国にも属していないしそんな決まりに従う筋合いはない。だから邪紋持ちってだけで殺すなんてヤだね。生かすか殺すかはこの子達が目覚めてからでも決められることだし、もし悪い奴ならその時対処すればいいし、いい奴なら殺すのはおかしいからな。それに俺の勘だけどこの子達は悪い奴じゃないって思うし」


 「私もガウルと同じ意見です」


 「お主達の意見はわかった。その上で儂の意見を言おう」


 バルトスは一呼吸置くと再び口を開いた。


 「儂も同意見だ。この娘の処分は保留にし、当初の予定と変わらず国境の村を目指そうと思う」


 それを聞いたマリアは少し驚いた後バルトスに尋ねた。


 「失礼かもしれませんがすこし驚きました。バルトスさんは旅人の身とはいえ私達と違い何処かの国に所属されていると思っているのでてっきり処分した方がいいと仰るとおもっていたものですから」


 「確かにマリアがそう思うのも無理はないじゃろう。それが普通じゃからな」


 「バルトスの事だ、何か考えがあるんじゃないの?」


 「うむ、ガウルの言う通りじゃ。実は魔族追っている最中に邪紋に関する魔族が記したであろう古い文献を見つけてのう。詳しい話は村に着いてからにするとしよう。邪紋の邪気に引き寄せられた魔物達が集まって来る前にまずは山を越えこの者達の手当てが済んでからじゃな」


 「ああ、そうしよう」


 「あ、後一つマリアの先程の発言に対して訂正しておくが、今儂はどこの国にも所属しておらん。じゃからお主ら同様縛られる物はないんじゃよ」


 バルトスはそう言うと年甲斐もなくペロッと舌を出しお茶目に笑ったのだった。


 日が沈み辺りが闇に包まれた頃、ガウル達一行はネージュリアの国境入り口である山門を抜け最寄りの村の宿へ到着していた。


 「とりあえず村に到着はしたがこの邪気を何とかしない限り村人に気が付かれてしまうのも時間の問題だな。けど、どうしたもんか…」


 ガウルがそう呟くとバルトスが気さくに答えた。


 「それなら心配はない。儂が持っておるこの聖水をかければ暫くの間だが邪気を払う事ができる。まあこの聖水も残りわずか故使い処を考えなければならんがのう」


 バルトスは懐から聖水の入っていると思われる瓶性のボトルを取り出すと蓋を開け中身をベッドの上で寝かされている少女の背中へとゆっくり掛け始めた。

 するとシュウシュウと音を立てながら背中から溢れ出ていた邪気が煙となり消えてゆく。

それと同時に少女の顔が苦悶に歪み口からは呻き声が漏れ出ていた。

 

 「辛いかもしれんが少し辛抱しておくれ」


 暫くすると処置を終えたバルトスは何やら不思議な色をした石の様な物でできた板を取り出し少女の背に当てると何やら呪文を唱えた。

 すると、板は少女の背中の中に吸い込まれるように消え、その後邪紋を上書きするかのように白い紋様が現れたのであった。


 「バルトス今のは何なんだ?」


 「これは魔族封印の儀式というものじゃ」


 「魔族封印の儀式?!」


 「そうじゃ。本来これは中級までの魔族を封印するための儀式なのじゃが邪紋を抑えるのにも効果があるんじゃ」


 「それが先程おっしゃっていた文献に載っていたことなのですか?」


 「正確にはちと違うがのう。儂が読んだ内容は…」


 バルトスがマリアに続きを話そうとした時、ベッドで眠っていた青年が飛び起きたのだった。


 「ここは一体……。彼方達は…そうだ!そんな事よりミミは!僕の妹は!?」


 「まあ少し落ち着き給え。君も目覚めたとはいえまだ体力は回復しきっとらんじゃろうに。それに君の妹というのはこの子のことじゃろう?」


 すやすやと寝息を立てながら穏やかに眠る少女の姿を確認すると青年は安堵の吐息を吐き落ち着きを取り戻した。


 「すみません。みっともない姿をお見せしました。ところで僕たちは山で気を失っていた筈なのですが彼方達がここまで運んで下さったんですか?」


 「うむ。ここはネージュリアの端にある村じゃ。儂らはイオの聖域からザハークを目指して旅をしておるんじゃがササクレ山を抜け一旦ネージュリアに行く予定だったんじゃ。その途中偶々お主達が坂を転げていくのを見かけてのう」


