表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣豪ガウルと邪悪なる神々  作者: アール・ワイ・オー
旅立ち
2/9

成人の儀


ガウルが十六歳になる一日前、つまり成人の儀の一日前でもあるその日もガウルはいつも通りの日課を終え、家で剣の整備をしていた。

 すると、扉をノックする音が聞こえ、返事を返す前に扉が開き一人の女性が入ってきた。


 「なんだ、誰かと思えば姉さんか。なんか用?」


 「弟の成人の儀の前日なんだから様子ぐらい見に来るでしょ。それに案外緊張してたりするかもと思って心配してたけど拍子抜けする位落ち着いていて安心したわ」


 「俺はいつも通りだ。様子を見に来てくれたのは嬉しいけど俺は大丈夫だからルミナの処に行ってやってくれ。あいつ昔から強がるけどビビりだからさ」


 「なんだ、貴方もルミナちゃんの事心配してたのね。村長から暫くガウルがルミナちゃんと会ってないって聞いてたからもっと幼馴染を大切にしなさいって、文句の一つでも言ってやろうかと思ってたけど貴方なりに気にはかけてたのね」


 「当たり前だ。それに心配して頻繁に会いに行ったらそれはそれであいつ怒るからさ。ルミナは負けず嫌いだから、俺が心配してることに気づいたら間違いなくへそ曲げるだろうし」


 「確かにルミナちゃん昔から何かとガウルには張り合ってたものね」


 そう言うとガウルの姉、マリアはクスッと笑った。


 「実はねここに来る前に、ルミナちゃんの処へ行ってきたのよ」


 「相変わらず姉さんは仕事が早いな。それでルミナの様子はどうだった?」


 「少し不安そうにはしてたけど元気そうだったわ。それにルミナちゃん言ってたわよ、当日がどんな悪天候で厳しい儀式になったとしてもガウルと一緒だから平気だって。だからしっかり守ってあげないと駄目よ?」


 「ああ、わかってるよ。というかいくら最近の天候が悪いとはいえ、皆成人の儀をするってだけなのに心配しすぎなんだよ。マリア姉さんの時なんて気が付いたら終わってた位の勢いだったってのに」


 「私の時は夏だったからね。それに、ここ最近異様に天候が荒れているし、お隣のガルナの村とトルテ村で謎の巨影が多数目撃されてて噂では魔界から来たモンスターじゃないかと言われてるみたいだから。何よりババ様の占いで不吉な予言がでてるから皆が心配するのも仕方がないのよ。いくら貴方がこの村で一番の剣の使い手であり、ガガナ村の英雄二人の息子とは言えどね」


 「親父や母さんは関係ないだろ。なんにしたって、ルミナは俺が絶対守る。謎の巨影だかなんだか知らないが、そんな物、山でも見かけた事はなかったしもし本当にいても俺がぶっ倒してやるさ。それに結界だってあるんだ、皆は俺とルミナの成人を祝う準備をしてくれていたらそれでいいのさ」


 「わかったわ。私たちが心配ばかりしていても仕様がないものね。盛大に祝う準備をしておくわ。それじゃそろそろ私はババ様の処へ帰るわ。あ、あとこれ野菜の煮物作ったからここに置いておくから食べなさいね」


 ガウルが短い返事を返すとマリアは自分の住む占い師の家へと帰っていった。


 ガウルは暫く剣を磨いた後、作業を切り上げ家の裏にある扉から外に出た。

 そこには石で建てられた簡素な墓標が二つありその中央にある石碑には《ガガナの英雄ここに眠る》と記されていた。


 「親父、母さん、俺も明日で成人になるんだ。二人は喜んでくれるか?まあ成人を迎えるって言っても何かが特別変わる事はないと思うけどさ。俺は多分一生この村で暮らすと思う。二人が命を懸けて守ったこの村の事が俺は大好きだし俺の誇りでもある。だから俺は二人に代わってこの村を守っていくよ」


