宿題で小学生に小説を書かせたら想像以上に酷かった件
「んー、今日も疲れたなぁ……」
家に帰って早々、僕はソファに寝転んだ。全身の血液が溶けていくみたいに気持ちが良い……。
「そういえば、今日は宿題を集めたんだっけ……」
明日までに採点しなければ。僕は再びシャキッと背筋を伸ばし、机に向かった。カバンのなかから数十冊のノートを取り出す。今日の宿題は「小説を書いてみよう」というものだ。国語の授業の一環である。さてさて、うちの可愛い生徒たちはどんな小説を書いたのだろう。5年生にもなれば多少は文も上手いのかな? わくわくしながら、僕は一番上のノートをめくった。
◆◇
【痴漢を減らそう】
五年 乃木ましろ
http://ncode.syosetu.com/n8032cs/
◆◇
「URL!!」
なんでネットに宿題を投稿してるんだこの子は。面倒だから後で見ることにしよう。初っ端からなんというか、出鼻をくじかれた。
◆◇
【セミ、死す】
五年 樫本青葉
やめて!夏の暑い日差しで、セミの体力が奪われたら、一週間で死ぬと言われているセミの寿命が終わっちゃう!
お願い、死なないでセミ!あんたが今ここで倒れたら、あんたの遺伝子はどうなっちゃうの? 一週間はまだ残ってる。今日を耐えれば、きっと子孫を残せるんだから!
今日、「セミ、死す」。デュエルスタンバイ!
◆◇
「コピペの改変じゃないか!」
思わず一人で叫んでしまった。てか最後、元のコピペの文が残ってるし。詰めが甘すぎる。あとセミ今日死ぬのかよ……かわいそう……。いやいや、気を取り直して次だ次。
◆◇
【おにがしま】
五年 藍原のどか
むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがいましたか?
◆◇
「知らん!」
なんで聞くし。もういい次。
◆◇
【悪夢の監獄】
五年 神崎黒音
暗い監獄の中に、一人の少女が一糸纏わぬ姿で立ち尽くしていた。長い髪は夜の闇のように黒く、少女の陶器のようにすべらかな体を這うようにして弧を描いている。しかし、よく見ると少女は立っているわけではなく───銀の鎖で両の手を縛り上げられているようだ───
「んっ……」
少女の口から吐息が漏れる。それに合わせるかのように、監獄の扉が開かれた。ガコンガコン、と鉄と鉄が乱暴にぶつかりあう音が響き渡る。
◆
「…………ごくり」
えぇ……なにこれ官能小説……? ……………………
一応続きを見てみよう。宿題だし、ちゃんと採点しなくちゃね?…………ね?
◆
「へっへっへ、ねえちゃんエロいねぇ」
『いやぁ!』
「ほらほらほら、ウインナーあげるよ」
『えっ、やったぁ!わーい!』
「ただし! 俺の下半身のウインナーだけどな!」
『えっ、やだぁ!ひわーい!』
「そうだ、ソーセージもあるぞ」
『えっ、やったぁ! わーい!』
「ただし! 俺の股間のソーセージだけどな!」
『えっ、やだぁ! ひわーい!」
「そうだ、フランクフルトもあるぞ」
『えっ、やったぁ! わーい!』
「ただし! 俺の股間の
◆◇
「もういいわ!」
僕は途中でノートを閉じた。紙と紙が乱暴にぶつかり合う音が響き渡った。
せっかく良い所だったのに……飽きたのか……?
「いやいや良い所ってなんだよ」
気になってもう少しだけページをめくってみたところ、その後もあらびきだとかポークだとか書いてあるのが延々と続いていた。なんでやねん。
もういい次、次!
◆◇
【漫画でわかる、株主総会!】
五年 夜之森月子
◆◇
「漫画!?」
宿題は小説なんだけど……
次、次!
◆◇
【神へと捧げる鎮魂歌】(三島由紀夫賞受賞予定)
五年 常夏沙弥
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「受賞予定!?」
しかも妙に渋い賞をチョイスしてきたな。面倒だから後回しにしよう……
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【うんこをたべよう】
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「タイトルもう少し頑張れ!」
次!
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【先生を殺す101の方法】
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「やめて!」
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【先生を呪う1001の方法】
◆◇
「やめて!」
なんか10倍くらいに方法増えてるし!
次!
◆◇
【先生に媚びる10001の方法】
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「媚びるとか言わないで!」
ペラっと一ページめくると、「あいつはロリコンだからパンツを見せれば一発」と書かれていた。泣いた。
「……疲れた」
今日はもう良いや。何も考えず、僕は静かにベッドインした。おやすみなさい。