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第十五話

 そんな五月蝿くもご機嫌な崎宮の問答に耐えること20分程、我が住まいに到着した。

 父がローンをして買った二階建ての一軒家。ちなみに今は両親、妹共に居ない筈だ。


 というか正直なところ居たら大変な事になりかねん。僕が友達の居ないことに関して最も気に病んでいる者達であるし、今日家に連れてきている崎宮は本質がどうであれ女の子。華の女子高生。


 いきなりそんな華の女子高生を僕が連れてきたとなれば驚きのあまり倒れることすら有り得る。いや悪くすれば僕が何らかの犯罪に関わっていると誤認することさえ十分考えられるだろう。どちらにしてもあまり良い反応にはならないことは明白だ。


 本当に今日は誰も家にいなくて助かった。不幸中の幸いとはこの事を言うのだろう。



「おおお! これが上尾の家か」

 うちの平凡な住居を見ただけでかなり興奮している様子の崎宮。かなり人目が痛い。


「ここまで来たらのなら仕方が無い。まあ入れよ」

「ああ! ではお邪魔させてもらうぞ!」

 取り敢えずは二階にある僕の部屋に崎宮を通した後、簡単なお菓子と飲み物を持って部屋へと戻る。で、

「…………それで崎宮、お前は今いったい何をやっているんだ?」

 部屋のドアを開けると崎宮は四つん這いになりながら事もあろうに僕のベッドの下をあさぐっていた。


「何って…………友達の家に来たらやる事は一つに決まっているだろう」

「一つって?」

「エロ本探し以外他に何があるというのだ?」

「……………………」

 何故か誇らしげに女子高生が言うべきでは無い単語を口にする崎宮。


「……なあ、崎宮」

「どうした上尾?」

「どうしたもこうしたもあるかぁ!! テメェ、女子が男子の部屋に入ってエロ本探すなんて!! 何だその罰ゲームじみた行動は!! 開いた口が塞がらないぞ!」

 ちなみにくだらないAVの企画みたいだ、とか言わないところが僕の良心。


「罰ゲームなんて……、宝探しゲームみたいで楽しいと思うがな」

「そのゲームの景品は宝どころか僕の羞恥心の塊だがな!」

 他人に、しかも女の子に自分の性癖が判明するグッズを見られるなんて…………ある意味、万死に値する。


「良いじゃないか。ドンと来い羞恥心」

「何でお前はそうも泰然とした態度で居られるんだ!?」

 これが……これが天才の為せる技なのか。とはいえ限りなく馬鹿とも言えるが。


 馬鹿と天才は紙一重という言葉をここまで連想させる女子がかつていただろうか。

 この言葉は崎宮 雫から生まれたんだ、とか言われても多分僕は信じると思う。


「上尾、どうやら私の毅然とした態度に動揺を隠せないようだな、まあ無理も無い。これも一重に人付き合い経験の差だ」

「経験も何もお前の人と関わる経験って僕と大差ないだろう」

 一人でストレッチしたり、昼休みに一人うろうろしてるぐらいだからな。僕よりも経験豊富とはとても思えない。


「むう…………まあその通りなのだが…………、そうはっきりと言わないでくれ。なんとなく恥ずかしい」

「お前は恥ずかしがる箇所を根本的に間違っているからな!」

 何故平気でエロ本探せる奴がここで恥ずかしがる必要があるのか甚だ疑問に感じる。


「はっ!! 忘れるところだった。それはさておきエロ本だ! エロ本を探すぞ」

「やめて! その言葉だけで僕が抱いている女子高生の幻想が崩れ去りそうだ!」

 現実の女子ってこういうものなのだろうか…………そうだとしたら凄まじく悲しい。つうか虚しい。


 だが崎宮は僕の言葉に疑問を浮かべ、

「ん? 私はお前と仲の良さを再確認したいだけなのだが。それが何故女子高生の幻想を潰すことになるんだ?」

 崎宮はそんなことを僕に問いかける。その目は真剣みを帯びていて冗談では無く本気で問いかけているようだった。



「ちょっと待て。何でエロ本探すのが仲の良さに繋がるんだよ」

「エロ本探しのイベントは友達間では当たり前のこと…………私が読んだ本ではそう書かれてあったのだが」

「……………………」

 つまり何だ。崎宮は何処かで読んだ本の受け売りをそのまま鵜呑みにして実行しているわけか。


 …………勘違いのレベルもここまできたら逆に清々しいな。というかいったいどんな本を読んだんだろうか。

 一応念のためというか、こいつの後学のためにこのイベントは男子間でしか行わず、更に今では廃れているイベント(まあ詳しいことは友達のいない僕には知ったことでは無いが)だと言う事を教えてやる。


