第十四話
現在時刻おそらく16:00頃。
授業が終わっての放課後である。
本来ならこの時間、僕は図書館で予習・復習もしくは本を読んでいるのだが、僕は今、我が家に足を向けていた。
そして何故だか…………隣には崎宮がいる。
健全足る青少年の僕がしてきた妄想の中には女の子と一緒に下校する、なんて儚い夢物語も当然ながら(そもそも健全足る青少年がいかがわしい妄想に走るかどうかということは今、別問題として置く)も存在するわけで。
しかし、それは人が夢見ると書いて儚い妄想だった筈、なのだけれども…………、
ここに僕は女の子と一緒に下校という夢物語を現実にしちゃっている。
驚きだ。驚天動地とは正にこの事だ。
ここらで僕は世間一般のモテない男子から「リア充死ねよ」みたいないわれの無い罵詈雑言を浴びせられる気がするが。
ていうか事実、盛大に浴びてきたし。
校舎から僕等が出ていくときに注目の視線に混じって「畜生、あんなモテなさそうな奴が…………」「リア充爆発しろよ」等という陰口が僕の耳には届いていた。
しかもこいつ――――崎宮は何でもござれの完璧超人として校内で名が轟いている上に、かなり見てくれは良いからな。僕への誹謗中傷の酷いこと酷いこと。
独りに慣れている僕でもきつかったよ…………そこでちょっと涙目だったのはご愛嬌。
でもお前らが思っているような幻想は僕達の間には少しも無い。無さ過ぎるのだ。
出来れば代わって欲しいくらい。交代要員は随時募集中である。
何故僕がこの下校に関して嫌がるのか――――そりゃあ僕は独りが好きというのも勿論あるが、そもそもの理由はこいつの僕に対しての扱いだ。
先程、HRが終わったあと真っ直ぐに僕の席まで直行してきた崎宮は「なあ! 今から上尾の家に遊びに行っても良いか」等と一部の人間が聞いたら僕達の関係を勘違いした上に殴りかかってくるような妄言を吐いてきた次第で。
さすがにここは断っておかないと近くにいるクラスメイトに嫉妬の末、八つ裂きにされかねんと思ったし、友達とも思っていないこいつを僕の家に招くなど…………いや、もし仮に友達だと思っていたとしても知り合って一、二日目で家に来るなんて………………馴れ馴れしいにも程がある。
そう考えた僕は丁重にそして相手を傷つけないように慎重に断ろうとしたのだが、崎宮による「…………なあ……右腕が上がらなくなるのと右足が使えなくなるの…………上尾はどちらが良いかな…………?」という地獄の囁きにより陥落。
要するにクラスメイトに八つ裂きにされるか、崎宮に右腕か右足をへし折られるかの瀬戸際だったわけだ。
辛くもその二つから逃れた僕は崎宮と一緒に僕の家に向かうことになり、そして現在に至るわけだ。
どうだ! “友達”と言う名の召使とは僕のことよ!
そんな主従のごとき関係にロマンスも神様も入る余地など微塵にさえ存在せず、僕は覚えの無い嫉妬の念を受けて今ここに存在している。
もしここにロマンス足る関係が成立しているとすれば嫉妬の念など返って気持ち良いくらいだろうがしかし、僕達の関係性は誤解でしか無いので僕にとってこの精神攻撃はKOクラスの有効打である。
何だこの“友達”関係。…………独りの時より全然辛いんですけど。
…………………………。
…………昨日までの空はあんなに平和だったのになぁ。
BADエンドのテロップが悲しい曲と共に出てきそうだ。誰かリセットボタンを押してくれないかな。
しかし悲しいことだがここは現実。ノンフィクション。そんな便利ボタンは何処を探しても存在しない。
だが僕は思う、どこで選択肢を間違ったんだろうか、と。
「いやあ友達の家か! 楽しみだなあ!」
隣から聞こえる僕と打って変わってテンションの高い崎宮の声が非情に鬱陶しい。
あーあ、こいついきなり自分から道に飛び出してトラックに引かれてくれないかな。
葬式ぐらいは行ってやるよ? いやマジで。
「言っておくが別に楽しくは無いと思うぞ? 僕の家は」
「友達の家に行く、この行為が既に楽しいんじゃ無いか! 分かって無いな、上尾は」
「……さいですか」
僕にはまったく分からない感情だ。本当にこいつと僕は同じ人種何だろうか。と一種の不安に駆られたりみたりする。
「あー、楽しみだ楽しみだ楽しみだなぁ――――っ!」
鼻歌交じりにそう口ずさむ崎宮。ガムテープでもあればこいつの口を瞬時に塞いでやりたい。
「なあ! 上尾の家はどういった家なんだ? 広いのか? なあ?」
「…………普通の一軒家だよ。取り立てて言及する程でも無い」
本気でうざかったのでちょっと不機嫌そうにそう言う僕。
「ははは、そうかそうか!」
そんな僕の返答も何のその、心から楽しそうに笑顔で頷いている崎宮。
…………いったいどんだけ浮かれているんだ、こいつ。今ならいきなり蹴っても許されそうな気がする、




