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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

匂い

作者: 魔法の甘味料

結構シリアスな感じです。

苦手な方はご注意ください。

その少年は、嗅覚が非常に優れていた。

優れすぎてーー苦しんでいた。


異常な嗅覚が初めて分かったのが一年前くらいになるだろう。

一年間は、耐えた。

しかし、365日耐え続けたお陰でストレスが溜まった。

そのストレスが爆発したのが、昨日。

それからはもう、死ぬことしか考えていなかった。


どこまで行っても匂い、匂い、匂い。

我慢できない。

何故こんな嗅覚を与えた。

良い香りの筈のアロマとかも、全てが鬱陶しい。

常人には理解されないので尚更腹が立つ。

どうせ孤独だ。


理解されず、独りになると人はある欲求が非常に強まる。

死にたい、という異常な欲求が。


本来生物は、生きる為に生きるのであって死にたいと思う訳が分からない。

今までそう思ってきたのに、いざ自分がその立場になると我慢できない。


毎日が憂鬱だった。

これから、学校に行かなければならないなんて。

女子の香水の匂い。

男子が持ってきたお菓子、ジュースの匂い。

全てが、鼻を通じて、体内へ入ってゆく。

気分が悪くなり、教室で吐いて敬遠されるなんて日常茶飯事に近い。

そうでなくとも、

配られるプリントの匂い、インクの匂い。

先生達の加齢臭。

いや、冗談ではなく。


ノイローゼになって、鬱になって、自殺しようとしてーー未遂で終わって。

家から出られなくなって、不登校に成り下がって。


勿論、部屋の中でも匂いは追ってくる。

カーテンの匂い。

鉛筆の匂い。

一番ひどいのは、舞う埃の匂いだ。

何からも逃げられない。

どこまでも追ってくる。

死んでしまったら、どれほど楽になるだろうか。

それができるほどの度胸があれば、どれだけ良かっただろう。



ある日、皆が学校でせっせと授業に勤しんでいる間に、ふと思い立った。

山へ登ろう、と。

動機はと問われれば特に思い当たるものも無いのだけれど、おそらく、ある種の期待を持っていたのだろう。


旅番組でよく言うような、『新鮮な空気』がきっとこの鼻の良さからくる苦しみを和らげてくれるだろう、と。


近所に山があるような半分田舎のような町で良かった、などと考えながらいざ、登り始める。

歩く。歩く。つまずく。起き上がる。歩く。滑る。落ちる。立ち上がる。泣く。

あれ、こんなにしんどいものだったか、と半分べそをかきながらも、気づく。

ずっと引きこもっていればそりゃあこうなるな。


案外人は自分の身体の機能について意識しないものだ。

それはそうだ、身体が適度に調節しているのだから。どこか一つがやたらと突出しているなんて稀だ。

だとかなんとか、自分の嗅覚を恨みながら、気合いを入れつつ登っていると、ふと視界が開けて一面お花畑になっている場所に着いた。

普通の人ならば、わぁきれいと感動してしばらく眺めるだろうが、そうはいかない。

花の匂いが全て混ざって体の中に入ってくる。

気持ち悪い。

吐きそうだ。

良かれと思ってこの山を登り始めたが、とんだ見当違いだ。

後悔した。

しかしここまで来たのだから最後まで、という気分も出てくる。

仕方がない、耐えて先を進もう。


山は思っていたよりもずっと空気がきれいだった。匂いがあるのは変わりないが、町の匂いより遥かに優しく、包むような匂いだ。

もういっそ住み着いてしまおうかというくらいにリラックスできた。

良い場所だ。

これからもちょくちょく来て見ることにしよう。

そのうち体力もついていくだろう。

生きるのがいくらか楽になって、この場所に来る理由になった嗅覚に少しばかり感謝しながら、これからを考える。


別段人の手が加わったわけでもない、頂上付近のこじんまりとした空間に設けられたボロいベンチに腰掛けて、妄想に耽るとしよう。

前にも来たことがあったな、あれは小学生の頃だったか、と思い出しながら意気揚々と進む。

足取りが軽い。

人生はもしかしたら楽しいものではないか?なーんてね。


途端に、今まで生きてきて嗅いだことのないような匂いがした。

どこか生臭く、かすかに血が匂いの中に混じっている。

何かの生物の匂いか?