 ガウルは墓標に話しかけるようにそう呟くと、家の中へと戻るのであった。




 翌日、快晴の空の下、山頂の祠へと続く階段の前に人だかりができていた。

 これから成人の儀を行う二人の若者を見送るため村人全員が集まっていたのだ。


 一通り皆と言葉を交わし終わったルミナとガウルへ村長が近寄ってきた。


 「ガウルよ、くれぐれもルミナの事頼んだぞ」


 「ああ、任せてくれ」

 

 「もう、おじいちゃんやめてよ。ガウルも私は大丈夫だから自分の事だけ考えてればいいんだからね!」


 「わかってるよ、だが途中で辛くなったら直ぐに言うんだぞ」

 

 「全然、わかってないじゃない!」


 「そう言わずガウルの言う通り何かあれば二人で助け合いなさい」


 「おじいちゃんがそんな過保護だからガウルも余計な事いうんじゃない。いくら山頂付近の天気が変わりやすいからといってもこんなに晴れてるんだから流石に大丈夫よ」


 「そうは言ってものう、最近は何が起こるか分らんから用心したにこした事はないじゃろ」


 「あーもおっ、おじいちゃんの石頭っ」

 

 そんなやり取りをしていたガウルの元へ村長と同じ位の背丈の老婆が近寄ってきた。

 老婆は言い争っているルミナと村長を側目にガウルへと話しかけた。


 「ガウルや、聞いてはおると思うが私の占いでとても不吉な予言がでた。この予言がなにを指すかまでは私にもわからんしもしかしたらこの村には関係のない事かもしれぬ。しかし私には嫌な予感がしてのう。何もなけりゃそれが一番じゃがお前さんにこれを渡しておく」


 老婆はガウルへ綺麗な宝石のような石が付いたペンダントを渡した。


 「ババ様、これは?」


 「それは、秘霊石と呼ばれる石で作られたお守りじゃよ。秘霊石は身に着けたものを邪悪なるものから守ってくれると言われている物なんじゃよ」


 「高価な物なんじゃないのか?いいのか貰っても?」


 「確かに高価な物じゃが私が持っておるよりお前さんが持っておるほうがええと思ったから渡しておるんじゃ、遠慮せず持ってお行き」


 「じゃあ、ありがたく貰うよ。ありがとうババ様」


 ペンダントを上着のポケットへと仕舞う。


 「気にせんでいい。お前さんの姉にも助けてもらっておるしの」


 ガウルが占い師の老婆、マーサと話し終わると横からルミナが引っ張ってきた。


 「挨拶はもういいでしょ!いい加減そろそろ行くわよ」


 「わかったから引っ張るなって」


 ガウルはルミナに引っ張られながら「気を付けていってこいよ~」という村の人達の声援を背に山を登っていくのであった。


 



 暫くの時が経ち、頂上の祠まであと三分の一という所まで来た頃、急激に辺りが暗くなり雪がちらつき風が強く吹き始めた。


 「予想はしていたが、やはり荒れてきたな。ルミナこれを着ておけ」


 ガウルは自分が着ていた上着を脱ぐとルミナに渡した。


 「ありがとう。今回は素直にうけとっておくわ」


 流石に寒かったのかいつもは抵抗してくるルミナも素直に受け取った。


 「あれ?ポケットに何かはいってるわよ」


 上着を着終わったルミナは、ポケットに入っている物に気づき尋ねた。


 「それはババ様にもらったお守りだ。今はそのままお前が持っておけよ。どうせ成人の儀が終わるまで一緒にいるんだし、どっちが持っていても一緒だろうからな」

 

 「うん、わかった」


 「早くしないと吹雪いてきそうだし少しペース上げるが大丈夫か?」


 「馬鹿にしないでよ。これでも体力あるほうなんだから」


 

 

 

 そうして二人が山頂にたどり着いた頃、辺りは激しい吹雪に襲われていた。

 二人は祠の中に逃げ込むように入っていった。


 「ルミナ大丈夫か?」


 「はぁはぁっ、だい…はぁっ…じょう…ぶ」


 「全然大丈夫そうには見えないが、そういうことしておくよ」


 ルミナの息が整うまでの間に火打石でたいまつに火をつけた後ガウルはルミナを連れ成人の儀の目標である祭壇に祈りを捧げるために奥へと向かった。

 奥の祭壇には女神を模った像が置かれており、たいまつの炎で照らされたそれはものすごく美しかった。


 「それじゃとっとと祈りを済ませるぞ」

 