 「そうだったんですか。本当に助かりました。ありがとうございます」


 青年は深々と頭を下げたあと、おずおずと口を開いた。


 「あの妹の事なんですが…もしかして何か気づきましたか?」


 青年、フリットは意を決してその言葉を絞り出したのであった。

 何故ならば邪紋から溢れ出る邪気は到底隠せるものではなく自分たちを助けここまで運んだという目の前の人物たちが何も気づいていない訳がないと思っていたからだ。


 恐らくだが二人とも気を失っており事情を聴くことが不可能である為ここまで運びはしたが目を覚ました今尋問を受けるのは免れない。

 だがそれ以前に、もし仮に彼らがミミの背中の邪紋に気が付いていた場合最悪の事態になりかねないとフリットは考えた。

 気が付いている場合ミミがまだ生かされている事に疑問が生じるが何か邪な企みがあるのかもしれない為どちらにせよ、彼らが邪紋に気が付いているのかどうかはっきりさせる必要があった。


 しかし、返って来た言葉はフリットの思いもよらぬ言葉だった。


 「警戒するのは当然じゃが何も心配はいらんよ。先程も言ったが儂らはイオの聖域から来たんじゃ。この二人は姉弟でのどちらもイオの山にある村の住人じゃから各国の決めた法に縛られん考えの持ち主じゃからのう。儂も国を持たぬ流浪の旅人故、邪紋持ちとはいえ問答無用で殺生するような事はないから安心せい。それに…」


 言葉を切り、バルトスはフリットを眠る少女の前に連れてくると背中を見るように促した。

 

 「これはっ…!」


 流されるままフリットはミミの背中部分の服をめくりその背を目に映すと驚きのあまり言葉を詰まらした。


 「勝手ながら処置をさせてもらったんじゃよ。流石にそのままでは村の住人達も感づいてしまうからのう。じゃがこれも唯の時間稼ぎにすぎんが暫くは大丈夫なはずじゃよ」


 バルトスはそう言うとガウルとマリアを交えながらこれまでの事を話したのだった。


 「本当に助けてくれた人が彼方達で本当によかった!感謝してもしきれません」


 「まあそんなに畏まらなくていいって。それにしても本当バルトスが邪紋の対処方法を知っててよかったな」


 「ええ。邪紋を封印するだなんて聞いた事ありませんし、僕には思いつきもしませんでしたから」


 「まあそうじゃろうな。儂も偶然見つけたにすぎんからのう」


 「でも驚いたのはそれだけじゃないですよ、まさか聖域の方達とであえるなんて」


 「聖域なて呼ばれてるけどそんなにすごいところでもないぞ?気が付けば邪教団なんて変な連中も住み着いたりしてるしな。姉さんもそう思うだろ?」


 「まあ住んでいた私達からすればそうね。けど他所の人達からしたらイオはやっぱり特別なのよ。禁則地とされている事もあってよっぽどの覚悟がある者か事情のある者しか立ち寄らないのが一般とされているしね」


 「そんなもんなのかなぁ?ところであんたは山を抜けたらどうしようとしてたんだ?」


 「そういえばまだちゃんと自己紹介もしていなかったね」


 フリットは自分達の事、そしてこれまでの事を三人に話した。


 「それから山を抜けたらイオの聖域に行こうと思ってたんだ。もしかしたら何か手掛かりあるかもしれないと思って」


 「なるほどのう。しかしその必要もなくなったようじゃな」


 「どういうことだよバルトス?」


 「それを今から話そう。これは儂が読んだ文献に関わる話でもあるし丁度いいじゃろう」


 「この話が魔族封印の儀式で邪紋を封印出来たことと関係あるのか?」


 「そうじゃ。儂らの旅の目的とフリット君の目的が一致する事になるんじゃからのう」


 「どういうことなんだ?俺達の目的ってザントランの糞野郎を封印、もしくは倒す事だろ?それが邪紋を治したいって事とどう関係すっていうんだ?」


 「せっかちな奴じゃな。今から話すと言ってるじゃろうが」


 バルトスはガウルが渋々と言った表情で黙ると口を開いた。


 「それは邪紋に悪神ゴーマが関わっているからじゃ」


 


 


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