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第十七話

「よく聞け上尾。重大発表があるんだ」

 今の時間は学校の授業が終了した後、それ即ち放課後に該当するのだが、HRが終わると同時にこちらに向かってすっ飛んで来た崎宮が僕にそんなことを言ってきた。



「重大発表?」

 嫌な予感がする。いやこれは少し違うな。


 正確に言うと……嫌な予感しかしない。

 嬉しそうに笑いながらも何か含んだような笑顔を見せる崎宮からはそんな予感がひしひしと感じられた。


「ああ、重大発表だ。それも特大の」

 一字一句丁寧に、そして楽しそうに言葉を紡ぐ崎宮。


「……取り敢えずは聞いてやる。何だ?」

「ふふふ……聞いて驚け」

 二の句を出し渋りながら長い黒髪を靡かせる崎宮。十分に間を取った後、続いてこう口にした。


「我々は部活を始めることにしたぞ! パンパカパーン!」

「ああ、そうか。良かったな、じゃあまた達者で」

 急いでその場を離れようとする僕。


 これは絶対にマズイ――――僕の中にある警報がそう騒ぎ立てている。

 崎宮は良い話し相手には違いないかも知れないが…………それでも一緒に部活をするなんて面倒くさいにも程がある。そう思い逃げることにした僕だったが…………当然崎宮がそれを許すわけが無い。



「待て上尾。まだ場を離れていいなんて一言も言って無いぞ?」

「ギャアアアア! 腕の関節がっ!」

 場を離れようとした僕に対して素晴らしい手際で腕ひしぎ十字固めを決める崎宮。


「本当に待って! これ以上曲げたら僕の右腕の関節があらぬ方向に!」

「まだ話は終わっていない。すぐに去ろうとするな」

「それだけで人の間接捻じ曲げようとするのはどうなの!?」

「待て。これには深いわけがある」

「そのわけ長くなるなら話さなくて良いよ?」

 未だ関節技を緩める気配は無し。あと30秒もすれば昇天出来ると思う。


「私の偉大なる祖父が言ってたんだ」

「な、何て?」

「話し合いをするには間接技が一番だ、と」

「…………崎宮さん、それは話し合いじゃなくて脅迫と言うのでは?」

「いや、話し合いとはどれだけ自分に有利な状況をつくれるかが勝負の鍵だ、とそう祖父は言っていたぞ?」

「それはいったい何処の世界の話し合いだ!」

「祖父の話だと主に鉄と硝煙の匂いが立ち込める…………」

「ごめん! やっぱり良い! それ以上は聞きたくない」

 これ以上聞けば僕の常識が確実に歪んでしまう。



「まあ落ち着け上尾。これは冗談だ」

「………………どっから?」

「ご想像にお任せする」

 …………こいつの祖父には今後一切触れないでおこう。


「でも、まだ話しが終わってないのは本当だぞ。もうちょっと待ってくれ」

「……分かったから腕を放してくれないか」

 さっきから右腕の感覚が無い気がするのは気のせいであってほしい。


「もう逃げるなよ?」

 そう言って僕の腕を解放した崎宮。

 ああ、自由ってこんなに素晴らしいものだったのか。


 …………自由の代償だろうか、若干右腕の感覚が無い気もするが気にしない気にしない。


「ええと、どこまで話したか…………ああ、そうだ。我々で部活動を始めるところまでは話したな」

「それで部活動って何をするつもりだ?」

 まずは会話に乗ってみる僕。これ以上腕を曲げられたら僕の生活に異常をきたすのでやむを得ない……そう思うことにしておこう。


「上尾。ここで部活動の内容はあまり問題では無いんだ」

「は? どういうことだ?」

 帰宅部の僕は部活動のことを詳しくは知らないのだが、部活動って行う内容以上に大切なことってあるのか?


