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第九話


 現在時刻は19:02。秒針は6を指したところ。

 いつもなら下校している時刻なのだが、僕は今教室へと足を向けていた。



 この時間に教室に向かう用なんて普段は無いのだが、今日は少し勝手が違っていた。

 教室に英語のノートを忘れたのだ。


 その英語からは今日宿題が出ていて、明日までが提出期限日。

 ノートを忘れればさすがの僕でも宿題を提出することは不可能だ。インポッシブル。

 ミッション・イン・ポッシブル!


 もし宿題を忘れたらどうなるだろう。

 想像するだけで恐ろしい。

 宿題を忘れたら先生に謝らなければならない。


 …………これはヤバイ。

 ヤバイヤバイヤバイぃ!


 正に大惨事!

 ほとんど喋ったことも無い先生によもや“謝る”だなんて!

 どんな関係性が築かれるか分かったものじゃない。



 …………身の毛もよだつとは正にこの事。実際ノートを忘れたことに気づいた時は鳥肌モノだった。

 そうした悲劇を回避するため僕は教室へと足を急がせている。



 現在時刻は19:06。秒針は7を指したところ。

 ようやく教室前に到着。


 既に時間も遅い。さっさと英語のノートを取って帰ろう。

 そう思い教室のドアを開ける。


「……………………あ」


 教室のドアを開けるまで考えもしなかったのだが。

 この時間は既に下校時間。教室に誰か残っている可能性なんてほとんど無い。

 更に教室には施錠の義務がある。

 誰も居なければ鍵を掛ける必要があるのだ。


 では何故ドアが開いたのか?

 閉め忘れか? それも考えられるが理由はもっと簡単だ。


 ドアを開けた先。僕の視界に移ったのは。

 僕がほとんど唯一と言っても良い名前を知っている少女。


 孤高の独りな少女。

 鍵が開いていた理由は崎宮 雫が教室に居たからだ。




 何をしているのか分からないが、一人ポツンと窓際の席に座っていた。

 教室が少し暗い。理由は電気が点いていなかったからだが、この時期はこの時間でも中々に明るい。日が完全に落ちきるにはまだ時間があり、電気が点いていなくとも人が居座るのという点においては十分に教室内は明るかった。


 だがその微妙な明るさが崎宮 雫の孤高さと言うか、近寄りがたい雰囲気をかなり強めている。

 そこで当然に芽生えるべき疑問が沸いてくる。


 何で電気も点けず一人で教室に残っているんだよ、と。


 下校時刻はもう既に過ぎている。

 おかしな奴だ。やはり天才の考えることはよく分からん。


 ただ教室内に二人きりなんて状況は僕の中では物凄く気まずい状況に当てはまるので、早めに用事を済ませるため教室内に足を踏み入れた。

 さて教室内に居座るという点においては明るかった室内だが、探し物をするという活動においてはこの教室もさすがに暗すぎるので、まずは電気を点け、自分の席まで足早に向かう。


 僕の席は一番左後ろにあるため入り口から対角線上。最も遠い席になる。

 畜生、何で僕の席あんな遠くにあるのさ。

 一刻も早くこの気まずさから解放されたいと言うのに。


 いつもは物凄く好ポジションだと思っていたあの席が急に世界で最も憎むべき席に見える。

 あんなに最悪な席は他に無いだろうといった気持ちになってくる。


 ちっ! …………これというのも崎宮 雫の奴が教室に一人残っているのが悪いのだ。

 大人しく家に帰ればいいものを。


 まったく…………これだから天才は。


 なんて見事な責任転換を決めつつもようやく自分の席に辿り着き、急いで英語のノートを探しだす。

 しかしここから早く離れたい焦りからか、中々に見つけることが出来ない。

 とまあ僕はノートを捜すのに全意識を集中させていた。


 故に気づかなかったのだ。

 崎宮 雫がいつの間にか僕の席、つまり目の前に来ていることに。


「…………………………っ!」

 無表情で僕の目の前に立つ崎宮からは普段の先入観もあいまって物凄く近づき難いオーラを放っている。

 一刻も早くこいつの目の前からいなくなりたい。

 僕の本能がそう告げていた。



「…………ねぇ」

 突然にそう声を掛けられる。小声のクセに相変わらず良く耳に響く良い声だ。

「…………何だよ?」

 僕はそんな崎宮 雫にぶっきらぼうに答える。何故なら早くここから離れたいからな。


 独りで孤立。

 孤高の独り。

 確実に相容れぬ筈の両者。


 更にこの両者は似ているようで決定的に違う。

 周りからの評価が。

 存在価値が。

 ――――――存在理由が。


 つまりはおちこぼれと天才という違い。

 僕と崎宮 雫では決定的に住んでいる世界が違う。


 決定的に、絶対的に、違う。

 そんな崎宮と僕が今こうして話している状況は異常な状況であり、人間は異常な状況に置いて驚くほど弱い。


 一緒にいる空気に耐えられないって言うのかな。

 ライオンと人は一緒の空間に居られないだろう。


 多分そんな感じだ。

 絶対的強者と絶対的弱者の関係。

 不幸にも僕は絶対的弱者の側で、圧倒的なまでにこの空気に耐えられないので早くこの場から離れたい。

 だから早く僕の目の前から消えてくれよ、崎宮 雫。


「あのさ」

「…………っ!」

 崎宮 雫の一挙手一投足にいちいち反応してしまう僕。


「………一つ、君にお願いしたいことがあるんだが…………良いか?」

 強い決意を秘めた目をしながら言う崎宮に僕は若干、気おされ気味だった。

 弱者だしな、しょうがない。


「…………お願いって何?」

 だからすんなり聞いてしまったけど、お願いって何だよ?

 こんな超完璧超人がするお願いって何だ?


 普通・凡人・凡庸の三段レッテルを貼り付けることが出来る僕に解決できるお願いとはとても思えないんだが。

 お前は神龍にでも頼んでろってんだ。

 まあ「一人で居るのに邪魔だから早くどっか消えてくんない」とかなら僕でも即刻で達成できる願いだが。



 だが違った。

 幸いにも神龍どころか僕にでも達成できる簡単なお願いだったのだが。

 だがここでしっかりと断言しておこう。

 これは僕にとって幸いではなく不幸なお願いだと。聞ける筈も無い願いだと。



 その内容とは――――――、


「私と友達になってくれないか」



 なんて僕の独立主義に反する願いだったからだ。

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