交わした約束
ガウルが目を覚ますと、そこは見慣れた部屋ですぐに自分の家の自室であることに気が付いた。体を起こそうとするが激しい痛みに襲われ上手くいかず、途中で断念してしまう。
起き上がることを断念し大人しく横になっていると、部屋の扉が開き中にマリアが入ってきた。
「良かった。目を覚ましたのね」
マリアはガウルの顔を見ると安堵したような表情を浮かべた。
「貴方トルテ村の近くで死にかけていたのよ。村人が薪を集めに出ていた時にボロボロになって倒れていた貴方を見つけて救助してくれたらしいわ。その後この村に連絡が着て私達が貴方をここまで運んだの。山頂で何が起きたかわからないけど詳しい話はもう少し貴方が元気になってからすることにしましょうか」
そう言って部屋を出ようとしたマリアを呼び止めようとしたガウルだったが声を出そうとしても出ず咽てしまう。
そのまま全身を激しい痛みに襲われガウルは意識を手放した。
数日後、再び目を覚ましたガウルはマリアと共に村長の家へとやって来ていた。
「そんなに急がずとも、もう少し回復するまで休んでおっても良かったんじゃぞ」
「そう言う訳にはいかない。村長だって本当は何があったのか知りたくてたまらないんだろ?なんて言ったってルミナの姿が見えないんだからさ。皆俺に気を使ってくれているのは分る。だけどそれに甘えてゆっくり休んでいられるほど俺は素直じゃないし我慢強くもない」
「お主がそういうのであれば話を聞こう。儂とマリアもお主が何故死にかけていたのか、そしてルミナはどうなったのか早く聞きたいというのは事実じゃからの」
ガウルは頷くと、一呼吸した後話し始めた。
ガウルが山頂の祠で起きた出来事を話し終えた頃、辺りはすっかり日が暮れ薄暗くなっていた。
話を聞き終わったマリアと村長は驚きを隠せないという一方どこか納得しているようなそんな素振りを見せた。
「もしかして村長と姉さんは魔族って奴についてなにかしってるのか?」
「そのガトラスと名乗った魔族というのは正直儂らにもわからぬ。じゃがその魔族が復活させようとしていた者は知っておる。じゃがその話をする前にお主達若者の知らぬこの山の伝承と、少しばかりの昔話をしよう」
「伝承と昔話?」
「そうじゃ。このガガナ村があるイオ山には、はるか昔二柱の神が居たと言われておる。光の女神イオナディアと悪神ゴーマ。元々イオナディアが治め、平和であったこの地にある日、闇の眷属を引き連れたゴーマが攻めてきた。
この地に住む人々はゴーマに立ち向かったが不意打ちにより、イオナディアの光の力を奪われ加護を失った人々は次々と殺され劣勢に立たされた。もう駄目だと思われた時三人の勇士が現れた。辛うじて残った女神イオナディアの力を授かった光の巫女ガガナ、その弟であり剣の達人ガルナ、二人の友であり天才魔術師のトルテ。
三人の力によりイオナディアは光の力を取り戻しゴーマをその力を全て使い果たすことで消し去った。しかし力を使い切ったイオナディアも消滅してしまい、残ったゴーマの眷属である魔人ザントランと魔竜ギドラが暴れ始めた。三人の勇士は何とか二体の魔の眷属を倒す事に成功するが消滅させるには力が足りず巫女ガガナの力により封印したのであった。これがこの山に伝わる伝承じゃ」
「まさかこの地にそんな伝承があったなんてな。祠に祀られてる神様が女神イオナディアって事と悪神ゴーマが昔に暴れて今もその爪痕が残ってるのは知ってたけど、ここまで詳しい話は聞いたことがなかったな」
「本来この伝承は村長が代替わりする時に村の者を集めて聞かす事になっておる物じゃからな。お主らの様に儂がすでに村長になってからしか知らぬ若者は聞いていなくても仕方ないんじゃよ」
「なるほどな。しかし今のを聞いて大体あいつがルミナを攫った理由は察しがついた」
「多分お主が思っておる事で間違いないじゃろう。そう儂らの一族はガガナ村の初代村長であり女神イオナディアに光の加護を受けた巫女であるガガナの子孫なのじゃ。封印をどうやって解くのかは分らぬが封印したガガナの血族である儂らが関係しておるのはその魔族の口ぶりからして間違いなさそうじゃな」
「ああ。ルミナを見つけた時これで復活させられるみたいな事をいってやがったからな。ところで伝承は聞いたが昔話の方はなんなんだ?」
「それは私から話すわ」
今まで静かに話を聞いていたマリアが口を開いた。
「貴方は私達の両親がこの村の生まれではない事は知ってるわよね?」
「ああ」
「私達の父親は元々はとある国に仕えていた騎士だった。だけどその地位を捨て冒険者になり同じ冒険者だった魔法使いの母と出会い旅にでたの。そして母が貴方を身籠った事をしり、二人はその時立ち寄ったこの村に住む事にした。数年後貴方が三歳の時、先程の話にも出てきた魔竜ギドラが蘇り村を襲ったの。その時私達の両親は元冒険者でもあり、腕の立つ剣士と魔法使いという事もあって村を守る為、討伐に向かい打倒したものの、父は死に母は瀕死の重傷を負うことになったわ。実はこの時村長のお兄さん、つまり先代の村長が攫われていたの。犯人は悪神ゴーマを信奉する組織で隣の山にゴーマを祭る祠を作りそこを拠点にしている者の犯行だってわかったわ。ギドラが復活する前日に隣の山の山頂が怪しく光っているのを何人もの人が目撃していて先代の村長はその時、生贄にされたと言われているの」
