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第十三話

 ガンガン更新していきますので、気に入って戴けたならどうぞお願い致します。

 現在時刻1:05ぐらい。

 昼休みの時刻だ。授業の疲れを癒す午後の一時。


 ちなみに僕がいつものように正確に時間を把握出来ていないのには理由がある。それは、


 …………崎宮が目の前にいるからだ。


 一緒に弁当を食べようと言って僕の定位置である席の目の前に陣取ったこいつの対応に追われているからである。

 最初はいつも通りに断ろうとしたら「良いじゃないか友達だろう?」と含みのある、悪寒を感じさせる笑顔で言われた。

 “友達”っていう単語に脅迫概念を覚えてきた、上尾 大知16歳の秋。



「ははは! まさか友達と一緒に教室で弁当を食べられる日が来るとは露にも思わなかったぞ。今日はなんてめでたい日なんだ!」

「…………ところで崎宮。突然で悪いが聞きたいことがあるんだけど良いか?」

 僕は愉快そうな声をあげ弁当にありついている崎宮にある一つの疑問を抱かざるを得なかった。


「何だ藪から棒に。私とお前の間に遠慮など要らぬぞ?」

「いや……別にどうでも良いことかもしれんが…………お前の弁当、いくらなんでも豪華すぎね?」

 そう。あり得なかった、というか非常識もいいところだった。崎宮の弁当は一般高校生がお昼の弁当に持ってくるには少々…………というか大いに似つかわしく無い重箱という容器に入れてきており、その重箱の中身も高校生のランチタイムにはお世辞にも相応しいとは言えない代物、中には真ん中にあろうことか伊勢海老様が陣取っていて、その横には鯛、鰻、筍、松茸などなどその他色々な高級食材がそこには鎮座しておられた。



 何回見てもあり得なかった。

 ぶっちゃけあり得なかった。

 僕はいったい何処の高級料亭に迷いこんだんだ?


「いやいや…………今日はいつもよりも少々張り切って準備したからな。値は少しばかり張るがまあ構わないだろう」

 そんな僕の混乱も何処吹く風の崎宮はいたって普通かのように僕の質問に答えた。


 少々? 少しばかり?

 こいつ…………いったいどんな神経してやがるんだ。


「上尾、別に食べたければ食べて良いぞ? 少し作りすぎたからな」

「…………っ! ………………い、いいいいや、ええ遠慮しておこう」

 ここまで松茸様、豪華な料理だと伊勢海老様、気軽に食べるのは鯛様、やはり気が引けるな鰻様。


 ………………………………。

 いや、別に食べたくなんて伊勢海老様無いよ。


「何故だ? 先程も言ったが、私と上尾の間に遠慮する必要なんて一つも無いぞ?」

「いや…………さ、流石に一方的に食べるのは………ちょっと………な」

「なるほど。では交換ではどうだ?」

「こ、交換?」

「そう交換だ。例えば上尾が今食べているそのミートボールやコロッケと交換でどうだ?」

「なるほど! 交換か! それなら平等だな!」

「では私の伊勢海老とそのコロッケを交換でどうだ?」

「…………な、なん…………だと…………っ!」

「ん? 嫌か」

「そそそそそそんなわけ無いじゃないか!!!」

 伊勢海老様が我が弁当に光臨なされるだと!?

 いきなり裏ボス級の光臨だ。


 レベル1の勇者パーティーに対して裏ボスが勝負を挑むような。

 圧倒的破壊力。圧倒的存在感。


 そんな裏ボスがお出ましになる。

 やばい。これは…………これは誠意を持ってお出迎えしなければっ!


