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構築遊戯(仮)  作者: 染 若葉
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プロローグ

 何度目だろうか。


 「これ」で人の心を覗くのは。


 今は罪悪感を感じている暇はない。それよりも、クライエントの心を壊さないように丁寧に構築を重ねていく。

 蜘蛛の細い糸を手繰るように、人体をサーバー化していくこの感覚は、やはり慣れない。

 簡略的に言えば、人の脳に直接情報を送り込み、得られた電子的な反応を1つずつフラグとして拾い上げ、ひとつの小さな世界として構築していく。

 これが済めば、メディカルライセンスに則り、現代における2つ目の世界の統治国家「フロンティア」に申請を出す。あとは冒険者達の手に委ねるだけだ。


 僕は肩で息をつくと、すぐとなりのクリーンルームに眠る妹の抜け殻に目をやると、飲み慣れたコーヒーに口をつける。

 ず…という音と共に吸い込まれる苦味に、あの時の耳鳴りに似た感覚を覚えながらも、またディスプレイへと目を向けた。


 クライエントは妹と同じ位の中学生の男子だ。

 どうにか同じ過ちを犯さずに、ひとつの世界を作り上げたことに安堵を覚えつつも、達成感のない日常にため息を送る。


 それでも僕はこれを続けなければならない。

 罪滅ぼしなどというつもりはない。

 ただ、過去に失敗してしまった世界を取り戻すために。


 僕はもう一度、その横たわった「世界」に目をやると、もう一度、黒い液体を啜った。





 世界が大きく2つにわかれたのは、今から一世紀程前の話。

 はじめはちっぽけなスクリーンに映る2Dの世界。

 そこに、自分の成りたい「個体」を作り、仮想の世界を冒険する。


 そのような内容だったと思う。


 いつしか世界は乱立し、


 仮想の世界の個体が、


 あるいは資産が、


 仮想であったはずの世界そのものの存在が。


 現実の世界を侵食し始め、新たなコニュミニティとして、人々の心にその確固たる存在の楔を穿った。

 …要するに、MMOなどと呼ばれた世界が発展するにつれて、その世界にも新しい流通が生まれ、皮肉にも現実世界よりも安定した社会を提供するようになっていった。


 国々はようやくその存在の膨大さに危機を感じ取り、存在するすべてのMMO世界を買収に買収を重ねることで、大きなもう一つの世界、「パラレル・フロンティア」として集約することに成功した。

 乱立していた仮想世界は、フロンティアを介して一つの世界へと収まり、新たに立てられた秩序の元、管理されるに至る。


 人々は器用にも、2つの世界を行き来し、二面性の生活をするのが当たり前となっていった。



 もう一つ、この分野は大きく進歩を迎える。



 ディスプレイを介して見ていた世界を、様々な電気信号を駆使することで、仮想世界に直接肉体を持ち込んだような感覚に置き換える、いわゆる体感型のゲームが開発された。


 そしてそのゲームの基盤は医療へとステージを変え、精神障害者や心の病で己を閉ざしてしまった人の、整理や立ち直りへの架け橋、肉体的に不自由な人の様々な疑似体験、まるで万能細胞を開発した直後のような盛り上がりを見せていった。


 そこに一人の天才が現れる。


 実態はただのゲームオタクで、他の人よりほんの少し、構築という分野で長けていただけの少年。


 簡略化、画一的な「ゲーム」に人というサーバーを用意することで、ひとつの迷宮を創りだす、ラビリンスプロジェクトを開発した。


 サーバーであるクライエントの人間とともに、その迷宮をクリアすることでサーバーとなった人間の精神的な開放──例えば、鬱、自閉などの精神疾患の改善を目指す企画は、少年故に考えついたとも言える稚拙な開発だった。


 しかしながら、インターネットの普及が著しくなった現代、MMOやMO、その他のジャンルにおいても、ゲームという概念が浸透し、老若男女問わず、一度は触れたことがあるといった状態である。いい意味で「ゲーム脳」という第一段階のベースが完成しており、開発は予想をはるかに超えて順調に行われていった。


 それは恐ろしいほどに。


 しかし、構築が存在するならば破壊も存在するという事に、愚直にも少年は気づけなかった。

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