第二十三話
崎宮 雫が学校に来ない。
これは比喩表現でも、ましては想像、妄想のたぐいでは無い。そのままの意味である。
既に崎宮が来ない日を数えて三日が過ぎている。
木島先生によると病欠らしい。
おかしい。妙な違和感を感じる。
崎宮が今までに病欠なんてしたことがあっただろうか。
いや、そもそも病欠が三日続いているのもおかしい気がする。
とはいえ調べようにも僕は崎宮のメルアドも電話番号も知らなかった。
それどころか僕は崎宮の住所も趣味も好きなことも嫌いなことも、僕は何一つ知らない。
…………崎宮、僕を友達と呼ぶからには連絡先ぐらいは教えといてくれよ。
どうしようもなく、どうすることも出来なかった。気長に待つより仕方が無かった。
……………………。
授業時間はともかく休み時間が異様に長く感じる。
周りの喧騒が一層騒がしく感じる。
その中で僕が一人この空間から隔離されたかのようにポツンと佇んでいる。
いつもは崎宮の奴が休み時間の度に僕の席に来ては適当な妄言だか戯言だかを僕に向かって喋っていたからな。
それを僕はくだらないと思い。
鬱陶しいと思い。
煩わしいと思い。
それでも崎宮は僕に話しかけてきた。
話すことをやめようとはしなかった。
周りの喧騒など気にならないくらいに話すことをやめようとはしなかった。
僕はその対応に毎度追われる。
既に僕の休み時間はそれが日課であり、そして日常と化していた。
僕の独りの時間は既に無くなっていた。
だから忘れていたのかもしれない。
今まで僕は――――崎宮と話している以前の僕はどうやって休み時間を過ごしていたのだろうか。
僕は記憶の糸を手繰りよせ、時計を見ながら休み時間を過ごしていたことを思い出す。
現在時刻は10:59。秒針は丁度12を示している。
時計の針を眺めながら過ごす休み時間。その針の進み具合はとてもじゃないが遅く感じられた。
一秒、一秒針の動きを正確に目で追う。
別にそれが辛いとは思わない。しかし同時に楽しいとも思わなかった。
崎宮と喋っているほうがよっぽど楽しかったぐらい――――――、
――――――――ちょっと待て。
今、僕はなんて――――僕は何を考えていた?
そして自分が何を思っていたかに気づき、愕然とする。
どういうこった。僕はどうしてしまったのだろう。
もう僕は認めないわけにはいかない。
僕は――――独りでいることが楽しく無くなっていた。
孤独でいることに抵抗感を覚えていた。
簡潔に言うと僕は会いたかったのだ。
崎宮という名の話し相手と。
僕は今だから気付く。いや……前々から気づいていたのだろう。
気づいて知らないフリを決め込んでいたのだろう。
いつからか崎宮と過ごす休み時間。そんな時間が嫌いで無くなっていた。
その日常を僕は何処か好意的に捉えていた。
現在時刻は11:02。秒針は6を示している。
そう言えばこうやって時計を凝視するのも久しぶりだ。
僕は秒針の動きを目で追っていたが、やがて飽きて目を背ける。
「はぁ………………」
僕は盛大に溜息をつく。
………………いつからだろう。
僕がこうして時計を眺めなくなったのは。




