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第六話


 現在時刻は19:23。秒針が1を過ぎたあたり。

 僕は図書館で予習・復習を終え、余った時間で本を読んで時間を潰し帰宅。速やかに家路に着いた。



 いつものこと。いつもの日常、ライフスタイルだ。


「ただいまー」

「あ、お兄ちゃん。お帰り~~、それで友達は出来た?」

「帰ってきた兄に第一声、言う事がそれかよ!?」

 何その幼稚園入園一日目の子供の帰りにお母さんが呼びかけるような言葉!

 僕高校生ですけど!? 入学して半年近く経っていますけど!!



「だって、お兄ちゃんさ~、独りでいることが僕の至上の喜びとか狂ったんじゃ無いかと思わせるようなことほざいてんだもん。そりゃあ妹として心配にもなるよ」

 ……そういや妹にそんなこと言っちゃってたな、僕。


 やべぇ、超痛ぇ。

 何言ってんの? 以前の僕。

 死ねばいいのに。


 ちなみに今、玄関まで僕を迎えにきたのは上尾かみお 七海ななみ。我が妹で、中学二年生の14歳である。


 今日も今日とてそのトレードマークであるポニーテールを揺らしながら玄関までやって来た七海は僕とは違い社交的で明るいので、友達の数がやたらと多い。


 つまりは人気者なのだ。

 別に現状に不満があるわけでは無いが、何故こうも兄弟で違うのだろうか。


 解らん。解せぬ。

 ちなみに両親も社交的な者達なので友達が居ないなんて僕一人くらいである。


 ……僕だけ橋の下から拾われてきた、とかじゃ無いだろうな。


「まったく…………お兄ちゃんはいつも強がって“僕は人間不信なんだ”だの“僕の交友関係はこれで完成なんだ”だの言ってるし…………、青春に友達は不可欠だよ? 財産だよ? 出来るなら七海の一%でも友達を分けてあげたいくらいだよ。何だったら紹介する?」

「いい。中学生の友達しかいない高校生っていったい何処のロリコンだよ」

「可愛い女の子もいっぱいいるよ?」


「…………遠慮しておこう」

「…………今、一瞬揺れ動いたよね?」

「な、何をば、馬鹿なことを言ってるんだ?ガンジーの再来とまで言われた僕がそんなことで動揺するわけが無いじゃないか」

「誰が言ったのよ?」

「僕に決まってるじゃないか」

 だって友達いないもん。


「自称かよ」

「自称だよ」

 というか他人にガンジーの再来とか言われたら何の虐めかと誤解するだろうな。



「はぁ~~。七海はお兄ちゃんの将来が心配だよ…………。こんなことで世間の荒波を渡っていけるのだろうか」

「渡っていけなくなったその時はお前に養ってもらうから心配する必要は無いよ」

「ヒモ生活!? 心配するよ! というか身の危険を感じるよ! 何で妹に平気で迷惑掛けようとしてるの!?」

「待て待て。七海……僕が妹に迷惑を掛けるような、そんな最低な兄に見えるのか?」

「そうだよね。妹に迷惑掛けるなんて兄が存在するわけ…………」

「お小遣いは月五万もあれば事足りるぞ?」

「最低な兄を発見しました」

「…………これでも大分譲歩したんだが」

「まずは妹からお小遣いをもらおうとする概念を捨て去れゴミ虫」

「ゴミ虫!? 兄が昆虫と同格だと!? 貴様、なんてことを言うんだ! 恥をしれ!」

 辛辣な言葉に僕のガラスのハートはズタズタだ!



「……ええと、恥を知るのはお兄ちゃんだと……そう七海は思います」

 ………………。

 ……まあ一理あるな。

 というか会話を思い返してみると確実に10割方僕が恥を知るべきだろう。

 良し、恥を知ろうじゃないか。

 こうして上尾 大知は日々進化していくのだ。抜かりは無い。



「こんなことだからお兄ちゃんはいつまで経っても友達どころか恋人の一人も出来ないんだよ?」

「そう言えばお前って彼氏がいるんだったっけ?」

「うん。超ラブラブファイヤーですよ」

 友達どころか中2にして彼氏までいる妹。

 なんてリア充(リアルが充実している者)な妹なんだ。


 消えれば良いのに。

 …………しまった。そんなことを妹に思ってはいけない。言葉を訂正せねば。


 死ねば良いのに。

 …………訂正したらもっと酷い言葉になってしまった。


 だってしょうがないじゃん。ムカつくんだもん。

 僕としては友達関係よりも恋人関係の方が上だとは決して思ってないが、これでも僕は思春期。恋人がいるなんて奴には問答無用で嫉妬の念が沸いてくるのだ。


 ガンジーの再来ともなればそういうことも無いのだが、あれは自称であって決して真実では無いことをご理解戴きたい。

 だから僕の暴言は必然的なものであり、決して人間としての尊厳は失われないのである。


 ふむ、完璧な理論だ。正当性を貫き通している。


「お兄ちゃん…………また頭おかしいことを考えてるでしょ?」

 ……微妙に鋭い我が妹。僕の負の感情を読み取るなんてな。さすがは長く一緒にいるだけはある。

 というわけで褒めることにした。


「七海よ、よくぞ我が負のオーラを感じ取った。褒めて遣わす」

「負のオーラって…………、厨二病かよ」

「……………………っ!!」

 うわぁああああああああああああああああああああ!!!! 現役の中学生に! 現役の中学二年生に厨二病って言われたぁああああああああ!!!!

 超ラブラブファイヤーとか言ってる、ファイヤー付ければどうにかなると思っている妹に厨二病って言われたぁああああああ!!!!!



「じゃあ友達も彼女もいなくて、妹のヒモになろうとしていて、厨二病のお兄ちゃん」

 妹にこの言われよう。

 もう取り返しつかねえな。主に兄の威厳だとか尊厳だとか。


「夕食までゲームしよっ!」

 屈託の無い笑顔でそう言う七海。


 ……………………。

 正直なところ、妹や両親とのこうした会話、コミュニケーションがあるからこそ僕は外で、学校で――――――独りで歩いていける。

 そう思うことがたまにあるよ。


「ふっ…………僕のゲームの腕を舐めるなよ。一瞬で蹴散らしてフルボッコにしてやんよ」

「休日はいつも引き篭もってゲームしているからね。そりゃあ強くもなるよ」

「ほっとけ! 僕の唯一にして崇高なる趣味を馬鹿にするな」

「ゲームが崇高って…………これは馬鹿にする以外の選択肢が存在するの?」

「じゃあ言い換えよう…………電脳遊戯が僕の絶対にして崇高なる趣味なんだ」

「何ぃ!? さもお兄ちゃんが知的な趣味を持っているかのように聞こえる!」

「電脳遊戯をお茶と和菓子を片手に一日中興じるのが僕の密かな楽しみだ」

「ああっ! 何かさも気高いことをしているかのように聞こえる不思議!」

 意味は菓子と麦茶を片手にだらけながら一日中ゲームをして過ごすということなのだが。

 言い方一つで捉える印象がこうも違う。

 日本語って不思議。



 こうして一日の会話のほぼ八割を家族に依存している僕だった。

 この時、僕は少しも考えていなかった。


 考えるわけも無い。当たり前だ。



 明日からこの会話の比重が崩れる、なんてことは。




 到底、独りの僕なんかに予想など出来るはずも無かったのである。

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