お試し結婚(仮)
僕が未緒と初めて会ったのはネットである話し合いを済ませてからのことだった。
1年ほど前僕たちはネット上で知り合い(文字だけの会話ではあるが)そこそこ親交も深めている仲だった。
ある日そのやりとりの中で僕は彼女にこんな提案をした。
「ちょっとしたジョークだと思って聞いて欲しいんだけど」
「結婚してくれないかな」
いくらネット上のお遊びの関係とはいえ
あまりに非常識な提案に彼女が唖然としているのが伝わってきた。
淡々と続いていた会話が一瞬とどこおる。
僕は少し慌てながらあらかじめ考えてあった”結婚したい理由”について説明した。
「ほら、俺ってあんまりお金の貸し借りとかしない主義だし、君もそうだと思うんだけど」
「他人に金銭的な援助を受けるのって抵抗あるでしょ」
「だから結婚すれば堂々と経済的な援助ができるし」
美緒は親の仕送りで一人暮らしを始め大学に通っていたが
慣れない一人暮らしのせいか勉強も手につかず講義を休みがちだといっていた。
だから今回僕がした提案は親に頼らず自立したいという彼女の願いを(多少湾曲した形ではあるが)叶えることが出来るのではないか、と僕は考えたのだ。
それに対する彼女の返事はシンプルなものだった。
「いいよ。」
僕は十中八九断られると思っていただけに心の中で歓喜のおたけびをあげた。よっしゃあああ
「ただし条件があるの。」
条件?はいはい、なんでも聞きます!
「まず、入籍はするけど同棲はしないってこと。基本的な連絡手段は今まで通りネットでのやりとりになるわ」
えっ・・・
更に彼女はこう続けた。
「面会はその必要があるときだけね。あと、念のため言っておくけど私貴方に気がある訳じゃないから」
「面白くなかったら離婚するから」
終わった・・・。僕の未緒との結婚生活は始まる前から終わってしまった!僕は心の中でそう叫んだ。
それでも僕は必死で涙をこらえながらこう言った。
「僕は10代のお嫁さんを貰えるだけで嬉しいから、君がそれを望むならどんな条件でも呑むつもりだよ」
「言ったねwその言葉、忘れないから」
「ええ・・・」
どうやら僕は今の言葉で完全に弱みを握られたようだ。
数日後、美緒から契約書の文面が送られてきた。
内容はなかなか凝っていてお遊びにしては少しやりすぎではないかと思えるほどだった。
文章がお堅いので端的に説明すると
・入籍はするが同居はしない
・基本的な連絡はネットで済ます
・面会は必要な時のみ
・お金は指定された口座に月5万振り込む
という内容だった。
僕が半分冗談で持ちかけた契約結婚の話ではあるが
これに同意するまえに僕は少し真剣に考えてみることにした。
まず彼女と結婚するメリットを挙げるとすれば
10代の可愛いお嫁さんが貰えること、あとは・・・。
・・・何故かそれ以外思いつかなかったけれど
20代後半になって彼女居ない歴=年齢の冴えない人生を送ってきた僕にとって(お遊びに近いとはいえ)結婚を承諾してくれる彼女が現れたのはまさに青天の霹靂とも言える奇蹟なのだ。
ちなみに僕は彼女の写メすら見たことがないが
未緒が可愛いということは言葉の編集力やイラストのセンスから十分に予測できることだった。
そうだ、メリットはもう一つある。
彼女との契約結婚が成立すればそれを元にノンフィクション作品が書けるのだ。
小説家志望でありながら人生経験の浅い僕にとってはリアルな経験を積めるまたとないチャンスではないか。
やはりこのチャンスは逃すわけにはいかない・・!
僕は早速契約書に同意する旨を伝えた。
彼女からの返信は
「OK、これからよろしくねw」
というシンプルなものだった。