 すると、

「何だ、そうだったのか! 私は友達間の通過儀礼、いわゆる儀式みたいなものだと思っていたぞ」

「いったいどんな狂信的な通過儀礼だよ」

 日本にそんな儀式があったのならそれはもう滅びる寸前だと僕は思う。


「ではエロ本探しイベントが無くなったとなると何をして遊ぼうか」

「……お前って本当にそれだけしか予定立てて無かったのな」

 ある意味凄いスケジュールだ。無駄しか無い。


「うむ……では上尾の中学のアルバムでも覗いてみるか」

 アルバム? 何だってそんな物を見たがるのか…………って待てよ。アルバムってそう言えば…………。



「………………アルバム、見るのか? マジで?」

「どうした上尾。嫌なのか?」

「べべべ別に嫌なんてわけ……嫌というわけでは無いけど」

「私にはお前が凄い動揺しているように見受けられるのだが」

「そ、そんなことは無いよ…………ただ」

「ただ?」

「…………僕ってさ、アルバムにほとんど写って無いんだよ」

「…………どうしてだ?」

「友達もいないし部活に所属してもいなかったから写るチャンスが無かった」

 中学のアルバムを持って帰って七海に見られた時に物凄いドン引きされた挙句、菩薩のように優しく慰められたのは僕の中でもショッキングな出来事ベスト10には入っている。


 アルバムってのは大半の人にはとても大切なものとして残るけど、僕みたいな一部の友達がいない者にとっては最も忌むべき代物、トラウマの宝庫として残されるんだよな。

 下手に処分もしづらいし、あんな厄介な物は他に無い。


「……上尾、お前も苦労しているんだな」

「……その言葉から察するに……お前も似たようなものか」

「……………………」

「……………………」

 異様に重い空気が僕等を支配した。


 別に独りでいるのが辛かったとかそういうのじゃ無いんだが…………こういうのって形に残されてまざまざと見せ付けられるとやはり精神的にくると言うか…………かなり自分が寂しい奴に思えて泣けてくる。まあ事実そうなんだが。


「ど、どうしたんだ崎宮! 何故か元気が無いように見えるが!?」

「そ、そういう上尾こそ! いつにもまして覇気が無いように見えるぞ!?」

「……………………」

「……………………」

 ヤバイ。凄く気まずい。


 このままではとてもじゃないがこの空間に居てはいけない気がする。どうにか、どうにか空気を変えなければ………………っ!

 そして一つの結論に僕は達する。


「…………ガ、ガチンコ思い出話対決ぅううう!!!」

「うお!? ど、どうしたんだ? 上尾」

「崎宮! 思い出話対決をしよう!」

「どういう経緯でそこに思い至ったのかは知らないが…………いったいどういったことをするんだ?」

 思い出話――――それは誰しもが持っていて、且つ誰しもが盛り上がれる話題。そう、これならこの気まずい空気を必ずや吹き飛ばしてくれるに違いない!


「ルールは簡単だ。お互い面白い思い出話をしてどちらがより面白かったかで勝敗を決しようじゃないか!」

「なるほど、承知したぞ」

「では僕から行くぜ! ………………すまん、もうちょっと待ってくれ…………ち、ちょっと待てよ、直ぐに思いつくから…………………………大丈夫、大丈夫だ。僕にも面白い昔話の一つや二つ………………あともう少し……もう少し時間をくれれば…………っ!」

「…………上尾」

「……くっ! 僕にも……僕にも……一つぐらい楽しい思い出がっ!」

 ……しまった。つい気まずさに負けて思い出話なんて安易な道に逃げたのが裏目に出た。普通の人間と比べるとちょっとだけ(ここ重要)寂しい人生を送ってきた僕が面白い思い出話なんて、そうそう話せるわけが無い。


「もういい…………もういいんだ。上尾、お前は良く闘ったよ」

「…………すまない崎宮。後は頼んだぞ」



 僕が出来なかった分、頑張って場を盛り上げてくれ!

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