「では説明しよう。まず私は念願叶ってようやく上尾 大知という新しい友達を得たのだが」

「ふむふむ」

 今“友達”というワードに突っ込むのは野暮というものだろう。


「私はその友達であるお前ともっと親睦を深めたいのだ。しかし大抵の場合、学校でしかお前に会えない上に学校では授業時間というものがある。学校での授業時間以外の時間は私にとって微々たるもの、親睦を深めるには短すぎるのだ。かと言ってお前は放課後すぐに帰ってしまう。これでは親睦は深められない」

「まあな。放課後は忙しいから」


 とまあこれは嘘。

 それに別に帰るのではなく図書館へ時間を潰しに行っているだけなのだが。でもこれは口にしない方が良さそうだ。

 そんなことを口にしてしまえばこれからの放課後はこいつに付きまとわれるに違いない。そのような面倒くさそうな日常を僕は送りたくは無い。まあせいぜい勘違いしといてくれ。



「そう。だから私は考えた」

「何を」

「上尾、人を統制するにはどうすれば良いと思う?」

「唐突だな…………うーん、気遣いとかが重要なんじゃないか?」

「そうだな、それも時には必要だろう。しかしそれだけでは大した効力は無い。人を統制するのに必要なのは義務だ」

「義務?」

「そう義務。現代では罪を犯したら罰金や懲役等の義務。他にも納税の義務、勤労の義務、少し昔では兵役の義務など……人は義務によって統制されている」

「なるほど」

 と頷きつつ話を聞く僕。


「それにこれは現代に限った話では無い。かの徳川家康は参勤交代という義務で大名達を統制していた」

「あながち間違ってはいないな」

「また、かの豊臣秀吉は刀狩で刀等を取り上げる義務により農民や平民達を統制した」

「そうだな」

「そして、かの崎宮 雫は」

「待て。自然な流れで自分をかの偉人達と同じフィールドに置こうとするな」

 なんてふてぶてしい奴だ。親の顔が見たい。


「…………かの崎宮 雫は」

 こいつ、気にせず強行突破しやがった。まあ別にこれ以上咎める気も無いので、スルー。


「……部活動という義務により上尾大知を統制することにする」

「ちょっと待て! おかしくない!? 仮にも友達を統制するってどうなの!?」

 ……本当にこいつ友達が欲しいのだろうか。

 家来が欲しいだけじゃねぇの?


「ふむ、そうだな。友達を統制するというのは日本語的にも少しおかしいな」

「少しじゃないと思うが、分かってくれて嬉しいよ」

「では……上尾大知を調教することにする」

「もっとおかしくなった!?」

「上尾大知を教育することにする」

「さっきの言葉と合わせると何処か淫靡な響きに!!」

「上尾大知を育成することにする」

「既に人間扱いじゃない!」

「たまごっちを育成することにする」

「僕じゃなくなった!?」

 というか何故たまごっち!?


「いや…………育成と言うとついたまごっちを思い出してしまって」

「そんな補足説明は要らねぇよ!」

 そりゃあたまごっちは神ゲーだが…………ここで出す意味が分からん。


「まあそんなこんなで」

「どんなこんなだ」

 途中から訳が分からなくなってきたのは言うまでも無い。


「取り敢えず部活を始めれば放課後の時間も一緒にいることが出来て親睦を深める時間も増える。それに誰か部員が入ってくれれば友達も更に増やすことが出来る。まさに一石二鳥の作戦だ」

「そうか。言いたいことは理解したが…………でも結局部活動って内容も重要になるんじゃないのか?」

 部活動をというからには何か活動をしなければならない。その活動内容はかなり重要なはず。面白くも無い活動をやってもつまらないだけだからな。

「だから言っただろう。別に内容は大した問題じゃない。放課後の時間を確保することに意味があるのだ」

「でもそれじゃあ部活動申請で却下されるだろう?」

 放課後に何もせず遊んでるだけの部活なんて申請の許可が下りるわけが無い。こいつはそこんところ分かって無いのだろうか?


「別に大した活動をしなくても大丈夫な部活だってあるだろう」

「その対した活動をしなくても良い部活ってのはいったいどんな部活だ?」

「ボランティア部だ」

「謝れ! 今すぐ全国のボランティア部の皆さんに謝れ!」

 こ、ここ殺される! 今の会話を何処かのボランティア部の人に聞かれたら間違いなく殺される!


「まあ待て、私もボランティア部の皆さんを馬鹿にしている訳では無い。むしろ尊敬している。何の見返りもなく奉仕出来るその心には大いに驚嘆と感動を覚えるが…………今はそういう話はしていない」

「じゃあもっと分かり易く手短に教えてくれ」

「……はぁ、……まったくしょうがない馬鹿だな、上尾は」

「馬鹿!? 貴様、僕に対して馬鹿と言ったか!?」

「言ったが馬鹿」

「くぅうう! 畜生め! これでも僕はまあまあ頭良いんだぞ!」

「そうなのか?」

 侮蔑を秘めたような、そんな顔をしながら崎宮は答える。


「くそう…………こけにしやがって…………お前、この前のテスト何番だったんだ? ちなみに僕はクラスで12番だぞ!」

 これより下だったら盛大に嘲って大声で笑ってくれる!


