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剣豪ガウルと邪悪なる神々  作者: アール・ワイ・オー
兄と妹
7/9

邪紋


 フリットは息を切らしながら山の中を駆けていた。


 彼の腕の中には妹のミミが苦悶の表情を浮かべながら眠っていた。

 身体はやせ細り、本来は美しかったであろう彼女の顔には紫の痣の様なものが複数でき、額には汗が噴き出ており肌の色も青白くなり呼吸も荒くとても苦しそうであった。


 フリットは先日ガルングスト王国にあるイングラムの街から出、現在はササクレ山と呼ばれるモンスター達が生息する場所に彼は居た。

 その経緯は先日に遡る。





◇◇◇

 

 彼はガルングスト王国でも優秀な医薬学者が集うと言われている医療の最先端を行くイングラムの街に住む二十歳の青年だ。

 フリットは僅か十八歳にして医薬学の学者と言う地位を手に入れた天才であった。

 学者になるには本来は、その分野の研究を始めてから十年はかかると言われているのだが、フリットはそれを僅か三年で成し遂げた。

 周りからは天才と呼ばれていた彼だが、彼を知っている者は口を揃えてこう言った「あいつは何かに憑りつかれている」と。

 普通の人間から見ればそう言われても仕方がない程にフリットの医薬学の勉強に向ける姿勢は鬼気迫るものがあった。

 だが彼にはそうするだけの理由があった。


 フリットにはミミという三つ歳の離れた妹がおり兄妹仲睦まじく暮らしていた。

 両親はミミが生まれた年に二人とも病で帰らぬ人となり居らず、家族は二人がまだ幼い時に出稼ぎに出たフリットの七つ上のセシルという姉だけだった。

 その姉も彼が十五歳になった年に連絡が途絶えた。

 それまで月に一度は仕送りと共に手紙が送られて来ていたのだがある月を境に二度と来ることがなくなったのだった。

  

 セシルは治癒魔法を扱うことができたので治癒術師、それも特に女性を大切にしているお国柄の関係上、給金が多く貰えるネージュリアで働いていた。

 

 連絡が取れなくなった当初、フリットは姉を探しにネージュリアに向かおうとしていた。

 ミミの事は気になったが十二歳になり、いい職に就いて家族を楽にしたいと勉強に励むフリットを家事や身の回りの事で支えるしっかり者へ成長していた為、フリットは大丈夫と自分に言い聞かせ、普段お世話になっている学園の学園長であり最も信頼のおけるダリルにミミの事を頼みネージュリアに旅立とうとした。

 セシルを探しに行く事をミミに話すと彼女も賛同してくれ、フリットの背中を押したのだった。


 しかし、その時フリットは気づいてしまった。

 ミミの様子がおかしいことに。

 いつもは気色のよい肌が、その時は青白くなり額にじんわりと汗が噴き出、本人は必死に隠そうとしているみたいだが肩が上下にゆれ呼吸が乱れていた。

 フリットがどうしたのか問おうとした時ミミが倒れたのだった。 

 ミミはただの風邪だと言いフリットにセシルを探しに行くようにと促した。

 フリットはその言葉に安心したが、ミミが治ってからネージュリアに向かう事にした。


 しかし何日たってもミミの体調が戻ることはなかった。

 不審に思ったフリットは知り合いの医者に診せる事にしたのだが、結果は正体不明の病、死運病と呼ばれる治療不可の患えば十年以内に必ず死に至るというものであった。


 その後フリットは不眠不休で駆け回り、街に居る治癒術師や医者全員にあたり、ミミを診てもらった。

 しかし、結果は手の施しようが無いという残酷なものであった。


 その時から彼は姉を探しに行く事を辞め目の前の家族を救う事を決めたのだった。


 それから五年、フリットは努力に努力を重ね学者になりその後は知識や伝手、それにお金等使えるものは惜しみなく使い様々な可能性を導き出し、色々な薬を試してミミの病の治療に専念してきた。