「…………何をやっているんだ上尾?」

「お出迎えの儀式だ」

「…………それは土下座、というものじゃ?」

「巷じゃそう言われているそうだな」

 今の僕は四肢を母なる大地に擦り付け、頭を垂らしてただただ伊勢海老様の光臨のお出迎えをしている。

 母なる大地というか、ここは校舎の四階にあたり、つまりは僕が頭をこすり付けているのは大地でなく鉄筋コンクリートということになるのだが、今はそんな細かいことなどどうでも良い。


 つまりは伊勢海老様への敬意を僕なりに示しているのだ。

 よってこれは誰が何と言おうとお出迎えの儀式だ。


 土下座では無い。

 土下座なんて言うのは巷での噂に過ぎん。


 噂話。街談巷説。

 百人がこれを見たら九十九人はこれをお出迎えの儀式と捉えるだろう。


 残った一人は目の前にいる崎宮だ。

 世界でこいつだけがこれを見て土下座と言うのだ。


 というかこれが土下座かお出迎えの儀式か、なんていうのはこの際どうでも良い。

 僕は今…………猛烈に感動している!


「…………まあ何か知らんが……ほら伊勢海老。その代わりコロッケは貰っておくぞ」

 崎宮はそう言うと僕の弁当に伊勢海老様を置いた。


「おおおおおおおっ!」

 今、我が弁当には伊勢海老様がいらっしゃっている。

 なんという脅威のコラボレーション。


 コラボレーションというか…………伊勢海老様の圧倒的な存在感により他のおかずが完全にその輝きを失った。

 他のおかずがモブキャラに成り下がった。

 伊勢海老様という素晴らしい主役によって他のおかずが脇役以下に成り下がった。


 もう市民Hとか市民Wとか。

 そんな感じ。そんなレベル。


 では…………今こそ食そう伊勢海老を。

 だが、ここで焦ってはいけない。


 冷静に静かに作法を守って行儀良く。礼儀を重んじ静かに食すのがこの伊勢海老様に対する真の敬意では無かろうか。

 礼儀作法を無視して伊勢海老様にがっつくなんて庶民の、下賎なる民のすること。僕のような常識人は静かに食し、そして静かにその味を噛みしめるのだ。


 僕は静かに手を合わせて、静かに箸を持ち、そして静かに伊勢海老様を見据えた。

 さて…………前振りはこのぐらいで良いだろう。

 では…………いざ。


 いただきます。



「ふおおおおおおおおおお!!!! うめええええええ!! 何これ、ぷりぷりの食感!歯ごたえ! 甘ぇ! 甘いよおお! ぴゃあああああああああああああ!!!!! ふはあああああああ!!」



 礼儀も何も無かった。

 行儀など何処へ飛び去った。


 上手いものは上手い。仕方無いだろ?


 作法って?

 何それ食えるの?


 僕の腹を満たしてくれるの?

 クラスメイトが僕に対して何やら気色悪いモノでも見るかのような視線を向けていたが、そんなことは知ったことでは無い。


 そんなことに注意を向けるぐらいなら今この瞬間、僕は目の前にある伊勢海老様に全神経を注ぎこむ。



「どうやら喜んでくれたようで何よりだ」

 嬉しそうにそう言った崎宮。僕はそんな彼女に敬意の念を持って礼を言いたい。


「ああ、めちゃくちゃ上手ぇよ! ありがとう崎宮」

「それは何よりだ」


 ………………………………。

 ちょっと…………待てよ。

 僕は気付いてしまった。

 ………………餌付けじゃね? これって。


 事実、僕の崎宮への好感度は徐々に上昇中だ。

 …………危ない、危ない。伊勢海老様の魔力により危うく崎宮に心を許してしまうところだった。


 なんという策士。

 策士孔明。

 策士崎宮。


 やれやれ…………天才の名は伊達じゃないな。


「ああ、そういえば上尾。そのミートボールも食べたいんだが、私の松茸と交換しないか?」

「はい、喜んで!」

 …………………………。


 …………食いものの魔力は恐ろしいって奴だ。

 そうに違いない。そうに決まっている。


 気づけば時間は1:50。

いつの間にやら、こんなにも時間が過ぎ去っていた。

 今までは事あるごとに時計を眺めていたからな、こんな経験は久しぶりだ。


 誰かと昼飯を一緒に食べる学校での一時。

 僕は独りが好きなのだが。独りでいるのが理念なのだが。



 しかしこんな昼休みもたまには悪くない。




 少しばかり、そう思った。

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