 「ええ、わかってるわよ」


 二人は胸の前で両手を組むと静かに目を閉じ祈り始めた。

 暫くの間そうしていた二人は目を開けお互いを見合った。


 「成人おめでとう、ルミナ」


 「ガウルもおめでとう」


 そう二人が言葉を交わした時だった。

 突然激しい揺れが起こり、爆音と共に祠の屋根が吹き飛ばされた。


 「なんだ!?」


 「キャアッッ」


 「何かいると思ったら脆弱な人間か」


 ガウルが突如として声がした方へ顔を向けると空中に浮かぶ蝙蝠の羽のような形をした巨大な翼を背から生やした人型の生物が目に映った。

 屋根が破壊されたことにより強烈な吹雪襲われたルミナは、突風により飛ばされ壁に背を打ち付け気絶してしまった。


 「ルミナッ!!くそっ!祠を破壊したのはお前かっ!?一体何者だ!!」


 「喚くな人間。我は偉大にして誇り高き魔族の戦士、ガトラス。我はこの地に封印されている魔人ザントランを復活させに来たのだ。その為にこの祠を今から破壊するのだから邪魔をするな」


 「魔族だ魔人だ訳がわからないが、とりあえずわかるのは村の大切な祠を破壊しようとするお前は俺の敵だって事だ!」


 背中に背負った剣を引き抜きガウルはガトラスへ向かって凄まじい脚力で跳躍し切りかかる。


 「邪魔をするなと言った筈だ」


 ガウルがガトラスの目前へと迫った時、ガトラスはガウルへ向かって腕を横なぎに振るった。それにより発生した風圧によりガウルは吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。


 「カハッ」


 腹の中の空気が漏れ気を失いかけるが、何とか起き上がり再び剣を構えガトラスを睨みつける。


 「そこで大人しくしていろ」


 「黙れ。これならどうだ!」


 ガウルは剣を握りしめ力を込めるように構える。すると剣が赤く輝き始めた。その後、剣を包むように炎が現れ、ガトラス目掛けて炎を纏った剣を降り下ろした。


 炎を纏った斬撃がガトラスを襲う。しかしガトラスはそれを片手で弾き飛ばし何事もなかったのようにしている。


 「火炎剣が弾かれただと!?くそっもう一度だ」


 その後ガウルは数度炎の斬撃を放つが、全てガトラスに弾かれてしまった。


 「何故だ!?ならば直接斬りかかるだけだ」


 ガウルは再びガトラスへ斬りかかろうする。しかしそれはできなかった。


 「うぐっ」


 「煩い蠅め。静かにしていろ」


 ガウストが放った闇色の輪っかの様なものに縛り付けられガウルは倒れてしまう。


 「邪魔する者はもうない。さあ今こそ甦れ魔人よ!」


 ガトラスは女神像へ向かって自ら作り出した紫に怪しく光る槍を投げ放った。直後爆発が巻き起こり地面から一柱の光があふれ出た。その後、光の中から大きな黒い球体が現れた。


 「おおっ、これが魔人ザントラン!まだ眠りから覚めていないみたいだが目的は達成した。んっ!?そこに倒れている女、まさか巫女の血族か!クックックこれはついているぞ。早速ザントランを目覚めさせる事ができる」


 ガトラスは倒れていたルミナの方へ近づくと肩に背負い上げた。


 「ルミナに…なにを…する気だ…」


 「貴様には関係ない事よ」


 ガトラスはそう言うとガウルに向かって黒いエネルギーの塊のようなものを放った。着弾と同時爆発が起こりガウルは吹き飛ばされてしまうのだった。


 「ウワァァァァアッ」


 宙へと放り出されたガウルは叫び声を上げながら、浮遊間を感じつつ意識を失った。

 

 


 


 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