「……一番だが」

「すいませんでした。僕が馬鹿でした。役立たずでした」

 忘れていた。こいつ何でも出来る完璧超人だったわ……。


「…………馬鹿と言ったり少し嘲笑してみせたのはほんの冗談だったんだが…………お前本当に馬鹿じゃないのか?」

 崎宮に心配そうな顔でそう言われた。凄いショックだ。


「しかし、友達と軽い文句を言い合える仲というのは良いものだな」

「僕は中々の屈辱を受けたがな」

「しかしこれもお互いを信頼しているが故…………と私が読んだ本にはそう書かれていたぞ?」

「…………僕はお前が読んでいると言う本が非常に気になってきたよ」

 またこいつの例による勘違いの一種か。

 この前のエロ本の時といい悪影響を受けすぎだろ。


「と、話しが大幅にずれてしまったな。ええと…………たまごっちの話だっけ?」

「たまごっち大好きなんだな! そうなんだな!」

「すまない、冗談だ。ボランティア部が何故我々の活動に適しているのかという話だが」

「そうだったな。で、何でボランティア部が何もしないで良い部活なんだ?」

 再度確認するが、僕はボランティア部を決して馬鹿にしているわけでないのでお忘れなく。


「それはな、ボランティア部には大会があまり存在しないからだ」

「大会?」

「そう。ほとんど全ての部活と言って良いだろうが大抵の部活は何らかの大会に向けて活動している部活がほとんどだ。それがモチベーションと言ってもなんら遜色は無いだろう」

