第四話
現在時刻は13:03。秒針は丁度5を指した所。
時間は昼休み。世間で言うところのランチタイムに当たる。
これも友達のいない者にとっては鬼門の時間だ。
孤独な者は笑い声があちこちで響く教室には居づらく一人になれる場所を捜すのだが、そう簡単には見つからないし、もし見つけたところで一人弁当を食べているところを誰かに見られると凄く嫌な視線を向けられることになる。
これはかなり屈辱的だ。耐え難いものがある。
僕は思う。
誰もがそんな思いなどしたくないからこそ、友達をつくっているのでは無いだろうか。
しかし僕はそんな見も知れぬ誰かとは違う。そんなことで友達をつくり始めたりなんかしない。
僕以外その他大勢は心が弱いのだ。
独りでいることに長けた僕は違う。
僕ほどの男になると一人でいられる場所など捜しにいかない。
敢えて教室の中で食う。
皆の輪から外れて一歩引いた形で人間観察をしながら飯を食うというのも中々に乙なものなんだ。
この賑やかな空気と一歩隔てたところで食べる弁当。
やべぇ卵焼き、超うめぇ。
……………………うむ、うまうま。
……………………。
べ、別に寂しくなんか無いよ?
……………………。
やべぇタコさんウィンナー、超うめぇ。
……………………うむ、うまうま。
……………………。
…………うん、駄目だ。こればかりは認めましょう。
寂しいです、はい。
寂寥感でいっぱいです、はい。
だからといって話しかけるのは面倒くさいし、表面上で付き合う奴も増やしたくない。結局は一人で飯を食う僕だった。
それに今は九月。クラスでは人間関係がほぼ形成しきった状態。そんな中に僕がいきなり入っていっても異物扱いされるだけ。僕にそんな勇気は無い。
だが僕も今までずっとこうして一人で飯を食べていたわけでは無い。
最初の頃、すなわち高校生に成り立ての時期は僕もクラスメイトと一緒に弁当を食べていた。「一緒に食べようぜ」と誘われたりしてな。
別に対して断る理由も無かったし、下手に断って変な目で見られるのも憚られたので一緒に昼飯を食べていた。
だが自分から話題を振るでも無く、かといって話題に加わろうともしない僕は自然とグループから抜けていた。
そんな奴と飯を食っても楽しいわけが無いからな。当然の結果と言える。
僕は当然の如く独りになったのだ。
僕は僕の責任で独りの時間を作り上げたのだ。
クラスメイトの喧騒を耳にしつつご飯を頬張る僕。
それに一応、こうして一人でいても日常生活を送るのには対して支障ないしな。
先に木島先生が高校では友達が一番の財産になる、と言っていたがやはり価値観というのは人それぞれなのである。
人のいるだけの価値観があって。
価値観だけの人がいる。
そんなものなのである。
だから今日も僕は一人で飯を食っている。
うーむ、うまうま。
漫画や小説ではよく“ご飯は一人で食べるよりも皆と一緒に食べた方がおいしい”という表現があるが、これは結局皆で食べているという雰囲気がそう感じさせるのであって、断じてご飯自体の旨さが増す訳ではない。
友情が最高のスパイスになり得るなんてのは戯言でしか無い。
むしろ会話に夢中になっているせいでご飯を良く味わえないぐらいだ。
だから一人で食べているのだ――――と言うわけじゃないが。そんなのはそれこそ戯言でしか無い。
しかしそんなことを言ってでも僕は自分の正当性を保ちたいのだ。
自分が独りでいることに理由が欲しい。
理由と言えば、僕が今ここで食べているわけの一つにこの席が窓際だから、というのが挙げられる。
この教室は四階。景色がとても良いのだ。
窓に視線を向けると運動場全体が見渡せ、またそれだけでなく我が町並みを一望出来たりする。
まあ一望と言ってもそれ程遠くまで眺められるわけでも無いが。学校にしては良い景色という程度のこと。
それでもここで弁当を食べる理由の一つとしては説明がつくに違いない。
眼下に見下ろす運動場には人が誰もいない。それも当たり前と言えば当たり前。昼休みだしな。
だが今まで誰一人映っていなかった視界がふと誰かを捉えた。反射的にそちらを向いてしまう。
動くものを追う習性だ。
その動くもの、いや者だな。よく見えないが多分……崎宮 雫だ、あれは。
あんな所を一人で歩いて何をやっているんだ、あいつは。
まあ食後の散歩、及び気分転換、そんなところだろうが。
僕は弁当に残った卵焼きを頬張りながら考える。
孤高の独り。
それがどう言った気分なのだろうか、と。
とはいえそれは考えたところで答えが出るとは到底思えないことなのだが。
それは所詮本人にしか分からないことだろう。
こんな言い方、僕は嫌いなのだが最終的にこう思う。
天才の考えは分からない、と。