 そして遂にこの日死運病の正体が明らかになった。

 最悪の形で。


 その日フリットはいつもの様にこの街最大のイングラム学園にある研究室へ向かおうとしていた。

 準備ができたフリットは家を出る前に、まだ眠っているであろうミミの様子を見に彼女の部屋へ向かった。

 するとミミの部屋から何か大きな物が落ちたような物凄い音と共に呻き声が聞こえてきた。

 部屋へ入ると普段はまだ眠っているはずのミミが苦しみもがきベッドの上でのたうち回っていた。

 ベッドの上はぐちゃぐちゃになっており枕元に置いてあったコンパクトサイズの収納箱が床に落下しており激しく破壊され中に入っていた本などが散乱していた。

 いくら苦しくても今までこんな事はなかった為、直ぐに異常な事に気づいたフリットはミミに駆け寄った。


 「うあぁぁああああああっ!」


 「どうしたんだミミっ!?」



 すると彼女の背中が発光し、なにか恐ろしいエネルギーを放っている事に気が付いた。


 「ごめんミミ。痛いかもしれないけど少しだけ大人しくしておいて」


 苦しみのあまり暴れるミミを抑え、持っていた鎮静剤を飲ませ、恐る恐る服をめくり背中を見たフリットは凍り付いた。

 ミミの背中には大きな刺青の様な紋様が広がっていた。

 それは見たものを恐怖のどん底に突き落とすかの様な圧倒的な邪悪な何かを放っていた。

 そしてその紋様をフリットは知っていた。

 いや、ミミの背中に広がるソレはこの世界に住むほとんどの者が知っているモノであった。


 ショックと恐怖で固まっていたフリットだったが誰かが家の中へ入ってくる音に気づき我に返った。


 「フリット!何があったんだ、さっきの物音は…ってお前…それ…」


 中に入って来たのは隣に住んでいる同じ医薬学者のノーゼンだった。

 ノーゼンはミミの背中のモノを見て後退った。


 「まさか…邪紋!?そんな馬鹿な…いや…間違いない。フリット、ソレから離れろ!直ぐに処分してやるっ!」


 ノーゼンは無表情になりそう言うと懐から魔銃を取り出すとミミの方へ構えた。


 「ノーゼン!僕の妹に何をする気だっ!?」


 「処分するっていってんだろ!ソレはもうお前の妹でも何でもない。この世界に災いを齎すものだ!」


 「ミミの事を言っているのか!?あんなの唯の御伽話だろ…ハハッ…冗談はよしてよノーゼン」


 「…認めたくないのも分かる。ここ何十年も邪紋は現れなかったからな。だがお前も知っているだろ?あれは御伽話なんかじゃない。だから各国はイオの聖域に干渉しないしどの国も邪紋を持つ者は見つけ次第、抹消しなければならないと法で決められ、邪紋の形を世界に広めているんだ。俺だって信じたかない。ミミちゃんが邪紋持ちだなんて…。だがその背中の紋様は紛れもなく邪紋だ。ミミちゃんからあふれ出る邪気が間違いないと俺に確信させている」


 「ノーゼン…見逃してはくれないか?」


 「それはミミちゃんの背中に出来たものが邪紋と認めた上で言っているのか?!」


 「……うん」


 「歴史の中で邪紋持ちを庇った者がどういう末路を辿ったのか知った上で覚悟があるというんだな?」


 「覚悟は出来てるよ。家族を守る為なら僕は何でもやるよ」


 「……わかった。友としてこの場は見逃そう」


 ノーゼンはそう言うと魔銃をおろした。


 「ありがとうノーゼン」


 「言っておくがこの場だけだ。この後お前がどうするかはお前次第だが次出会えばいくらお前でも見逃す事はできん。歴史を振り返れば邪紋持ちはそれだけ危険って事はお前も知っているだろう」


 「うん。本当にありがとう。君が友達でよかったよ。一つの処に留まれば邪紋からあふれ出る邪悪な気で何時かは誰かに気づかれると思う。だから僕たちは旅に出るよ」


 「俺もだ。できればこんな形で最後の別れをしたくはなかった」


 「そうだね。僕も残念に思うよ。じゃあねノーゼン、さようなら」


 「元気でな…」


 そうしてフリットはミミを連れて街を出たのであった。




 ◇◇◇


 


 そして現在ササクレ山にてフリットはミミを抱きかかえながらブランネージュを目指し走り続けていた。

 街を出てから一日以上が経過した今、途中モンスター達を魔法で撃退しながらも休みなしでここまで来たフリットの体力は限界をとうに超えていた。

 しかし、フリットは足を止めなかった。

 ミミを抱えた手は痺れを通り越して感覚すら無くなってきている。

 食事も睡眠も摂っていないため徐々に全身に力が入らなくなってきているのを感じながらもモンスターに襲われないために歩き続ける。

 汗で衣服がべっとりと張り付き独特の不快感に耐えつつ満身創痍の体を引きづるようにして進んでゆく。


 暫く歩き続けたフリットの視界はぼやけ始めやがて全てが闇に包まれたのであった。





 ◇◇◇



 ガウル達はザザーランの町で消費した食料の調達などの準備を整えた後ネージュリアに行くために関所を越え国境にあるササクレ山へと入っていた。


 「この山をこのまま真っすぐ行けばネージュリアへ着くじゃろう」


 「でもその国は素通りするんだよな?」


 「そうじゃな」


 「私も時間があればゆっくり見て回りたいけどあくまで私達の目的はザントランの討伐だものね」


 「そうだな。観光はザントランを倒した帰りにでもすればいいしな」


 三人が会話をはずませながら山道を歩いていると遠くの方で突然何かが転がっていくのが見えたのだった。


 「なんだ今の?!人っぽく見えたけど」


 「わからん。あっちの方はガルングスト王国につながる道に出る方向の筈じゃが…」


 「とにかく行ってみましょう。バルトスさん、この位の多少の寄り道なら大丈夫でしょ?」


 「うむ、儂は構わんよ」


 「んじゃ行ってみよう!」

 

 

 

 

 

 



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