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第十一話


 現在時刻19:53。秒針は1を指したところ。

 帰宅。家路に着き、玄関のドアを開ける。


「おかえりー。お兄ちゃん、友達出来た?」

 玄関先で靴を脱いでいると七海が出迎えに来てくれて、いつものように決まり文句を僕に投げかける。

 だが僕の方は“いつものように”と言うわけにはいかなかった。


 それは何故か――――――決まっている。崎宮という“友達”が出来たからだ。


 さてここで問題点が一つ。僕は崎宮を友達として認識して良いのだろうか。


 あいつの問答に対して僕は確かに首を縦に振った。しかしあれは友好的交渉(暴力に屈したと言わないところがミソ。僕は断じてチキンでは無いからな)に表面上応じただけ。



 友達と言えるかどうかで言うと――――――――答えはNOだ。

 あんなんで僕に友達が出来たら苦労はしねぇよ。


 それにあんな行き当たりばったりに出来た関係、四月に出来た友達とも知り合いともつかぬ関係と同じで直ぐにあちらから離れていくだろう。

 また直ぐに独りになるさ。


 だから僕は七海のいつもの問いに対して“いつものように”答える。


「七海、僕は友達よりも大事なことはこの世に沢山あると、そう常々教えていたではないか」

「ほざけ。友達すら出来ない人に大事なものが掴めるわけは無い――――そう七海は思います」

 やれやれ、相変わらず口の悪い妹だ。それに僕の価値観を根底から否定しやがった。こんなに冷たい妹に育っちゃって…………お兄ちゃんは悲しいぞ?


「友達がいない上にニヒルを気取っている痛々しい兄にそんなことを言われたくはありません」

「痛々しいだと!? 畜生、兄に痛々しいと言いやがったな! 自分の価値観で人を判断しんてんじゃねぇ!」

「痛い上に見るに耐えません」

「言わせておけば…………七海よ、お前は兄を怒らせたようだな」

「…………その言動も痛いことに気づいて下さい」

「なんと!?」

「そのオーバーリアクションは寒々しいよ?」

「な……なんだって――――っ!?」

「…………オーバーリアクションを止めないどころか更に上乗せしてくるのは七海的に評価に値します」

「よっしゃあああああああああ!!!!! ひゃああああああああ!!!!」

「あ、そこまで行くとさすがに鬱陶しい。引き際を知ろうよお兄ちゃん」

 妹に集中砲火を浴びせられた挙句、かなり的確に駄目だしを受けている男子高校生がそこにはいた。

 ま、僕だけどね!



「こんな風に明るく会話したら友達も出来るだろうに…………何で普通に喋り掛けられないのかなぁ」

「七海! 僕は人見知りなんだよ!! 覚えとけ!!」

「自信満々に言うところじゃない。かなり引く」

「マジで! ひゃっはぁ!」

「何で今日はそんなにテンション高いの!? そこは謝るところでしょう!」

「すいません」

「素直で宜しい」

「…………ところで七海、一つ良いか?」

「ん? 何?」

「お前、僕に友達が出来たらどう思う?」

 この質問はやはり崎宮との教室での会話が伏線だったりするのだが…………前々から聞いてみたい事の一つでもあった。



 七海はいつも決まりごとのように僕に友達が出来ていないか聞いてくるけど…………実際に出来たらどんなリアクションを取るのだろうか。


「お兄ちゃんに友達が出来たら?」

「ああ」

「ええと…………まず天変地異が起こって無いか確認する」

「僕の友人関係成立は自然にまで影響を与える事なの!?」

 しかも雪とかじゃなくて天変地異なところが凄い。


「次にお兄ちゃんがお兄ちゃんによく似た偽者じゃ無いかどうか検査する」

「そのドッペルゲンガー的発想の方がよっぽど凄いぞ?」

「最後にホテルを貸し切って盛大に宴を開く」

「家計が財政破綻するわ!!」

 僕等の家庭は貧乏でも無いがお金持ちでも無い、一般的な財政状況だ。そんな平凡な家庭がホテルなんて貸しきったあかつきには…………確実に我が家の貯蓄は崩壊の一途を辿る。


「とまあお兄ちゃんに友達が出来たらこのぐらいの規模の大事件だろうね」

「…………僕はお前にどう見られているかよーく分かったよ」


 主に寂しい、寂しすぎる奴だな。

 もう南極で一人暮らしをしている奴並。


 よし。現代に蘇ったロビンソン・クルーソーさんと自称しよう。


「まあこんだけ心配しているって事も分かってね」

「そりゃあ有難いこって」

「だから早く友達をつくって七海達を安心させてね」

「良い歳した未婚のおっさんに対してお母さんが「早く身を固めて安心させて」っていう感じで言うな」

 そう、つまりは…………、

 木島先生のことか――――――っ!!!


「変にツッコミが具体的だね」

「まあな」

 身近にそんな存在がいるもので。


 …………ええと……そうだな……何となく、だが……背中に感じた悪寒は気のせいだと信じよう、うん。


「あ、そうだった。それよりも晩御飯が出来るまで七海と一緒にゲームしよっ」

「別に良いけど……どうせ負けるクセによくやるよな、お前も」

「うう…………き、今日こそ勝つんだよ!」

「じゃあ僕は今日こそお前に“私はお兄ちゃんには絶対、一生、何があっても敵うことはありません”という言葉を泣き顔で言わせてやるよ」

「どんな目標!? 七海、天地がひっくり返ってもそんなこと言わないよ!」

「なら泣き顔だけでも拝んでやる!」

「何故七海の泣き顔にそこまで固執するの!?」

「心地よい優越感に浸れるからな」

「歪んでる! お兄ちゃんの性格は私が思った以上に歪んでるよ!」

「さあ! ゲームを始めようじゃないか妹よ」

「…………どうしよう、急にゲームをやりたくなくなってきた」

「でもやるんだろう?」

「うん。逆に泣き面拝んでくれる」

「そいつは楽しみだ」



 これもまたいつも通りだった。いつも通りの会話。いつも通りの風景。

 いつも通りで無いのは一つだけ――――崎宮とのことだけだ。


 そう。あの会話――崎宮とのあの会話だけでこれから何かが変わるとは到底思えなかった。


 僕は独りで歩いていく。


 いつも通りに。

 普段通りに。



 だから変な勘違いはしないで欲しいのだが僕はこの時点では本当に――――――、




 本当に友達など要らなかったのだ。

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