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第十八話

 放課後とは生徒が部活動に精を出したり、勉強をしたり、時には友達と自由にお喋りをしたりと…………要は自由な時間だ。

 そんな自由極まりない時間に僕と崎宮は本来なら部活生がいるべき場所。部室棟に居た。



 いや崎宮曰く僕等は既に部活生だそうだが。

 ちなみに部室棟というのは別名サークル棟と言って、名前の通り部室が集まって出来ている校舎であり、その使用目的からか教室棟と違ってあまり上等とは言い難い校舎の事である。


 そんな校舎の一角であるところの一部屋に僕等はいた。


「さあ、上尾! 今日からここが我々ボランティア部の部室だぞ!」

「おいおい……活動する気の無い僕達が本当にこんな部屋を自由に使って良いのか?」

 部屋は部室棟の三階、長テーブルとパイプ椅子が置かれているだけの質素な部屋だったが、何もしない僕達が使うにあたっては上等すぎるぐらいだ。


「そりゃあ木島教諭が好きに使って良い、と言っていたんだから良いんじゃないのか?」

「なるほど。木島先生がね」

 あの人でも一応教師だ。その人が良いと言うのであれば良いのだろう。

 精々好きに使わせてもらうさ。



「で、今から何をするんだ?」

「そうだな…………」

 崎宮は先程何もしなくて良いと言っていたが創部した張本人なんだ、何かやることぐらい考えているは――――――、


「うむ、やることは特に無いな」

 ……本当にこいつはいつでも僕の予想を裏切ってくれる。


「先程も言ったがこの部を創った目的は友達と遊ぶためだからな」

「ボランティア精神の欠片も感じられない創部目的ですね」

 奉仕の心どころか完全に自己中心的な創部目的だ。


「でも無能な上尾がそこまで言うのであれば私が何か考えてやらないこともない」

「ほう。ではさぞ有能な崎宮さんはこれ以上無いアイディアを思いつくんだろうな」

 僕がそう言うと崎宮は顎に手をあて目を瞑り熟考し始めた。


 暫くの沈黙の後、

「良し、閃いたぞ!」

「で、何をするんだ?」

 質問した僕に対しフフン、と得意げ笑いながらこう言う。


「これからの部の方向性について話し合おうか」

「ほう、お前にしてはまともな提案だ」

 僕もしょうがなくとは言え部活に参加することになった以上、毎日暇を持て余しにここに通うのは正直気が引けるからな。


「では有意義な話し合いにしようじゃないか」

「それは分かっている。だが一応僕達はボランティア部なんだ。その活動内容に沿った方向性にしてくれよ」

 一応最初くらいはまともな話し合いにしたいからな。


「ああ、任しておけ」

 そんな僕の意見に自信満々に頷く崎宮。


 何故だろう、こいつの自信満々な態度には妙な胸騒ぎがする。


「では早速私の意見から」

 早くも崎宮が意見を纏めたらしい。なるほど僕を無能と言うだけはある。


「では…………ボランティア精神に基づき紛争地帯への食糧供給の支援を行うのはどうだろう」

「いきなり規模がでかい!」

 何こいつ!? 部活動でどんだけ大きいこと成し遂げようとしてんの!?



