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第二十六話


 廊下を急いで駆け抜け、階段をほとんどジャンプしてるんじゃないかというスピードで駆け下りる。

 普段の僕からは考えられないほど俊敏なスピードだ。野生のカバが獲物を視界に捉えた時の変わり幅と同じくらいだと言うと若干伝わるかもしれない。



 そうして校門を一気に走り抜ける僕だったが、

「よう、待ってたぜ」

 このような声と共に横から三つの影が飛び出す。


「あそこまで馬鹿にされて俺らがお前を見逃すと思っていたのか?」

「明日には木島の野朗に見張られて身動きが取れなくなるだろうが……今ならまだ間に合う。思い切りぶちのめさせてもらうぜ?」

 僕をぶちのめしたい連中は沢山いると思うが、このタイミング、このセリフで出てくる3人を僕は一組しか思いつかない。当然、島根、三河、小島の三人だ。


「……………………」

「ははっ! 怖くて声も出ないか? 大丈夫大丈夫。今から声は出せる筈だから。……叫び声だけどな」

「場合によっては病院送りになるだろうが覚悟しろよ?」

 そりゃ好都合だ。今から僕は病院に向かうもんでね。


 出来るなら志木崎病院にしてくれよ? 行く手間が省けるから。



 ――――などという妄言は言わないことにする。状況が状況だけに格好がつかないし、最初から僕はこいつらにぶちのめされる気は更々無い。


 今、病院にいる筈のあいつに心配なんて掛けたくないからな。

 それともう一つ。


「そう言えばお前ら……確か前に崎宮のことを馬鹿にしていたよな?」

「何言ってんのだ、お前? それよりもまず俺から一発殴らせてもらうぜ?」

 奇声を上げながら殴りかかってくる島根。さっきも僕の安い挑発に真っ先に反応したのはこいつだった。おそらく致命的に血の気が多いのだろう。



 さて僕がこのまま何もしなければこいつらにボコボコにされることは目に見えているが、前述の通りそんなわけにはいかない。


 というか僕は以前と違いこいつらに抵抗出来るようになっていたので、僕がマゾにでも目覚めない限りそんなことは無い。それに――――――、


 

 あいつの事を馬鹿にしやがったクソ野朗をこのまま放っておくわけが無いだろう?

 


 僕は、

 目の前にいるクソ野朗を思い切り、



 力の限りぶん殴ってやった。



「げぼぉ!」

 僕に殴られて、汚い悲鳴を上げながら地に転がるクソ野朗もとい島根。


「し、島根!?」

「畜生! 何しやがる上尾ぉ!」


 他の二人、三河と小島も殴りかかって来たので取り敢えず適当に避けると、

「悪いな御両人。僕は用があるからこの辺で失礼させてもらうよ」

「何だってぇ上尾!?」

「逃げ切れると思うなよ!」

 とそのようなことを言ってきたが、位置的に逃げやすい場所でもあったし元々僕はそんなに足の遅い方では無い。悠々とその場を後にする。



 僕は前から色々な事に逃げている自分があまり好きで無かった。

 当然だ。逃げている事を自覚した上でそれに好意的な気持ちを抱ける程僕は達観した人間にはなれなかった。


 そして、今も逃げている。二人組――島根も加えて3人組か。とにかく逃げ出していた。



「待てぇ!」

「覚えとけよぉ!」

 とクラスメイトの怒声を背中に浴びながら逃げる僕は、いつもの“逃げ”と違い、



 どうしてかとても清々しい気分だった。

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