しかし、この鼻がかすかにしか感じないと言うことはかなり遠いに違いない。

そんなに気にすることもないだろう、と楽観して頂上を目指す。


随分歩いた。

不登校児にしてはかなりの運動である。

しかも準備運動とか慣らしとかしていないから尚更だ。

息は激しく乱れ、もはや自分が猛獣かと思うくらい、吸う、吐くを繰り返していた。

ともあれ。

ようやく、着いた。

頂上だ。

中腹よりも空気がおいしい、とひとしきり味わいつつ、町を一望する。

良い眺めだ。

自分の家を探してみたり、そろそろ昼休みであろう自分が在籍する高校を探してみたり。

他に人もいないのでのんびりし放題だ。


とりあえず喉が渇いたので、自販機でお茶を買い、ボロいベンチに腰を掛ける。

思いを巡らすのは自身のこれからについてだ。

このまま町に戻っても良いことは無い。

だからと言って一人で山に籠るようなサバイバル能力も無いしなー。

どうしたものか。

そんな、くだらない事に頭を使える空間は実に新鮮で、精神が浄化されていくのが自覚すらできた。


突如、ついさっき感じた生臭い匂いが強くなった。

思考を途中でやめ、本能で咄嗟に周りを見ようと立ち上がって、失敗したと思った。

何かが、自分のすぐ後ろに、息がかかるくらいの距離で佇んでいる。

まず体中の毛穴という毛穴が全霊をもって引き締まり、次に、くだらないことを考えていた脳みそが数日前に見たニュースの記事を記憶の奥底から持ってくる。


『町内の山で、野生のクマが出没し大学の登山サークルの生徒が襲われました。学生は五人で、うち二人は軽傷、一人は背中に重傷を負い、二人が死亡しました。同様の事件がーー』


ああ。

しまった。

そういえば、よく思い出してみると登山口に看板があった気がする。

なるほど、人がいないのも納得だ。

嗅覚に頼って、他の感覚から得られる情報を疎かに扱ってしまったのか。

これではまるでーー嗅覚に、優れて、優れすぎた嗅覚に殺されるようなものではないか。

いやしかし、一応警告はしてくれていたのか。

つまるところ、自分の判断でこうなったのだ。

最後に希望を与えてくれたこの場所と、結果的にここに来る動機になったこの鼻に多少の恨みと一生分の感謝をして、振り返ろうとする。

自然と、対峙する形になるーー前に。


爪牙がゆっくり入ってくる。

おいしいかい?

なんてね。



『今日、夕方、山の頂上で一人の男子高校生が死亡しているのが発見されました。遺体は大きく千切れ、一部の内臓がなくなっていたことから、前と同じクマによる被害と見られております。山の関係者は、「立ち入り禁止の看板は立てていたし、クマの事件を知らないはずもない。自殺のために入ったのでは」と述べています。今回の被害から、警察により本格的にクマの調査が開始され、見つけ次第射殺が行われる予定です。では、次のニュースです...』


結論から言うと、クマは射殺された。

後から聞いた話だが、そのクマの調査は想像以上に難航していたらしい。

まるでクマが完璧に人間の動きを読んでいるかのように、人を避けていたという。

まるで、普通のクマよりもはるかに優れた感覚か何かを持っているような...と、そのとき調査に当たった警官は口を揃えて言った。

思いつくままを、下書きも何もせず文章にしたので読みにくい部分があったかもしれません。ごめんなさい。

とにかく持っている時間がないので、連載は無理だと思い短編にまとめました。

本当はもうちょっと書きたかったんですが...。

ながながとすみません、読んでくださりありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 伏線の入れ方などがお上手ですね。 [気になる点] 弱冠展開が早い気がいたしましたが、簡潔で分かりやすいメッセージ性があって良いと思います! [一言] これからも頑張ってください!
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