「私としては教育の受けられない子供達に十分な環境を用意してやることとの二つで迷ったのだが前者の方針で我々は動きたいと思う」

「ちょっと待て! なんだそのノーベル平和賞が貰えそうな規模の方針は!」

「駄目か?」

「駄目も何も実現不可能だろうが! 一高校生がどんだけでかいことを成し遂げようとしてんだよ!」

「どんだけ~」

「何そのはぐらかしかた!」

 しかも古い、もはや死語に近い。ブームはとっくに過ぎている。



「とはいえお前の言った通りボランティア的な方針ではあるし何より方針もとい目標はでかいほうが良い」

「そのレベルは既に妄想でしかないだろ」

「妄想を実現する力…………カッコいいじゃないか」

「戻って来い崎宮! 時には現実を見ることも重要だぞ!」

 夢見る少女――――言葉的には良い響きだがその実、只の現実逃避だ。



「さて計画実行の際には上尾には骨の髄まで働いてもらうぞ?」

「お前どんだけ僕をこき使う気だ!」

「具体的に言うと睡眠時間は30分くらいだな」

「過酷過ぎる! お前のプランで言ったら僕の毎日は地獄同然だ!」

「それがボランティア部というものだろう」

「ボランティア部ってそんなに厳しいものなの!?」

 さっきは何もしないで遊ぶとか言っていたのに…………何だ先程との雲泥の差は。



「ちなみに私はお前の指揮官だ」

「指揮役って…………具体的には何をするんだ?」

「お前に指示を与えた後……」

「ふむふむ」

「お前が私の指示を終えるまで眠っておく」

「駄目指揮官だ!」

「上に立つ者が楽する…………それは何処の世界でも同じことだろう」

「良し崎宮、お前は一生出世するな」

 こいつが出世した場合こいつの下にいる者があまりにも不憫すぎる。



「冗談はさて置いてこの意見は却下か?」

「お前の意見は部活の枠を超えているんだよ。もっと身近で簡単な方針で動くことにしよう」

「じゃあそうだな…………ボランティアの書き方を理解するところから……」

「今度は方針が小規模すぎる!」

「特に“テ”の部分が簡単なようでいて意外と難しい」

「知らねぇよ!」

「いや……これでは上尾にとってレベルが高すぎるかな…………?」

「僕凄い侮られてない!?」

「ではボランティアの真の意味を理解しようじゃないか」

「今度は無駄に深い!」

「じゃあボランティアの発音からいくぞ」

「発音!?」

「では…………ボ・ラ・ン・ティ・ア」

「英語的な発音じゃなくて日本語的な発音だと!?」

「時々タランチュラと間違えそうになるから気をつけろ」

「間違わねぇよ! どんだけ僕を馬鹿呼ばわりしてやがるんだ!」

 方針と言うか僕の教育になってやがる。



「どうした上尾。不満か?」

「これで不満が無い奴がいたらそいつが正真正銘の馬鹿だ」

「はぁ…………これでも不満か…………上尾はどんだけわがままなんだ」

「そうだな。僕は今100%お前への不満で埋め尽くされているぞ?」

 内閣なら不信任決議、農民なら一揆、王国なら革命が起こるレベルの不満だと自負している。



「では方針は私の家での毎日の晩御飯を考えることにしようか」

「もうボランティア関係無い!」

「少なくとも私は助かる」

「お前を助けるのがボランティア部としての方針ってどうなんだよ」

「では我々タランチュラ部だが…………」

「本物の馬鹿がいたぁあああああ!」

 どんな言い間違いだ。“ラン”の部分しかあってないぞ。


「上尾、これも冗談だ」

「…………無表情で冗談を言うなよ」

 こいつの冗談は抑揚も何も無いから分かりようが無い。



「正直に言うが方針と言ってもな…………そうそう思いつかないぞ」

「結局それか」

 まあ予想はしていたけどな。



「では暫くは方針を決めるのが方針ということになるな」

「それは良いんだが…………」

 方針が無いって…………部活動の意味と価値が無い。




 この後も暫く崎宮と取り留めの無い話をしていたのだが、半刻も過ぎただろうその時、

「おお! いるな、いるじゃないかボランティア部! どうだ調子は?」

 妙にテンションが高いボランティア部の顧問、木島先生が姿を現した。


「木島先生、いったい何しに来たんですか?」

「おいおい、何しに来たとはご挨拶だな上尾。一応顧問を引き受けた身だ、顔を出さないわけにはいかないだろう」

「そんなことよりも早く彼女を探しに行ったほうが……」

「どうした一日で廃部にされたいのか?」

「……冗談ですよ」

 本当にこの手の話題に関しては反応が早い野朗だ。


「にしても崎宮はともかく上尾が部活動に所属するなんてな」

「何かおかしいですか?」

「いや……お前はその……何と言うか…………人とは違うというか…………火と水は相容れないというか…………ぶっちゃけ協調性が限りなくゼロじゃないか」

「……まあ分かってはいましたけど木島先生の中で僕ってそういう位置づけなんですね」

 他人と関わらないという信念なりに上手くやっていたつもりだったのだが……。


「そんなお前も今や部活動に精を出す若者の一員。なんとも喜ばしいことじゃないか」

 変に年上臭いことをいう木島先生。この人年齢に比べて妙に達観したかのようなことを言うからな。


「でも喜ばしい反面俺には分からないんだよ、上尾……どうしてお前は今更部活なんてやり始めたんだ?」

「いや……それは…………」

「私の教育の賜物ですよ木島教諭」

「教育? 脅迫の間違いだろう?」

「……どうしよう、誰かさんに思い切り関節技を掛けたくなってきたのだが」

「崎宮様はこれ以上無いくらいの良い教育を僕に施してくださいました!」

 僕の反論も露骨な脅しによって遮られる。

 完全に言論の自由が許されていない僕っていったい…………。



「いや違うぞ崎宮」

 だが木島先生も崎宮の言葉に反論があるようでこう続けた。


「以前の上尾ならば、脅迫されようが痛めつけられようが他人とそう簡単に距離を近づけるような真似はしなかったはずだ。しかし過程がどうであれ結果として上尾はお前と一緒に部活動を始めた、これは半年間こいつを見ていた俺としては正直理解出来ない。上尾、お前にいったい何があったんだ?」

 そんな風に興味深げに聞いてくる木島先生に言うべき言葉は一つしか無い。


「……半年間僕を見ていたなんて…………キモイです。ホモですか? ロリコンですか?」

「かなり真面目に聞いたのに返答が物凄く酷い!」

「警察に訴えます!」

「俺が何をしたって言うんだ!?」

「基本的に警察は弱者の味方ですからね。僕が少し泣いてお願いするだけで木島先生なんて…………フフフ…………アハハハハハ!!」

「怖ぇぇえええええええええ!!」



 そんな感じに木島先生の質問に適当な事を言ってはぐらかしたが、言われてみればその通りだった。

 何故僕は崎宮の誘いを受け入れたんだろう。

 脅迫まがいの誘い方とはいえ、その気になれば拒否することも出来ただろうに……。


 だが僕は拒否することも無く、それどころか何処かでこの部活動に入部するのを認めている。決して脅迫されたから、というだけでは無い。

 以前までの僕ならば脅迫されようが何をされようが他人との関わりあいを良しとしなかったのに、だ。


 本当にどうしたのだろうか。僕はいつの間にか変わっていたのだろうか。

 崎宮と出会って、話してみて……心境に変化が生じたのだろうか。

 独りで歩いていくことに矛盾を感じているのだろうか。


 いや……違う、僕はまだ独りの時間を大切にしたい。友達を創るつもりなんて毛頭無いつもりだ。

 だがこの状況は不思議と悪い気がしなかった。


 やはり実は寂しかったのだろうか。疲れていたのだろうか。

 独りでいることに――――僕は少なからず哀しみを覚えていたのだろうか。


 駄目だ…………分からない、分かるわけも無い。




 この後も僕等は部活動らしい活動など一切せずに喋り続け、下校時刻の鐘が鳴ったのを見計らってから速やかに下校した。

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