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第一話


 現在時刻は10:02。秒針の針が7を通り過ぎたところ。



 この時間は僕が通っている志木崎しきざき高校での二時限目終わりの休憩時間に当たる。

 周りからは勉強から解放され、精一杯この休憩時間を楽しもうとするクラスメイト達の喋り声が絶えず聞こえてくる。

 騒がしい話し声や時には笑い声が教室中に飛び交っている。



 そんな中僕は肩肘をつきつつ顎を支えて、一番左後ろ、窓際の席である自分の席に座り、クラスメイト達を遠巻きに眺めながら一人、ボーッとしていた。

 僕に話しかけてくるクラスメイトは誰一人としていない。

 理由は簡単、単純至極。


 僕に友達が居ないからだ。


 現在時刻をこんなにも正確に把握しているのは、やることが無いから時計を凝視しているからに他ならない。

 だがここで僕が可哀相な人間なのだという鬱陶しくも煩わしい勘違いをしては困る。


 僕は独りでいることが決して嫌いでは無いのだ。

 むしろ大好きにあたる。


 こうやって空いた時間を使い、くだらない考え事や妄想に浸るこの時間が僕は好きだ。

 暇つぶしが大好きなのだ。

 僕は大好きなことで時間を潰しているわけであり、断じて可哀相な人間では無いのだ。


 この辺を勘違いする人間が周りには多すぎて本当に嫌になる。

 むしろ同情の入り混じった目線を向けられること自体がそいつらの言う孤独な人間を痛めつけていることに気づいてない者が多いことに僕は嫌悪感を抱かざるを得ない。

 友達が居ない人間関係こそ僕にとって理想的な人間関係にあたるというのに。



 そんな僕は思うのだ。それを思い、そして考えるのは僕にとって、もはや必然と言っても良い。


 友達。友人関係。

 本当に必要か?


 必然的にいなければならないような、そんな存在か。


 深い友人関係なら良いだろう。相手が僕のことをしっかり理解してくれて、僕も相手のことをしっかり理解している。そんな絵に画いたような良好な関係。

 一緒に居て心から楽しめる、そんな関係。


 そんな深い関係を形成出来た友達なら話は別だ。

 僕もその深い友人関係には賛成である。


 だが現実はその関係に辿りつくまでの過程というものが存在する。

 その過程が僕にとって長すぎるのだ。

 友人関係に至るまでの過程が僕にとっては苦痛でしか無い。


 探り探りの会話。

 表面上の付き合い。

 そんなのが僕は大嫌いだ。


 むしろ憎んでいると言っても過言では無いだろう。


 それがコミュニケーション能力ならば僕はコミュニケーションという言葉を強く否定しよう。

 お互い気を使いあう関係。

 こんな人間関係を形成するのは絶対に嫌だ。断固お断りである。



 それが僕の価値観。言わばアイデンティティーなのである。

 さて、僕がそんな薄い人間関係を形成するのを嫌う理由としてこんな一例がある。


 例えば廊下や道で大して交友関係の深く無い者とすれ違ったりする。

 こいつに僕はどんな対応を取れば良い?

 普通に声を掛けるか?


 でもこいつは大して親しくも無い僕に話しかけられたら迷惑かもしれない。


 別に迷惑じゃ無かったとしても、だ。大して親しくも無いこいつに僕はどんな話を振れば良い?

 最近調子はどうだ?元気にしているか?昨日どんなテレビを見た?

 思いつきはする。

 でもな。


 こんな会話をして本当に楽しいのか?

 僕にとって大して親しくも無い奴の調子なんてどうでも良いし、そいつの体調なんて知らん。ましてや昨日見たテレビの内容なんぞ聞きたくも無い。


 端的に言ってしまうと僕は親しくも無い奴と会話をしたく無いのである。そんなことをするぐらいなら今日の晩御飯のメニューでも想像していた方が幾らか楽しいのでは無いかと思うくらいだ。


 それが人間関係の形成術であるだと言えばそれまでだが、不幸にも僕はそんな言葉で納得出来るほど素直な人間では無い。



 なら僕は無視をすれば良いのだろうか。

 大して親しくも無い奴と廊下や道ですれ違ったときは見なかったフリをして通り過ぎる。


 僕から言わせればこの行為、超面倒臭かったりする。

 フリをするというのが嫌だし、無視をしたところから来る背徳感が最悪だ。


 でも日常的に交友関係の輪を広げていると、少なからずそのような場面が存在する。



 ならば逆に考えよう。

 要するに日常的に交友関係の輪を広げなければ、そのような場面を経験することは無くなると言う事だ。

 その犠牲に、友達がいなくなることぐらい知ったことか。


 そもそも僕は独りでいることが好きなのだから。


 だからこの時期――――二学期も始まって数日経つというのに。

 僕には友達が一人もいなかった。

 僕は独りだった。


 独りで――――そして孤立した。

 それは僕にとって強がりでも何でもなく、とても理想的な交友関係だった。

 だから。

 この休み時間の喧騒も僕にとっては別世界も同じことなのである。




 僕は独りの世界を歩いていたのだ。

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