「親父たちが村を救ったってのは嫌になるほど聞いたけど詳しい話を聞いたのは初めてだ。皆深く聞こうとしても苦笑いしてごまかすだけで何もいってくれなかったからな」
「ごめんなさい。伝承に関係する話は村長の代替わりの時しか話してはいけないという決まりがあったから貴方でも話せなかったのよ。でもこんな状況になってしまってはそんな事もいってられないでしょ。だから村長も許可をだしてくれたの」
「すまんの。いずれ儂が村長をやめる時に話をするのだからと思って掟を優先した儂がわるいんじゃ」
「いいよ、こうして話てくれたんだからさ。それより今の話を聞くにルミアは隣の山の祠に連れていかれた可能性が高いな」
「そうじゃな。じゃが隣の山に連れていかれたという確証はないうえにあそこはゴーマの狂信者達の巣窟、容易に山頂まで辿り着くことはできないぞ」
「確かに確証はないがここでうだうだ考えてたって他の当てが見つかるわけじゃないのなら時間の無駄だ。少しでも可能性があるなら俺は行く。必ず守るって約束したんだ。ルミナは絶対無事に助け出す!」
「止めても無駄そうじゃな。じゃが今日はもう日が沈んでおる、出発は明日にするんじゃ。兄者の時は連れ去られてからギドラが復活するまで二週間程時間があった。成人の儀を行った日から明日で丁度10日目になるが、まだ時間はある筈じゃ。まだ傷も治りきってないんじゃから無理をして今度こそお前さんまで死んでしまっては目も当てられんからの。万全の準備をしてから行くんじゃぞ。わかったな?」
「ああ。前回はルミナを守るって約束果たせなかったけど今度は絶対に二人で帰ってくる。絶対に!」
「うむ、儂も信じてお主らの帰りを待っておるよ。では見送りと出発前に渡したい物があるから出発する時間を聞いておきたいのじゃが」
「一刻も早くルミナを助けたいからできるだけ早くしようとおもっているんだけど…」
「じゃあ、明日の日の出前に出発できまりね!」
「ああ、ってなんで姉さんが張り切ってるんだよ」
「なんでって私もついていくからよ。今回は成人の儀とは違って行ってはいけない理由がないでしょ?」
「理由がないって、間違いなく危険な場所なんだぞ!」
「そんなのわかっているわ。でもね私だってルミナちゃんを助けたいし何よりあなたの事が心配なの。それにババ様から教わっているのは占いだけじゃないのよ」
「姉さんに心配されるほど俺は弱くない!」
「死にかけで倒れてた子がよく言えたわね」
「うるさいな。じゃあ姉さんは占い以外教わっているって何ができるんだよ?着いてきても戦闘の足を引っ張るんじゃ逆効果になるんだからな」
「こういう事よ」
マリアは人差し指を立てるとその先から小さな火の玉を出現さした。
「魔法!?」
「そう魔法。実はあなたに言ってなかっただけで昔から母さんに教えてもらったりしていて使えたのよ。ババ様もあまり知られていないけど凄腕の魔法使いなの。どう?これで少しは姉を信用する気にはなった?」
「わかったよ。一緒に行くよ。けど俺だって姉さんの事心配するって事忘れるなよ」
「うん、ありがとう」
「じゃあ出発は日の出前でいいんじゃな?さっきも言ったが渡す物もあるから儂やマリアに黙って勝手にいくでないぞ?」
「わかってるよ。それに黙っていったら姉さんが怖すぎてこの村に帰ってこれなくなるからな」
「よく姉の事をわかってくれている弟でよかったわ」
その後も少し話した後ガウルは席を立った。
「俺はそろそろ明日に備えて帰るよ。それじゃ」
ガウルはそう言うと話を切り上げ、家へと帰ったのだった。
翌日の朝、村の入り口に三人の影があった。
「では行ってくるよ」
「おお、その前にこれを」
村長はそういうとガウルへと布に包まれた棒状の物を差し出した。
「これは?」
ガウルがそういいながら布を外すと中から真っ赤な鞘に納められた立派な剣が姿を現した。
「これはお主の母親に頼まれて預かっておった物で、生前お主の父親が使っておった物じゃよ」
「これが親父の剣…」
「お主が成人の儀を終えたら渡すように頼まれていたんじゃ。それとこれは別で儂からの贈り物じゃ」
そういうと村長は何やら薬草を詰めた袋をとりだし、ガウルへと渡す。
「それは癒し草という飲めばたちまちある程度の傷なら治してしまう貴重な薬草じゃ。これは儂が若い時集めた分でいざと言う時の為に残しておいたんじゃ。間違いなくゴーマの信者共は襲ってくるじゃろうから持っていきなさい。儂にはこのくらいの事しかできんから遠慮はせんでいい」
「ありがとう村長。帰ってきたら村長の好物の熊肉とってきてやるから楽しみに待っておいてくれ」
そう言うとガウルは山を駆け足で下っていく。
「では村長、私も行ってきます」
「マリアも気を付けての」
「はい!」
元気な返事をした後マリアもガウルの後おい山を駆け下りて行くのであった。