「確かに運動部も文化部もほとんどの部活動は何かの大会やコンクールを目指して頑張っているのがほとんどだろうな」

 他にも例外はあるだろうがすぐには思いつかない。そしてすぐに思いつかないという事はそんな部活は少数派であるという逆説的な証明にもなっている。


「ところがボランティア部には大会がほとんど存在しない。つまり活動内容を疑われにくいという事だ」

「ああ、それでこの部活を選んだのか」

「それにボランティア部なんて世のため人のためになりそうな部活は教師共の反感を買いにくいしな」

「変なところで計算高いのなお前」

 というか黒い。真っ黒だ。


「多分一年に一回街のゴミを拾う――それぐらいで十分活動として認められるだろうな」

「お前ボランティア部甘く見すぎだろ」

 こいつは一回街中のゴミを広いに行ってその過酷さを見に染みて体感した方が良い気がする。


「フフフ…………そういうことだ。部活動はちょろいな」

「お前ってどんだけ敵をつくれば気がすむの?」

 僕の中でこいつへの評価が凄いスピードで崩れていく。それはもうバブルが弾けた後に待っている土地の地価並のスピードで。


「というわけだ。上尾は明日から…………いや、今日からでも部活動に精を出すこと」

「今日? 待て待て、それは気が早すぎるだろう。まずは部活申請をして部活を創るところから始めないと…………」

「部活申請? ああ、そんなのはもうとっくに済ましているぞ」

「早っ! どんだけ行動力があるんだよ、お前は」

 そういえば今日の休み時間、こいつの姿を全然見ていなかった気がする。何をやっているかと思えばそんなことをやっていたのか。…………つくづく変なところで積極的な奴だ。


「ん? じゃあ顧問は誰が引き受けたんだ?」

 顧問なんてそう簡単に見つけられるとは到底思えないんだが……。


「それなら最初にお願いした木島教諭が二つ返事で快く承諾してくれたぞ」

「……そうか。へー」

 なんというか、あの人も存外暇な人種なんだな。


「うむ。“あの、人と関わるのがド下手だった上尾が遂に部活動までやることになったか!く――っ! 俺は担任として嬉しいぞ!”と言って喜んでいた」

「……そうか。へー」

「続いて木島先生は“……このご利益で俺にも彼女で出来ねぇかな”と実に哀愁のただよう様子で独り言を呟いていた」

「……そうか。へー」

 悲しい現実がそこにはあった。木島先生、強く生きてくれ。


「といった具合だ。では部室に行くぞ」

「は? 部室なんてあるのか?」

「そりゃあ部として認定されたのであれば部室も貰えるだろう」

 こんな遊ぶために創られたような部活に部室が分けてもらえるとは……。この高校は部活認定の基準を大幅に見直す必要がありそうだ。


「実にトントン拍子で事が運んでいる。正に渡る世間は楽ばかりだな」

「有名な言葉をさもゆとりの象徴みたいな言葉に変換するな」

 訳分からん。


「そんなことよりもまずは早く部室を見に行かないか?」

「ところが崎宮、僕はまだ部活に参加する旨を伝えていないぞ?」

 一人教室を出ようとする崎宮に向かってそう発言する僕。


 部活動なんて面倒くさいことに関わる気は毛頭無いので当たり前のように断わる気でいる僕だったのだが、

「……………………」

「……………………」

 言ったが否や長い沈黙。僕を見つめるその笑顔が今は逆に怖いぞ、崎宮。



「……上尾、バンジージャンプは好きか?」

「このタイミングで何て話をしているんですか!?」

「いやな、部活に参加するのと窓からバンジージャンプをするのはどちらが好みかな、と」

「その2拓!?」

「ちなみにバンジージャンプに紐はついていない」

「それはただの飛び降り自殺だ!」

「せめて飛び込みと言ってくれ」

「どっちにしろ下が地面なら同じことだろうが!」

「正にデッドオアアライブ!」

「ちょっと楽しそうに言うな―――――っ!」

「さあ上尾はどれを選ぶんだ? デッドか? 死か? まさか昇天を選ぶなんてことは……」

「…………それは総じて一択と言うんじゃ?」

 死の一択。致死率100%だ。


「死ぬのが嫌なら部活に参加するんだな」

「もうナチュラルに脅迫してきたな」

「話し合いと言ってるだろう。…………私の偉大なる祖父は」

「祖父の話はもう良いよ!」

 全力で止める僕。こいつの祖父からは血生臭い匂いしかしない。


「では上尾はボランティア部の加盟で決定だな」

「……好きにしてくれ」

 かなりマイペースな崎宮により僕の部活動参加が決まった。

 放課後は自由に過ごすのが僕のモットーだったのにな……。


「何はともあれ上尾」

「はい?」

「これで一件装着だな」

「装着!? 一体何を装備したんだ?」

 気になるところだ。出来れば強い武器が良い。


「ああ、うっかりしていて間違えてしまった。一件落着だな」

「そんな簡単な単語を間違えるな」

「はあ…………少し間違えただけでこんなに指摘するだなんて、上尾は本当に揚げ足取りが好きだな」

「せめてツッコミと言って」

 揚げ足取りと聞くと何故か感じが悪く聞こえるから不思議だ。


「ツッコミね…………どうせならコンクリートブロックにでも思い切り突っ込んでくれたら良いのに」

「お前、僕を本当に友達だと思ってる!?」

 こいつの発言にはそれを疑う要素が多々あると僕は思う。


「当たり前じゃないか。上尾は私の友達だ」

「ならコンクリートブロックに思い切り突っ込めばいいなんて言うなよ……」

 良くて全治一週間の怪我はするだろうに。


「良いじゃないか突っ込んでも……もしかしたらブロックからコインが出てくるかもしれない」

「それが出来るのは赤いシャツに青いオーバーオールを着たあんちくしょうだけだ!」

「それにコインを百枚集めれば死んでももう一回生き返れる」

「ブロック壊す過程で身体面的には既にボロボロだわ!」

 僕の身体能力はあんなに高くは無い。


「何を泣き言を…………奴の弟君はどんなにぞんざいな扱いを受けても泣き言一つ言わなかったぞ」

「そうだな。奴の陰で緑の弟はよくやっているとは思う」

 ……いったい何の話をしているんだか。




「ああっと! 忘れていた、早く部室に行こう。……まったく上尾のせいで時間を無駄にしてしまったじゃないか」

「……今の会話ってお前が発端じゃなかったか?」

「いいや、上尾のせいだ。何故かお前を見ていると冗談を言ってみたくなってしまうのだからな」

「…………どんな言い訳だ」

「そんなことはどうでもいいから早く部室に行くぞ」

「……どんだけマイペースなんだよ、お前は」

 と言いながら教室を出て行く崎宮にしっかりついていく僕も僕だけどな。

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