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第十九話


「ああ……今日も疲れたな……っと」

 下校時にも僕は崎宮と一緒に帰っていたのだが途中で別れて、一人帰宅の途につき、今は玄関の前にいる。


「ああ、お兄ちゃんお帰り~!」

 疲れた体で玄関のドアを開けると今日も僕を迎えてくれる七海。

 なんら日常と変わらない風景だ。


「おう。ただいま」

「それにしてもお兄ちゃんこの頃帰り遅いね。何かあったの?」

「まあな。実は部活動を始めてな」

「!?」

 僕の言葉を聞くと同時に目を大きく見開いて後ずさりを始める七海。

 その驚きようは尋常で無く後ずさり出来る限界まで後ずさりし壁にぶつかった後、その背中を預けるようにしてズリズリと膝から崩れ落ちていった。



「……あ……ああ……」

「お、おい、何だ? どうかしたのか?」

「……ぞ……」

「うん?」

「……俗世に……興味がおありだったので?」

「僕は何処の浮世離れだ」

 じゃあこの家はいったい何処だってんだ?

 お城か? はたまた天界か?


「いやいや…………お兄ちゃん……いったいいつから部活なんて始めたの?」

「部活は今日からだ。強制的に入部させられてな。……ってそんなに驚くことかよ」

「そりゃあ驚くよ。びっくりだよ。仰天だよ」

「…………三回表現を重ねるほどか?」

「うん。七海としてはあのヘタレで有名なヤムチャでも地球を壊せるって知ったときぐらいの衝撃だよ」

「…………そりゃあ相当なものだな」

 どんだけ戦闘力がインフレしてんだよ、あの超人漫画。


「ではここで問題です」

「……何だいきなり」

「七海の戦闘力はいくつでしょうか?」

「……………………2くらい?」

 銃を持った男が戦闘力5だからな。そのぐらいだろ。


「ぶっぶー! お兄ちゃん! それはさすがに低すぎだよ! 七海を侮りすぎ」

「じゃあ答えはいくつなんだ?」

「正解は七海の戦闘力は100万を優に超えています」

「フリーザ様より上だってのか!?」

 なんて妹だ。全宇宙でも敵なしじゃないか。


「旧スカウターで戦闘力を測ろうとしたらあまりの戦闘力にスカウターが消し飛びます」

「妹の戦闘力は化物か!」

「変身はあと50回以上残しています」

「更に上があるというのか!」

 だが最後にはツルンツルンになることだけは止して欲しい。


「その気になればギアセカンドまでは可能です」

「海に出ても最強じゃないか!」

「あと念も習得済みです。名前は“ラブ・エージェント”」

「名前のセンスが厨二病丸出しだ!」

「そんな七海はお兄ちゃんなんか大嫌いなんだからね! …………ええと…………でも後で一緒にゲームなんかやってくれると…………七海は、嬉しいな」

「そのスペックでツンデレ属性だと!?」

 ハイスペックすぎる。僕では到底太刀打ち出来ない。


「それでお兄ちゃん。これからお風呂にする、ご飯にする、それとも…………七海に、する?」

「……………っ!!」

 このタイミングでそれを言うだと!? そんな…………まさか…………。


「まあ冗談でも七海って言ったらその瞬間に戦闘力100万の実力を使ってお兄ちゃんをミンチにするけどね」

「…………分かっていますとも、ええ」

 やばかった。ミンチになるところだった。冗談でも七海って言うところだった…………うん? い、いや冗談だよ? 冗談。ハハッ!


「それにしてもお兄ちゃんが部活動とはね」

「そう言えばお前も何か部活に入ってるんだったか?」

「うん。私は演劇部に入ってるよ」

「ふーん。あのよ七海……部活って楽しいか?」

「まあね。友達とも遊べるし。それに……」

「それに?」

「私の演技に騙される観客がそれはもう愉快で愉快で」

「七海、いつからお前はそんな子になってしまったんだ!」

 僕の妹がいつの間にか真っ黒です。混沌としています。


「だから私がお兄ちゃんに接する態度も実は演技かも…………」

「もう僕はお前の前で心から笑えない!」

「なんて嘘だよ嘘」

「…………そうだよな。お前がそんな子なわけ……」

「まあこの言葉も本当か嘘かなんて誰にも分からないけどね」

「やめて! これ以上僕を混乱させないで!」

 もう僕は家族ですら満足に信用出来なくなりそうだ。


「でもさお兄ちゃん。所詮人の言葉なんて何処からが嘘で何処からが本当なんて誰にも分からないものだよ?」

「……どうしたんだいマイ・シスターよ。今日は随分深いことを言うじゃないか」

「深いと言うか……誰でも一度は考えたことがあるんじゃない? ……他人を絶望的なまでに信用しないお兄ちゃんは特にだと思うけど」

「………………」


 妹の癖に見透かしたことを…………。まあ当たってはいるが。

 所詮他人の言う事なんて本当か嘘かなんて誰にも分からない。

 他人を避けてきた僕はそれを特に強く捉えている傾向にあると思う。



 例えばだ。

 誰かが僕を好きだと言ってもそれが本当かどうか、なんて誰にも分からない。

 誰かが僕を友達だと言ってもそれを確かめる手段が何処にある?


 もしかしたら話す機会の多い崎宮でさえ――――僕を友達と思ってない可能性なんてゼロだ、とは言えないのだ。

 言葉にしているだけで、それを信用出来るなんて誰に証明出来よう。

 人の言う事なんて結局はあてにならない。する価値は無い。



「だからねお兄ちゃん」

「なんだ?」


「お兄ちゃんが部活に入ったなんて本当か嘘かどうか分からないけど…………、七海はちゃんと信じてるからね!」

「………………」


 僕は他人どころか妹にさえまったく信用されていなかった。


「お兄ちゃんが嘘を言ったとしても、たとえ見栄を張っていたとしても七海は信じてるからね!」

「嘘つけ! お前絶対僕が部活に入ったことを嘘だと思っているな!」

 なんて妹だ。だがそれ以上に……部活に入ったことさえ信じて貰えない僕っていったい…………。


「そんなことないよ! 本当だよ! 信じてるよ!」

「……本当か?」

「うん! お兄ちゃんが部活に入ったと、そう思い込んでることを七海は信じてるよ!」

「既に妄想だと思われているのか!?」

「メロスが帰ってくると思っているセリヌンティウス…………を見ている王様ぐらい七海は信じてるよ」

「だからそれまったく信じてないよね!?」

 信頼度が0%だった。完全に暴落していた。

 僕は自分の立ち位置を再度見直しておいたほうが良いのだろうか。


「でもさ。お兄ちゃん、その妄想に関係あるかどうかは分からないけど」

「妄想!? 遂に妄想と言い切りやがったな!」

「最近のお兄ちゃんは凄く楽しそうに見えるよ」

「…………はあ?」

「お兄ちゃんは楽しそうに見える。それだけを見れば本当に学校で何かあったのかもね」

「…………突っ込む気も失せたよ」

 そんな風に見えているのか、僕。



 …………どうなんだろうな、実際。

 僕はどう思っているんだろう。


 今の学校生活を。


 今の高校生活を。


 今の人間関係を。



 崎宮との、関係を。



 話し相手よりも上だと、そう思える日が来るのだろうか。



 友達だと、そう思える日が来るのだろうか。

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